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単発作品:夢の少女

作者: YAKURO

夢についてウンウン悩んでいるおっさんがうっかり眠りコケる。

しかし、その眠りこける前の数十分前に呼んだファンタジー小説が原因で変な夢を見るのだった。

夢、それは一体どこから来たのだろう。

夢とは記憶……あるいは現実が断片化してできた歪のような物?


………

……

いったい、夢の正体とはなんなのだ。


わからない。

人間の欲望……なのだろうか。

それなら何となく説明が付く。

人間の夢。将来何になるか。

お金持ち、ハーレム。

そう言った欲望。


自己実現の欲……それが夢の正体……?

頭がクラりとして、目頭へ指をやる。


………いやこの定義は間違っている。


間違ったと思える定義を振り払うようにして

冷え切った珈琲を片手に取り一口啜る。


一体夢とは何なのだろうか


珈琲をソーサーにカチャリと置いて

本棚に囲まれた書斎の天井を仰いだ。

くるくると回るシーリングファン。

その羽の回転を見ていると

ゆっくりとまどろみへ落ちていく。


記憶の整理のためのプロセス。

そう一蹴りすることはできる。

だが、夢とはもっと不思議な物なのだ。

それだけじゃない。何かがある。

そんな気がするのだ。


………

……


ええい、小難しいことを考えるのはやめだ。

ちょっと頭を休憩させよう。

そう思い深呼吸をする。すると青草の良い香りが

鼻孔をくすぐった。


驚いて目を覚ますと。私は草原の真ん中にいた。

どうやら夢を見ているらしい。

珈琲を飲んで寝たから半端に夢を見ているんだな。

そう納得すると草原の風を楽しむ。


たまにはこういうものも悪くはない。

ココロからそう思えた。


「おい、お前」


楽しんでいるとどこからか声が聞こえてきた。

自分の夢なのに随分と高飛車な言い方な奴だ。


「いったい何者?どうして体が光っているの」


そう不思議なことを言われたので何事かと体を見てみる。

確かに薄く発光している。当然じゃないか夢なんだから。


「まあね、それがどうした?」

自分の体から目をそらし声のする方へと顔を向けた。


すると目の前にいたのは赤い綺麗な髪の羽と角が生えた美少女。

彼女は不思議そうに頭をかしげている。


「当然な訳ないでしょう」

そういって彼女はどかりと隣へ座った。


「なぜ私の隣に座る」

せっかく一人で風を楽しんでいたのに。

少しだけ憤ると彼女が笑った。


「あなたが光ってるから」

ニカリと笑ってクスクスとほほ笑んだ。


「あんたが光ってるってことは私は今夢を見ているらしい。

だからこれはお願いでもなく、独り言でもない。

私が自由に、気ままに。勝手にやった事」

そういって目の前に躍り出た少女は手を大きく広げて大げさに言って見せた。


その口ぶりから察するにどうやら何か話を聞いてほしいらしい。

こんなところまで来るという事は何か、大きなことがあったのだろうか。

丁度、暇でもあった。聞いても良い。


そう思い体勢を崩して少女へ耳を傾け答えた。

「いいよ、暇だから」


返答にもなっていないはずの返事

しかし、合図はそれで充分だった。

彼女はまた私の隣へと座り、目の前の町を見た。


「私、あの国の王女やっててね。ちょっと疲れちゃったんだよね」

そう少女は答える。何と一国の王女らしい。


少しギョッとしたが、すぐに落ち着いた。そう夢だこれは。

何も問題ではない。


「それで私。今度、隣国の王子様と結婚するんだけどね

そいつがすっごく性格悪くて、本当に嫌になっちゃう」

彼女は両手で顔を支えながら不満げに答えた。

なるほど、いわゆる政略結婚か。


「そいつは、大変だな」

そう答えてやった。何のことはない。

そう答えるしかないからだ。

二国が結婚をするとなれば個人が話をこじらせていい話ではない。

……夢だがな。


「ええ、超大変」

そう答えて彼女はこちらの瞳をのぞき込んでくる。

一体何なのだ。何を望んでいる。


彼女の口元を見れば微笑んでいることがわかる。

話を聞いてもらいたいだけじゃないのか?

自分の夢なのにどうにもやりにくい。

……なるほど、眠りが深くなってきたのか?


「それで、なぜその話を俺にする」

そう答えると彼女が答えた。


「別に」

ムスりとして膝を抱える。

顔を抱えた足にうずめこんでしまうと

彼女がバサバサと羽をはばたかせた。


「砂ぼこりで煙たい。やめてくれないか」

そう答えると彼女の羽が止まる。


そのまま風がびゅうと吹いた。


幾許かして、風の音がさみしく感じるようになった頃

彼女がポツリと答えた。

「好きだから」


その言葉がすぐに風に乗って私の耳の奥へと運ばれる。


………

……


……なるほど。

どうやら私は年に似合わず。

春色の夢を見ているらしい。

全く、我ながら度し難い。


だが、このお嬢さんが真剣にもそう答えてくれたのだから答えるしかない


「ほう、今日初めて出会ったこの私が好きだと?」

そう答える彼女は頬を桜色に染めて答えた。


「ええ」


そのいじらしい姿に少しだけいじめてみたくなった。

「では、どんなところが好きかね」


彼女の羽がふわりと揺れる。

スッと立ち上がってこちらの目を見つめて答えた。

「まずその素敵なお鬚。次に声。脳を揺さぶられる。

スラっとした体、それでいて引き締まったボディ。そそられるわ」


彼女の言葉に少しだけうれしくなる。

ここが夢でなければよかったのに。そう思うほどだ。

だけども、私の脳はとても冷静だった。


普通の夢ならここで言われたことを真に受けて、欲望の限りを尽くすだろう。

だが、今回はやけに頭がさえる。眠っているのだがな。

女性が目をそらさず話すときは嘘をついている時だ。


「何が目的だ」


彼女が固まりうつむく。

次の瞬間。彼女が目をそらし

突然体を預けてきた。


「私を連れ出して。おねがい」

不意な動作に心臓がドキリとはねた。

柔らかい肌が私の体へと預けられる。


これは、彼女の作戦だと脳が警鐘を鳴らす。

だが同時に彼女の体がフルフルと震えるのを感じた。

「お願い、私、あの人と結婚したくない」


鼻孔をくすぐる甘い匂い。

それは私の脳を惑わせるには十分な物だった。

ダメだとわかりつつ訪ねてしまう。

「何かあったのかね」


ただ結婚するのが嫌。そうとだけには見えない。

思った通り彼女はポツリポツリと答えた。


「私の町を燃やすつもりなの、あの人

町を燃やして新しい城を建てるんですって……馬鹿げてるわ」


穏やかではない。

……さすがは夢と言ったところか

「村の人はどうなるのだね」


「私が結婚を断ればどうなるか。わかるでしょ」


苦笑いを浮かべる。

間違いなく燃やされる。


「ふむ、ならばそれは良し、わかった。

だが貴女をどこかへ連れて行ったとしても

この問題は解決するわけではあるまい」

そう答えて説得を試みる。

例え夢でも、自分のせいで村が燃やされるのは心持が悪い。


「……そうだけど」

彼女はしょんぼりと肩を落とす。


「うっうっ……」

そしてそのままメソメソと泣き出してしまった。

初めてだ。女性を泣かせてしまったのは。


「泣かないでくれたまえ……」

すぐに彼女を慰める。

女性を泣かせたことが無かったのが

私の誇りでもあったのだが……

まさか夢の中で更新が途切れるとは。


「やけに現実的な夢だ」

そうつぶやく。案外現実でもこんな感じで

更新記録は途切れていたかもしれないと

心を入れ替えた時に気が付いた。

そう夢。そうか、夢か。

であるならばどうにか自分で書き換えられないだろうか。


「ふむ……」

少し目を閉じて想像してみよう。

……そうだ。

女性にはやはり笑顔でいてほしい。

ティーセットなどどうかな。


まずは白いテーブル。

彼女は王女様らしい。品がある美しいテーブルを用意しよう。

次に、紅茶。熱いティーは珈琲の次に好きだ。

砂糖も忘れないようにね。

ケーキスタンドにはスコーンをたっぷりと

クロテッドクリームにジャムも用意だ。

そんな感じで妄想を働かせる。


瞳を開けると彼女がそこにたたずんで困惑していた。

「な、なにこれ」


彼女をリードするように引き連れる

「ようこそ、お茶会へ」

さっと椅子を取り出して座らせて

紅茶をひとつぎ。完璧だ。


うむ、やはり夢だな。

しかし私の頭はリアルな諸事情を考えすぎではないか?

どうにもつかれる。


紅茶を片手にスコーンを一つ小皿にとって

クロテッドクリームをこれでもかと盛り立てて一口。


ああ、このままその余計な隣の国がこのクリームの様に

なくなればいいのに。


そう思いながらスコーンを楽しむ。

ちょっとだけ打算的に隣の国がなくなればいいのにとか考えてみたが

変化がない様だ。私の偏屈な脳みそはやはり強情だ。


「あなた何をしたらこんな……」

驚く彼女。最初これは私の夢と言っていたではないか。


「夢ですのでね」

そう答えて紅茶を一啜り。


あっけにとられる彼女だったが、

次第に楽しむことにしたらしい。紅茶を入れて

スコーンを一つ小さな口でかじりついた。

「これ、すごくおいしい」


彼女が笑う。

朗らかな表情に私の心も踊った。

夢であれ、やはり笑顔は美しい。


そう思った時だ。

目の前に見えていた小さな国の様子がおかしいことに気が付いた。

何やら喧騒が聞こえてくる。


「結婚式のパレードでも始まったのか?」

そう呟くと彼女が不思議そうに私の見る方を見つめた。


「あ、あんなもの先までなかったわよ。それにパレードをやるほど

この国の人は隣国を好いてはいないわ」


地雷を踏んだか。では話をそらそう。

「ふむ……なるほど。それは失礼した。

ところでこちらのジャムをつけてスコーンもお勧め致しますよ」

ジャムをたっぷり乗せたスコーンを作り、彼女の口元へと運ぶ。


赤髪の彼女は照れながらもそのスコーンを食べた。

口が動かされるたびに弾む、心。

今まで気が付きもしなかったがどうやら私は

女性がおいしそうに物を食べているのが好きなようだ。


それにしても幸せそうに食べる人だ。

叶う事なら一緒に暮らしたい。

本当に夢であることが悔やまれる。


そう思うとテーブルの周りに白と黄色の花が咲きほこった。

私の夢だ。そういう事なのだろう。夢の女性に恋をしたらしい。

久しく恋などしていなかったから不思議な感覚だとさえ思えるな。


だったらなおさら隣国の王子を始末せねばなるまい。

そうだ。今この現状。とても魔法と言う物に似ている。

であれば隣の王子をカエルにするなどという事は簡単だろう。


私の脳みそをだませ。そうだ。

今私は魔法使い。テーブルを出したのも、

スコーンを出したのも。全て魔法。


そう強く認識すると王子がカエルになったような気がした。

なんて無責任な感覚なんだ。

脳みそが疲れてきてる。


だが、それでいい。とりあえず王子がカエルになったのなら結婚は無理だ。

「お嬢さん。今あなたの嫌いな王子様がカエルになりましたよ」


そう答えると彼女がほほ笑んだ。

「そんな話、さすがに信じられないわ」


「そうですか?ならばご覧に入れましょう」

ハンカチをポケットから取り出して左手にかぶせる。


「ゲコッ」


カエルの声が響くととても煌びやかな服が現れた。

どう考えても左手からは出ない大きさなのだが。

人間の脳みそなんて一度魔法と認識するとこんなもんである。


その豪華絢爛の服の中からカエルがひょこりと顔を出す。


「ゲコッ」


そのカエルを見て少女が目を丸くする。

「あら……」


カエルの背中に模様で王子と大きく書かれている。

なんて間抜けな魔法だ。もっといいアイデアがあっただろう。

急に雑になるんじゃない。我が夢ながら情けない。


「魔法でございます。姫様」

そう言ってごまかす。


少女が息をのんで、朗らかにほほ笑んだ。


「そのようですね」

少女の瞳が期待に満ちた顔をする。

顔が赤らんだ優しい表情の彼女。


その表情を見て全てを察した。


流石に私もそこまで野暮ではない。

期待に応えよう。


「魔法にてあなたを連れ出してあげましょう」


………

……


ふと目が覚めた。

とんでもない長編ストーリーだった。

夢の中身について考える前に読んだ

ファンタジー小説が問題だったかな……


それになんだか眠りも浅い。

俗にいう明晰夢という奴だったのかもしれない。


冷えすぎている珈琲を手に取り口へと運ぶ。

「ふむ、暖かい紅茶が飲みたいな」


そう呟くと手元にカチャリと湯気の立つ紅茶が置かれた。


「はいどうぞ、おじさま」

そこには羽の生えた赤髪の少女がいた。


「…………夢か」

そう呟いて左頬を強くつねった。

単発で一つ書いてみたかった。

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