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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第1章 外れスキル持ちの俺が最強パーティーの一員になるまで
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第13話 波乱の幕開け

 リビングにいた俺、ジン、エリン、ネメ、全員の視線がフォースに集まる。


 言っている意味がわからない。

 手がかりを摑もうと他の三人に目を移すも、誰も状況を理解できていないようだった。

 誰もが顔にはてなマークを浮かべている。


「い、一体どうしてだい?」


 ジンが深呼吸混じりに問う。

 冷静に努めようとしているのはわかったが、声は震えていた。

 ジンが動揺している。こんな姿を見るのは初めてだ。


 フォースも決して冗談で言っているのではないようだ。

 目つきは真剣そのものだった。


「好きな人ができたんだわ。自分で言うのも恥ずかしいっちゃ恥ずかしいんだが、多分、運命の相手っていうの? そういう女性に出会えたんだ。すげえ今、幸せだし、今後もずっとこの幸せが続けばいいと思っている。だから、ダンジョン探索なんて危険なことはやめて、これからは相手の幸せを叶えるために尽くしていきたいって決めたんだ」


「結婚するってことかしら?」


 エリンが尋ねる。


「結婚とかは当分先になるし、まだ付き合ってすらいないけど……お互い相思相愛なのは間違いないと思う」


「それって……運命の相手と決めつけるのは気が早すぎないですか?」


「うるせえ。彼女ができたことないお前にはわかんねえことだろうよ。大人しく黙っていろ」


 俺にだけ口調が酷い……。

 まあ、フォースの言う通り、彼女はできたことないんですけど……。

 何も言い返せねえよ、おい。


「相手はどこの誰です……?」


 ネメが首を傾げながら訊いた。


「ロズリアっていうかわいい神官の女の子だ。何度も言うと惚気のように聞こえちゃうかもしれないが、とにかくかわいい女の子なんだ」


 二度目のかわいいと言う場所で強調するように語勢を強めるフォース。

 自慢するように俺に視線を向けてくるのをやめろ。


 それにしても、ロズリアか……。

 その名前、どこかで聞いた覚えがあるんだよな……。

 どこで聞いたんだっけ……?


 横を向くと、エリンの驚愕に満ちた顔があった。

 ジンもネメも同じような表情をしている。

 俺はおそるおそる尋ねてみた。


「ロズリアって一体誰なの? みんな知っているみたいだけど……」


 隣のエリンに小声で問いかける。

 彼女は何度も口を開けたり閉めたりを繰り返し、ようやく声を絞り出した。


「ロズリア・ミンクゴット、周りにいる男に手当たり次第にアプローチをかけて惚れさせ、同時に複数の男と関係を持って男女関係のトラブルを引き起こしまくる、ピュリフの街で有名な厄介者よ……。痴情のもつれによって崩壊させたパーティーは両手の指じゃ数えられない。そのことから、『傾国(クラッシャー)』という二つ名がついたほどだわ」


 クラッシャー……。

 確かその二つ名は聞いたことがある。


 ネメだ。ネメから聞いたんだ。

 クラッシャーって呼ばれている神官がピュリフの街にいるって。

 てっきりその時は、攻撃的な神官の二つ名かなんかだと勘違いしていたが、どうやらパーティーをクラッシュする方だったとは……。


 しかし、ここまで言われてはフォースも黙ってはいない。


「おい、ロズリアちゃんのことを悪く言うなって! そういう噂があるのは事実だ!

 だけどな、噂で人を判断するっていうのはどうなんだよ! それって正しいのか? ロズリアちゃん本人と話したことがあるのか?」


 フォースは勢いづいて、熱弁を振るう。


「オレはある! 何度も二人で話した。そして、確信した! ロズリアちゃんは周りの人が噂するような悪い人じゃねえって! かわいくて、誰にでも優しく接することができる善人だからこそ誤解されちゃうんだ。もしかしたら、ロズリアちゃんに嫉妬している心無い女が腹いせに噂を流しただけかもしれない。そうだ。そうに決まってる。オレは噂に惑わされねえ! ロズリアちゃんを信じる! あいつだって、酷い噂に心を痛めているんだよ!オレの前で涙さえ流していたんだ。だから、ロズリアちゃんを悪く言うやつは許さねえからな!」


 息をはあはあ上げ、フォースは言い切った。やり切ったという満足感が顔には浮かんでいた。

 ちょっとかっこいいと思ってしまった。


 ジンは申し訳なそうに目を伏せながら、口を開く。


「ボクなら彼女と直接話したことがあるよ。知り合いが彼女の起こした男女トラブルに巻き込まれた際にちょっとね。ボクから言わせてみれば彼女はクロっていう印象だったよ。あの目は確実に噓つきのものだったね。悪いことは言わないから、ロズリアだけはやめといた方がいいよ」


「マジか……話したことあんのかよ……。くそっ、お前は人を見る目はあるんだよな……。で、でも、万が一ってこともあるんじゃねえのか……?」


「逆に質問させてくれないかな? フォースから見て、彼女に疑うような点は本当になかったの?」


「悔しいが、ないとは言い切れねえ……最初に会ったとき、ロズリアちゃんは酒場の喧嘩に巻き込まれていたわ……。喧嘩っていうのも男二人のロズリアちゃんの取り合いが理由みたいだったし……。でも、オレがあいつを助けて、事情を聞いたら納得できるものだったから大丈夫だ。何を言われてもオレはロズリアちゃんを信じるぜ!」


 完全に思い出した。ロズリアという名前をどこで耳にしたのか。

 牢屋の中だ。

 女児誘拐容疑で捕まった際、正面と隣の牢屋にいた男がロズリアという女性を取り合って口論していた。


 もしかして、フォースが酒場で立ち会った喧嘩ってあの二人の喧嘩なんじゃないだろうか?

 二人が喧嘩で捕まったのは俺が捕まった前日と言っていた。


 その俺が捕まった理由というものも、ネメを抱えて街中を走ったからであった。

 それもそもそもと言えば、フォースが前日の夜に遅くまで酒を飲んでいて、走り込みをサボったのが原因だった。


 あの時、フォースはやたらと女と二人きりで飲んでいたことを強調していた。

 その女っていうのがロズリアを指していたのではないだろうか。

 最近フォースが忙しそうにして、走り込みをサボっていたのもロズリアの影響かもしれない。


 全部が繫がった気がした。

 牢屋にいた二人の口論を思い出すに、あの男達はどちらも自分こそがロズリアと両想いだと言い張っていた。

 現在のフォースと非常に近い状態だ。


 もしかして……。

 もしかしなくても、フォースは騙されている。そんな気がした。


「ロズリアっていう女、よく男に貢がせるっていうし、あなたも貢がされていないでしょうね……」


 エリンは呆れ果てた様子で目を細めた。

 対して、フォースは自信満々に胸を張る。


「貢がされてなんかないわ! まあ、プレゼントならたくさんしたけどな。最近だと、店で一番高かった杖を――」


「それ、貢がされていますから!」


 我慢できずにツッコミを入れてしまった。

 大声をあげた俺を横目に、フォースは人を小馬鹿にするように鼻で笑う。


「はあ。これだから、彼女いない=年齢の人間は……。なんにもわかってねえな。お前なんてどうせ女の子との初めてデートしたところで、奢られるような情けないタイプの人間だろ。一目でわかるわ。甲斐性なしっぽいやつには言われたくないわ」


 フォースの的確な分析が俺に刺さる。

 今日まさに心当たりのエピソードがあった俺は大ダメージを食らった。


 俺、すごくフォースに下に見られている気がする。

 絶対、こいつ両想いっぽい女の子が現れて調子に乗っているでしょ。

 決めた。これ以上、傷つきたくないので黙っておくことにしよう……。


 それから数十分。ジンとエリンとネメの必死の説得も空しく、「オレはロズリアちゃん を信じる!」と言って、フォースはパーティーハウスから勢い良く飛び出したのであった。






 ***






 リビングに残された四人は肩を落としていた。

 困りと呆れが半分ずつといった表情のジンとエリンとネメ。

 そこに更なる別の精神的ダメージが加わっている俺である。


 このまま黙っていても仕方ないので、状況整理をしようと口を開く。


「よくあるんですか? こういうことって……」


「初めてよ! フォースの馬鹿がパーティーを抜けるって言いだすなんて……」


「それだけロズリアって子が男を誑かすプロってことなんだろうね……」


 イラついている様子のエリンにジンがフォローを入れる。


「噂だとそのロズリアって人、すごく胸が大きいらしいです!」


「ネメ姉さん。人が真剣な話をしているときにふざけないでください」


「すみませんです……。ふざけたつもりはなかったです……」


 俺とエリンの責めるような視線にネメは肩をしゅんとすぼめてしまった。

 ネメの的外れな発言のせいで変な空気が流れる。

 ため息を吐きながらエリンはソファーの上に寝そべる。


「とにかく、どうやってフォースの目を覚まさせるかよね……」


「あの様子じゃ、いくら言ったところでボク達の話には耳を傾けなさそうだしね」


「ロズリアって人が本気でフォースを好きな可能性はないです……?」


 ネメが尋ねた。

 カーペットに膝を抱えて座っているため、いつもより数倍も増してちっこく見える。

 ネメの問いにジンは首を横に振った。


「おそらく、それはないんじゃないかな?」


「どうしてです……?」


「噂だから確証は持てないけど、ロズリアって子は特定の誰かを選ぶってことは今までにしたことがないらしいよ。色んな男の人に見境なく接近して、たくさんの人にちやほやされ、自分を取り合っている姿を見るのが好きらしいね。俗に言う、パーティーの姫ってやつになるのが上手いらしいから、この街の冒険者の仲間内でも随分警戒されているんだ。まあ、警戒されててもフォースみたいに引っかかっちゃう人もいるんだけどね……」


「よく考えなさいよ! あのフォースよ! 男慣れしている悪女に本気で好かれるなんてあるはずがないじゃない!」


 なんと説得力がある言葉か。

 この場にいる全員が満場一致で頷いてしまった。

 同じ『彼女ができたことない同盟』だった仲間としては少しかわいそうに思える展開だったが、散々馬鹿にされたことを思い出して擁護するのはやめた。


「そうすると、フォースさん自身に自分が騙されていると気づかせるしかないですよね……」


「そうね。問題はどうやってフォースに気づかせるかよ……」


 エリンの呟きに反応して声をあげたのはネメだ。

 名案を思いついたのか、自信満々に手を叩く。


「フォースを誑かすのをやめるように、ロズリアって人に直接言うのはどうです!」


 ネメの案に否定を入れたのはジンだった。彼は苦笑いをしていた。


「無理なんじゃないかな、それは……。又聞きの話だけど、とある冒険者が自分のパーティーの男に言い寄ったロズリアを注意したんだって。だけど、彼女は素直に聞き入れず、取り巻きの男達にあることないこと言いふらして注意してきた冒険者をボコボコにしたらしいよ」


 ロズリアの無茶苦茶な行動に一同は啞然として、黙り込んでしまう。

 俺の想像してた以上にロズリアは危ない人らしい。


 数多の男を誑かし、逆らう者が現れたら取り巻きの男を使って駆逐する。

 相当危険な女だ。


 皆、フォースに目を覚まさせる作戦が思いつかないみたいだ。

 八方塞がりという感じ。全員の顔が沈んでいる。


「無理かもね……」


 呟いたのはエリンだ。

 彼女の言葉を否定したいのは山々だが、誰も否定できる根拠がなかった。

口を閉ざすしかない。それが無性に悔しかった。


 この数カ月間。ダンジョンに潜ることを目標に頑張った。

 日常生活の全てで《索敵》を発動し続けた。

 常にアーツを発動しているので、気を抜ける時間なんてものはなかった。


 エリンにだって嫌われた。

 それでも、一度決めたことは守り続けた。


 自分で言うのもなんだけど、昔の俺じゃ考えられないくらい努力した。

 泣きたくて、辛いこともたくさんあった。

 練習が上手くいかない日なんかは、自分が許せなくて、本当に辛かった。

 嬉しいことの方が圧倒的に少なくて。苦しい毎日だった。


 それなのに。何かが変わればと、これだけ足搔いて前に進んだのに。

 こんなことで終わるなんてありかよ……。


 心の中から湧き出る不平、不満、文句。

 その全部をあの大馬鹿にぶつけてやりたい。

 フォースをぶん殴ってやりたい。

 いっそ悲惨な目に遭わせてやりたい。


 しかし、俺の言葉なんて有頂天な気分のフォースには届かなくて。

 俺の力無い拳は、全ての攻撃を見切れるスキルを持つ、フォースには届かない。


 だから、俺がフォースに与えられる復讐なんてどこにもなく――。


「……あっ」


 不意に脳裏に過る一手。

頭の中に散らばってしまわないように再構築を繰り返し、形作る。


 いける。いけるかもしれない。


「フォースさんに目を覚まさせる手を思いついたかもしれません……」


「本当に⁉」


 エリンが身を乗り出す。

 ああ。フォースに目を覚まさせるついでに、復讐を遂げる方法が。


 性格の悪い俺だからこそ、思いついた逆転の一手。

 好きな人がいる?

 そんな人が一番嫌がる行動ってなんだ?


 決まっているだろ。相手を奪うことにほかならない。

 三角関係を作ればいいのだ。


 普通の場合ならこの作戦は選べない。

 好きな相手を自分に振り向かすなんて芸当、そう易々行えない。

 ただ、この場合。相手がロズリアなら行えるのだ。


 俺は逸る気持ちを抑えながら、早口にならないように話しだす。


「ロズリアさんって男の人なら誰でも見境なく手を出すんだよね。なら、それを利用しない?」


「利用するってどうやってよ……」


「俺がロズリアに近づいて誑かされればいいんだよ。正確には誑かされたふりだけど。いくらフォースさんでも、俺とロズリアがいちゃいちゃしている光景を見れば、自分が騙されていることに気づかないかな?」


 自分の運命の相手だと思っていた女の子が他の男に愛嬌を振りまいていたらどう思うだろうか。

 ましてや、散々見下していた俺という存在。

 さすがのフォースでも我に返るだろう。

 多少、希望的観測は入っているけれど。


 そして、この作戦のいいところはロズリアに敵対しない点だ。

 彼女が思い描くシナリオ通りに事を運び、自分を取り合う男二人という承認欲求が満たされる光景を見せ、満足させたところで、こちらはこちらで目的を果たす。

 成功すればフォース以外誰も損をしない作戦だ。


「成功しそうな気がするです! いい案だと思うです!」


 ネメは目を輝かせ、手を握ってきた。

 対するエリンは不安そうな表情を浮かべている。


「惚れている演技をしている最中、ノートが本気で惚れちゃうって可能性はどうなのよ? ミイラ取りがミイラになったら笑えないわよ……。だったら、女性に免疫がありそうなジンの方が適任じゃ……」


「ジンさん、誑かされたふりいけますか?」


「うーん……誑かされたふりか……自信はないね……」


「だってよ、エリン。ふりの上手さだけでいったら、ジンさんより俺の方が得意なんじゃない? 俺って女慣れしてなそうだし、ちょろそうじゃん」


「それ……自信満々に言うことじゃないわよ……」


「ノート君、その作戦をどうしても自分で決行したいみたいだね?」


 ジンは俺の思惑を見抜いたようだ。

 ばれてしまってはしょうがない。

 素直に白状することにしよう。


「当たり前じゃないですか。散々フォースに馬鹿にされたんですもん。自分の手で痛い目見せてやりたいじゃないですか」


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