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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第6章後半 外れスキル持ちの俺と『王女の軍隊』
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第112話 いざ、21階層へ


「ねえ! 誰か! 出てきて!」


 けたたましく叩かれる戸。

 リビングにいた俺とソフィーは何事かと顔を見合わせる。


「誰?」


「わからない。この気配は覚えてない人のやつだ」


「わたしは聞いたことがあるような声の気がする」


「とりあえず出てみるか」


 尋常じゃない声で呼ばれているため、出ないという選択肢はなかった。

 警戒心を抱きながら二人して玄関に向かう。

 戸を開けると、そこには傷だらけの見知らぬ少女が。


「助けてください!早く!」


「助けてって誰を──」


 戸惑う俺。同意を求めようとソフィーの方に目を向けるも、対する彼女は全く違う反応を見せていた。


「リムナ……」


「知り合い?」


「知り合いも何も、レイファ殿下が用意した【地図化(マツピング)】要員。ノートが勧誘できなかった時の補欠的な存在」


 そんな人物がいると初めて知ったが、今はそんなことを追及している余裕はなさそうだ。

 誰かに襲われたのだろう。リムナは怪我をしている。今すぐに治さないと。


「ネメ姉さん!」


 騒ぎに駆けつけてきたネメを見つけて呼びつける。

 彼女は即座にある程度の状況が理解できたのか。それとも怪我人を見た時の神官としての習性なのか。


「リムナのことはいい!ダンジョンにいる仲間を!」


 混乱する少女に向かって、治癒スペルをかけた。

 待て。ダンジョンにいる仲間がどうだって──。


「仲間?」


「そう。リムナはどうでもいい。早くレイファ様達を助けて!」


「ねえ、その階層って……」


 リムナの治らない傷を見て、すべてを察した。彼女達が向かった階層は──。


「21階層」


「っ!?」


 噓だろ。あいつら21階層に挑んだのか。


「助けてってどういうこと!? 詳しく教えて!」


「ギルベルトさんのスペルが使えなくなって!レイファ様が襲われて! ミルが死にそうになって! みんながリムリムを逃がして!」


 要領を得ない喋り。それだけで尋常じゃない事態が起こっていることがわかった。

 どうやらレイファ達のパーティーは、21階層の洗礼を真っ向から被ってしまったらしい。


「当たり前だろ! 21階層では神聖術を使えないのは!」


 俺達も洗礼を受けたのだ。仲間を奪われた初見殺しのギミック。

 どうやらレイファ達はなんの対策もしないまま挑んでしまったらしい。


 何やっているんだよ、馬鹿。当時現行するパーティーの中で最も先行していた俺達と違って、調べればギミックを知ることはできたんだから、対策くらいしていけよ。

 そう罵りたい気持ちはあったが、今さらそんなことを責めても何も変わらない。


 現に俺達はレイファに忠告をしなかった。いくら敵だったとしても、彼女達がダンジョンに挑むと知っていたんだから、忠告くらいはできたはずだった。

 それなのに責めるのは卑怯だ。


「レイファ殿下が……」


 隣にいるソフィーの顔は青ざめていた。

 レイファと違って、ソフィーは21階層の恐ろしさを理解していたようだった。


 21階層に仲間を奪われた俺達と生活をともにしていた彼女なら、嫌でも感じ取ってしまっていたはずだ。

 俺達が21階層に抱く執着と畏怖を。


「早く! 助けに行かなくちゃ!」


 知っていながらも、なお彼女は即座に動く判断をしたみたいだ。

 そんなソフィーの腕を、俺は掴んだ。


「待って」


「邪魔しないで!レイファ殿下の命が!」


 そんなこと知っている。ソフィーがどれだけレイファのことを大事に思っているのかも。

 それに『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』にはミーヤもいるのだ。俺だって今すぐに駆けつけたいくらいだ。


「わかっている。助けに行くんだろ?」


「だったら、邪魔はやめて! 止められても行く。絶対に」


「わかっているよ。だから、止める気はない。みんなで行こうって言っているんだ」


 そう言って、廊下の方を振り返る。そこには騒ぎを駆けつけてきた『到達する者(アライバーズ)』のみんなが立っていた。


「っていうことみたいなんだけど──」


 俺の投げかけに真っ先に答えたのはエリンであった。


「ソフィーが行くって言うんだったら、私達も行かないとね。同じパーティーの仲間なんだから」


「ソフィーさんがあの王女様を大切に思っているのは、ここ数日でこれでもかっていうほど教えられていますからね。仕方ないですねぇ」


 次に口を開いたのはロズリアだった。

 苦笑をしながらも、いち早くダンジョン探索の準備を始めているのは、彼女なりにソフィーのことを思っているからだろう。

 いつもは家事を押しつけがちだけど、なんだかんだソフィーのことを気に入っているみたいだ。


「お菓子たくさん作ってくれたお礼、まだできてないです! ソフィーの役に立ちたいです!」


 そう名乗り出たのは、ネメだった。ソフィーが売ってきた恩はきっと無意味ではなかったのだろう。


「どうせ21階層は攻略するんだしな。今だろうと、数日先だろうと大して変わらねえからな」


 フォースは相変わらずの不器用な物言いだ。

 正直、『到達する者(アライバーズ)』の21階層攻略の準備は万全だとは言い難い状況だ。

 つい先日20階層を攻略したばっかりで、21階層攻略の作戦もまだ話し合っていないのが現状だった。


 本当なら万全の準備をして挑みたかった。それはフォースも同じ気持ちだろう。

 俺達は過去に準備不足によって、仲間を失ったのだ。

 それにもかかわらず、彼は大して変わらねえと切り捨てた。己の力で大して変わらねえものにすると宣言した。


「みんな……」


 きっとソフィーは甘く見ていたのだ。

到達する者(アライバーズ)』のみんなはソフィーが思っていた以上に彼女のことを大切に思っていて、仲間と見做していた。

 彼女のためなら、仲間のためなら、命を懸けるなんて造作もないことであった。


「ありがとう」


 瞳に涙を溜めながら、頭を下げるソフィー。


「この恩はきっと返すから!」


「いいわよ、そんなこと。わざわざ気にしないで」


 感情のこもった言葉をあっさり切り捨てたのはエリンだった。


「恩とかくだらないこと気にしないで頼りなさいよ。仲間なんだから」


 ソフィーが何よりも大切にする思想。それをくだらないものだと一蹴する。


 でも、それは彼女を貶めるための言葉じゃなくて。

 恩なんて利害関係で繫がらなくても、繫がり合える人間関係はある。お互いがお互いを思い合う純粋な相互関係。


 それが友達だったり、恋人だったり、家族だったりと。人間は色々な形で繫がり合っているのだ。

 きっと、パーティーの仲間というのも、その形の一つだ。


「うん……」


 ソフィーは洟をすすると言った。


「みんな、お願い!」


 そして、深く深くお辞儀をした。


「レイファ殿下を助けるのに手を貸して!お願い!」


 答えなんて口に出さないでもわかっていることだ。誰しもが21階層に向かう準備は整えていた。


「俺からもお願いします。どうやら幼馴染がピンチみたいで」


「そういえばミーヤさんもあのパーティーにいたんでしたね。本当に手がかかる人ですね……」


 面識のあるロズリアがため息を吐いていた。


「でも、仕方ないですね。わたくしも知り合いですから。見殺しにするわけにはいきませんよね」


「また出てきた……ミーヤって人……」


 エリンは不信感を募らせている表情を浮かべていたが、そこは無視することにした。

 みんなの準備が完了したのを確認すると、パーティーのリーダーは口を開く。


「それじゃあ行くか! 21階層に!」



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