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第128話 深まる謎


 スイズ・マイランに協力を取り付けた後、俺とエリンはそのままパーティーが滞在するホテルへと戻った。

 その後、その場にいなかったロズリア達に事情をすべて話し、スイズからの報告を待つという方針へと落ち着いた。


 ホテルのレストランで夕食を摂ると、部屋に戻ることとなる。

 現在『到達する者(アライバーズ)』はこのホテルを二部屋取り、男子部屋と女子部屋に分けていた。


 女子部屋にはエリンとロズリアとソフィー、男子部屋には俺とフォースという割り振りである。

 二人には広すぎる部屋で、お互いに離れたベッドの上でくつろいでいた。


 就寝するにはまだ時間がある。暇を持て余していると呼び鈴が鳴ってエリンがやってきた。

 どうやらロズリアとソフィーは二人で大浴場に行ったそうで、一人で退屈だったからこちらに顔を出したとのことだ。


 あの二人って意外に仲がいいんだよな。パーティーハウスにいた頃もなんだかんだ言って、二人で時々出かけていたし。

なんて思いながら、エリンを中に入れる。


 彼女もお風呂上がりだったようで、ほんのりと湿った髪のまま、俺のベッドへと倒れ込んできた。

 もちろんこの場にはフォースもいるので変な雰囲気になったりはしない。

 寝転がるエリンの隣に座ると、ふと気になったことをフォースに尋ねることにした。


「そういえばネメ姉さんってどうやって『到達する者(アライバーズ)』に入ってきたんですか?」


「どうしたのいきなり?」


 最初に反応したのはエリンだった。

 もちろんただの雑談というわけではない。昼間にスイズと話した内容について思い出したからだった。


 ――とりあえず、そのネメというドワーフの女がどうして連れ去られたのか調べるのが先だな。

 これからスイズは、ネメが連れ去られた原因を探すことから始めると言っていた。

 なら、昔のネメを知るフォースなら、その手がかりを知っているのではと思ったのだ。


 そんなことを思いついたのも、フォースとエリンと三人という状況だったからだ。

 ここにネメとジンも加えると、俺が『到達する者(アライバーズ)』に入った頃にいたメンバーとなる。


「いや、二人は俺が知らない頃のネメ姉さんを知っているでしょ?」


「まあ、『到達する者(アライバーズ)』に入ったのはノートよりも先だからね」


「一応、エリンも先輩だったな」


「一応って何よ、フォース! 今もちゃんとした先輩よ!」


「どこが?」


 こうやった二人のいがみ合いも俺が『到達する者(アライバーズ)』に加入した当初は度々見られていた光景だ。

 ロズリアという台風が現れてから、主戦場はまったく別の場所に移動しちゃったけど。


「とはいっても、私もノートとは入ってきた時期そんなに変わらないのよね。だから、ネメの過去もあんまり知らないわ」


「そういう意味ではオレが一番、昔のネメを知っていることになるのか? 一応エリンより先輩だし」


「フォースが先輩ね……」


「お前は少し先輩を敬えよな。というか、オレ年上だぞ? ノートはずっと敬語使ってくれるけど、お前は最初っからタメ語だったからな」


「どうして敬っていない人に敬語使わなくちゃいけないのよ」


「お前な……」


 フォースは呆れたようにため息を吐く。

 そもそもエリンが誰かに敬語を使っているところを見たことがない気がするのだが、ここでは黙っておくことにした。


「ネメが入ってきたのって、結構最初の頃よね?」


「ああ、そうだな。オレとジンが『到達する者(アライバーズ)』を結成して、次に入ってきたメンバーだからな」


「ネメ姉さんが三人目って何度聞いても意外なんですよね……」


「そうか? 最初は大変だったんだぞ?」


 そう言って、フォースは過去を懐かしむように視線を上に向けた。


「ジンと一緒にダンジョン攻略を始めるって決めたはいいものの、最初は全然メンバーが集まらなくてな――」


「それも意外なんですよね」


「そうか? オレもその時はまだ名が通ってなかったし、ジンも裏世界の人間だったからな。普通の冒険者なら無名の二人がパーティー組むってなってもすぐに仲間は集まるんだろうけど、何せダンジョン冒険者は高い実力が求められるから。ある程度地上で実績を積まないと寄り付いてくれないんだよ」


「でも、フォースさんには【剣術・極】のスキルがあったじゃないですか」


「だと思うだろ? 実際パーティーを始める前もそう思っていたんだけどな。勧誘しか来ないんだよ。今あるパーティーメンバーの補強としてオレやジンが声をかけられることはあっても、なかなかオレ達のパーティーに入ってくれる奴はいなかったんだ」


「どうしてですか? 俺ならフォースさんがいるってわかればすぐに入るんですけど」


「それはお前が考えなしなだけだ。嬉しいけどな」


 フォースは離れて小突くふりをしながら言う。


「ほら、ダンジョン攻略って一人、二人が強くても、何人か使えない奴がいたらすぐに全滅しちゃうものだろ?」


「それはそうですね……」


「だから、一人のエースがいても穴があるパーティーには誰も入りたくないんだよ。穴を埋める補強はよく行われるけど、新規でパーティーを作るってなるとどうしてもメンツが揃わず穴ができることが多い。そういうわけでピュリフの街でも新しいダンジョン攻略パーティーっていうのはなかなか出てきづらいんだ」


 これはパーティーを創設したものにしかわからない実体験なのかもしれない。

 確かにピュリフの街で新しいダンジョンパーティーがポンポンと出てきているかと言われれば怪しいところだ。


 財宝目当てにダンジョンに潜る冒険者は数多くいれど、ダンジョン制覇を目標に攻略を進めているパーティーは限られている。

 最近出てきた有名どころで言うと『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』だろうか。


 しかも、あれは例外中の例外で、変わり者の王女が金にものを言わせて作ったドリームチームのパーティーだ。

 そう考えると一からパーティーを作って、ドリームチームを作ろうとするとかなり難易度は高いのかもしれない。


「あのときはよくジンと二人で頭を抱えてたな……。最初は家もなかったし、金もなかったからな。地上のモンスターを倒して、生活費を稼いでな。こんなんじゃ一生ダンジョンに潜れないんじゃないかなんて話をよくしたな」


「ジンさんがその日暮らしをしている姿はなかなか想像できないですね……」


 そういう苦労もあって、二人の仲が深まったのだろう。『到達する者(アライバーズ)』の中でもジンとフォースは特別な絆で結ばれていたような印象を受けていた。


「そんな中、のこのこやって来たのがネメってわけだ」


「やっとここでネメが登場するのね」


 エリンは伸びをしながらベッドから起き上がる。

 そんな彼女を横目で見ながらフォースは続けた。


「とは言っても、オレもネメの過去についてあんまり知らねえんだよな」


「そうなの?」


「『到達する者(アライバーズ)』に来る前はピュリフの街の他のダンジョン攻略パーティーに入っていたけど、色々と上手くいかなくて転々としているうちに『到達する者(アライバーズ)』にたどり着いたってことくらいしか知らねえな」


「意外ね。ネメだったら自分の過去とかペラペラ喋ってそうなものじゃない?」


「お前、ネメが人見知りだったこと忘れたか?」


「すっかり忘れてたわ……」


「お前が来たときはオレ達とある程度まともに会話できるようになっていたからまだマシだったけど、最初は本当に酷かったんだぞ? これは他のパーティーを追い出されてもおかしくないってくらいのコミュ障っぷりで、これも二人で頭を悩ませたんだからな。結局ジンが思いついた餌づけ作戦でなんとかなったけど」


 ジンさん、一体なんて作戦を思いついてんだ。

 常識人っぽいって思っていたら、唐突にぶっ飛んだことするみたいなところあったからな、あの人は。


「それにしても、やっぱりダンジョン制覇をしようって目的だけは一貫しているんですよね。ネメ姉さんって」


「私達が離れ離れになったときも、ネメは新しいパーティーを作って、一人ダンジョンに潜っていたのよね」


 ジンが死んで、『到達する者(アライバーズ)』が解散した後でネメが新人冒険者を引き連れて、『最強無敵パーティーず』というパーティーを作っていたのは記憶に新しい。

パーティーとしての実績やメンバーの実力は『到達する者(アライバーズ)』には到底及んでいなかったが、それでもダンジョン制覇を目標に掲げていた、ピュリフの街でも数少ないパーティーだった。


「ネメのダンジョンに潜る目的って神様に会うためだとかなんだかだったよな?」


「自己紹介で言った動機が本当なら、そのはずですけど」


「そこまでして神様に会いたいものなの? 私はセシナ教徒じゃないから全然わからないんだけど」


「どうだろうな。そもそもセシナ教を信仰しているから神様に会おうって言うんだったら、ダンジョン攻略パーティーはセシナ教徒ばっかりになりそうじゃねえか?」


「それもそうですね。そこのところは同じセシナ教徒であるロズリアに訊けばわかるのかもしれないですけど」


「あの女に訊いてわかるのかしら……。セシナ教って人生で一人の異性を愛すべきみたいな教えあったじゃない。ちゃんとしたセシナ教徒ならパーティークラッシャーなんかにならないと思うんだけど?」


「それもそうだな……」


 ロズリアの過去の行いを見て、彼女を敬虔な信徒という人間は一人もいないだろう。

 彼女が神様に会いたそうな素振りを一切見せないのも、その辺りが関係しているのかもしれない。

 そんなことを考えていると、フォースは神妙な面持ちで口を開いた。


「そもそもネメってセシナ教を信仰しているのか?」


「……えっ?」


 声を上げたのはエリンだった。彼女は眉をひそめながら言う。


「神官なんだし、セシナ教の枢機卿に連れ去られたんだから、当然セシナ教徒なんじゃないの?」


「いや、オレもそう思っていたんだけど、エリンの話聞いて少し変だなって思ったんだよ。ネメってよく冗談で言ってるだろ?『ネメは大人の女性です』とか、『昔は色々と男遊びをしてたです』とか」


「あの見栄っ張りの嘘のことね……。それがどうしたのよ?」


「もしネメがちゃんとしたセシナ教徒なら、そんな不敬な嘘吐かなくないか?」


「あっ……」


「確かに……」


 俺もエリンもフォースのひと言に虚を衝かれたような気分になる。

 もしかして、俺達は何か重大な思い違いをしていたのかもしれない。正体のわからない違和感が三人の間の空気に漂う。


「そうか。もしネメがセシナ教を信仰しているなら、見栄を張るって行為自体がおかしいんだ。そもそもセシナ教徒にとって、たくさんの人と付き合っていることは名誉なことじゃないんだから」


「ちょっと待ってよ。ネメが着ている神官服はセシナ教のものよ。それはどう説明するのよ」


「それは……」


 エリンの反論に俺は押し黙る。

 俺達が勝手にネメをセシナ教徒だと判断していた要因の一つに彼女の装いがあるだろう。

 もしネメに別の信仰があるなら、他宗教の神官服なんて着たりしないはずだ。


「なんならあれか? ネメはセシナ教を信仰しているけど、ちゃんとしたセシナ教徒ではないってことなのか?」


「よくわからないけど、そういうことになるんですかね……」


 ネメの過去について知るために話し合っていたつもりが、逆に謎が深まってしまった。

 三人で情報を突き合わせても、これくらいが限界なのかもしれない。


「とりあえず、そこのところも含めてスイズさんからの報告を待ちますか」


「そうだな。一応、今の話し合った内容はロズリアちゃんたちにも教えようぜ。何か気づくことがあるかもしれないし」


「それが良さそうね」


 こうして俺達はネメの過去について、一旦話を打ち切ったのであった。


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