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福北ゆたか線 二時間の空白  作者: にちりんシーガイア
第六章
6/12

政治家の影

「警部、城島について、気になる情報を得ました」

 戸畑署の捜査本部に到着した城戸に、南条が報告をした。

「どんな情報かね?」

「警視庁の捜査二課から寄せられた情報ですが、城島が最近、ある人物との接触を繰り返していたと」

 門川の隣に居た川上が、一枚の写真をホワイトボードに磁石で張り付けた。その写真には、一人の男の顔が写っている。

「この男は、島雄二しまゆうじという男です。彼は、一人で調査会社を東京に設けているんですが、調査会社と言うのは口実で、ある人物の裏で働いているという噂です」

「そのある人物というのは誰なんだ?」

「この人物です」

 門川は、もう一枚の写真をホワイトボードに張り付けた。その写真にも、一人の男が写っている。

 城戸は、その男の顔を見た瞬間、ピンと来て、

「君、これはあの改憲平和党の稲沢修三いなさわしゅうぞうじゃないか」

 と、言った。

 何しろ、今マスコミの関心は、その稲沢に集中していた。

 近く衆議院議員選挙を控えている。その選挙によって政権交代が起こり、世論調査の結果求心力が低下している与党に代わり、改憲平和党が政権を握るのではないかと多くの国民が見ていた。

 稲沢修三は改憲平和党の代表である。つまり、このまま与党の支持率が低下し、改憲平和党の的確な与党批判が支持され続けるならば、彼は首相の座に就くこととなるのだ。

 そんな大物が捜査線上に浮かんできたのかと、城戸は面食らった。

「一体、稲沢修三がこの事件にどう関わっているのか?」

「この島という男はですね、かつて稲沢の秘書でした。そして、数年前に秘書を辞めたのは良いのですが、どうもその後も稲沢のもとで働いていたようです。しかも、表ではできない、いわば稲沢の黒い部分を処理するような仕事をしていたようです。まあ、これはある週刊誌ネタなので、裏が取れているわけではありませんが──」

「稲沢と言えば、昔不正献金疑惑で話題になった事があるはずだが、島はそれに一枚噛んでいるという事か?」

 城戸の言う通り、一時期稲沢は、不正献金疑惑でマスコミの追及に遭っていた。もっとも、真相が明らかになる前に人々の関心は薄れてしまったが、その問題の影響でそこまで支持が集まることはなく、政権交代は起こり得ないだろうと予測する者もいる。

「それはわかりませんが、可能性は十分あると思います」

 門川が、答えた。

 城戸は、島雄二という男に会うため、南条と共に帰京の途に就いた。

 羽田空港に着いた後、その足で島の事務所がある新宿しんじゅくへと向かう。

 マンションの一室にある島の事務所は、とても質素だった。

 島は、城戸よりも背が高く、やせ形のすっきりとした感じで、年齢は五十代前半の様に思えた。

 城戸がまず、城島の写真を島に見せて、

「この男性、ご存知ですか?」

 と、尋ねた。

 島は、ちらっとその写真を見て、

「残念ながら、知らない方ですね」

 と、答える。

「あなたとこの男性、名前を城島雄二というんですが、会っているところを見たという情報があるんですよ」

「そんなことを言われても、会っていない人とは会っていませんしね。その方の勘違いという事も考えられますよ」

 島は、城島の写真を眺めながら言った。

「では、質問を変えますが、あなたは、衆議院議員の稲沢さんの秘書を務めていたそうですが、数年前にやめられています。ですが、今も稲沢さんに関する仕事を引き受けてらっしゃるのですか?」

「週刊誌なんかでそんな報道があるようですけれど、それは違いますね」

 島が少し得意げに言い、

「それで、刑事さんはいったい何をお調べになっているんですかね?」

 と、城戸に尋ねた。

「申し遅れてしまいましたね。八月二日の昼頃、福岡の戸畑駅で江藤元と中垣誠也という男二人が射殺されました。その三日後には、先ほど写真をお見せした城島雄二という男が同じく福岡の皿倉山で射殺されたんです。その事件についての捜査で今日お伺いしたんです」

「それで、その事件と私の関連性は何ですか?」

「先程申し上げた通り、被害者の一人である城島さんに、あなたが会われた事があるという情報を得ましたので、そのことについて調査しに来たんです」

「そうですか。もう一度言いますが、私はその城島という男は、会ったこともないし知らない男です。今日はそんなところでよろしいでしょうか?」

「実は、まだニ、三お伺いしたい事があります。この二人をご存じではないですか?」

 城戸が、二枚の写真を島の前に出す。

「この二人、実は先程申し上げた、戸畑駅で殺された二人です。ご存じないですかね?」

 島は、写真をすばやく確認すると、

「これまた知らない人たちですね」

 と、答える。

「確かに、ここで知っていると答えてしまうと、次期首相と目されている稲沢議員の批判材料になりかねませんもんね」

 城戸が、島の目を見ながら言った。

「それは一体、どういう意味で仰ってるのですか?」

「この二人の男、実は詐欺の常習犯なんです。首相就任への大事な選挙を控えている今、詐欺の常習犯との関わりが国民にあらわになってしまうと、それはまずいでしょう」

「なぜ、稲沢先生と詐欺師が関わる必要があるんですか?」

「稲沢さん、数か月前に不正献金疑惑で話題になっていましたよね?稲沢さんに不正な献金をした者の正体は未だ不明なようですが、その詐欺師二人からの献金だったのではないですか?」

「刑事さん、確かにそんな疑惑もあったし、お金を受け取ったのは事実ですよ。しかしね、別にそんな犯罪に加担しているような人物から受け取ったんじゃないんです。あれは、先生の人柄が良すぎたんですよ」

「と、言いますと?」

「先生は、人柄がよく人気のある人物です。知り合いに、会社の社長さんをやっている人なんかが居たりして、その多くが先生を慕っていた。それで、良かれと思って金を渡したが、それがマスコミに不正献金とか人聞きの悪い言葉で報道されてしまったんですよ」

 島は、少し微笑みながら言った。

「稲沢議員とは、最近いつお会いされましたか?」

「もう当分会っていませんね。先程も言いましたが、先生の秘書はもうすでに辞めましたし、言ってしまえばもう関わりのない方ですから。稲沢先生についてもっと知りたいなら、現在の秘書に訊いてみたらどうです?まあ、稲沢先生が、そんな物騒な事件にかかわっているとは思いませんがね」

「最後にお伺いしますが、八月二日の昼頃、どこで何をしていましたか?」

 門川が、手帳にペンを構えながら、島に質問した。

「その日は、横浜よこはまで依頼者と面会していましたね」

「八月五日の午前五時についてもお聞かせください」

「その時間は、まだ家で寝ていますね。刑事さん、私なんかのアリバイを調べてどうするおつもりですか?」

「参考程度に訊いたまでです」

 城戸が、答えた。

 二人は、島の事務所を後にして、警視庁へと戻った。

 捜査一課に戻ると、山西が迎えてくれた。

「警部、お疲れ様です。例の詐欺事件の被害者で、事件当日福岡に居た人物を洗い終わりました」

「おお、結果を教えてくれ」

「はい、福岡に居た詐欺被害者は、一組の夫婦だけでした。八月の一日から三日まで、二泊三日で福岡の南の方にある、柳川やながわというところに帰省していたようですが、アリバイは完璧で犯行は不可能と思われます」

「こちらでも、福岡に在住している詐欺の被害者を調べたんだが、クロの人物は浮かんでこなかった」

 城戸が、そう言うと、奥から中本捜査一課長が出てきた。

「城戸君、お疲れ様。君の班に配属されていた、田中純一が向こうで拘束されているのは本当かね?」

「ええ、本当です。事件当日現場に居たことがわかっていますし、彼は被害者たちの首謀した詐欺事件の被害者ですから、動機も十分あるんです」

「あの男の事なら、私も覚えているんだが、人を殺すようには思えんな。正義感のある、立派な刑事だった覚えがあるんだが──」

「ええ、それについては私も同感です。ですが、状況はかなり厳しいです。どうにか救ってやりたいんだが──」

「それじゃあ、田中以外の犯人に目星がついていないのか?」

 中本が、溜息をつく城戸に問いかける。

「捜査線上に浮かびつつある人間はいます」

「誰かね?」

「稲沢修二です」

 城戸が、そう答えると、中本は飲んでいた緑茶を詰まらせた。

「稲沢修二だって?何故そんな大物が、こんな事件の捜査線上に浮かんだのかね?」

「稲沢の元秘書が、被害者の一人である城島と接触していることがわかりました」

「城戸君、田中を救ってやりたいのはよくわかるんだが、それだけで犯人とみるのは少し無理があるんじゃないのかね?会っていたのは、元秘書であって現在の秘書ではないんだろう?」

「その元秘書は、稲沢陣営が表ではできないような、黒い部分の処理をするために、現在も稲沢に従事しているという情報もあります」

「じゃあ、城戸君が言うように、稲沢議員が犯人としよう。動機は何だね?」

「過去の、詐欺師との癒着です」

「つまり君は、稲沢議員と江藤ら詐欺師が繋がっていたというのかね?」

「ええ。課長、稲沢議員は、過去に不正献金問題で取り沙汰されていた時がありましたよね?その不正献金の出所は、江藤元と中垣誠也ではないかと考えたのです」

「それで、何故江藤と中垣を殺す必要があったのかね?」

「今、稲沢陣営は、首相に就任できるかどうかの勝負の時です。そんな今、もしくは、首相となった将来のことも考えていたかもしれません。この先、過去の詐欺師との癒着が世間に公表されることがあっては非常に困るはずです。そのため、口封じに及んだわけです」

「なるほどね──」

 中本は、小さく肯いた。

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