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第134話 クラッシャー


 わたくし、ロズリア・ミンクゴットは『到達する者(アライバーズ)』の仲間であるソフィーさんと一緒にサレングレ大教会へと侵入していました。

 サレングレ大教会は観光客に一般公開している建物もあるため、敷地内に入ることだけなら簡単です。

 本聖堂や裏聖堂には本来立ち入れないようになっていますが、ノートくん達が警備兵を呼び寄せてくれたおかげで、なんとか本聖堂にも入れました。


 わたくし達の役目は攪乱ということで敵の目を引くことが目的ですが、この作戦は行き当たりばったりなところもあるため、攪乱の具体的な方法までは指示されていません。

 というわけで、今はソフィーさんと一緒に聖堂内を自由に歩き回っている状態です。


「おっ、侵入者か?」


 廊下の角を曲がったところで、剣士風の男と出くわしてしまいます。

 男は日本刀を構えながら、名乗りをあげていきます。


「オレの名前はジュラン。名刀夜凪の使い手。いざ尋常に――」


「いえ、わたくし達は侵入者じゃありません。ただのメイドです。見てください、このメイド服」


 そう言って、ソフィーさんの方を手で指します。

 目の前の男はソフィーさんの服装をまじまじと眺めながら呟きました。


「確かにメイド服だな。おっと間違えたみたいだ。悪かった悪かった」


 男はソフィーさんの横を通り抜けようとします。

 けれど、途中で立ち止まってわたくしの方に視線を向けました。


「この子がメイドなのはわかった。ところで、君はどうして鎧を――」


「ソフィーさん、やってしまいなさい」


「かしこまりました」


 ソフィーさんはそのまま拳で男の腹を一発。身体がくの字形になったところで、肘打ちを入れて、昏倒させます。


「ナイス、連係プレイです!」


「連係プレイも何もただのむちゃぶりだったような――」


「そういえば、この人自分の刀を名刀だとか言っていましたよね?」


「わたしの話聞いてる?」


 ソフィーさんの抗議を無視して、わたくしは男が持っていた刀を手に取りました。


「これ、いい刀ですか? ソフィーさん」


「名刀を謳うに相応しい業物だけど……」


「じゃあ、貰っちゃいましょう。フォースくんの刀が折れちゃったことですし」


「いや、それ追い剥ぎだから」


 目つきを険しくしたソフィーさんに咎められてしまいます。

 ちぇっ、せっかくいい案だと思いましたのに……。


「でも、このまま歩いているだけでは全然攪乱している感じなくないですか?」


「それはそうだけど……」


「そうです! ここの宝物庫に侵入してみるってのはどうです? きっとお宝たくさんありますよ!」


「盗ったら泥棒になるから駄目」


「盗らないですよ! ただ昔から国の宝物庫見るの好きだったんですよねー。小さい頃はお父様に頼んでよく見せてもらってましたし。アイファンの宝物庫にどんな魔道具が眠っているのか見てみましょうよ!」


「そんな観光みたいに……。って、そんな気軽に国の宝物庫見られるって、ロズリアの小さい頃って一体……?」


「おっと、口が滑りました。何も聞かなかったことにしてください」


 舌を出しながら、おどけて誤魔化すことにします。


「よくわからないけど、わかった」


 他の人ならいざ知らず、こういうときソフィーさんは深く追及しないでくれます。

 気が利くのか、それともあまり他人に興味がないのか。どちらにせよ助かるので、このまま話を元の方向に戻すことにします。


「それに宝物庫に行くのも悪い案じゃないと思うんですよね。国の大事なものが保管される場所に入られたら、当然警備の意識はわたくし達に向くと思いませんか?」


「それはそうだけど……」


「わたくし達の役目は攪乱係です! 教会内の人が一番やられて困ることをしないでどうするんですか!」


「まあ……」


「しかも、わたくしは宝物庫が見られて大満足。一石二鳥じゃないですか!」


「やっぱりロズリアが宝物庫見たいだけじゃ――」


「という冗談はさて置いて。どうです? 攪乱するために宝物庫に行くのは?」


「うん……」


 頷いてはいるものの、ソフィーさんはまだ納得できてないようです。

 アイファンの宝物庫を見学できるチャンスなんてそうそうありません。今を逃したら、もうこんな機会二度とないでしょう。

 ここはなんとしても、ソフィーさんを説得しなければ。


「ソフィーさん、よくレイファ様に言われませんでしたか? 頭が固いと」


「言われたことしかできないとは言われたことはあるけど……」


「それです! 今、わたくし達は『到達する者(アライバーズ)』の皆さんに、ここの兵士達を攪乱するように言われています。だけど、方法までは指示されていません。ここで普通の攪乱をしていたら、言われたことしかできない人間としてがっかりされちゃいますよ?」


「それは困る……」


「でしょう? ノートくん達にがっかりされるようじゃ、レイファ様にも呆れられちゃいますよ?」


「わかった。やる。ソフィーは言われたことしかできない子じゃない」


 意外にもソフィーさんはちょろいところがあります。

 日頃から散々注意されたことで扱い方は段々とわかってきていました。レイファ様の名前を出せば、大抵の場合はどうにか丸め込めます。


「ということで、アイファンの宝物庫見学ツアー、出発進行ですっ!」


「なんか騙されているような……」


 そんなソフィーさんの呟きは聞かなかったことにしておきます。






 ピーーッ! ピーーッ! ピーーッ!


 宝物庫に入ると、聖堂中に鳴り響くような警報が鳴ってしまいました。


「なんでしょう? この音」


「センサー式の魔道具。わたし達の侵入を感知して鳴るタイプみたい」


「結構うるさいですね。鼓膜が破れてしまいそうです。困りましたね」


「それだけじゃない。わたし達が宝物庫に侵入したことがバレたから、教会中の兵士がここにやってくるはず。よく考えたら、兵士を集めすぎちゃわたし達は逃げられない。ロズリアの言葉に従った自分が馬鹿だった……」


「入ってしまったものは後悔しても仕方ないですよ。とりあえず扉を土魔法で塞いでおいてください」


「ロズリアも少しは反省して……」


 恨めしそうな視線を向けながらも、律儀に土属性の精霊術で扉を埋めてくれます。

 やっぱり根が真面目なんですよね。文句を言いながらも、こちらの指示に従ってくれるところとか。


「これで当分兵士達は入ってきませんね」


「でも、わたし達も出られなくなった」


「じゃあ、じっくりお宝見学タイムと行きましょうか!」


「どうしてそんなに楽しそうなの? 頭にお花畑でも詰まっているの?」


「見てください! この盾! 綺麗ですよ? 一体これはどんな魔道具なんですか? 解説のソフィーさん」


 ソフィーさんの辛辣な言葉を無視して、近くにあった青い盾を掲げてみます。


「解説じゃないから。【高位鑑定】で見る限り、それはただの宝飾品の盾みたい。防御力はあんまりかも」


「だったら、微妙ですね。ポイっとしちゃいましょう」


「乱暴に投げない。壊れたらどうするの?」


「あっ、見てください! 大きな鎧がありますよ! これも魔道具なんですかね?」


「話聞いてる?」


 色々なお宝にテンションが上がっているわたくしに対して、冷めたテンションで答えるソフィーさん。

 宝物庫なんて滅多に見られる機会がないのに楽しまないと損ですよ。


「おい、泥棒! さっさと出てこい!」


 魔道具を物色していると、扉の外から大声が鳴り響きます。

 失礼ですね。ただ拝見しているだけで、何も盗ってないですのに。これじゃあ、完全に冤罪じゃないですか。


「まずいかも」


 ソフィーさんが魔道具を漁るわたくしの手を掴みながら言います。


「兵士達が無理やり扉を開けようとしてる。扉は塞いだからしばらくの間は無事だけど、このままじゃぶち破られて捕まるのも時間の問題。早く逃げないと」


「もうちょっと見ていたかったですけど、仕方ないですね。おっ、ちょうどいいところに奥に繋がる扉がありましたよ」


「本当だ。でも、分厚い――」


「えいっ!」


 フラクタスを顕現させると、扉を横にスライスしていきます。

 本来の力を十全に発揮できていないとはいえ、腐っても聖剣です。これくらいの扉は障害じゃありません。


「なんですか? この部屋」

 宝物庫の奥の部屋だから更なる宝が眠っている部屋かと思って、期待に胸を膨らませて入ってきましたが、どうやらこの部屋は宝物庫ではなさそうです。

 部屋中に配管が張り巡らされており、その中央には巨大な球体が鎮座しています。

 なんなんでしょう? この空間は?


「要塞の動力炉……」


 ソフィーさんが小さく呟きます。


「何か言いましたか?」


「ビスリルに来るときに馬車で御者の人から聞いた話覚えてる? この街は昔フォージュというドワーフによって造られた城塞都市だったって」


「そんな話ありましたね。それがどうしたんです?」


「今は老朽化したことによって都市の城塞としての機能は失ったみたいだけど、この装置は昔の城塞の心臓だった部分みたい」


「なるほど。大切な場所だから、宝物庫より奥にあるということですね」


 球体に近づいて撫でてみると滑らかな金属でできており、ひんやりと冷たさを感じます。

 構造や各パーツの材質も見たことがないものばかりで、確かにこれでは現代の技術で再現できないのも納得できました。

 これが自分と同じ聖具シリーズのスキルの持ち主が造ったものというのだから、本当に驚きです。


「これ触ったら爆発とかします?」


「どうして触ってから言う? まあ、安心して。今は魔力が空っぽで動力炉は動いていないから。爆発する心配もない」


「それなら良かったです。ですけど、どうしてビスリルの人達はこの動力炉を動かさないんですか? 魔力がないなら、魔力を注げばいいだけの話ですよね?」


「街一つを動かす魔力量ってのも想像できないし、普通に魔力を注いだだけじゃ動かないって可能性もある。もしくはフォージュが魔力を注がないと駄目だとか」


「なんか色々めんどくさい装置なんですね……」


「あまり難しく考えなくていい。これも大きい括りでは魔道具みたいなもの。ただスケールが大きくて、この街がある山全体が魔道具になっているってだけの話」


「魔道具みたいなものですか……」


 ソフィーさんのひと言でふと思い出します。

【聖剣の導き手】の本来の力を引き出す特訓をしているときに、魔道具に聖剣の魔力を込める練習をしていましたが、魔道具の耐久力が持たなくてすぐ壊れてしまいました。

 だけど、目の前のなんかすごい感じの動力炉なら、聖剣の魔力を流しても耐えてくれるんじゃないでしょうか?


 これはもしかすると名案かもしれません。

 この動力炉に魔力を流してみることで、聖剣の魔力のコントロールを身につける手がかりが得られる可能性もあります。

 ピンチはチャンスとも言うじゃないですか。ここでわたくし達が要塞の動力炉にたどり着いたのも何かの運命かもしれません。

 ここでわたくしが覚醒して、【聖剣の導き手】の本来の力を引き出せるようになれば、捕らえようとしてくる兵士達を返り討ちにすることも可能です。


「はぁっ!」


 手のひら越しに聖剣の魔力を流し込んでいきます。

 普通の魔道具ではなかなか流れ出てくれませんでしたが、不思議なことにこの動力炉は吸い取られるかのごとく魔力が浸透していく感覚がありました。


「なるほど、何か掴めそうです」


 流していく魔力を勢いよく全開にすると、急に部屋全体が揺れ出しました。


「なんでしょう? 地面が揺れていますね」


「地震みたい。落ち着くまで、しばらく動かない方がいいかも」


「そうですね。この部屋なら上から降ってくるものもなさそうですし、安心ですね」


「それにしても長い地震。というか、どんどん強くなっていない?」


「そう言われればそうですね」


「もしかして普通の地震じゃないのかも」


「ノートくん達、大丈夫でしょうか? 心配です」


「わからないけど、多分問題ない――ってロズリア、何してるの?」


 ソフィーさんが驚愕に満ちた表情でこちらを見てきます。

 びっくりしました。一体、どうしたのでしょう?


「何って?」


「その動力炉に触れて――」


「ああ、これですか。ただ試しに聖剣の魔力を流しているだけで――」


 そこまで言って気がつきました。なんか動力炉が光っているじゃないですか!

 しかも鈍い重低音を鳴らしながら球体が動き始めました! なんですか、これ!


「何もしていないのに、ただ魔力を込めただけで光りましたよ!」


「馬鹿なの? どうして勝手に魔力を込めようとする!」


「色々考えて、良かれと思ってやったんですよ! まさかこんなことになるとは!」


「普通に考えたら、そうはならない。とりあえず手を離して、魔力を込めるのを止めて!」


「はいっ」


 両手を離して、即座にソフィーさんの下まで駆け寄るも、動力炉の動きは全然止まってくれません。

 球体は今にも弾けそうなくらい眩い光を放っています。


「どうしましょう⁉ これ、爆発とかしないですよね⁉」


「……わからない」


「否定してくださいよ! 【高位鑑定】のスキルがあるんですよね!」


「スキルでなんでもわかるわけじゃない。むしろ、光らせたロズリアがどうにかすべき」


「いや、無理ですよ! 魔力を込めることはできても、吸い出すことなんてできませんから!」


「どうして自分じゃ取り返しがつかないことをやろうとする!」


 ソフィーさんと一緒に部屋の端まで退避しますが、これは駄目かもしれません。

 動力炉が蒸気を上げながら、フルスピードで動き始めています。

 怖くなって、思わずソフィーさんに抱きついてしまいます。


「なんなんですか⁉ 一体、何が起きているんですか⁉」


「多分、聖剣の魔力によって要塞が動き出した」


「要塞が動き出すと一体どうなるんですか⁉」


「だから、それがわかったら苦労しない」


「本当に使えませんね!」


「勝手に要塞を動かしたロズリアだけには言われたくない!」


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