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爪刃の覇王 ~異能で最強を掴み取る~  作者: 卯月壱禾
序章 発現《スタート》
4/6

2 回想《幼馴染み》後編

投下っ

大城→遥と地の文を訂正しました。

仮にもヒロインなので。







 結局遥は教室には戻ってこなかった。

 しかし、何故だか担任がそれを指摘することは無かった。クラスメイト達も指摘する気になれないのか誰も言い出さず、牙助はクラスメイト達の非難の視線を浴びながら、只々


 ───あぁ、早く帰りたい


 と現実から目を逸らしていた。


 國枝イケメンはといえば、あれ以降誰とも何も話していなかった。

 只気難しげな顔をしたまま、掌を顎の下で組んで肘を机にのせ、ずっと何かを考え込んでいるようだった。



 ∵



 家路に就く帰りの途中。

 牙助は眉間に皺を寄せ、不貞腐れたような表情のまま、遥のことをつらつらと考えていた。


 遥が怒った理由が分からなかった。


 遥に頼らずに生きる。

 そう、前に決めてからは、牙助は極力彼女に迷惑を掛けずに済むよう、ある程度距離を取っていた。


 牙助はチビだったが故によく虐められており、それをことあるごとに助けてくれるのが遥だったのだ。


 だが牙助だってオトコノコである。

 いつまでも女子に守られる、というのは男児としての沽券に関わる。

 というのは置いておき、単に牙助は今度は自分が遥を助けたかったのだ。


 今のところ、それは叶いそうにないが。


 それは単に牙助が小柄で、鍛えても弱い、というのもあったが。



「ただいま母さん──」



 最たる理由は家庭内の事情であった。



「───お帰り、牙助」



 車椅子に乗った母が出迎えた。

 事故で父親が他界し、母親が下半身不随である佐十家は現在財力に乏しいのだった。


 今現在は牙助のアルバイトの収入と貯金で持ちこたえているが、いつダメになるか分からなく、大城に構うことが出来なかったのだ。


 学校は奨学金でどうにかなったが、生活費ばかりはどうしようもないのだ。


 だったら生活保護を受けろよと言われるかもしれないが、生憎と父親が遺した立派な自宅を手離すわけにはいかないので今のところは却下である。


「今日は学校どうだった? 友達と楽しく遊べた?」


 牙助に母親──詩織が問い掛ける。

 その手には、内職でもしていたのだろう、分解されたボールペンの部品があった。


 残念ながら、牙助に友達などほぼいない。

 例外は遥だけである。


 詩織はそんなことは知らないが、放課後バイトに追われ友達と遊べないでいるであろう息子に負い目を感じており、時折、というかほぼ毎日内職で僅かばかり稼いでいた。


 そんなことしなくてもいいのに───………


「うん、まぁ、ね。今日はなんか転校生が来たよ。すごいイケメンだった」

「あらそうなの?」


 話しているうちに國枝イケメンのことを思いだし段々と苛々し始める牙助。


 何様だよ、あのリア充。

 人様の事情に首突っ込むなや。


 といっても関係のない人物なので苛々は直ぐに鎮まり始めていた。


 が、次の詩織の一言で牙助は固まった。


「──遥ちゃんは?」


 遥。大城遥。

 今、一番聞きたくなかったワード。


「遥。あ、あぁ、遥ね、うん。いや、大丈夫だよ? 大丈夫だけど、その……ちょっと喧嘩しちゃったって言うか……なんというか」


 あまり詩織に心配を掛けたくない牙助は誤魔化そうとなにやらごちゃごちゃと話すが、全く以て意味はなかった。


 詩織はそれを見、聞いてスッと目を細めた。


「──牙助?」

「は、はい?」

「───ちゃんと、仲直りしてこようか?」

「え、いやでもバイトあるし、それに母さんの晩飯つくらなきゃ……」

「いいから」

「え、いや、そ」

「行って来なさい」


 瞬く間に畳み掛けられる牙助。


「バイト先には連絡しとくし、晩御飯位なんとかします! それより、あなたは友達を大切にしなさい!」


 昔から行動力の高かった母。

 なんやかんやで言いくるめられてしまった牙助は。


「………はい」


 大人しく遥の家へと向かうこととなった。



 ∵



「はぁ……。いませんか」

「申し訳御座いません。まだ帰ってきていないものでして」


 遥の家を訪ねた牙助は、彼女の保護者である榊原さかきばら明里あかりから遥はいないという旨を聞いていた。


「そうですか。では、帰ってきたら、佐十が学校でのことを謝りに来たと伝えておいてください」

「承りました」

「すいません、お手数掛けます。有難う御座いました」


 手短に用件を済ませた牙助はそう言って立ち去る。


 それにしても榊原であるが、牙助は前々から何故あの様に使用人めいた話し方をするのか気になっていた。

 そこら辺は遥の家にも事情があるということだろう。

 以前それについて尋ねようとすると彼女が暗い顔になったのでもうしないことにしている牙助である。



 幼馴染みである遥は、牙助にとっては結構大きな存在である。

 当然だろう?

 彼女がいなければ牙助の知り合いは母親一人だった筈なのだ。


 まぁそれは置いておくが、牙助はいつから遥と遊んでいたのか覚えていなかった。

 結構小さい頃からだったと思うが、気付けば友達で、気付けば遊んでいた、という感じである。

 だから牙助はいつから自分が遥を好きになったのかも分からなかった。


 それに気付いたのは結構唐突だった、と牙助は思う。

 いつもと変わらない、秘密基地代わりにしていた崖の一本の大樹に寄りかかりながら、澄んだ大空を眺める大城遥。

 彼女の、それが映す大空より澄んだ瞳を見ているうちに、


(あぁ、俺、この娘が好きなんだ……)


 そう、染々と感じ取ったのだ。


 色気もへったくれもない時期のことである。

 純粋に、ただ、好いていたのだ。


 だが、牙助もこの年になってわかる。

 自分じゃ、遥には釣り合わない。


 今日来た転校生辺りなんかだと、全然お似合いなんだろうが。



 暗く沈んでいく思考を打ち消すように、頬を両手で挟み込むように叩く。

 そして気分を少し持ち直した。


(遥いなかったし……母さんに何て言おうか)


 このまま帰るのもアレだし、と牙助は少し遠くを見て目を細めた。

 見えたのは、崖の上にある、一本の大樹。

 街からは少し離れた場所にあるが、彼処から見る夕日が絶景を醸し出すことを牙助は知っていた。


(最近、行ってねぇな……)


 正確には数年行っていないが、ともかく牙助は何故か無性に思いでの中のあの光景を見たくなってしまった。


 太陽が西の地平線に差し掛かり始めていた。

 間に合うだろうか。

 牙助は走ることにした。


 部活には入っていないが、走ることは走っているし、大丈夫だろう。牙助はそうして、走り出した。


 バイトのことや晩飯のことは、その時は牙助は忘れていた。



 ∵



 ざりっ、と土を踏みしめた。


「おおう、間に合ったー、ふぅ」


 溜まった息を吹き出す。

 思ったより自分は体力が無くなっているのかもしれないな、と牙助は思った。


 そのままふらぁっ、と大樹のもとまで歩いて手を掛けてもたれ掛かり、夕日に視線を送ったときだった。


 視界の隅の大樹の影に、見馴れた赤みがかった黒髪が見えて、思わず牙助は後ずさった。


 まさか、ここにいるとは。


「………」

「あ…………」


 振り返ったそれは、牙助の姿をその目に捉えて微かに息を洩らした。


 それきり、二人とも何を発するでもなく、只只互いを見つめあったまま固まってしまった。


 大城遥。

 大樹に背を預け、夕日を見つめて涙していたその少女は、不意にきっとその柳眉を鋭角に吊り上げたかと思うと、即座に立ち上がった後に牙助に向かって言う。


「何よ、何か用?」

「………」


 だが表情は取り繕えていても、頬に残る涙の筋は消せていなかった。

 牙助はそれを確認すると同時に軽い罪悪感に揺さぶられ、口を引き結んで何も言えなくなってしまう。


 自分が、彼女を泣かした。


「………何しに来たのよ……あんた、バイトはどうしたの? 今日はいつもより早めに行かないといけないんじゃなかったの」


 何故そんなことを知っているのか。

 そんなことは兎も角として、キツく当たった自分に尚心配を向ける遥に牙助は次の言葉を言わざるを得なかった。


「今日、学校で。すまなかった、関係無いとか、言って……」


 嫌われるんじゃなろうか。

 不意にそんな不安が鎌首をもたげてきて、牙助の言葉も次第に弱々しくなり、俯き暗い雰囲気を出してしまう。


 今まで微塵も気にしていなかった──否、しないようにしていた──ことだが、やはり気にすることは気にする。


 が、牙助の心配とは裏腹に、一瞬呆気に取られた様な顔をした遥は暫く無言でじっと牙助の方を見詰めていたが、頭を下げたまま上げる様子のない牙助を見とめると再び大樹に背を預けるようにして座り込んだ。


「……?」


 何時までも聞こえない自分を責める声に思わず牙助は顔を上げたが、何やら再び座っている幼馴染みを見て首を傾げた。


 そんな牙助には目もくれず、遥は自分の隣、牙助側の地面をポンポンと叩く。


 ぽん、ぽんぽん。


 座れと、そういうことなのか。


 如何せん交遊関係など全く以てない牙助には判断し難かったが、取り敢えず座るような動作を取れば遥が頷いた為心中でほっと胸を撫で下ろし、座った。


 いざ座れば、何を言えば良いかがわからない。

 遥は何も言わず、只沈み行く夕日を眺め続けている。


 牙助は自分から謝罪した手前、今何か言えば言い訳がましいと考えて何も言えないばかりか、当初の目的に沿って夕日を眺める気にもなれずに只々視線を彷徨わせていた。


 指を絡め、俯きがち。


 暑い。

 やっぱバイトあるし、帰ろうかな………。

 無駄なことばかり頭のなかに次々に浮かんでは消えていく。


 臆病者チキン

 今の牙助は紛う事なきそれである。


 ───また、逃げるのか?


 牙助の中の己が問う。

 お前は何時も逃げてばかりじゃないか、と。


 オトコ見せろや、と半ば強迫観念のようなそれに。

 牙助の中のチキンが突き動かされ口を開きかけ──……




「……あっ、ぁの」

「覚えてる? 小さい頃よく此処で一緒に遊んだこと……」


 それを意図せずか遮るように遥が口を開いた。


「………」

(はッ、るかぁああぁぁあああぁぁぁぁ……………)


 話題を振った大城に感謝するより早く勇気を振り絞った自分の声を遮られ落胆する牙助。

 端から見れば只のアホ。

 先程までの緊迫感シリアスはどこへいったのか。



 がっくしと項垂れ何も言わない牙助にちらりと流し目を送ると、遥は唐突に立ち上がり、数歩崖の方へ歩んだ。

 そして、牙助の方へ振り返った。


 夕焼けが、只でさえ赤みがかっている大城の髪ばかりでなく、そのシルエット全体を紅く染め上げていた。


「ねぇ……()()


 ふと、何時の間にか変わっていた幼馴染みの口調に牙助は顔を上げる。



 遥は、涙を流していた。


「……無理してるんでしょ? 隈が酷いよ? 最近一日でも休んだことある? 無いよね………?」


「………」


 牙助は何も答えない。

 否、()()()()()()


「きぃ君変わったよね……どうして頼ってくれないの? 昔みたいに、助けて、って言ってくれないの……? 私だってきぃ君のこと心配に思ってるんだよ!? 

 …………………お願いだから無理しないで……」


 それが自分の身を思ってくれての言葉だと言うことは、牙助とて理解している。


 だが。

 好きな女性ヒトに迷惑を掛けるのはオトコじゃない。

 それになにより。


「…………変わったのは俺だけじゃねぇだろ、遥」


 ゆらりと立ち上がって、牙助は続ける。


「確かに、ちっちゃい頃みたく俺のことを何やかんやで助けようとしてくれることは感謝してる」


 遥は相も変わらず牙助を"守ろう"としてくれる。


「けど、遥。お前は、俺と一緒につるむべき人間じゃねぇ」


 だが、牙助は遥を"守りたい"のだ。

 "守られたい"訳ではない。


 自分は彼女に相応しい人間ではない。

 自分のせいで好きなヒトが、そういう目で(自分なんかと同列に)見られたとあっては死んでも死にきれない。


 それが、牙助というオトコの、唯一行える"守り"だった。

 ちっぽけな、経済的にも肉体的にも貧弱な、彼の唯一の。


 顔を固めたまま動かなくなる遥を無視して牙助は何も彼女に歩み寄る。


 さっきとはうって変わって、嫌われるかもしれないことを承知の上で、続ける。


 なけなしの勇気を、振り絞る。


「……なぁ、遥。お前、今日来た転校生のことどう思う?」


 突然の話題転換。


「………え?」


 今までの会話とは全く関係のなかろうそれに虚を突かれ、疑問符で埋め尽くされた顔が真っ直ぐに牙助を捉えた。


「背が高くて、イケメンで、成績も良さそうだし、女子にも優しかったな」


 牙助が大城に歩み寄る速度は遅い。

 まるで近付きたいが何かに邪魔されるがごとく、進むほどにその足取りは遅くなる。


 牙助は遥を見ない。

 それはまたしても彼女を傷付けるかもしれない自分に対する嫌悪感と、未だ彼女に嫌われるかもしれないことを恐れている自分チキンの抵抗感から。


 確かにまだ「かもしれない」の範疇である。

 だが牙助は、「恐らく嫌われるだろう」と何の根拠もなくそう確信していた。


「ああいう奴の方が、お前にはお似合いだよ」

「…………ぇ、ぁ」


 背が小さいがために、どんどん見上げるような形になっていくなか、彼女の前髪に隠れた泣き顔をついぞ見ることなく、牙助は最後の台詞を放つ。


「…………………もう、俺に関わるな、()()。お前の助けなんて要らないんだよ、迷惑なんだ。わかるだろ?」


 言ってて顔がひきつっていくのがわかった。

 牙助は震えそうになる声を精一杯振り絞り、言い切った。


 そして牙助は天を仰ぐ。

 それは、自嘲にまみれた、何の気無しの行動だった。



 ───結局俺、逃げてるだけじゃねぇか。


 遥の相手として求められる様々から。

 遥と向き合うことから。


 俺は、此処に、何しに来たんだ───………




 その、見上げたソラの中心。

 丁度、自分達の上方に。



 ()()()()()()()()()()黒点を見つけ、牙助は固まる。






 ──────は?


 思考が一瞬止まった。


 な ん だ あ れ は ?


 そして、牙助は気付く、、、


 今も尚巨大化して()()()それが。



 ()()()()()()()()()()()()()()()だということに。



「………ッ!」


 気付いてからは迅速だった。

 牙助は自分でも信じられない速度で遥に抱き付き、その小さな体躯を余すことなく使い大城を突き飛ばすようにしてその場を離脱した。


 直後響き渡った轟音が牙助の耳朶を、飛散した礫石屑が牙助の背を、容赦なく殴った。


 だがそれも僅かの間。


 牙助は遥から離れ先程まで自分らがいた場所に向き直る。

 そこには。



「グゥ…ククルルルルルルル………」


 黒い、巨大な化け物がいた。


 牙助はその目をあらんばかりに見開いた。


 な ん だ こ れ は ! ?


 二度目のそれは、答えなんて求めている訳ではなかった。

 ただ、そうした疑念が、たちどころに頭の中を占拠してしまうのだ。


 だってこんなもの。

 見たことも聴いたこともないのだから。



 ヒトは"知らないもの"に最も恐怖を覚えるのだという。

 だから牙助が身をすくませ恐怖に顔を染めたのは当然の反応だった。


 幸いと奴はまだ此方に気がついていない様だ。

 此方とは違う方を向いている。

 奴はデカイし体の後方などには目も届かないだろう。


 背後は崖。どうにか奴の後ろをすり抜けて町まで降りるしかない。

 牙助は存外に冷静な思考を展開していた。身の危険を感じた牙助の脳がその本領を発揮しているのかもしれない。


 が。


「あっ」


 後ろから洩れた吐息に、牙助は振り返った。

 恐怖を顔に塗りたくった、座り込んだままの遥がいた。


 忘れていた。


「きっ」


 ダムが、決壊する。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 先程の轟音以上に牙助の耳朶を打ったそれは当然眼前の化け物に彼らの居場所を教えてしまった。


 化け物が、牙助に顔を向けた。


 否、その斜め後方の。

 遥に。



 化け物が、動いた。 その巨体からは想像できないほどの俊敏な速度で、牙助との短い距離は一瞬で詰められた。


 気付かない内に牙助は動いていた。

 遥と化け物の直線上にその身を滑り込ませたのだ。




 そして牙助が、何とか遥を再び突き飛ばした瞬間。


 横殴りの衝撃に、牙助は吹き飛ばされた。





 ───ヤバい、死ぬ。





───────…………



回想しゅーりょー

多分次で今章は終わり。

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