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第120話 魔弾の強襲


22階層を攻略した『到達する者(アライバーズ)』はしばらくの準備期間を設けた後、次なる階層に挑むことにした。


転移結晶で23階層に飛ぶと、そこに待ち受けていたのは広大な景色だった。

頭上には赤く血で塗られたような空が広がっていて、今いる場所の標高が高いからか、荒野のようになっている階層を見渡すことができる。


地上には崩れた遺跡のような建造物が敷き詰められており、さながら迷路のようになっていた。

迷路の広がる遥か先には塔が建っている。かなり距離があるため針のごとく細く見えるが、この位置からでも見えるということは相当の高さがあるに違いない。


事前に『迷宮騎士団』から階層の情報は仕入れているため、23階層がどういうギミックか把握することはできていた。

この階層の特徴をひと言で言い表すなら初見殺しだ。


「フォースさん」


「おお、じゃあ打ち合わせ通りオレが様子見するぜ」


 そう言って、フォースは転移結晶周りの安全エリアである結界内から足を踏み出した。

 一歩、二歩、三歩。しばらく歩いてもなんら異変はない。そう思った瞬間の出来事だった。


――塔の先端が光る。


その瞬間にはフォースは刀を抜いていて、一瞬の内に大気に衝撃が走った。


「くっ!」


 刃先には火花が散っていて、刀が何かを受け止めていることがわかる。

 そのままフォースは刀が振りぬくと、小さな塊が落とされた。


「わかってはいたけど、これを毎回防ぐのは厄介だな」


 23階層のギミックは狙撃だ。塔の先端にいるおそらくボスと思われるモンスターからの銃撃。それが階層を探索している間、常に襲い掛かってくる。


 フォースは今回それを簡単に防ぐことができたが、それも敵の攻撃を見極められる【心眼】スキルあってのもの。

 狙撃によって放たれる魔弾は超高速であり、ノーガードで受ければ一発で致命傷となるだけの威力もある。


 それに加え、探索中は階層内のモンスターも出現するため、モンスターと戦いながら狙撃に備えなくてはいけないときた。

 この階層も21階層や22階層同様、かなり性格の悪い仕掛けになっていた。


「一方的に攻撃されるのもムカつくわね。こっちからの攻撃は届かないのかしら」


 エリンは結界内で魔力を練り上げると、そのまま結界から出てスペルを放つ。

 杖の先端からは炎の鳥が出現し、弧を描いて空を渡っていくも、塔の直前になって半透明の障壁のようなものに阻まれてしまう。


「距離的には届いているはずだけど、駄目ね。向こうからの攻撃しか届かないようになっているみたい」


「やっぱりか」


 そこら辺の情報も既に『迷宮騎士団』からは入っていたが、一度自分の手で試してみたかったのだろう。

 スペルを撃ち終わると、そのまま結界内の安全圏へとエリンは戻っていった。


 しばらくの間、時が過ぎる。

ボスからの狙撃にはリロード時間がある。それも『迷宮騎士団』から教えてもらった情報の中に入っていた。


さすがに23階層といえども、毎秒狙撃が来るような理不尽さは持ち合わせていないようだった。

リロードにかかる時間はおよそ五分。その情報通り二射目がやって来て、それをフォースが弾く。


「どうですか? フォースさん」


「この調子だと防げないことはなさそうだな。このまま目を慣れさせていけば、どんどん楽になってきそうだぜ」


「それは良かったです」


「もう一、二発だけ撃ち落とす練習していいか?」


「全然いいですよ」


 ジンが命を落としたこともあって、フォースにもダンジョン探索において慎重さが生まれてきた。これもいい変化の内の一つだろう。

 ボスからの射撃を待っている間、ソフィーは結界内から顔を出し、フォースが撃ち落とした弾丸を手にする。


「どうしたの?」


「いや、【高位鑑定】をしようと思って」


「何かわかった?」


「うん、少しだけなら。この弾丸にも呪いがかかっている。21階層の敵からの傷のように神聖術じゃ癒せないってわけじゃないけど、この弾丸につけられた傷も回復しにくいようになっているから注意して」


「ってことはまたネメの出番少ないです⁉」


「そういうことになると思う」


「ガーンです……」

 あからさまな落ち込みを見せるネメ。俺も先日の22階層ではあまり出番がなかったため、気落ちする心は痛いほどわかった。

 というか、深層に来てからあまりネメの出番ないしな。


 ネメ自身が悪いというよりは、ダンジョン自体が神聖術の回復に対策していると言った方が正しいだろう。

 神聖術完全無効化の21階層。超高範囲攻撃により後衛職が立ち回りにくい22階層。

 そして、23階層の狙撃も防衛手段を持たない後衛が狙われる傾向にあるらしい。


 一体神官になんの恨みがあるのか。全くもってダンジョンを造った奴はいやらしい性格をしている。

十分ほど経って計二発狙撃を撃ち落とすと、フォースは結界内に戻ってきた。


「オレはもういいぜ。次はロズリアちゃんだ」


「では、行って参ります」


 フォースに代わって、今度はロズリアが結界外に出る。

 今回の23階層攻略にあたって、狙撃を防ぐ役目はメインでフォース、サブでロズリアとなっている。


 フォースには攻撃を読めるスキル【心眼】があるし、ロズリアも【聖剣の導き手】により剣筋の最適解が脳内に浮かび、聖剣フラクタスで魔弾を撃ち落とすことができる。

 しかも、剣で迎撃することが間に合わなければ、《不落城壁》などの防御スペルで銃弾を防ぐなどの対処も可能だ。


到達する者(アライバーズ)』のタンク役であるソフィーは今回、狙撃担当から外れてもらっている。

 彼女の耐久力なら銃弾を受けることはできるが、攻撃を見切るスキルがないため反応することができない。

 その分、地上に出てくるモンスター達の気を一人で引いてもらうことになるので、大変さは増すことになるんだけど。


「うーん、わたくしも大丈夫そうですね」


 フォースに次いで、三発分の狙撃を防いだロズリアが結界内に戻ってくる。

 彼のときと違って、聖剣フラクタスが簡単に魔弾を焼き切ってしまうため、対処自体はそう難しそうじゃなかった。


「じゃあ、次は他に狙われる人がいるパターンで試してみましょうか」


 問題がなかった分、予定通りに狙撃への対処の練習を進めていく。

 フォースとロズリアが自分に向かってくる弾丸は防げても、他のメンバーへの狙撃を撃ち落とせなければ意味がない。

 最悪、ソフィーが狙われたならなんとかなるかもしれないが、俺とエリン、ネメが狙われたら一発で死ぬことは免れない。


「とりあえず囮役誰かやってくれませんか?」


 ロズリアの問いかけに、俺とエリンとネメは三人して目を見合わせる。

 みんな『えっ、誰が行くの?』みたいな顔をしていた。


「じゃあ、エリンさんお願いします」


「なんでよ!」


 ロズリアの指名が入り、声を上げるエリン。


「いやぁ、やっぱりここは一番仲良しなエリンさんだったら、わたくしに命を預けてくれるかと……」


「私達そんなに仲良しだったっけ⁉ むしろ仲悪かったよね⁉ 絶対一番死んでもいい人選んでるだけでしょ⁉」


「あのですね、わたくし達は同じパーティーの仲間ですよ? 死んでいい人とかいるわけないじゃないですか! 謝ってください!」


「えっ……あっ、うん。ごめん」


「ただ間近に銃弾が来たとき一番面白いリアクション取ってくれそうと思って選んだだけ

ですよ」


「謝って損した!」


 エリンは顔を真っ赤にして大きな声を出す。


「そうやってリアクションがいいから、ロズリアちゃんにいじられるんじゃないか?」


 隣でフォースがそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。






    *






「エリン、伏せろ!」


 エリン目掛けてきた狙撃をフォースが防ぐ。

 その内にも周囲のモンスターはこちらを攻撃せんと、銃口を向けてきた。


「《不落城壁》!」


 ロズリアが障壁を張るとともに、機械仕掛けの兵隊達は一斉掃射をしてきた。

 鼓膜を破るかの如き銃撃音が四方から響くも、ロズリアの防御スペルの前のおかげで銃弾はこちらに届かない。


「この守りも長くは持ちません。どうしますか?」


 23階層に出てくるモンスターは他の階層に比べて一風変わっている。

大部分がゼンマイや鉄板で組み合わせられたような機械兵士なのだが、彼らは階層主と同じように銃を使って攻撃してくる。


中距離戦闘に特化したアサルトライフルやショットガン、遺跡の陰に潜む狙撃兵、機関銃や大砲を使用してくる兵士など。

攻撃方法は様々で、近距離戦に持ち込めば比較的容易に倒すことができるが、兵達の統率がとれているせいで、そのレンジに近づくことができない。


だからと言って、エリンの魔法で倒そうとすれば兵士達は塔の周囲に張られているのと同じような対魔法障壁を展開し、自身の隊の身を守る。

階層の傾向としては、ウマ人の集団が現れる16階層が一番似ているのかもしれない。

ただモンスターのレベルが高く、統率もとれているこちらの階層の方が数十倍厄介だけど。


「オレが攻めに回った方がいいか?」


「いや、フォースは次の狙撃に備えた方がいい。ここはわたしが前に出る」


「ソフィー、一人で行けるのか?」


「それは無理。ロズリアを連れて行っていい?」


「わたくしですか? ここの防御は?」


「エリンに防御魔法を張ってもらう。どうせ攻撃魔法は防がれるんだから」


「何よ、その私が使えない子みたいな言い方! あいつらが魔法専門の防御してくるのが悪いんじゃない!」


「そんなつもりで言ったわけじゃない。対魔法障壁を張っている敵を優先して狙うから、そしたら攻撃の方もお願い」


「わかったわよ」


「もう《不落城壁》も限界です。三、二、一で行きますよ」


 ロズリアが合図を出すとともに、光の城壁が解かれる。

 その瞬間、ソフィーは土精霊術で地面を隆起させ、簡易的な壁を作る。


 土壁は銃弾への障害となるとともに、ソフィーとロズリアが駆け上がる足場ともなる。

 飛び出していく二人。その合間にエリンは防御スペルを展開して、こちらに迫ってくる銃弾の雨を防ぐ。


「右奥、左奥にいる細長い装置を持った兵士が対魔法障壁を展開してる」


「なら、わたくしが左をやります。ソフィーさんは右側の奴を倒してください」


「わかった」


 ソフィーの【高位鑑定】によって、兵士達の役割は丸わかりだ。

 二手に分かれ、ソフィーは土壁を作りながら敵に迫って、ロズリアは《光突戦車(ライトチャリオッツ)》という聖騎士スペルで突撃していく。


「エリン、横から敵が迫ってる。そっちも守れる?」


「いや、無理! 二つ同時に魔法使えないし、今張ってる障壁解除したら、私達完全に蜂の巣よ!」


「じゃあ、今度こそオレがいく」


「フォースさん!」


「わかってる。次の狙撃まであと何分だ?」


「三分二十秒です!」


「じゃあ、余裕を持って二分で戻る」


 持続的な回復やバフスペルを使う神官にとって時間管理は重要な役割だ。

 以前のネメは神官としての基本的な技術を身につけているとは言い難かったが、『最強無敵パーティーず』でのダンジョン探索の経験を経て、彼女は成長していた。

 バフスペルはもちろんのこと、今回は狙撃の時間管理も任せてある。


「行くぞ!」


 エリンの防御スペルの隙間からフォースが飛び出した。

【心眼】のスキルの前では、飛び交う銃弾も見切ることはそう難しいことじゃない。

人智を超えた剣捌きによってすべての銃弾を弾いて、物陰にいる兵士に襲い掛かる。

 

ソフィーとロズリアに中に入り込まれた、前方の集団の陣形が崩れる。

こちらへの銃撃が止むことはないものの、二人から逃げようと集団が左奥へとずれていく。


「これならいけるわね!」


 銃弾が来る方向に合わせるようにエリンは防御スペルの向きを変えながら口にする。

 現在、俺達はボスのいる塔に向かって右半身をさらけ出している状態だ。

何か嫌な予感が頭を過った。


「フォースさん、戻ってきてください!」


「まだ一分も経ってないだろ!」


 彼がそう叫んだのと、ボスからの鋭い殺気が放たれたのは同時だった。

 確かに23階層の狙撃手は五分に一度、魔弾を撃つ。そのルールは今まで正しかった。


 だけど、狙撃手が五分に一度しか銃弾を放てないとは誰が決めたのか?

 フォースもその固定観念の間違いに気が付いたのだろう。


「《瞬刃瞬歩》!」


 一直線にかけていくも、敵が銃弾を放つ方が早かった。

 なんて狡猾なのだろう。この階層主は。

五分に一度しか狙撃を放たないことで冒険者達に油断をさせ、機械兵士達との乱戦で生まれた針のような隙に温存していた二射目を放つ。


ただの狙撃でも必殺級なのに、この階層に挑む者ならそれすら防ぐことを見越して、罠を張っていた。

 銃弾は真っ直ぐエリンに向かっている。彼女はそれに気づく素振りもない。


「届けよっ!」


 音にも近い速度で剣を伸ばすフォース。エリンの直前で甲高い音が爆ぜた。


「何っ⁉」


 身をよじるエリン。その横を銃弾は通過していく。

 どうやらフォースはなんとか狙撃を防ぐことはできたようだった。その代わりに別の衝撃が襲う。


「フォースさん!」


「うおっ、マジか」


 なんとフォースの一振りの刀、煌狛が砕け散っていた。

 エリンに届かないようにと無理やりに剣を射線上に滑り込ませたせいか、刀の腹にでも当たってしまったのだろう。


 致し方ないハプニングというか、むしろあの距離から狙撃を防げたフォースを褒めるべきだ。エリンの命があっただけで幸運だった。

 飛び出した勢いを殺せず、地面に転がっていくフォース。

 その間に塔の上の狙撃手の殺気が止むことはない。


「嘘だろ、おい……」


 二発目があったということは、三発目がない保証もない。

 そして、パーティーの陣形が完全に崩れている今こそが『到達する(アライバーズ)』を仕留める最大のチャンスだ。


「《殺気》!」


 塔の先に向けて、最大限の敵意を放つ。

 来たっ! 遥か遠方にいる狙撃手がこちらに向かって笑みを浮かべた。

そんな光景が頭の中でイメージされる。


「《絶影》!」


 俺が影を纏うのと銃弾が放たれたのは同じタイミングだった。

 数コンマ前まで頭があった場所を銃弾は通過する。ほんの少しでも遅れていたら、俺は撃ち抜かれて死んでいただろう。

 そんな安心をできるほど、今の状況は悠長じゃない。


 ――頼むから三発で終わってくれよ。

 その願いは塔の上から放たれる濃厚な敵意によって打ち砕かれる。

狙われたのは《絶影》での高速機動の着地の瞬間だった。


「四射目っ!」


 今から跳ぶのは無理だ。地に足がついた時点で射貫かれる。

 なら、空中で軌道を変える? そっちの方が無理だ。俺は人間だ。物理法則を無視できない。


 だったら、どうする? そのまま死ぬか?

 そんなわけあるか。まだダンジョン制覇の道半ばなのだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。


 考えろ。生き延びるための方策を。

 地面にたどり着くまでの一瞬に。導き出し、それを実行しろ。


 考えるよりも先に、身体は勝手にダガーを抜いていた。

 それでいいのか、俺? 本当にやれるのか? 間違ってないか?

 迷うには時間が足りなすぎた。自分の選択が失敗だったとしても、今はただそれを遂行するだけだ。


 ――見極めろ。刹那の瞬間を。

 迫ってくる魔弾。瞬きを忘れ、ただその行く末を見つめる。

 まずは手を滑り込ませる。そして、刃を弾丸に当て、滑らせるように弾く。

 自然と身体は動いていく。だから、俺は着弾の瞬間だけを見極めればいい。


「こうっ!」


 気がついたら、俺の右腕は銃弾を弾いていた。

 痺れるような衝撃で感覚はなかったが、飛んではいない。他の四肢も無事だ。

 奇跡だ。なんとか盗賊アーツ《打ち弾き》でやり過ごすことができた。


 だけど、次は無理。五射目が来たら確実に死ぬ。

 俺の願いが届いたのか、塔の上の襲撃者は殺気を収めた。敵も先ほどの一発がとっておきの凶弾だったのかもしれない。


「ノート、大丈夫か!」


 フォースがもう一つの妖刀、煉獄を抜く。

そして、狙撃手との間に身体を滑り込ませた。


「まあ、なんとか……」


 どうにかして態勢は立て直せた。これでたとえ五射目が来ても、フォースが防ぐことができる。


「何っ⁉ 一体何が起きたの⁉ バンって目の前で破裂したと思ったら、ノートが飛んでいって!」


 やはりエリンは目で追えてなかったみたいだ。

 まあ多少の無茶というか、かなり無謀な試みだったが、俺が狙撃を受け持っておいて正解だった。

 あのままエリンがターゲットになっていたら、銃弾に反応する間もなく頭を射貫かれていただろう。


「安心するのはまだ早いみたいだぜ、ノート」


「そうみたいですね」


 やっぱりこの階層は狡猾だ。このタイミングで次なる手を打ってくるなんて。

 鳴り響く地響き。遠くで割れる地面とともに、巨大な戦艦が空へと昇っていた。


「中ボスが出てきたです!」


 ネメが叫ぶ通り、新たに現れたのは23階層の中ボスと思わしき反応。

 戦艦は内部に格納していた機械兵士を降下させながら、進路をこちらに向ける。


「このタイミングはきついな……」


 現在『到達する者(アライバーズ)』の陣形は整っているとは言い難い状況だ。

 俺とフォースとエリンとネメは固まることができているが、ソフィーとロズリアは兵士を倒すために敵の懐に入り込んでいる。

 二人を呼び戻したいが、戻したら戻したで今度は近くの兵士の銃撃を食らう一方になってしまう。


「ここは私に任せなさい!」


 そう言ってエリンは杖の先端から魔法を放つ。

 しかし、炎の束は戦艦の前に張られた対魔法障壁によって、打ち消されてしまう。


「こいつまでっ!」


エリンは悔しそうに唇を噛む。

その内にも戦艦の前方に備え付けられていた機関銃が彼女の方に向けられる。


「エリンっ!」


「わかってる!」


 即座に防御スペルを展開するエリン。

 機関銃の掃射は防ぐことができたが、次なる一手がない。このまま耐えてもジリ貧な状況だ。


「最初の狙撃から、四分半です!」


 そうか。ここで狙撃もあるのか。

 四発連続撃ってきたから、初弾から五分後に狙撃できる状況にあるかどうかは不明なところだが、塔の上に立つ狙撃手への備えも忘れてはいけない。


 戦艦の掃射とエリンの防御スペルが拮抗している状態。ここで貫通力の高い魔弾を放たれたら、防御スペルが壊れてしまう。

 そうなれば俺達は機関銃によって蜂の巣だ。


 あれ? もしかして、俺達詰んでない?

 どうする? どうすればいいんだ?


 魔法の効かない中ボス。中距離からの兵士達の銃撃。遥か遠方から飛んでくる階層ボスからの狙撃。

 それらが折り重なって、確実に『到達する者(アライバーズ)』を追い詰めていた。


「――あっ!」


 紫の閃光が空を駆ける。それはこの階層に来て何度も目にした魔弾の軌跡。

 五分を待たずして発射された超遠距離射撃は俺の頭上を通り過ぎて――。

 空を飛ぶ機械仕掛けの戦艦を射貫いた。


「えっ⁉」


 狙撃が飛んできた方向は塔からじゃない。俺達の背中側――つまり23階層の入り口方向からだ。

 正反対の場所から現れた第二の魔弾に『到達する者(アライバーズ)』のメンバーは面食らっていた。


 空から落ちていく戦艦を見つめながら、かく言う俺もその気配に気づくとともに更なる疑念に頭を混乱させていた。



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