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爪刃の覇王 ~異能で最強を掴み取る~  作者: 卯月壱禾
序章 発現《スタート》
2/6

prologue2 救世主《ヒーロー》後編

投下っ

自分の文章力の無さが恨めしい……

前編よか短いです






 思えば、少年は少女に守られてばかりであった。

 どんなときでも、少女は少年の敵の前に立ちはだかり、その拳を奮っていた。

 気付いたときには仲の良かった二人だが、少しばかり前まではずっと守る守られるの関係であり続けていた。


 だが、少年は思ったのだ。

 只守られるだけでいいのか。


 確かに現在少女は自分のヒーローで、大切なともだちだ。

 だが、ヒーローを守るのは一体誰なんだ。


 それから少年は鍛え始めた。

 やるべきことの合間を縫いその身を苛め抜いた。


 ヒーローに、憧れていたことを、思い出した。


 だが少年はヒーローにはなれなかった。

 鍛えても、少年は非力だった。

 鍛えても、少年は小柄だった。

 鍛えても、少年は臆病だった。


 彼は、少女がいなければ逃げることしかままならなかった。

 自分の身すら守れずに、誰かを守れる道理はなかった。


 結局、少年は。

 大好きな少女を自らの手で守ることはなく。

 守られ切ったまま、少女との関係を薄れさせてしまった。




 逃げようとしない少年に少女は何事か叫んでいるが、少年は聞く耳を持たない。

 大方、早く逃げろ等とほざいているのだろう。


 先程の少年と同じようなことをしているわけだが、少年はそれには気付いていない。


 このまま、少女は大蜥蜴を倒してしまうのではないだろうか。

 少年はそう漠然と感じ取っていた。


 恐らくまた、自分は守られる。

 ならばせめて、俺は、逃げずにいたい。

 逃げるのならば。お前と一緒に────……










 ぼぐん。




 時が、止まったかに思えた。





「………あっ?」




 それが、誰の声だったかはわからない。

 気の抜けるような吐息に、僅かに音の乗っただけのその声。




 ───俺は、逃げてばかりだ。

 ───誰も、助けられない。

 ───今だって。



 少女が宙を舞っていた。

 赤い閃光に貫かれ、少年の脇をものすごい速度で転がり抜け。


 少年がそれに気付き振り返ったときには、少女は倒れて動かなくなっていた。


「はっ、遥アアアァッ!」


 叫び、少女に駆け寄り、すがる少年。

 先程の焼き回しのようでいて、そうではない、その光景。


 恐らく今度は目を覚まさないであろう、その少女を遠目に眺めながら、大蜥蜴が悠然と佇んでいた。


 無傷。

 先程の閃光に裂かれ散らされた土煙の中から現れた大蜥蜴には掠り傷一つ見当たらなかった。

 どころか、あれだけ鈍く、鱗の一枚の見分けもつかないぐらいの朧気な輝きだったその身体は、薄赤く耀き、その精緻な鱗の一片一片が熱を帯びたようにざわめいていた。


 有り体に言って、強化パワーアップしていたのだ。


 ぞわり。


 それを見て少年は総毛立った。


 自分は何を勘違いしていたのか。

 ヤツが少女に反撃をしていなかったのは。

 出来なかったからではなく、何時でも出来たから。


 それは、絶対的強者が故の、弱者に対する余裕。


 ───『御前なんぞ何時でも潰せるのだよ』


 そういう、弱者の戦意を徹底的に削ぐ、威圧。



 敵うわけがない。

 逃げよう。


 でも、何処に???



 少年が大蜥蜴に対する恐怖と少女に害を為されたことへの怒りで頭の中をぐちゃぐちゃにさせている間に、大蜥蜴は更なる変貌を遂げていた。


 前肢から、火が、噴き出した。

 火は駆け巡って背を登り、尻尾に絡み付き、その全容を華美に彩る。


 もうそれはどう見ても只デカイだけの蜥蜴ではなかった。


 少年がそれを見て思い浮かべたのは、火炎に包まれる想像上の蜥蜴。


 ───『火蜥蜴サラマンダー



 ぶわっっ、と熱気が広がった。


 それは少年たちを包み込み、

 傍に生える大樹を揺らし、

 林の葉を落とした。



 大蜥蜴───否、火蜥蜴サラマンダーが、後ろ脚で、その地面を撥ね飛ばすようにして飛び出した。

 周りの空気を一瞬で置き去りにして、少年達の目の前に達した。



 チェック、メイト。


 もう、逃げられない。



 少年の頭の中を、様々な光景が浮かんでは消えて行く。 走馬灯だ。

 眼前に死を見取って少年は身を強張らせた。



 ───あ、死ぬ。逃げないと………



 その時。


「んッ、ぐ、うぅ」


 少年が抱える少女が、苦しそうにその身を捩った。


 少年はそれを見、立ち上がった。


 火蜥蜴サラマンダーから、少女を守るような立ち位置で。



 じぶんが、まもらなければ。

 かのじょは、しぬ。



 足は震え、全身が痛み、歯は意識せずともカチカチと鳴ってしまっていたが、少年の眼光は鋭く火蜥蜴サラマンダーを貫いていた。


 恐らくこれで、自分は死ぬだろう。

 奴に、骨の髄までしゃぶられ尽くすのかもしれない。或いは、丸呑みだろうか。


 だが、少女が逃げるだけの時間は、稼いでみせる。


 そう、強く意思を固め少年は少女に声を張る。


「遥ッ!」

「……ッく、何、して」

「いいから聞け! 俺が今から時間稼ぐから、さっさと逃げろ! 街の人たちは……魔検にでも通報しとけ!」


 成る程魔検ならば、この忌々しい火蜥蜴サラマンダーを退治、或いは街の人たちを守ってくれるだろう。

 だが。


「あん、た勝てる、訳、ない、でしょ……ッ」

「……………………うるせー、さっさと立って逃げやがれ」


 根本的な問題である。

 ここで少年が足止めをしたとして、少年は勿論、少女も助かる可能性は低い。

 ならばせめて私が足止めした方が………そう、少女は口を開こうとして、少年に機先を制された。



「最期に好きなヤツのことぐらい、守らせてくれよ」



 そう言って振り返った少年の顔は真っ青で、恐怖にうち震えていた。

 だが、同時にその笑顔は晴れやかでもあった。



 少年はすぐさま向き直った。

 火蜥蜴サラマンダーはもう目と鼻の先。


 最初に対峙したときとやることは変わらない。

 避け続ける。只、それだけだ。





 が。





 フッッ


 視界が黒と薄赤で埋め尽くされた。


 火蜥蜴サラマンダーの前肢がブレた直後、視界を埋め尽くしたそれに。

 構えていた少年は、悟る。



 ───今度こそ、死んだ。



 だが、そうとわかっていて、足掻いた。

 みっともなくても、情けなくても。

 一秒でも、コンマでもいい。僅かでも時間を。


 雄叫びを挙げ、少年はその右の拳を振るう。


 本来なら、避けに徹した方が良かった。

 拳もまともに握れていない、それに。

 異様が起こるまでは。



 人は、ヒーローになれるのか。


 勿論、その人次第で、主人公ヒーローには、なることができるだろう。


 だが、英雄ヒーロー、また救世主ヒーローはどうか。

 それは、必要なものが沢山あるだろう。


 明晰な頭脳や、丈夫な身体、勇敢な精神。


 それはもしかすると、生まれつき決まるものかもしれない。


 その中で、最も人に足りないものは。

 道具を扱うことを、食べるものを選ぶ事を覚えて減退した、原初の爪や牙。



 すなわち、力であった。



 時が引き伸ばされたように、遅く感じられるなか、いつかの父の言葉が、少年の頭に響く。


 ───『人は誰もが隠された爪や牙を持っている』

 ───『それをどう使うかは、お前次第だ』




「かくされた、爪…」





 瞬間。

 少年の右腕が、何処からかあふれでた黒銀の粒子のようなものに取り巻かれた。

 それは皮膚を巻き込むようにして装甲を作り出し、弾かれたように開いた五指を鋭利に、長く伸ばしていく。


 そして、気付けば。



 振るわれた少年の右腕は、同じく振るわれた火蜥蜴サラマンダーの前肢を切断、斬り落としていた。




 少年───後に爪刃の覇王と呼ばれる、まだ小さな、それが。

 その成長を、始めた瞬間だった。










 夏。

 梅雨が鬱陶しい湿気を置き土産とし、蝉がその魂の叫びを辺りに撒き散らし始めた頃。

 夕日は沈み、街は闇に包まれていた。

 住宅街から少し離れた、見晴らしのいい丘。

 少し都会から離れた田舎ということもあって空気も多少澄んでいて。

 背後には森を携えており、そこから弾き出されたように一本だけそびえ立つ大樹が、その繁りに繁った葉を以て、丘の一部に影を落とさんとする。


 そんな、限りなく日常に近い光景。


 そんな光景は、荒い息遣いと、地面に咲いた紅い花と、それから現実の物とは思えない大きな蜥蜴のような生物によって、台無しにされていた。


 大蜥蜴は鈍く光を反射するその身体をうずくまらせつつ、鮮血が溢れ出る右の前肢を、左の前肢で押さえていた。


 大蜥蜴前方に少し離れたところには少女が倒れており、気を失っているのかぐったりとして動かない。



 そして、二者の間に直立しているのは、黒髪黒眼の少年。

 身長は低く、中学生だろうか、日本では然程さほど珍しくない容姿。

 だがその右腕は漆黒の装甲に覆われ、五つの指は指刃のように伸びきっていた。

 そして、細長いそれを鮮血が伝う。


 少年は自分の右手と大蜥蜴を交互に見やって、呆気に取られた様に立ち尽くす。




 ───少年は、ヒーローになれるのか。






プロローグ終了!

あと二、三話書いて一章に入ります。

魔検については後々説明します。警察みたいなモンだと一先ず認識しといてください。

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