第74話 2つのパーティー
「じゃあ、ここでお別れだね」
「うん」
ピュリフの街の馬車降り場に到着すると、ミーヤとはその場で別れることにした。
元々、彼女とは偶々同じ馬車に乗ることになってしまっただけの仲である。
ピュリフの街に着いてしまった以上、行動を共にする理由もないというわけだ。
「これからミーヤはどうするの?」
「とりあえず宿でも探して、そうしたらすぐにダンジョン制覇できそうなパーティーでも探そうかな」
「宿だったら、あっちの方にあるから。それとも、パーティーが決まるまで『到達する者』のパーティーハウスに泊まるっていう手もあるけど」
「いいよ。そもそもダンジョン制覇するまで顔を合わせない約束だから。ここでさよならすることにするよ」
「そういうことなら、わかった」
もう会えないというのは寂しい気がしたが、本来ミーヤとは別れを済ませているはずなのだ。
ブロードの街で告げられた別れ。そして王都で再会し、過去の諍いを精算した後での別れ。
それが奇妙な運命とともに、先延ばしされていただけだ。ロスタイムが終わったというだけの話。
寂しさはあるものの、不思議と辛いとは思わなかった。
「もう会えないってなると寂しいですね」
ロズリアも同じような感慨を受けていたようだ。声量を落としてしょんぼりと呟く。
「大丈夫だよ! 顔を合わせないって約束したのはノートとだけだし! 会おうと思えば、いつでも会えるよ!」
「もう弄れないってなると寂しいですね」
「うん! 次会う時はダンジョン制覇した時だね!」
やっぱそうなるよね……。
ロズリアが真面目に別れを惜しむ光景なんて似合わないと思ったんだよ。
「じゃあ、わたしはもう行くね。ノート、ロズリアちゃん。じゃあねー」
「うん、じゃあ」
「わかりました。またどこかで」
俺達は手を振って、別れの挨拶を終えた。
ミーヤの姿が曲がり角に消えると、ロズリアは口を開く。
「さて、わたくし達も戻りましょうか。『到達する者』のパーティーハウスに」
「そうだね。何ヶ月ぶりの帰宅だろう」
そんなことを話しながら、俺達は懐かしの家に向かったのであった。
「ノートくん、入らないんですか?」
「いや、入りたいんだけどね……」
ドアの前で立ち止まる俺を不思議そうに見つめてくるロズリア。
そんな彼女の問いかけに、なんと答えればいいか迷っている最中だった。
「一つ訊くけど、ここってまだ『到達する者』のパーティーハウスなんだよね?」
「そのはずですけど? 看板だってありますし、見た目だって変わってないじゃないですか」
「そうだよね。だったら、なんで――」
俺は疑問に思っていたことを口にした。
「知らない人達がいるんだろう……」
《索敵》からは室内に見知らぬ人の気配が感じられていた。
総数は二。どちらともリビングにいるようだ。
「知らない人ですか?」
「うん。しかも、割とくつろいでいる様子なんだけど……」
「じゃあ空き巣じゃないですか?」
「だから、くつろいでいるんだって」
「物を盗んだ後くつろぐタイプの空き巣なんじゃないですか?」
「なんだよ、そのタイプ……」
「それか限りなく可能性は低いですけど、空き巣になったパーティーハウスに住み着かれたといったところでしょうか」
「そっちの方が圧倒的に可能性高いと思う」
俺とロズリアがピュリフの街から去って、残されたメンバーはネメのみとなった。
おそらく彼女も『到達する者』のパーティーハウスから拠点を移したのだろう、
エイシャが調べた情報からまだこの街にいることはわかっていたが、それ以上の情報は掴めていなかった。
「とりあえず中に入って、居座っている人達を追い出すことから始めるか」
「そうですね。この家がないと『到達する者』って感じがしませんですし」
持っていた鍵を鍵穴に差し、くるっと捻る。
鍵は変えられていなかったようで、ドアは簡単に開錠された。
中に入ると即、靴が並んだ玄関が目に入った。廊下にもちらほら荷物が置かれており、生活感が漂っている。
「ほらほら、誰かいるんでしょ? 出てきてください」
家中に届くように大きな声で呼びかける。
すると、すぐさま奥の扉から人影が現れた。
「うわっ⁉ 誰っすか⁉ あんたら⁉」
誰っすか⁉ はこちらの台詞だ。
全然見たこともない人が出てきたんだけど……。
「どうしたの? ナクト?」
少年の次は見知らぬ少女が。
リビングの方から顔を出してきていた。
「なんか知らん人が入ってきたんだよ!」
「何言ってんのよ。そんなわけないじゃな――」
「だろ?」
「ほんとだ⁉ 泥棒じゃん! 憲兵さん呼ばないと! 早く呼んできてよ!」
「ドアの前にいるんだし、無理だろ! 外に出られねえよ!」
「じゃあ追い出してよ! ナクト冒険者でしょ?」
「それはフーリエも――」
「早くっ!」
「もうどうにでもなれっす。覚悟っ!」
そう叫んで、ナクトと呼ばれている少年はこちらに向かってきた。
廊下に立てかけてあった木の棒を掴み、距離を詰めてくる。
「うおぉぉぉりゃぁぁぁー」
そのまま木の棒を振りかぶってくる。
まさかのいきなりの実力行使である。
「危なっ⁉」
俺の後ろにはロズリアがいる。避けられないことはないが、避けて彼女に攻撃が当たるのはまずい。
《縮地》で距離を詰め、相手の懐へ潜り込む。
そのまま足を払い、バランスを崩したところで腕を掴んだ。
腕を捻り倒れていく少年の身体を利用して、床へと押さえ込んだ。
「うわっ⁉」
「ナクトっ⁉」
迎撃してきた少年の方は制圧が完了した。
もう一人の少女の方に目を向ける。フーリエと呼ばれる少女は、突然のことに立ち尽くして、身体がすくんでいるようだった。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか! 早く助けろよ!」
「で、でも――」
「ほら、魔法!」
「あっ、そうか――」
フーリエは腰に差してあった杖を構え、魔力を練り始める。
「《炎矢》っ!」
家の中で炎系魔法かよ。
文句を言う暇もなくして、矢の形状をした炎が射出される。
俺の顔面に向かって一直線で飛んできた。
「ロズ――」
「大丈夫ですよ、わかってます」
俺の呼びかけを待たずして、眼前に光の障壁が展開される。
炎の矢は障壁にぶつかると、火花を散らして立ち消えた。
「――《聖壁》」
ロズリアの防御スペルがフーリエの攻撃を防いでくれたようだ。
避けることもできなくはなかったが、避けたら炎が家に燃え移ってしまう可能性もある。
言葉を交わさずしても、ロズリアが意図を察してくれて助かった。
「えっ⁉ どうしよう……」
スペルを防がれるとは思っていなかったのか、フーリエは固まっている。
その隙にロズリアは周囲に光剣を展開していた。
「これ以上は暴れない方がいいですよ。命は惜しいですよね?」
俺達二人には勝てないと悟ったのか、フーリエは床にへたり込んだ。
杖を落とし、戦意喪失している様子だ。
「ごめんなさい。命は勘弁してください。お金ならいくらでもあげますから……」
あれ? これ、俺達が空き巣みたいになってない?
「えーと……キミ達は冒険者だったの?」
「そうっす。『最強無敵パーティーず』っていうパーティーを組んでいるっす」
「……」
何そのネーミングセンス……滅茶苦茶ダサいんですけど……。
あまり人のパーティーの名前にケチつけるのもどうかと思うけどね。ちょっとこれは……。
「なんっすか、その顔?」
「いや、独特な名前だなって……。ちなみにだけど、変えたいとか思わないの?」
「よく言われるっす。ボスがつけてくれた名前ですから」
「ボスね……」
ロズリアに目配せをしながらも、質問を続ける。
「で、そのボスにこの家に住まわせてもらったと?」
「そういうことっす。この家はボスのだと聞いていたんですけど……」
俺達がこの家に侵入してきた目的については、既にナクト達には説明していた。
現在は戦闘態勢を解いて、リビングで落ち着いて話し合いをしている状況だ。
「で、そのボスの名前ってのが?」
「ネメ・パージンさんっす」
ここまでに聞いた情報を一旦頭の中で整理してみよう。
俺とロズリアがピュリフの街を去った後、一人残されたネメはこの家に住み続けていた。
そして、『最強無敵パーティーず』というパーティーを組むことにした。
メンバーはナクトとフーリエ、それと盗賊と戦士が一人ずつの合計五人パーティーだ。一応ダンジョンなんかにも挑んでいたりするらしい。
それでもって、ネメは家にナクト達を住まわせていた。
そこに『到達する者』を復活させようとした俺達が戻ってきて、今回の騒動が起きたというわけだ。
と状況を冷静に整理していると、玄関の扉が開く音がする。
どうやら買い物に行っていたらしいネメとパーティーの仲間が帰ってきたようだ。
「おかえりです!」
明るく吞気で、よく響く声が聴こえる。
この声、やっぱりネメのものだ。おかえりとただいまを間違えているし。
すると案の定、玄関に続く扉から小さな影が見えた。
「プリン買ってきたで――」
赤毛の彼女は俺達の姿を確認すると、目を見開く。
「の、ノートとロズリアです⁉」
幽霊を見たかのように跳び退く幼女。
そのまま床に転がったネメは、一緒に帰ってきた仲間に助け起こされる。
「誰なんですか、そこの人達……?」
盗賊風の女性が尋ねる。
それに答えたのは、転がったばかりのネメであった。
「昔のパーティーの仲間です。『到達する者』のときの」
「どうもノート・アスロンと言います」
「と、その妻のロズリア・ミンクゴットです」
「えっ⁉ いつの間に結婚したです⁉ もしかして報告にやってきたです⁉」
「おい、紛らわしい嘘を吐かないでよ。ネメ姉さん混乱しているじゃんか」
「わかりました。この挨拶はエリンさんとの再会まで取っておきます」
「余計ややこしいことになりそうだから止めて」
なんか話が横に逸れてきてしまった。
久しぶりの再会なのに全然締まらないよな。
「結婚じゃないなら、どうしたです? 何かあったです?」
「何かあったというわけではないですけど――」
ちょうどいいタイミングの質問だ。
このまま雑談に耽るのも悪くないが、本題を切り出すことにした。
「『到達する者』を復活させようと思って帰ってきました。ネメ姉さん、もう一度『到達する者』をやり直しませんか?」
こちらを見上げる大きな瞳に向かって、俺は言った。
覚悟を決めて放った提案。
「ノートの誘いは嬉しいです。でも――」
しかし、ネメは周囲にいる仲間を見渡して、首を横に振った。
「今のネメには仲間がいるです。だから、一緒にダンジョンに潜ることはできないです」
俺の誘いはあっさりと断られてしまった形になる。
落胆する気持ちを表に出さないようにしながら尋ねる。
「やっぱり駄目ですか……?」
「ごめんなさいです。ノート達ともう一度冒険したいって気持ちはちゃんとあるです。でも、今のネメの仲間はこの四人です」
ネメがパーティーを新しく組んでいると知った時から、この問題は予期していた。
俺の予想は悪い意味で当たってしまったようだ。
「ノート達がいなくなって、ダンジョンに潜れなくなって。どうやったらダンジョン攻略できるかって困っていたところに、集まってくれたのがこの四人です」
そう言って、ネメは『最強無敵パーティーず』のメンバーを見渡した。
ジンが死んで『到達する者』が解散してからも、ネメだけがダンジョン攻略を諦めていなかった。
この瞬間、そんな事実を初めて知った。
「大切な仲間を裏切ることはできないです」
確固たる決意を秘めた目でネメは告げる。
その瞳を見て、俺は説得することを諦めた。
ネメに戻ってきて欲しい気持ちはある。だけど、フォースのときとはわけが違う。
フォースは『到達する者』が今のままではダンジョン制覇できるように思えないからと復活を拒否しただけだ。
でも、ネメには既に新しい仲間がいた。その仲間が大切だから、『到達する者』には戻れないと。
当たり前のことだ。過去に組んでいたパーティーが復活するからって、今いるパーティーをないがしろにしていいわけない。
優先するなら、もちろん今いるパーティーなはずだ。
それにネメが俺とロズリアに果たす義理なんてあるはずがない。
ネメを置いて、俺とロズリアはこの街から出ていくことにした。彼女のダンジョン探索への気持ちを無視して、見捨てる選択をしたも同然であった。
それが今頃戻ってきて、もう一度やり直したいときた。
なんと都合のいい話だろう。勝手が過ぎる。
「なんかすみません……。いきなり来て、変なこと言っちゃって」
「大丈夫です! 久しぶりに会えて嬉しかったです! よかったら一緒にご飯食べないです? ちょうど一杯食材買ってきたところです!」
ネメは「みんなもいいです?」と『最強無敵パーティーず』の面々に訊いていく。
「ボスが決めたことなら従うっすよ」
「折角の『到達する者』にいた人達の話を聞ける機会だもん。逃さない手はないよね」
と、ナクトとフーリエが。
その他二人も頷いたことで、『最強無敵パーティーず』との夕食会が決定したのであった。
というか、やっぱり『最強無敵パーティーず』って名前ダサすぎじゃない?
料理が一通りテーブルの上に並ぶと、一同は席に着いた。
「いただきまーす」
その一声とともに夕食が始まる。『最強無敵パーティーず』の人達が料理に手をつけるのを確認すると、俺も箸を目の前の煮物に伸ばした。
この料理を作ったのは女盗賊であるリラであった。
しっかりと出汁が染みわたっている料理はエリンのものとはまた違った。見慣れたテーブルに味付けの方向性が違う料理が並ぶのにはだいぶ違和感があったが、味は美味しいので次第に気にならなくなってきた。
「お二人って『到達する者』のメンバーだったんっすよね? 色々話訊きたいっす」
ナクトはスープを飲みながら尋ねてきた。
「まあね。どちらかというと、ナクト達のパーティーの話も訊きたいんだけど。どうやって今のパーティーって出来たの?」
俺達が出ていった後にネメが何をしていたのか。どうやってこのパーティーを組むことになったのか。
何も知らないのが現状だった。
「そうっすね。俺ら四人はダンジョンギルドの募集で集まった感じっす。そうだよな?」
ナクトは周囲に視線を送る。それに応えたのはフーリエだった。
「うん。わたしとナクトは幼馴染だから昔から繋がってて、リラとレイズはここで出会ったって感じだよね」
無口な戦士風の男、レイズが頷いて答える。それにナクトが付け加えた。
「それに俺らまだ、冒険者になったばっかなんすよね」
確かにナクト達の見た目は若い。全員、俺と同じくらい、もしくは下に見える。
若手冒険者特有の活気もまた四人から漂っていた。
「でも珍しいですね。人見知りのネメ姉さんが全く知らない人とパーティーを組むなんて」
「ネメはもう人見知りじゃないですっ! 知らない人にも全然話しかけられるです!」
「もうってことは、昔は人見知りだったことを認めると――」
「噓ですっ! ネメは昔から人見知りなんかじゃなかったです!」
だから、どうして頑なに人見知りなことを認めないんだよ。
いいじゃんか。今治ったんだったら、昔人見知りだったことくらい認めても。
「今でもボスは人見知りだけどね」
どうやら現在進行形で人見知りだったらしい。
フーリエからの密告によって判明してしまった。仲間に裏切られているぞ、おい。
「ネメは人見知りなんかじゃないですっ! ほんの少しだけ初対面の人と話すのが苦手なだけです!」
これ以上ネメが人見知りかどうかの押し問答を繰り広げても、ネメが人見知りという事実は変わらない。
一向に人見知りを認めようとしないネメを余所に、話題を変えることにした。
「でも、ダンジョンギルドでメンバーを集めるなんて意外ですね。それこそネメ姉さんなら他のダンジョン攻略パーティーからの引き抜きとかあってもおかしくなそうですし」
傍から見たら幼く見えるネメでも、一応一流の神官である。
圧倒的なスキル、高いレベルの神聖術、それにダンジョン攻略の最先端を行っていた『到達する者』に所属していた経歴もあるときた。
こういった要素だけを見るのなら、ネメはどのパーティーでも喉から手が出るほど欲しい人材のはずだ。
わざわざダンジョンギルドでメンバーの募集なんかかけなくても、仲間は集められたはずだ。
「最初はネメにもたくさん勧誘が来たです!」
案の定、予想は当たっていたようだ。
ネメは自慢げに胸を張る。
「でも、馴染めなくて全部辞めちゃったです! やっぱり初対面の人の集団に溶け込むのは難しいです!」
「やっぱり人見知りじゃないですか!」
「違うです! ネメは――」
「わかりましたって。ネメ姉さんは人見知りじゃないですよ」
「わかってくれればいいです」
「でも、どうしてこのパーティーは大丈夫だったんですか? この四人だって、初対面の人じゃないですか」
「みんなが仲良くなっているところに一人で入るのが特に苦手だったです! 一からパーティーを作ればちょっとは楽になると思ったです!」
ああ、わかるかもそういうの。
既に関係が出来上がっているコミュニティーに一人で入っていくのって、結構難しいよね。
ブロードの街で野良冒険者をやっていた時もそれは思ったし、なんなら『到達する者』に入りたての時もそうだった。
最初はエリンとかと仲良くなかったしなぁ……、あの時は苦労したなぁ。
「それにみんなは年下だから話しやすいです!」
人見知りあるあるその2、目上の人や年上の人とは壁ができてしまうである。
確かにネメは俺に打ち解けるのは比較的早かったような気がする。俺が年下だというのも関係していたのであろう。
「みんな優しくて助かったです。いっぱい感謝しているです。一緒に冒険してくれてありがとうです!」
「感謝をするのはこっちの方っすよ」
照れながら答えたのはナクトであった。
「新人冒険者の俺達がボスみたいなすごい冒険者と一緒にダンジョン探索できるなんて、本当にすごいことっすから」
他の三人も頷いている。どうやら、みんな気持ちは同じらしい。
「迷惑ばっかりかけているのに、それでも見捨てないでくれて。ボスには感謝してもしきれないっす」
「助けられているのはネメの方です! みんながいなかったらネメはダンジョン攻略を続けられなかったです」
「なんかありがとうっす」
「ボスにそう思われてるのは嬉しいわね」
「こちらこそありがとう」
「皆に同じく」
ナクト、フーリエ、リラ、レイズと順に感謝の言葉を返す。
どうやらネメはこのパーティーで随分と信用を勝ち取っているようだ。
眩しい光景が目の前には広がっていた。
リーダーとしてみんなを引っ張っていくネメと、尊敬をもって従ってくる後輩達。
ネメが思い描いていた理想に近いようなものが、この場所にはあるように思えた。
寂しいけど、昔の仲間である俺達が入っていく隙もなかった。
「あの……質問なんですけど……」
おずおずと手を上げる人物が。
感動的な空気に包まれる中、場違いにも近い横やりを出せるのはロズリアの特権だ。
潤んだ瞳のまま、ネメが不思議そうに首を傾げる。
「なんです?」
「そのボスって呼び方なんなんですか?」
確かに俺も気になっていた。
ボスってなんなんだ? リーダーならまだわかるけど。
「それはボスって呼べって言われたからっすよ」
「そうそう。『これからネメのことはボスって呼ぶです!』って」
「『到達する者』でもそう呼ばれていたと……」
「
ふむ……」
四人は口をそろえて言った。
リラの発言には引っかかりを覚えたが、先ほどの感動的な雰囲気をぶち壊すのもなんなのでスルーしておくことにする。
「それよりあれ本当なんすか?『到達する者』でもボスがパーティーを引っ張っていって、エースとして活躍していたって」
「パーティーメンバーの男子にモテモテだったそうですけど、ノートさんもボスのこと好きだったんですか?」
「女子メンバーからは姉御的立場として恋愛相談に乗って、色々成就させたとも聞いていますが……」
「それはオレも聞いたぞ」
引っかかる発言しか出てこなかった。いくら感動的な雰囲気の中でもスルーできないような発言も出てきた。
まあ、ネメもこのパーティーでの立場というものがあるだろうし?
ここで否定するのもかわいそうだ。面子が丸つぶれになってしまう。
もうこうなったら破れかぶれだ。仕方なしに噂に乗ることにした。
「うんうん、全部本当」
「じゃあノートさんもボスのことが好きだったんですか?」
「そうそう。超好きだった! もう恋に恋い焦がれてたって感じ?」
「ノートくん……」
隣からロズリアの憐れむような視線が突き刺さっていた。
俺もくじけそうなんだから、そういう視線は止めて欲しいな。
そんな苦しみもがきながら嘘を吐いている俺に対して、ネメはというと――。
「なんだ。ノートもネメのことが好きだったです? だったら、早く言ってくれれば――」
プチンと何かが切れる音がした。
「なわけないじゃないですか! 人が折角優しさで嘘に乗っかってあげたのに、なに調子に乗ってるんですか!」
まあ、我慢の限界だよね。
なんで人のいないところで嘘吐いているんだよ。当人がいないからって勝手なこと言うなよ。
そんなんで尊敬を勝ち取ろうとするな。
もう感動的な雰囲気とか知るか。全部、ぶち壊してやる。
「全然パーティーを引っ張ってなかったし、モテてもなかったですよね?」
「あわあわ……」
「恋愛経験がないくせに、捏造した恋愛エピソードを作って恋愛マスターぶっていたり――」
「わ、悪かったです! それくらいにしてくださいです!」
「さらに言うなら――」
人を怒らせたらどうなるかということをネメにはしっかり教えてやらなければならないようだ。
こうして『最強無敵パーティーず』との夕食会はネメの黒歴史公開会へと変貌したのであった。




