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第136話 後日談

 雲一つないような晴天の中、『到達する者(アライバーズ)』の面々はというとピュリフの街へと帰ってきていた。

 その中にはもちろん幼い見た目の神官の姿もある。俺達は無事にネメを取り戻すことができたのだ。


 俺がスイズとの戦闘を終えた後、自分一人では警備の目を掻い潜ることはできそうにもなく、人気のない空き部屋で手をこまねくこととなる。

 そこで突如地震が起こって、教会内が慌ただしくなったのだ。


 綿密な配置だった警備にも穴ができて、そのタイミングで部屋から抜け出してきたネメと合流することができた。

 ロズリアとソフィーと合流するのもそう難しいことじゃなかった。


 どうやらあの地震はロズリアが眠っていた要塞都市のコアを起動したことで起こったものらしい。

 確かに攪乱係を命じたのは自分だが、まさかそこまで教会内をかき乱してくるとは思わなかった。

 けれど、そのおかげで警備の目を逸らすことができたのは事実だし、要塞が起動したことにより出てきた隠し通路によってロズリア達が無事に逃げられたのも事実だ。


 四人が合流したら後は《転送門(ゲート)》を発動。もう一方の門を開いていたエリンの下に飛んで、そのまま街の外に逃げたというわけだ。

 ピュリフの街に来るまでに、俺達に向けられた追手の存在は確認できていない。


 道中で情報収集をしたところ、どうやらビスリルの街では要塞都市の機能が復活したとあってそれどころじゃないらしい。

 ビスリルの要塞は国の象徴となる英雄によって造られたものだ。

 それが数百年ぶりに戻ったとあらば、国中がお祭り騒ぎとなるのも無理はない。


 道行く先で現地の人が景気のいい言葉をかけてきたし、露店や酒場も大々的に盛り上がっていた。

 国全体が明るいムード一色で包まれており、これなら聖女がいなくても当分の間なら平和な世の中になるのかもしれなかった。


「それにしてもなんでわたくしがお尋ね者になっているんですかね……?」


 リビングのソファーに座りながら、ロズリアは道中でもらった新聞を眺めて呟く。

 横から覗き見ると、新聞の端っこにはロズリアの名前が小さく書かれていた。


「ロズリアが勝手なことをするから……」


 ソフィーが恨めしでな視線をロズリアに向ける。


「要塞都市に魔力を込めたことですか? でも、そのおかげでビスリルの街はお祭り騒ぎなんですよ? だったら、お尋ね者じゃなくてむしろ称えられてもよくないですか?」


「そんなの知らない。ロズリアのせいでわたしまでもが指名手配になった。なんてレイファ殿下に弁解すれば……」


「そう落ち込まないでくださいよ。あの王女様ならなんとかしてくれますって」


「なんでレイファ殿下が交渉して、わたし達の指名手配をどうにかしてくれる前提で話しているの? 絶対ロズリアの指名手配は取り下げないように言っておくから」


「薄情者すぎませんか⁉」


「あはは……」


 二人の会話に笑っていると、ソフィーの険しい目つきがこちらに突き刺さる。


「なんでノートは笑っているの? というか、教会に侵入したのはノートも同じ。なんでお尋ね者になってないの?」


「それはロズリアに巻き込まれたかどうかの違いじゃない……?」


「理不尽。レイファ殿下に言って、ノートもお尋ね者にしてもらうよう交渉してもらうから」


「仲間を売ろうとするな、おい」


 どうやらソフィーはロズリアの巻き添えを食ったことにだいぶ不満が溜まっているらしい。

 真面目なソフィーならロズリアの手綱を握ることができるかと思っていたが、今回はロズリアの暴走力の方が上回ってしまったようだ。

 どっと疲れを滲ませている彼女を眺めながら、フォースは口を開く。


「やっぱりエリンの方について行って正解だったな……」


「フーゲ枢機卿にもリベンジを果たせたんでしたっけ?」


「ああ。今度はあいつを叩きのめしてやったぜ」


 どうやらフォースはパーティーハウスでの雪辱を果たすことができたようだった。

 さすがはスイズを丸め込んだフーゲ枢機卿というところか。

 作戦の根幹であるエリンの下に向かった判断は的確だったが、最後の最後でフォースの力量を見誤ってしまい、俺達を捕まえることは叶わなかった。


「これでようやくダンジョン攻略に戻れるな」


 フォースが明るい声で手を叩くと、エリンが言う。


「いや、まだでしょ。あなたの折れた刀探しがあるじゃない」


「そう言えばそうだったな……。ネメの一件でつい頭から抜け落ちてたぜ……」


「自分のことなのに忘れるんじゃないわよ」


「まあ、そこはダンジョン探索中に探していくとしますか」


 ダンジョンの中にはまだ数多くの魔道具が眠っている。

 フォースに見合う刀くらい、時間をかければきっと見つかることだろう。


 まだやらなくちゃいけないことは積み重なっているとはいえ、ひとまずは問題が解決したことになる。

 一ヶ月以上ぶりにパーティーハウスに戻ってきたネメがぺこりとお辞儀をした。


「みんな、ネメを助けに来てくれてありがとうです。おかげでダンジョン攻略に戻ることができるです」


「当たり前だろ? 仲間が困っていたら助けるのは」


 いち早く答えたのはフォースであった。続けてエリンも口を開く。


「ネメがいなくちゃダンジョン攻略もできないものね」


「ネメ姉さんがダンジョン攻略に一番熱意をかけていたのは知っていますから」


 俺の次に発言をしたのはロズリアだった。胸を張って言う。


「いや、もっとわたくしに感謝してもいいんですよ? お礼はいくらでも受け付けていますから」


「空気読んで。ロズリアはもうちょっと謙虚さを覚えた方がいい」


 ネメを茶化そうとするロズリアにソフィーが突っ込む。

 こういうしんみりした雰囲気を明るくしてくれるのはロズリアのいいところだし、ロズリアのストッパーとなってくれるソフィーの存在もありがたかった。


「わたしもネメが戻ってきてくれて嬉しい」


「ソフィーもありがとうです」


 ネメは再度お辞儀をすると、みんなの顔を見て言った。


「昔ネメは神様に会うためにダンジョン制覇をしたいって言っていたです」


「そんなこと言ってましたね」


「でも、今のネメは神様に会わなくてもいいかなって思ってるです」


「えっ、それってダンジョン攻略辞めちゃうってこと⁉」


 大きな声で反応したのはエリンだ。

 あまりにも素直なリアクションを取る彼女に、ネメは苦笑いをして答える。


「早とちりしすぎです。最後まで聞いてくださいです」


「だって、今のそういう流れじゃないの?」


「どう見たってネメさんの表情からそんなこと言い出す雰囲気じゃないじゃないですか。もう少し察する力をつけた方がいいですよ?」


「これ、私が鈍感なだけ?」


 ロズリアの発言を受けて、エリンはみんなの顔を見るも大体の人が頷いていた。

 約一名小首を傾げているメイド姿の騎士がいたが、そこには目を向けないでおく。


「で、ネメは何が言いたかったのよ」


 罰が悪そうにエリンは咳払いをする。

 ネメは小さな拳を握り締めながら言った。


「ダンジョン攻略は続けたいってことです! みんなと一緒に夢を叶えたいですし、ダンジョンの一番奥に何が待っているかも気になるです!」


「それはオレも同じだな」


 ネメの発言に続いたのはフォースである。


「最初はダンジョン攻略をするのはモテたいからだとか言っていたが、正直今はどうでもいい。オレはただお前らと冒険をしたいっていうのと、ジンとの夢を叶えたいってだけだな」


「モテなくてもいいって、あのフォースの発言とは思えないわね……」


「いや、最近道行く女の子に声をかけられること多いんだよ。もしかして、オレって黙っていた方がモテる?」


「今のひと言でなんかすべて台無しになっちゃったわね……」


 こういうところは昔とあまり変わっていないのかもしれない。

 人間変わったように見えても、根本のところはあまり変わらないのだろう。


「私ももう魔導士の頂きとかどうでもいいしね。ネメの気持ちはわかるわよ」


 壁に寄りかかりながら、今度はエリンが口を開いた。

 ロズリアは口元に指を当てながら尋ねる。


「じゃあ、今なんでダンジョン攻略してるんですか?」


「なんでって……なんでだろう……?」


「どうして疑問形なんですか?」


 問い返してくるエリンをロズリアは指差しながら、こちらの袖を引っ張ってきた。


「ほら、ノートくん! ダンジョン攻略にやる気のない人がいますよ! そういう人がいるとパーティーの輪を乱してしまいます。今すぐ脱退させましょう!」


「なんで脱退しなくちゃいけないのよ! 隙あらば人をパーティーから追い出そうとしてくる人の方が輪を乱しているでしょ!」


「今までありがとうございました。エリンさんのこと、絶対忘れないですからねっ。……ぐずっ」


「下手くそな泣きまねやめなさい! 感動的な雰囲気出しても脱退しないわよ!」


 なんだかんだ言って、この二人はパーティーに入ってきた当初からあまり変わらないな。

 仲が良いんだか、悪いんだか。多分悪いんだろうけど、この二人の言い合いも、今では『到達する者(アライバーズ)』にはなくてはならないもののように思えてくる。


「そう言うあなたはどうしてダンジョン攻略を続けているのよ」


「それはもちろんノートくんと一緒にいるためですよ」


 そう言って、横から抱きついてくるロズリア。

 腕越しに柔らかい感触と温かい体温が伝わってくる。


「それずるいわよ! 私もそれ言いたかった!」


「駄目ですよ。先着一名ですから」


「ぐぬぬ……」


「まあ、でも今はそれだけじゃないですかね。皆さんとダンジョンに潜っているのも楽しいですから」


 ロズリアがそんなことを言うとは思わなかった。

 普段の発言はあれだけど、ロズリアはロズリアなりに『到達する者(アライバーズ)』のことを大切にしてくれているらしい。


「わたしもレイファ殿下のためってわけじゃなくなったけど、『到達する者(アライバーズ)』のみんなには恩があるし、ここでの生活ももっと続けたいから」


「ですって、ソフィーさんは。ノートくんはどうなんですか?」


 腕を抱く力を強めながらロズリアが問うてくる。

 どうなんだろう。俺がダンジョン攻略をする理由。


 元々は嫌いだった自分を変えるために『到達する者(アライバーズ)』に入って、ダンジョン制覇を目標に掲げることにしていた。

 だけど、今の俺は昔の俺とは違う。


 この変化が良いものなのか、悪いものなのかは自分では判断できないけど、俺は昔ほど自分のことが嫌いではなかった。

 それでもまだダンジョン探索をしたいって思ってしまうのは、きっと俺がダンジョン攻略を好きだからなのだろう。

 怖くて、辛くて、命がけのダンジョン攻略も、この仲間達となら心の底から楽しむことができた。


「ダンジョン攻略が好きだからじゃない?」


「ノートくんならそう答える気がしてました」

 みんな当初の目的からはずれてしまったかもしれないけど、それでも『到達する者(アライバーズ)』の目標は変わらない。

前人未到のダンジョン制覇。その夢に向かって、パーティーメンバーの足並みがそろい、『到達する者(アライバーズ)』は最高潮とも言える状態だ。


次なる階層にはどんな景色が待っているのか? 今はただ期待に胸を膨らませるのみだった。



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