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爪刃の覇王 ~異能で最強を掴み取る~  作者: 卯月壱禾
第壱章 登壇《ジョイン》
6/6

prologue 金策《悩み》

お久しぶりです、壱禾です。

ちょっと細かいところが難産中です、スミマセン。

ではどうぞ。

 静謐な雰囲気の漂う教室。

 カリカリとペンの走る音と、教師の話し声、それからチョークがタンタンと黒板に打ち付けられる音のみが、その空間に響く。

 高校の三年と言えば、受験勉強という苦難が一挙に襲いかかる地獄の期間である。

 その為教室は静かであると共に若干のピリピリした雰囲気を持っていた。



 ───ガタァン!


 が、その静寂を突如破る雑音が響く。

 耳障りなその音に教室の全員が振り替えれば、教室の最後尾、窓際の席から転げ落ちた小柄な生徒が居た。

 全身に包帯を巻かれ、片腕にギプスまでつけている姿は至極痛々しかったが、時期が時期故に教室の面々は"その怪我で学校来んなよ"と思わざるを得ない。


「あイタタタタ…………」


 その生徒は強かに打ち付けた腰をギプスのついていない方の手で押さえながら、隣席のイケメンに支えられ席に戻る。


「牙助くん、大丈夫かい?」


 とイケメンが問えば、


「あ、あぁ、すまん、大丈夫だ」


 と彼の生徒が返す。

 他の生徒はもう既に授業の方に集中しており、それを見た某生徒は慌ててノートの続きを取る。



 もうわかるだろう。

 痛々しい生徒とは、即ち牙助の事である。


 ところで。お気づきになっただろうか。

 なんとイケメン、牙助のことを下の名前で読んでいる。

 実はあれから無事錬と友達になった牙助。今ではお互い下の名前で呼び合う仲である。

 やはり普通にいい奴であった錬は、割りとよく牙助に手を貸してくれ、牙助の中での株価高騰が著しい事態となっている。



 だが悩み事が薄れたわけではなく寧ろ増えており。


「はぁ……」


 授業後机に突っ伏した牙助は溜め息を吐く。

 そこに


「なに、溜め息なんか吐いて。なにかあったの?」


 牙助の席の横に立つ遥が反応する。

 本当は「なぜその怪我で学校に来られるんだ」と問いたい遥だが、そちらの疑問の方が勝りそう問うた。


「そう言えばよく溜め息吐いてるよね、牙助くんて」


 と錬も反応し、席を近づける。

 取り巻きの女子たちが牙助を睨む。


(……錬。先ずはそいつらを引き離せ。話はそれからだ)


 心内毒づく牙助だが、彼女らは悪気があってやっているわけでは……あるが、まぁどうせ隠し事をしたところでバレそうなので素直に応じることに。


「それが……金がない」


 暗い声で告げられたその事実に。



「「…………………………………」」


 時が、止まった。


「か、ね……?」

「あぁ、そうだ。正直この学校にはもう居られんかもな」


 漸く言葉を発する遥に割りと軽く返す牙助。

 入院による治療費という支出に加え。

 バイトの欠番は流石にきつく首を喰らい収入減。

 更にそこそこの期間入院──といっても怪我の割に回復は速かったようだが──を経て勉強が滞り全額保証の奨学金も怪しい。


 と、いう現在自らが置かれる危機的状況をつらつらと目の前の幼馴染みに語った牙助は再度机に突っ伏し溜め息を吐いた。


 そして初めて牙助の家が困窮しているという事実を聞いた錬ならまだしも、遥ですら、思わぬ事態に只々身体を硬直させていた。


 ───いや、金て。

 それがあることって、この学校に来る()()()()みたいなもんだよね!?


 内心叫ぶ錬の言葉は至極正しく、進学校である彼らの学校の学費は決して安くはなかった。


 ───それを、奨学金だけで賄っていたと!!?


 が、そんなかんじで驚愕に打ち震える錬など眼中にもおかずに牙助は上体を起こした。


「あ、や、そんなことより、遥。……? ………おーい、遥?」

「あっ、え? あ、うん何?」

「いや、久し振りに会ったから少し聞いときたいことが有るんだけど、ちょっといいか?」

「う、うん……良いよ?」


 何?と硬直から再起動し尋ねる遥に、「ここじゃあれだし……」と立ち上がり教室を出る牙助。

 尚空気読める系男子(イケメン)の錬は自主的に教室にてお留守番である。

 ………単に放心状態だったともいう。


 ∵



「ここらでいいか」


 人気のない校舎裏まで来た二人。

 安心してほしい。現在は昼休憩故少しばかり余裕があるのだ。


 さて、と牙助は壁にもたれ掛かり一息吐く。

 学校に再び登校し始めてから遥に会うのは今日が初めてであった。いや、クラスが違うので会うことが多い方がおかしいのだが。


 ともあれ牙助は会えた大城に質問を浴びせる。


「では質問です。……遥、なんで魔術使えんの?」

「……ッ!?」


 思わず遥が息を飲んだのが牙助にもわかった。

 忘れてた、しまった、という感情が如実に現れている。


「いや、別に嫌なら答えなくてもいいんだ。ただ、気になっただけで」


 見かねて自分からそう言う牙助だったが、ううん、と首を振って、遥は答える。


「わかった。話すよ、()()()

「ぅえ」


 そういえば、と牙助は思い出す。

 そういえばあのときも、こいつそんな呼び方になってやがったな、と。

 "きぃ君"、とは小さい頃遥が牙助に対して使っていた渾名である。

「牙助」の「牙」の字を「きば」と読んだことから来たものであるが、呼ばれている本人としては「やめてくれ」としかいえないシロモノである。


「やめてくれ、その呼び方は。マジ恥ずい」

「………えっと、魔術のことだけど」


 だがそういう牙助を無視して遥は話を始めた。

 なんでやねん、とは牙助の呟きである。


「実は、数日前から何故だか使えるようになってて……よくわからなかったけど、魔術大学に入学できるかも、って話になって………魔大に入れば魔術師協会から支援金が送られるから、それできぃ君の家を……」


 とそこまで遥が言ったところで、牙助は「やめだやめだ」と手を振り、校舎に身を翻して歩き出した。

 遥は自分から話を訊いておきながら一方的に話を打ち切った牙助に少し不満げな目線を向けた。


「なぁ、遥」


 歩きつつ、牙助はじっとりとした視線を向けてくる遥に告げた。


「俺はダイジョブだからさ……お前は、お前のやりたいことやれよ」


 その言葉に、改めて牙助はどうしようもないお人好しであると感じた遥は口を開きかけ───……


 ───キーンコーンカーンコーン


「……やっべ!」


 だが突如鳴った予鈴に慌てて転びかけた牙助を慌てて支えることになり、なんとも微妙な空気になってしまった二人だった。



 ∵



「……ってなことがあってよ~~」

「そうかぁ………それは困ったもんだね」

「でしょー、俺だって男子だしいつまでも女子に守られてちゃ面目たちませんて」


 場所は街の中でも割りと中心地に近いアパートの一室。

 牙助は現在遅れた勉強を補う、という口実を得て数年ぶりにバイトが空いた休日(放課後)を錬の自宅にて過ごしていた。


 卓袱台の対面に座る彼らの表情は柔らかい。

 牙助の口調も完全に砕けており、友達になって1ヶ月も経っていないとは到底思えない親密さを見せている。


「でさーなんかいいバイトとかない?」


 牙助はそう尋ねてみた。

 すると錬はといえば。


「んー、じゃ服を脱ぐだけで時給3万円のオシゴトする?」

「ナニソレコワイ」


 こんなかんじで如何にもなモノばかり提案してくるのだからたまったもんではない。


 どうしたものか………と虚空を見つめる牙助に、今度は目をスッと細めた錬が。



「───じゃあ、牙助くんの黒い装甲を使うオシゴトする?」


 爆弾を、投下してきた。








「…………………………………………………へぁ??」


 喉から、へんなおとがでた。


 気が付けば冷や汗が全身を滑り落ち、顔面は蒼白に。

 牙助は動揺に動揺を重ねた結果全身を硬直させてしまった。


 今まで目を背けていた現実。

 自分の体に起きた変異。


 頭のなかを駆け回るノイズに顔が歪む。


 そんな牙助を錬は鋭い目付きで見定めた。


「───牙助くん、いや佐十牙助。君は、君のチカラについて理解しているかい?」


 錬の言葉が、牙助の脳内でぐわんぐわんと反響する。


 ───チカラ?

 チカラってなんだ。


 あの黒い装甲のことか?

 いや、そもそも、なんで知られた??


「君が先日手に入れたチカラ、僕達は"牙"と呼んでいる」


 牙助は錬の言葉をなにか遠くの反響音にしか感じられなくなっていた。

 只々得たいの知れない恐怖に体を微かに震わせながら、目の前の少年を見つめる。


 こいつは、だれだ?


「……安心してくれ、牙助くん。君の事をどうこうしようって訳じゃない。だから真剣に聞いてほしい、これから大事な話をする」


 しかしながら、錬は牙助を落ち着けるような優しい声音で、かつ真剣味を帯びた表情でそう決めた。


 確かに、もしじぶんに対して危害を加えたいのなら、治療に協力などしてくれてないだろう。

 幾分か心に余裕を取り戻した牙助は、「……わかった」と頷き、錬に正対し耳を傾ける。


「が、その前にひとつ質問をしたいんだ」


 こくりとあとを促す牙助。



「君は、大城さんのことは好きか?」

「ブフゥオ!!?」


 思わず奇声を発し後転を鮮やかに連続披露した牙助は壁に背を打ち付けて静止する。


「な、ななななな何が?」


 口が思ったように回らない。先程までとは段違いにうるさい鼓動が、うっとおしい。

 息が、荒い。煩い。


 分かりやすすぎる反応ではあるが、敢えて錬はそこには触れず、次の言葉を発する。


「いや、質問を変えよう。君は、大城さんの事を大切に思っているかい?」


 牙助は戸惑うしかない。

 あの謎のチカラについて話していたのではなかったのか。

 何故ここで遥のことが出てくるのか。

 新たな疑問符を脳内に生やす牙助だが。


「………当たり前だろ、アイツは大切な……幼馴染みなんだからな」


 錬の鋭くも暖かい眼差しにそう宣言(吐き出)したのだった。

 想い人、と言わなかったところに牙助のヘタレさが垣間見えるが、この際は無視してほしい。



「わかった……ちょっと来てくれ」

「あっ、ちょ、待てよ」


 徐に立ち上がった錬は奥の方の部屋へと向かった。牙助も慌てて後を追うが、牙助は錬が何をしたいのかわからなくなっていた。


「これを見てくれ」

「………ッ!?」


 だが、奥の部屋にあった()()に、牙助は全身を硬直させた。


「これ、君がやったんだろう? 恐ろしい切り口だ」

「なんで……それがここに……?」



 思わず声を震わせる牙助の双眸に映るのは、先日の火蜥蜴の前足だった。

 開かれた扉から差し込む灯りに鈍く輝いている。間違いなく、牙助が切り落としたブツであった。


「いやぁ、結構運ぶの大変だったよ? 人目もあるし、"牙"を使わないと無理だったね」

 

 軽い調子でそうのたまった錬がブツに触れると、一体何が起きたのか、ブツは急速に縮んで掌サイズになってしまう。

 眼前の信じられないような光景に目を丸くする牙助を尻目に、床から小さくなったブツを拾い上げ、弄びながら錬は語る。


「僕の"牙"は《縮小化》。自身と非生物に限って、呼吸を止めている間だけ、形状はそのままに小さくすることが出来るんだ」


 見れば錬が語る間に徐々にその大きさを取り戻そうと蠢くブツがあり、牙助はこの"牙"という不可思議パワーが実在することを実感したのだった。


「さて、本題に移るけれど。単刀直入に言う、君はそのチカラを使いこなせるようにならなければならないだろうね」

「……」


 牙助は自分の右手に目を下ろす。

 何の変鉄もない腕だ。青っぽい血管と手首の腱の筋が浮かび上がった、ごく普通の健康的な腕である。

 だが、その腕に今は人智を越えたチカラが宿っているのだと思うと、牙助は思わず身震いした。


「……話はわかった。けど、俺はこのチカラの使い方なんてわからないし、なんで使いこなせないといけないのかがわからない。教えてくれよ、錬」


 牙助はそう正直に話すと、目の前のイケメンを見やった。


「……チカラの使い方は、そのうちわかると思うよ、それより、僕が話したかったのは君が"牙"を使いこなす必要がある理由だ」

「理由? さっきから言ってるけどそれは何なんだ?」

「……」


 突然黙りこくった錬に牙助は首を傾げるが、そんな牙助に錬は口を開き、問う。


「牙助くん、先日、君の前に現れたナニかは、もしかして大城さんを狙ってはいなかったかい?」

「え? 何言っ……」


 てるんだ、と続けかけて牙助は言葉を詰まらせた。心当りがあったからだ。

 先日現れた火蜥蜴は明らかに遥の事を狙っていた。牙助は、そう記憶していたのだ。


「理由はわからないけれど、恐らく、大城さんはまた狙われるだろうね」

「………」

「だから、彼女を護りたいのなら、君は強くなるしかないんだよ」


 無意識に見ないようにしていたのかもしれない。

 今回のようなことが再び起こる可能性を。

 その事を自覚して恥じ入るように牙助は微かな呻き声を洩らした。



「わかった」


 数瞬の後、牙助は小さく頷いた。


「やろう、遥を護れるように」


 今度は自分が。

 そう、決意新たに誓う牙助に。


「……その意気やよし! それじゃぁいこうか!」

「……へ、ぇ?」


 いつもの明るい調子を取り戻した錬は何処からか大きな姿見を取り出すと、朗らかに笑ってみせた。

 急に態度をがらりと変えた錬に牙助は毒気を抜かれたように呆けた。


 ───いやそれよりも。なんだその姿見は。

 デカイなオイ。しかもなんか、鏡面の向こうにうっすらとなんか見えるんですけど?

 というか、「いく」って何処に?


 そんな風に新たに脳内に疑問符を積み立て始めた牙助だが。


 錬はといえばなんとその姿見を両手で徐に掲げ出したではないか。

 こうなると眼前の姿見は牙助にとって鈍器。

 凶器以外の何者でもない。


「ほらほら速く。よいしょっ───」

「はっ!? ちょ、なにすん──────」


 そして寸前の叫びも虚しく、ぼんやりしている間に凶器は標的の小柄な少年に振り下ろされ───………


 すと、ととん。


 軽い音と共に姿見は空を切って畳の上に落下した。


 既にそこに牙助の姿は無く、姿見を取り落とした錬の姿があるだけだった。


「それじゃ僕もっ───と」


 そして錬は姿見の鏡面を上に向け直すと、華麗に鏡面に向かって跳躍した。彼の足先がガラスの表面に触れ───


 パァアッ!


 一瞬、微かな明かりの明滅と共に錬は姿を消した。






 ───ようこそ"学舎(アインシューレ)"へ


 そんな囁きが、何処からか覗き消えていった。

遥との会話での牙助の台詞はカッコつけです。背伸びしたいんでしょう、きっと(笑)



前書きにも書きましたが難産中です(え、序盤も序盤なのに?

次も待たせるかもしれませんが来月にはあげたいです。

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