初陣 狙撃手
西暦2046年。
結局車が空を飛ぶことは無く、今も道路を走行している時代。
しかし昔は自動運転なんてものは存在せず、人間がハンドルを握って走行していたというのだから大分危険だったんじゃないだろうか。
まあ、これは今から約8年前の話だから今は2054年なんだけどやっぱり車は空を飛んではいない。
ただちょっとばかり科学技術とやらが大分進歩した程度だ。
しかし結局、この物語に時代はそこまで関係の無いこと間違いないだろう。
この先多分ずっとこの閉鎖された島で展開して行くのだろうから。
神楽島。
少し前に未来都市計画とやらの発起で完全にエネルギーが時給自足できる夢の都市開発として試験的に人工島が造られ観光地になる予定であった。
しかし、その都市計画も途中で破錠し今ではただの日本海にぽつりと浮かぶ島だ。
日本で派閥を争う財閥や、大手企業は我先にと神楽島を買い取ろうと躍起になっていたようだが最終的に阪上財閥が島を買収した事で決着が着いた。
そして今現在の神楽島はどうなっているのかと言えば、やれ人体実験をしているだの米軍の秘密の軍事基地が建設されているだの、新型生物兵器を開発しているだのととにかくそういった噂の絶えない島なのである。
「いや、それにしても人が全然居ないな」
「…」
「…あれー? 話しかけたつもりだったんだけど無視ですか?」
「…」
「はあ、とりあいずさっさと目的地を目指すか」
紹介が大分遅れたような気がするが、いい機会なので言っておこう。
彼女もとい、朝霧澪。
こんな感じで基本無口で仏頂面で銀髪の推定12歳くらいの少女だ。
そして僕。
名前は朝霧矢式。
年齢17歳の全く普通では無い少年である。
先程紹介した澪とは苗字が同じなのだが、血縁関係は無い。
そして僕らは目的地を目指して歩みを進めていた。
「…アイス…」
「へ?」
「とぼけるなアイスだアイス。お前が言ったんだろうが」
「…そういう事はよく覚えているんだな」
一応生活していく上での資金は十分にあるのだが、節約に越したことはない。
ここでアイスなどという趣味嗜好品の購入にはいささか躊躇することが僕にはあった。
そういえばこの辺で有名なんだっけか?アイス。
「分かった分かった。アイス位買ってやるよ」
「バニラとチョコが混じってるやつがいい」
よりにも一番高いやつを…。
まあ、いいか。
少し戻ることになりそうだが売店はそう遠くないはず。
しかし、この時。
遠くからの銃声にあと一秒早く気づくべきだった。
「澪!」
「_!」
銃弾は澪の脇腹に当たり、鮮血を迸らせながら後ろへ倒れ込んだ。
直ぐに彼女の元へ駆け寄ろうと前のめりになるが_
「止まれ!」
彼女はそう叫ぶ。
そして僕はそれに従う。
大抵こういう状況の場合彼女の判断が正しい。
「恐らく敵は狙撃兵。約50メートル先のビルディングにどうやら居る。私は大丈夫だから構うな。数分もすれば傷も塞がる。」
「急所を外してるのは僕が駆け寄った所を仕留めるためか」
澪のお陰で冷静さを取り戻す。
「普段なら撃たれる前に気付いたでしょ? どうしたの?」
「…アイスに浮かれてた」
「それは可愛らしい」
と、軽口を叩ける位には冷静さを取り戻したところで現状を打破する方法を思考する。
勿論銃器などの持ち合わせは無い。
それどころか丸腰だ。
つまり逃げるのが得策であり、懸命な判断であろう。
「お前の事だからどうせ丸腰だから逃げようだなんてそんな間抜けな事を考えてるんだろうが、私が許さん。」
…どうやら澪さんは再びお怒りの様でいらっしゃる。
「最悪素手で戦えないことは無いけど、状況的に腕の一本は犠牲にしなきゃ勝てなさそうだぜ?」
まあ、それでも戦えとのご命令ならば僕は受け入れるしかないのだが、彼女がそこまで鬼畜では無いことを祈る。
「待ってろ今武器をやる_うっぷ…」
うっ…マジかコイツ…吐きやがった。
すると彼女の口からはナイフが出てきた。
「…まさかボディチェックを抜けるために刃物呑み込んでたのか? そこまでするか? 普通?」
「そういうお前も刃物奥歯に仕込んでたんだろうが」
「…まー無いよりはマシかと」
でも結局これが役立つことは今後無いんだろうけど。
小心者だからどうか容赦して欲しい。
「銃種までは特定出来んが、恐らく単発式の狙撃銃あたりだ」
「情報どうも。じゃあ、ちょっと行ってくるからその辺で休んでろよ」
ふーっと息を吐く。
そして心の中でカウントする。
3…2…1…
「今!」
遮蔽物から一気に飛び出し、なるべく身を屈めて途中でナイフを拾いつつ隣の建物の影まで走る。
足元に2発程銃弾が掠める。
幸い当たらなかった。
まあ、多分50キロは出てたからまず当てられないんだろうなあ。
人間の速さじゃない。
ちなみにナイフは体液やらでベトベトだ。
握った時にかなり気色悪い。
自分の服で乱暴に拭う。
武器が手に入ったのはいいが、もしこれで手元が狂いナイフなんかを落としてしまったらアイツを恨もう。
さて、敵はあのビルに潜伏中と。
このまま待っていても狙撃兵はずっと待ち続けるのだろうから我慢較べではこちらの分が悪い。
ならばこちらから仕掛けるしかない。
再び遮蔽物から身を出し、高速移動で遮蔽物を経由しつつ、距離を詰めればこちらの勝ちだ。
そしてロケットダッシュを決め、ジグザグに移動して行く_
「な!?」
途中、銃弾が頬を掠めた。
軽く出血する。
「…速さに対応してきてるってことか」
このまま同じ動きをしていてもそのうち当てられる。
なら_
僕は真横に走った。
しかし先程よりスピードは大分落ちている。
しかしスピードを落とした分、別の事に集中力を向ける。
発砲音_
「聴こえた!」
高速移動する物体に弾を当てようとすれば相手の動いた先をある程度予測して少し先の場所に銃弾を撃ち込むはずである。
これを待っていた。
すかさず最小限の動きに抑えて方向転換をしつつ、身をよじって銃弾の軌道から身体を逸らす。
そして真正面に向かって走った。
相手から見れば直線が点になったはずである。
例えそれがコンマ一秒の刹那であっても動きが変われば当たらない。
そして、そんな時人間は動揺するものだ。
僕はそこを狙う。
見れば相手の潜伏中であるビルディングは目の前。
壁際ならば懐に入ったも同然。
遠距離武器ならば近距離になるほど不利になる。
僕は勢いを殺さず壁を蹴る。
1.2.3歩と、つまりは壁走。
まさか壁から登ってくるだなんて思ってもいないだろう。
下から相手の銃口はどうやら窓から突き出ていた。
そのお陰で位置が把握できた。
壁を駆け上がり相手との高度が同じになる。
窓際を掴み、そのまま飛込み敵を捉える。
恐らく狙撃銃の弾はもう、撃ち尽くしたはず。
つまりチェックメイト。
完全に生存権は僕が握っている。
自分の中でも高揚感を感じている。
相手を殺す時のそれが。
殺った_
「…あ」
まさか…直接銃を投げてくるだなんて思ってもいなかった。
当然防御も出来ず、モロに喰らう。
「_っ痛ってえ」
相手はバイクヘルメットを被り、ライダースーツを着込む。
銃を投げた直後、直ぐに後方へ消える。
室内はオフィスのよう。
相手の位置は見失った。
「ほう、やるねえ。そう来なくちゃ」
たが、結果オーライ。
つい、昔の悪い癖が出てしまっていたのだがお陰で頭が冷えた。
これはお互いにとってもラッキーだった。
どうやら殺さずに済みそうだ。
「来いよ。正々堂々相手してやる」
すると、勢い良く目の前のデスクが飛び上がる。
書類らしき紙が空中に散乱する。
目くらましのつもりか。
相手は大振りの回し蹴りを繰り出す。
しかし、ここで何も考えずかわすと次の攻撃に繋げられて確実に喰らう。
ならば受けるのが正解。
「_っ」
軽く骨の軋む感じがしたが、まあ問題ない。
このままナイフで軽く切り付けるかと考えたが当然相手もそれくらい読んでくる。
しかし今なら足下がおろそかになりがちだ。
足払いを仕掛ける。
そしてそれは成功。
相手は体制を崩す。
そのまま押さえつけて戦いは終結するかと思いきや_
相手はホルスターの拳銃を抜いた。
パンッ!!
弾の節約か、それとも単純に肉弾戦が面倒になったからなのかどちらにせよ相手は飛び道具を使い始めた。
幸いその瞬間を見逃さず、何とかかわす。
銃弾は髪を掠める。
このままではまずいので一旦距離を取る。
しかし相手は銃をこちらに向けてハンマーを起こしていた。
「…」
「…どうやら終わりみたいね」
すると相手が初めて言葉を発する。
声の高さから相手は女性であろうと推測した。
「いやあ。アンタ強いよやっぱ」
「遺言はそれだけ?」
「いや、僕に死ぬつもりはさらさらないね」
「なに? みっともなく命乞いでもしてくれるわけ? まあ、それでも私は貴方を殺すけどね」
尚も威圧を続ける。
「なあ、こういう時。そう、こんな状況にアンタが陥ったとしたらどうする?」
「何を急に」
「そうだな…もし俺がこんな状況になったら助けを呼ぶんだ。増援要請だ」
「戯言を…助けなんか来ないでしょ」
確かに、こんな状況でこうも都合よく助けが来るはずもない。
だけど…僕は普通じゃあない。
それは自分と周りを含めてだ。
「そうとは限らないぞ」
「_!?」
そしてライダースーツの狙撃手の後ろには僕の唯一の増援部隊、朝霧澪の姿がそこにあった。
「時間稼ぎご苦労さん」
「いやあ大変だったよ。この人なかなか強かったよ」
そして名前も知らない敵さんはヘルメット越しでも十分に分かるくらい明らかに動揺していた。
「時間稼ぎって…つまり貴方はただの囮だったてことなの? いや、でもなんで? だって貴方はさっき撃たれたはず…」
「いやーホント扱い酷いと思わない? 大体いつもこんな感じだけどさあ」
澪はいつの間にやら拳銃なんてものを持っていた。
「下の階に色々と置いてあったから適当に拝借させてもらった。まさかお前ここで暮らしてんのか?」
「…」
「まあ、いい。結局死体になってしまえばそんなの関係ないか。じゃあ_」
「いやいやいやいや! 折角いい感じに今回は抑えられたから殺すのは辞めよ?」
そう、本当に今回は僕も大分本性を抑える事が出来たのでなるべくなら殺生は避けたい。
「…分かった。まあ、コイツから色々と情報を聞き出すのもいいかもしれん。まずはどうしていきなり襲ってきたのか位は答えてもらわなければモヤモヤする」
「…とりあえずまずはその危ない物を下げてくれませんかねえ」
現在も銃を向けられっぱなしだ。
普通に怖いわ。
「おい、下ろせ」
「…」
そしてその後、丁度両手を縛り終わった辺りで色々聞き出すことにした。
「とりあえずは現時点でのお前の扱いは捕虜だ。つまり勝手な真似をしたら命は無いと思え」
「…要求は?」
それを聞くと澪は思案する。
「そうだな。そういえば俺達は学校とやらを探してるんだった。会津高校って知ってるか?知ってるなら案内しろ」
「会津高校? それ本気? あんな所に?」
「そうだ。つまりはこの辺で"戦術教室"とかいう別名で主に呼ばれてる高校に用がある」
そうして彼女は得意げな表情でこう言い放つ
「ようこそ戦術教室へって事だな」
言い回しが明らかに間違っているのは僕も捕虜も突っ込まなかった。
面白かったら感想下さい。




