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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第1章 外れスキル持ちの俺が最強パーティーの一員になるまで
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第1話 彼と彼女の運命を分けた日

「噓だろ……」


 その呟きが自分の口から発せられたものだと気がつくのに、だいぶ時間がかかった。

 そのくらいショックだった。疑いたかった。信じたくなかった。目の前の現実から目を 背けたかった。

 だけど、現実がそこにはあり、俺を許してはくれない。

 いくら目を背けても変わらない事実が、そこには映し出されていた。


 どうやら俺は失意のあまり床に座り込んでいたようだ。どのくらい座っていたのかはわ からない。

 硬くて冷たい石の感触が尻の下には広がっていた。

 座り込んでいる俺のちょうど正面。距離でいうと二、三歩。

 少し見上げる高さにある石盤には、光る文字が浮かんでいた。


 そこに書かれている文章こそ、この俺、ノート・アスロンを失意の底に叩き落とした元凶であった。



――【地図化(マッピング)】――


 レア度:SR(スーパーレア)

 消費スロット:3

 効果:自身の通過した地点、およそ半径1kmの範囲を自動的にマッピングし、知識として記憶する能力



 石盤に映る文字は俺に与えられた能力――スキルと呼ばれるものの詳細を示している。

 そこに書かれている【地図化(マッピング)】というスキルは、世間一般で外れスキルの代表とされていたのであった。


 今は『贈与の儀』と呼ばれる儀式の最中であった。

 その儀式は15歳になって初めて、受ける権利を得ることができる。

 神の石盤に祈りを込めることによって、得られるスキルの概要が映し出され、使用でき るようになるといった具合だ。


 神の石盤は世界中の至る所に存在しており、誰が作ったのか、いつ作られたのか、など詳しいことは判明してない。

 石盤の多くは教会や国の公共施設でしっかりと保管されていて、現に俺が今いる場所も 教会の中の一室だ。


 この世界ではスキルというものが、非常に重要視されている。

 それはもう、一般常識といっていいほどに。


 戦闘系スキルを手に入れた者は、人に害をなすモンスターと戦う力を得られる。

 農業系スキルを手に入れた者は、楽に作物を育てることができるようになる。

 製造系スキルを手に入れた者は物をより早く、正確に作りあげることができるようになる。


 確かにスキルを手に入れなくても、モンスターと戦うことはできるし、ものづくりだってできる。

 だけど、スキルを手に入れた者には、その道の才能が保証される。上達速度だって違う。

 スキルを手に入れた途端、ある程度の技能が身につくわけだから、スタート地点も違う のだ。


 数あるスキルの一つに【剣術】というものがある。

【剣術】スキルを手に入れた者とそうでない者が剣の鍛錬を同じ時間行い、純粋に剣の技術のみで戦った場合、勝つのは十中八九【剣術】スキルを持った方だろう。


 ならば【剣術】スキルを持っていない人はスキルを持っている人より倍、努力すればいいじゃないかと思うかもしれない。

 しかし、才能がなければ努力は無駄なものになり果てる。

 たとえある程度の才能があろうとも、スキル持ちはスキルを持っていない人が剣に向ける努力を他の分野に回せるのだ。


 身体を鍛えて身体能力を上げてもいい。

 簡単な補助魔法を覚えて、剣術のサポートに使ってもいいかもしれない。

 そもそも、スキルを所持している約束された才能の持ち主が、才能の乏しい人より努力 しないなんて保証はどこにもない。


 そのような理由で世間ではどのスキルを持っているかが重視され、ほぼ全ての人が『贈 与の儀』を経てスキルを得ている。

 そして、そのうちの大半の人は所有するスキルに準じた職に就いている。


 では何故、【地図化(マッピング)】は外れスキルなのか?

 スキルの効果欄を見れば、一見便利そうに思える。レア度だって高いわけだし。

 だけど、世間的には【地図化(マッピング)】は外れスキルとされていた。

 それにはいくつかの理由がある。


 まず一つ目の理由は、消費スロットを三つも占める点である。


 消費スロットとは簡単に言うとスキルが食う容量のことだ。

 全ての人系種族に与えられるスキルの合計スロットは三つと決まっており、消費スロットが1のスキルなら三つ、消費スロットが3のスキルなら一つだけしかスキルが手に入らないと決まっている。


 要するに、【地図化(マッピング)】を手に入れた者は他のスキルが手に入らないのだ。

『贈与の儀』で手に入るスキルは1スロットの場合が多い。

 大抵の人はスキルを三つ持っていることになる。


 レア度が高くて強力なスキルや、人がいくら鍛えても身につかない能力は多くのスロッ ト数を消費する場合が大半だ。

地図化(マッピング)】はどちらかというと後者のパターンである。


 そして、【地図化(マッピング)】が外れスキルとされている最大の理由は、【世界地図(ワールドマップ】と【地図(エリアマップ)】という上位互換スキルが存在するからである。


世界地図(ワールドマップ)】は行ったことのない土地でも、この世界中全ての地図を把握できるという【地図化(マッピング)】の完全上位互換スキルだ。

地図(エリアマップ)】は周囲の地図を知ることができるスキルである。

地図化(マッピング)】や【世界地図(ワールドマップ)】のように地図を記憶することができないというデメリットもあるが、消費スロットが2であるという利点が大きい。


 それでも【地図化(マッピング)】の、周囲の地図を記憶できる能力は使えると考える人もいるかもしれないが、残念なことに【世界地図(ワールドマップ)】持ちの人によって正確に描かれた地図が世間では流通しているのだ。

地図化(マッピング)】は3スロットも使う割に、道に迷わなくなるくらいの効果しかない残念スキルに成り果てていた。


「ノート、どうだった?」


 狭い部屋にある唯一の扉。その向こう側から女の子の声が聞こえた。

 すごく澄んだ声。そして、とても聞き馴染んだ声だ。


 俺はその声に返事をすることなく扉を開ける。

 開いた扉の割れ目から眩しい光があふれ出た。

 目を細めながら前を見ると、一人の少女が立っている。


 輝くように透き通った金髪は後ろで三つ編みに紡がれている。すらっと耳の前で垂らした髪はさらさらとなびいていた。

 細やかで作り物のように繊細なまつ毛。深い碧色をした瞳。

 白という概念そのものを表したような肌。純白の肌を強調させるかのように整った鼻。薄い唇。


 同郷の幼馴染であるハーフエルフ。ミーヤ・ラインである。

 その姿は光に照らされて、普段にも増して美しく見える。


 正直に言おう。俺はミーヤに惚れている。目の前の少女に恋愛感情を抱いていた。


「もしかして、あんまりいいスキルじゃなかった?」


 ミーヤはこちらに近づき、上目遣いで俺の目を覗き込んできた。

 俺はミーヤのこの癖を苦手に感じている。

 不意に詰められる距離。目の前に来る瞳。その深い碧。瞳に映る自分の姿。

 ずっと眺めていると、まるで自分が吸い込まれる気がして――。


「ま、まあね……」


 慌てて一歩下がり、ミーヤから視線を外す。

 彼女とは小さい頃からずっと一緒にいるはずなのに、どうにもこの癖を相手にすると戸 惑ってしまう。

 慣れる気配が微塵も感じられない。

 むしろ、逆。どんどん苦手になっている。

 ミーヤを一人の女の子として意識すればするほど。


「見てみる? 俺のスキル?」


 動揺を悟られまいと、狭い部屋の中央に位置する石盤を急いで指さした。

 そこには未だ与えられたスキルの詳細が映っている。


 ミーヤも映る文字を見て、俺が外れスキルを引き当ててしまったことを理解したようだ。

 長いまつ毛を何度もはばたかせた後、少しの間空中で目を泳がせてから、ようやく口を 開いた。


「そう落ち込まないでよ。【地図化(マッピング)】って便利だと思うよ! なんたって道に迷わなくなるし! わたしたちが一緒に冒険をしていくのに役に立つんじゃないかな……?」


 たどたどしいフォローをするミーヤ。

 さすがにそれは無理があると思う。戦闘系スキルが一つもないのに、冒険者としてやっ ていくのは難しいんじゃ……。


 でも、そんなミーヤのフォローが無性に嬉しかった。

 俺とミーヤには夢があった。二人でともに一流冒険者として活躍するというもの。

 かつて一流冒険者であったというミーヤの両親から冒険話を聞いた、幼い頃からの夢。


地図化(マッピング)】スキルで一流冒険者になるのは難しい。そんなことは俺だけでなく、ミーヤも理解しているだろう。

 それでも、彼女が一緒に冒険すると言ってくれたのは、俺との夢を諦めないでいようとしてくれているということだ。

 たとえ俺が外れスキルを引き当てたとしても。


 そういうミーヤの、人を思いやれて、優しいところが俺は大好きだった。


「次はわたしの番だよね。見ていてね! 冒険者向きのいいスキルを当てて、ノートを助 けるんだから!」


 ミーヤは両手にグーを作って意気込みを語る。

 そのまま石盤の前に進み、祈り始めた。


 通常、神の石盤がある部屋には一人で入るものである。

 というのも、自分の保有するスキルは何なのか、詳しい効果は何か、といったものは隠すべきだとされているからだ。


 巨万の富を手に入れられるスキルや、他人の心が読める【読心】のような癖のあるスキ ルを手に入れて、周囲の人に知られてしまったがために、その後の人間関係に変化が生じ たというエピソードは有名な教訓として語り継がれている。


 どんな親しい人相手でも、自分のスキルを教えることは躊躇するべきだ。

 だから、この部屋は分厚い壁と扉で作られており、窓が一つもないのだ。


 しかし、ミーヤは俺が部屋の中にいるにもかかわらず祈り始めた。

 それは、多分彼女からの信頼の賜物なのだろう。


 嬉しいような。恥ずかしいような。

 もうちょっと用心したほうがいいんじゃないの?っ て思ったりもするような。

 でも、結局のところ、やっぱり嬉しかった。


 ミーヤが俺に恋心を抱いているのかはわからない。確認もしていない。

 確かに聞いてはみたい。

 ミーヤが俺のことをどう思っているのか。俺のことを一人の男性として好きなのか。


 ただ同時に、わざわざそんなことを聞かなくてもいいのでは?

 とも思う。俺とミーヤの関係はこのままでいい気がする。

 ミーヤと手を繫いでデートしてみたいし、キスだってしてみたい。

 でも、ミーヤは自分にはもったいないくらいの素晴らしい女の子だ。


 俺とミーヤはチャングズという小さな村で生まれた。

 畑と森しかないような、小さな村だった。

 そんな村だ。人口も少なく、同年代の子供も俺達二人しかいなかった。

 お互いが仲良く なるのは当然のことだった。


 大きい街に出てたくさんの人に出会ったら、ミーヤは俺より相応しい人間を見つけることだろう。

 そっちの方がいいはずだ。彼女のためになるはずだ。

 そして、自分なんかとはかけ離れた相応しい男の人をミーヤが見つけた時、俺は笑顔で 彼女を祝福してあげたい。

「おめでとう」って言ってあげたい。ただの幼馴染として。


 だから、今のまま。このままの関係でいいのだ。

 たとえ、恋人になれなくても。彼女のそばにいることさえできれば。


 ミーヤの顔に視線を向ける。彼女の整った横顔は青い光に照らされていた。

 前方の石盤には文字が浮かんでいる。



――【森精霊王の加護】――


 レア度:SR(スーパーレア)

 消費スロット:1

 効果:大地、風、水属性の精霊術を使えるようになる

    また、森の領域において身体、魔法能力が上昇する

    エルフ固有スキル



――【弓術・極】――


 レア度:UR(ウルトラレア)

 消費スロット:1

 効果:最上位の弓術適正を得る



――【身体強化・大】――


 レア度:SR(スーパーレア)

 消費スロット:1

 効果:身体能力を大幅に上昇させる



「ありえない……」


 石盤に映る文字を見て、思わず声が漏れ出てしまった。

 全てのスキルがSR以上のレア度。そして、全てが戦闘系――。

 一つ一つのスキルが、単体だけで一騎当千の能力を秘めているにもかかわらず、それが 三つも揃うなんて。


 冒険者としてここまで恵まれたスキルの組み合わせを持つ者は、この世界に十人といないだろう。

 そのくらいミーヤが得たスキルは規格外だった。


 ミーヤも祈りを終え、目を開ける。

 彼女も、今しがた自分に起きた出来事を把握したようだ。

 あふれんばかりの笑顔で石盤 を見つめている。


「やったー! 強そうなスキルだよ、ノート!」


 堰を切ったかのように飛び跳ね、俺の手を握り締めるミーヤ。


 強そうなスキルってレベルの話じゃねえだろ、おい……。

 握られた手の感触を確かめながらも、胸の内に複雑な心境が渦巻くのを自覚していた。

 おそらく、これが嫉妬という感情なのだろう。


 嬉しく思わなくちゃいけないはずなのに、醜くて浅ましい思いが次から次へとあふれて いく。


 ――俺が良いスキルを手に入れていたら、素直に喜べたのに……。


 あるはずのない仮定の話に思考が逃げ込みだす。


 喜ぶことに夢中になったミーヤは、そんな俺の内心などに気がつくはずもない。

 曇りない笑顔で声をかけてくる。


「これでノートと一緒に冒険していけるね! 二人で一流冒険者になっちゃおうね!」


 ミーヤの素直でまっすぐな言葉と微笑みに、思わず目を逸らしてしまう。


 ――どうして俺は、自分のことしか考えられないんだろう……。


 自分はミーヤにつりあわない男だって知りつつも、心のどこかで対等でいたいと願っていたのだろう。

 だから、ミーヤより劣っている状況が悔しかった。

 さらに立場を離されたような気がして。

 もし二人の得たスキルが逆ならば。俺がミーヤに相応しい男になれたかもしれなかったのに。


 空虚でくだらないプライドを持つ自分が嫌になる。

 なにがミーヤに相応しい男だ。こんな卑しい考えを持つ人間がミーヤに相応しいわけが ないだろ。

 諦めろ。妥協するんだ。いいじゃないか。ミーヤがそばにいてくれる。

 それだけで充分だと心に決めたじゃないか。


 こんな外れスキルを手にしてしまった俺でもミーヤは一緒に冒険してくれると言った。

 それだけで最高だ。高望みなんてすれば、ばちが当たるってもんだ。


 ――そう、それだけで充分に決まっている。きっと。絶対に。






 多分、俺は慢心していたのだ。

 ミーヤの好意に。優しさに。甘えていた。

 だから、俺は裏切られることになったのだ。彼女に。そして、自分の慢心に。


「ノート。わたしたち、別々の道を歩もうよ……」


 普段の彼女とは違った顔。別れを告げる冷酷な声色がそこにはあった。

 ミーヤとの冒険者生活を始めてから半年後のことだった。


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