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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第6章後半 外れスキル持ちの俺と『王女の軍隊』
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第101話 ソフィーの実力


 以前ロズリアの加入の案が話に上がった際、『到達する者(アライバーズ)』はダンジョン探索でロズリアの実力を測って、パーティーに加えるかどうかを決めていた。

 今回も同様のやり方でソフィー加入の決議を採る運びとなったわけだ。


ソフィーの体調が治ると、六人でダンジョン探索へと向かう。


 現在『到達する者(アライバーズ)』が訪れているのはダンジョンの5階層だ。

この階層を訪れるのは久しいというわけでもなく、どちらかというと記憶に新しかった。


 5階層は俺とロズリアが仲間の再集結を図っていた際、『最強無敵パーティーず』のナクト達に教えを乞われて潜ることになった荒野の階層だ。


 どうやらソフィーはレイファ達と4階層までは既に攻略していたらしい。

 本来なら『到達する者(アライバーズ)』にとっては敵にもならない階層だが、ソフィーの進度に合わせた結果この階層で力量を測ることとなった。


 この階層に出てくるモンスターは基本的なものばかりだ。獣型や鳥型、人型など地上でも見られそうなモンスターのオンパレード。

 もちろんモンスターは地上のものよりずっと強力だが、搦め手を使ってくる相手もいなく、物量さえ気をつければそう苦戦することはない。


 だというのに、当のソフィーはといえば──。


「多分、無理。わたしじゃみんなの期待に応えられない」


 始める前からだいぶ弱気な様子であった。

 思考がネガティブっていうか、なんというか。レイファという依存先がいないだけで、こうも人間が変わるのか。


 ミーヤに自信を打ち砕かれてしまったことも関係してそうだが、この様子だと見ているこっちまで不安になってくる。


「大丈夫なの、この人? 全然『到達する者(アライバーズ)』でやっていけそうには思えないんだけど……」


 エリンも不安そうにソフィーを眺めている。推薦した俺まで不安になっているんだから、第三者が心配するのも当然といえば当然だ。


「多分……」


 ソフィーとは実際に戦ったことが二度あるし、《索敵》による脅威度の判定もある。

 ソフィーの実力はそこらの冒険者よりはずっと強いのはわかっているが、あとはその実力がどこまで出せるのかというところにかかっている。


戦闘職(バトルスタイル)は騎士なんでしょ? 一人で戦わせるってことでいいのよね?」


 騎士は比較的バランスのいい戦闘職(バトルスタイル)である。攻撃、防御とどちらも得意としており、聖騎士のように回復ができるわけではないが、個人戦闘に()けた能力を持つはずだ。

 魔導士のような後衛役が新メンバーなら壁役としてロズリアなどを参戦させたが、前衛のソフィーならソロで戦わせて問題ないだろう。


「うん」


「じゃあ、危なくなっても私達は手助けに入らないわよ」


「ああ、わたしはここで死ぬ運命なんだ。いい思い出なかったなぁ……」


「いや、危なくなったら手助けくらいしようよ。あとソフィーさんは死を受け入れないで」


 このまま話していても埒が明かなそうなので、さっさと戦闘に入ることにしよう。

《索敵》を発動してモンスターを探す。土地は広大だが、モンスターはたくさんいるためすぐに見つかった。


 単独で走っていき、《殺気》でモンスターの気を引く。あとはモンスターの追ってくるスピードに合わせて仲間の下に引きつけるだけだ。


 エリン達を視認できる距離まで近づくと、身振り手振りで合図をする。

 ソフィーも理解したようだ。俺の引きつけてきたモンスターを倒せばいいのだと。


 俺とのすれ違いざま、彼女は腰に差していたレイピアを抜いた。そのままモンスターへ一直線へと向かっていく。


「《六連刺突》っ!」


 かつて俺に繰り出したことのある連撃アーツ、それを猟犬型モンスターへと撃ち出していく。

 両腕と両目に一撃、鼻に二撃と狙いを定めて放たれた銀の刃。剣撃を放ち終えると、猟犬の突進をそのまま右へ受け流した。


 勢いを殺せず地面へとスライディングしていく猟犬。大ダメージを受けているが、辛うじて命は取り留めているようだ。

 最期の命に灯をともし、精一杯の遠吠えを響き渡らせた。


 周囲から敵意の反応が増加していく。この階層の特徴である連戦の幕が開ける合図である。

 続々と寄ってくるモンスター。その気配にソフィーも気がついたようだ。


「たくさん来たんだけど……」


「全部倒しちゃってください」


「全部……」


 ただでさえ光がなかった瞳が、さらに暗くなっていった。

 これくらいで音をあげられては困る。『到達する者(アライバーズ)』は前人未到のダンジョン制覇を成し遂げるパーティーなのだ。5階層のモンスターくらい何体でも薙ぎ倒せるほどの実力が欲しかった。


「はあ……」


 大きなため息を()くと、ソフィーはレイピアを握り直した。近くで横たわっている瀕死の猟犬に刃を突き刺し、とどめを刺す。


「できる限りやってみる」


 そして向かってくるモンスターにターゲットを合わせると、高速の突きを放っていく。


「次っ」


 二体目、三体目と続けざまに屠っていくと、今度は空からモンスターがやってくる。

 鳥型の飛行モンスターだ。鷹に似たそのモンスターは鋭いかぎ爪でソフィーに襲い掛かる。


「ふっ!」


 突きを一発。鷹の腹部に当たるも寸前で身体をよじられ直撃はできなかった。鷹はそのまま旋回し、再度ソフィーの下へ。


「鬱陶しい」


 そう口にすると、今度はレイピアを地面に刺し、鷹の突撃をノーガードで受ける。かぎ爪は思い切りソフィーの顔面に食い込む。


「ソフィーさん!」


 完全な直撃に、思わずロズリアが声をあげる。だけど、ソフィーはそのまま鷹の脚を摑むと、力一杯地面に(たた)きつけた。

 地面に刺していたレイピアを抜き取り、今度は鷹に突き立てる。


「このくらい平気だから」


 そう言うソフィーの顔に異変は見られない。血はおろか、傷一つついていなかった。


「これは……」


 驚く一同にソフィーは告げる。


「【鉄壁】のスキルを持っているから。この程度の攻撃じゃわたしにダメージを与えられない」


 こちらに向けて話している間にも、次々とソフィーに向かってモンスターは攻撃してくる。

 それらの攻撃に全く対処することなく突っ立っているが、怪我をするどころか痛がる素振りすら見せていない。


 ふと、ソフィーが雨の日に襲ってきた時のことを思い返す。

 あの時、襲ってきたソフィーに向けて俺は何発も《掌底(シヨツト)》を放った。しかし、何発放ってもダメージを与えた感触はなく、ただ衝撃でのけ反るのみだった。


 あれはソフィーのスキルが俺からの攻撃によるダメージは食い止めていたということか。

 俺のアーツが下手になったのかと少し心配していたところはあったが、やっと納得できた。


 ソフィーに攻撃が効かないとわかったのか、モンスター達は攻撃の手を休め、距離を取ろうとする。

 すかさずソフィーは立ち止まったモンスターを討っていき、数はみるみるうちに減っていく。


「安定感あるな……」


 フォースがそう呟くのも無理はない。『到達する者(アライバーズ)』はかなり攻撃的なパーティーだった。

 フォースやジンは言わずもがな、魔導士であるエリンも純粋なアタッカーだ。

 ロズリアもタンク役をやっていたが、彼女の本領は聖剣フラクタスにある。どちらかというと、パーティーに合わせて無理やり慣れない戦い方を強いていたことは否めない。


 そこに現れた防御寄りのソフィーという存在。攻撃力は同じ剣を用いるフォースには圧倒的に及ばないが、何体ものモンスターの攻撃を無傷で受け止める彼女の存在は重宝するはずだ。

 そして、彼女にはもう一つスキルがあったみたいだ。

「《守城の精霊(フロンテ)大地を用い(テイエラ)牢を生成(カルセル)》」


 響きから一発で精霊術を使ったことがわかる。

 ソフィーから逃げようとしたモンスター達は、瞬く間に地面から出てきた岩の牢獄に閉じ込められる。

 身動きが取れないうちに一体ずつソフィーが刈り取っていく。


「精霊術?」


 エリンの質問にソフィーは答える。


「うん、大地属性だけなら使える」


 前衛職に精霊術のスキル、非常に相性のいい構成だ。

 精霊術は魔法に比べて、周囲の環境の影響力を受けやすく、応用性と万能性が低いという欠点がある。


 しかし、実際にスペルの効果を表す術式を編むのは、契約している精霊自身だ。術者は精霊の指示を出し、魔力を提供しているだけに過ぎない。


 だから、剣を振るうなどの他の動作に並行してスペルを放ちやすく、魔法のように術式について詳しい知識も要求されない。

 精霊術も魔法も両者に利点があり、より精霊術の利点の恩恵を受けられるのは前衛職なのだ。


「どうですか?フォースさん」


「実力的にはありだな」


 フォースが認めるのも納得できる。ソフィーは期待以上の人物であることが判明した。

 最低限の実力を兼ね備えていることは、あの『最強無敵パーティーず』が苦戦していた5階層を単身で難なく処理していることからもわかる。


 しかも、ソフィーの何がよいかというと、きちんとパーティーの足りない穴を補っている点だ。

 ソフィーがタンク役として入れば、攻撃力が増したエリンをさらにアタッカーに寄せられるし、ロズリアをアタッカーに回すこともできるかもしれない。


 それに彼女にはもう一つ【高位鑑定】というスキルがある。人物のスキルをも見破れるほどの鑑定系のスキルがあれば、21階層のような初見殺しの階層のギミックに対応できる可能性も出てくる。

 是非ともパーティーに入れたい存在だ。確かに精神的に不安定なところや、レイファに寝返りそうな点は否定できないが、その余りある欠点を考慮しても、入れる価値はあると俺は思っている。


 まあ、でも、あとは他のメンバーの考え次第だよな……。独断で押し切れない内容だし……。

 ソフィーの戦う姿を眺めながら、あとはなるようになるだろと考えるのであった。






※※※※※※※※※※






 5階層を突破した『到達する者(アライバーズ)』とソフィーはそのままパーティーハウスに戻ってきた。

 荷物などを部屋に置き、リビングに集まる。自分の部屋がないソフィーは部屋の中央で立ち(すく)んでいる。


 自然と五人の視線が俺に集まってくる。

 ソフィーをパーティーに入れるかどうか。各々の思惑が入り交じった視線だ。


 ここは俺が切り出さなくちゃだよな。発案者なわけだし。


「それでソフィーの加入の話なんですけど、どうです?」


 引き締まる空気がなるべく明るくなるようにと、半笑いを浮かべながら口にする。

 俺の言葉に最初に反応したのはフォースだった。


「オレは入れてもいいと思うぜ」


 まずは一票。貴重な賛成票だ。

 フォースは元々中立の立場だった。ソフィーが『到達する者(アライバーズ)』に相応しい実力さえあればいいという条件で中立を取っていたため、一番落としやすい人物ではあった。


 だけど、フォースはパーティーのリーダーだ。このパーティーのリーダーという肩書きは他の冒険者パーティーに比べて低い方だが、それでもフォースが強く反対したなら、俺はソフィーを加入させることを諦めてしまったかもしれない。


「賛成の方が多くなったです!これでみんなとダンジョン攻略できるです!」


 フォースの賛成票に即座に反応したのはネメだった。どうやらネメは変わらず賛成の立場のようだ。

 ソフィーの戦いぶりを見て、逆に反対票に移るとは思えなかったので想定の範囲内だったが、嬉しいものは嬉しい。


 俺を含めて賛成が三票。ネメも言っていた通り、過半数に届いた。

 あとは反対していた人達がどうなるかだが──。


「フォースくん、移っちゃうんですか……」


 相変わらずロズリアは反対のようだった。


「いいわ、ロズリア。そこで色仕掛けよ。フォースをこっちに寝返りさせなさい」


 エリンもまだ反対しているようで、ロズリアに謎の指示を出す。ロズリアも「はい、ラジャー」とそれに乗っかった。


「フォースくん、目を覚ましてください。ソフィーさんは悪い女です。騙されているんです。わたくしを信じてください」


 瞳を潤ませながらの上目遣い。ロズリアお得意のぶりっ子である。

 対するフォースはというと──。


「いや、どう見てもソフィーは騙そうとすらしていないだろ……」


 うん、大丈夫。惑わされてないね。

 以前はかわいい女の子に目がないフォースだったが、改心したというのは本当らしい。

 あのロズリアからの誘惑を難なく撥ね除ける。


「エリンさん、失敗しました!」


「ロズリアの魅力も大したことないってわけね……」


「完全に作戦自体に問題があったような気がするんですが……」


 小声で不満を述べているロズリアに対して、尋ねる。


「そもそも、なんでロズリアは反対なんだ?」


「だって、この人。ノートくんに剣を向けた人ですよ。そんな危ない人パーティーに入れられるわけないじゃないですか?」


「今は反省しているみたいだし──」


「駄目ですよ。一度でもノートくんに危害を加えようとした不届き者をパーティーに加えるなんて」


「でも、ロズリアも最初会った時、思いっ切り俺を陥れようとしたよね?」


「あの……わたくし賛成に移っていいですか?」


「速攻で寝返るんじゃないわよ!」


 話していた俺でもびっくりの高速手のひら返し。エリンはすかさずツッコむが、既にロズリアは身をこちらに寄せて、完全に賛成派を気取っている。


「いや、この程度の説得で意見変えちゃっていいの?」


「そもそもの話、わたくし自身特に反対というわけじゃなかったですから。一応、ノートくんに敵対した人を許さないみたいなリアクション取っておいた方が好感度稼げるかなぁっていう打算で反対していただけです」


「おい」


 こっちが真剣に話している時に、ちゃっかり好感度を稼ごうとしないで欲しい。逆に好感度下がるから。

 なんというか、相変わらずのマイペースさ。いつも通り、ロズリアは平常運転なようだ。


「えっ!? 反対しているの私だけ?」


 残されたのはエリン一人だ。全員の視線が彼女に向く。


「ちょっと、そんなに見ないでよ。わ、私が悪者みたいになっちゃうじゃない!」


「実際エリンさんは、ソフィーさんが入ってきても、虐めて追い出そうって言っていましたからね」


「人の発言を勝手に捏造しないでよ!私、一度もそんなこと言ってないじゃない!」


「エリンさん、ノートくんの前では猫かぶっていますけど、女子だけの時だと陰湿になりますからね」


「ねえ、ここぞとばかりに私の好感度を下げないでよ!ノート、そんなことないからね!」


「うん、わかってるから」


 それはどちらかというとロズリアだろう。エリンに猫をかぶれるような器用さがあったら、今頃もっと他人との人間関係を構築できていたと思う。


「どうするの?一人でも反対の人がいるようなら、わたしは無理にパーティーに入ろうと思わないけど?」


 こんなやり取りは『到達する者(アライバーズ)』にとっては普段通りなのだが、慣れてないソフィーには本気で争っているように見えたみたいだ。

 自分のせいで争うくらいなら身を引くと言わんばかりにソフィーは口にする。

 エリンも罪悪感を覚えてか、慌てて訂正する。


「別に貴女のことを否定しているわけじゃないのよ!ただパーティーに新しく入るメンバーだから慎重に選ばなきゃいけないっていうか……」


 思いっ切りソフィーのことを否定していた気がしたが、黙って聞き流すことにする。


「元々、私達は敵対していたでしょ?なかなか上手くいかないんじゃないかって思ったり……」


「それはその通りだと思う」


 ソフィーはゆっくりと俯いた。俯きながら口を開く。


「わたしは貴女達に危害を加えた。そのことについて反省するつもりはない。わたしはレイファ殿下に返しても返し切れない恩があるから。レイファ殿下の命令に従ったことが悪いとも思っていない」


 エリンの息を呑む音が聞こえる。他のメンバーにも緊張感が走り渡っていた。


「でも、声をかけてくれたノートや、看病してくれたネメ、そして他の人達にも恩がある。その恩を返したいと思っている」


 ソフィーの指す『恩』という言葉。どうやらそれは彼女にとって、俺達が思っている以上に譲れないものらしい。


「パーティーに入れてもらうって形じゃなくてもいい。もっと別の形で恩を返す方法もあると思う。ただ一緒にダンジョンに潜るメンバーを探していて、わたしがその条件に見合うと判断したなら──」


 そして、ソフィーは顔を上げて言った。


「わたしはダンジョン制覇に向けてこの身を捧げる。この命を懸けて貴女達をダンジョンの最奥に連れていくと約束する」


 静かなる彼女の覚悟。ソフィーがそこまで考えているとは思ってもみなかった。

 どうやらソフィーの想いはエリンにも伝わったらしい。気まずそうに頰を搔きながら答える。


「そ、そう……。そういうことなら、その恩とやらに乗っかることにするわ」


 事実上の賛成票。素直じゃないエリンらしい返答だ。

 そう思っていると、彼女は付け加えた。


「でも、一つだけ訂正させて」


 何を要求されるのかと身構えるソフィーに、エリンは言った。


「命とやらは懸けなくていいわ。誰一人欠けることなく、ダンジョンの最奥に行きましょう」


 やっぱり訂正。案外エリンも素直なところがあるみたいだ。随分丸くなったものだ。

 こうして、ソフィーは正式に『到達する者(アライバーズ)』に加入することになった。




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