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片恋SS  作者: 葉野りるは
鎌田公一編
9/10

最後の告白

 電話を切ったあと、すぐにメールをもらえるものと思っていた俺は、肩透かしを食らわされた。

 待てども待てどもメールは届かなかった。

 毎日のように携帯を気にする俺に、

「かまっちゃーん、あの子にいいように遊ばれてるんじゃないの?」

「そんなことはないと思う」

 ハルの問いに即答したけど、それは直感であって確信ではない。

 御園生が人をからかったりする人間じゃないことはわかっていて……。だとしたらどうしてメールをもらえないのか。

 その疑問は、考えても考えても答えが出なかった。

 十二月になり期末テストが終わる頃になると、自分の中に諦めの気持ちが芽生え始めていた。

 でも、最後に踏ん切りをつけたくて、何かいい方法はないかと考えているところにまっさらな年賀状が目に入った。

 もう一度、自分のメールアドレスを添えて出してみよう。それでメールが来ないなら、そのときこそ諦めよう――。


 年を明けて数日が経っても御園生からのメールは届くことがなかった。

 諦めるべきか――いや、一月いっぱいは待ってみてもいいんじゃないか……。

 煮えきらずにいると、月半ばにメールが届いた。とても短いメールが。

 一文目にメールを送れなかったことの謝罪があり、二文目に年賀状のお礼が書かれていた。そして、三文目にはもう一度謝罪――「メールを送ると言っていたのに、こんなに遅くなってしまって本当にごめんなさい」と締めくくられていた。

 言い訳も何も書かれていない。けれども、心から謝られている気がした。それは色恋眼鏡のなせる業なのだろうか……。

 数日してからメールを送ってみた。都合のいい日に会えないだろうか、と。

 どうしてももう一度会って話したくて。会って、きちんと好きだっていうことを伝えたくて。

 すると、前回のメールよりも幾分か長いメールが届いた。そのメール内容に驚愕する。



件名:御園生です

本文:メールのお返事をありがとう。

    とても嬉しかったです。

    でも、今は会うのが少し難しいです。

    実は、年末に入院して心臓の手術を受けました。

    今は毎日リハビリをして過ごしています。

    二月には退院予定なのですが、

    退院したら進級テストの勉強に追われることになります。

    だから、会えるとしたら春休みか新学期が始まってから

    になってしまうのですが……。

    それでも大丈夫ですか?

    私も鎌田くんと会って話すのが楽しみです。



「入院して手術って……」

 身体が弱いことは知ってたし、走れないっていうのも知ってたけど……。

 御園生の持病って心臓だったのか!?

 全然知らなかった……。

 それもそのはず。御園生はそういう話をしてくれなかったから。

 だから内容にも驚いたけれど、普通に教えてくれたことにも驚いた。

 俺はすぐにメールの返事を送った。

 今は身体を第一にしてほしいことと、会ってもらえるなら春でもかまわない、と。

 お見舞いに行きたいとも書いたけれど、それは遠慮してくださいと返事がきた。

 どうやら、リハビリの時間以外は勉強にあてているらしかった。藤宮は一年のうちに二年までの授業が行われるというのだから、授業が進むペースが早いのだろう。それを考えたら「時間がない」というのも容易に頷けた。

 以来、御園生とメールを交わす仲になった。

 俺が送るメールは学校での出来事がメイン。写真つきのメールを送ると御園生はとても喜んでくれた。

 進級試験の勉強で行き詰まってメールを送ると、もしかしたら教えられるかもしれないから問題を送ってほしいと言われた。問題を写真に撮って送ると、数分でわかりやすく解説された答えが届いた。

 なんていうか、自分のほうが一年先に高校生になったにも関わらず、そんなの関係ないんじゃないか、と思わされた一瞬。

 会話を重ねるうちに御園生が理系に強いことを知った。それを意外に思ったことをメールすると、よく文系に見られるという返事があった。

 そんなふうに言葉を交わし、少しずつ御園生のことを知っていった。

 春休みに入ると、新しい薬を飲むことになったと教えてくれた。

 その頃はメールを送ってもすぐに返事はこなかった。新学期になると、薬の副作用がどんなものだったかのメールが届いた。

 その間一度も会うことはなかったけど、メールのやり取りができることを嬉しく思っていた。

 でも、このときの俺は知らなかった。御園生が藤宮くんと付き合うことになったことを。

 学園祭の雰囲気からして、御園生が藤宮くんのことを好きなのはなんとなくわかっていて、同じように藤宮くんが御園生のことを好きかもしれないのはなんとなくわかっていて……。

 でも、ふたりに多大な進展があったなんて知る由はなかった。

 そんなある日、一大決心をして御園生に電話をかけた。

『もしもし?』

 久しぶりに聞いた御園生の声は小さな鈴が鳴っているようにかわいくて、それだけに体温が上昇を始める。

「あのさ――ゴールデンウィークって何してるっ?」

『ゴールデンウィーク?』

「うん」

『家族で旅行に行く予定はあるけれど……でも、四日、五日は地元にいるよ』

「その日、弓道の試合があるんだけど」

『うん、知ってる』

「五日、少し時間もらえないかなっ? 試合を見にきてほしいのと、試合のあとに少し話したいっ」

『うん、大丈夫。鎌田くんも弓道の試合に出るのね?』

「そうなんだ。地区大会の決勝まで残ることができて……。場所は、御園生の家の裏にある幸倉運動公園だから」

『うん、応援に行くね。がんばってね』

 そんな話をして切ったけど――。

「……あ、れ? 鎌田くんも?」

 ……それはつまり、俺以外にも出る人がいるってことで――。間違いなく相手は藤宮くんな気がするんだけど……。

 このふたりってどうなってるんだろう……。

 不思議に思いながら、それ以上は考えないことにした。

 御園生が誰を好きでもいい。もう一度自分の気持ちを伝えたい。それが目的――。




 試合当日、俺は早々に敗退してしまった。

 でも、今日はそれだけじゃない。試合のほかにもがんばることがある。

 俺は制服に着替えると、ハルに荷物を預けて藤棚へと向かった。

 そこにはすでに御園生がいた。藤宮の制服を着て、藤へ手を伸ばす御園生が……。

 去年、学園祭で会ったときよりも一段と長く、髪が伸びていた。

「御園生」

 サラリと髪を風になびかせ振り返る。そして、目が合うとふわりと表情を和らげた。

「鎌田くん、試合お疲れ様。残念だったね」

「うん……。でも、自分にできることをやりきった感はあるんだ」

 メンタル面はすこぶる良かったし、負けたときに悔しいと思うよりは終わった、という感覚が強かった。

「なら、良かった……のかな? 鎌田くんはこれで引退?」

「そう。今日の試合で引退。ここからは受験勉強に切り替えなくちゃ」

「進路は? やっぱり四大?」

「うん。藤宮の医学部が本命で、ほかにも何校か受ける予定」

「ツカサと同じ……」

「……『つかさ』って、藤宮くん?」

「うん」

 御園生は嬉しそうに微笑んだ。

 こんな表情をずっと近くで見ていたいと思う。でも、もしかしたらこの笑顔はすでに誰かのものなのかもしれない。

 思いながらも切り出す。

「御園生」

「ん?」

「……俺、中学のときからずっと御園生のことが好きなんだ」

 突然すぎたのか、御園生はとても驚いた顔をした。パチパチ、と瞬きをする御園生に、

「御園生は今好きな人とか付き合ってる人、いる?」

 訊くと、コクリと一度頷いた。

「それって藤宮くん?」

「……うん」

「そっか……」

 会話がなくふたりの間に風が吹いた。

「あのさ」

「あのっ」

 声が重なり、びっくりしてふたり顔をり見合わせる。と、どちらからともなく笑みが漏れた。

「俺から言ってもいい?」

 御園生は小さく頷き先を譲ってくれた。

「俺、振られちゃったけど、これからもメールとか送ってもいいかな? 今までどおり、友達として……」

「あのね、私も同じことを言おうと思っていたの。これきりになっちゃうのは嫌で……。鎌田くんがもし良ければ、今までと同じように友達でいたい」

「……良かった」

 それほど緊張していたわけでもないのに、力が抜けてベンチに座り込む。と、その隣に御園生も腰を下ろした。

「私も……」

 はにかんだ笑みで、

「好きになってくれてありがとう。中学のときからずっと気にかけていてくれてありがとう。それと、これからも友達でいてくれるのもありがとう」

 たくさんの「ありがとう」に頬が緩む。

「なんか変な感じ。去年、デパートで会ったときはすごく緊張して告白したつもりだったんだ」

「……ごめんなさい」

 申し訳なさそうに謝る御園生をカラカラと笑う。

「謝らなくていいし……。今は振られるかもしれないって思って告白したけど、そんなに緊張はしてなかった。それよりも、振られたあと、友達を続けられるかそっちのほうが不安で……。こちらこそ、これからも友達でいてくれるのありがとう」

 どちらからともなく握手を交わす。と、そこに藤宮くんが現れた。

「藤宮くん、インターハイ進出決定おめでとう」

「……ありがとう」

 無表情というよりも仏頂面な感じ。もしかしたら今の会話を全部聞かれていたのかもしれない。

 でも、聞かれていようといまいとどっちでも良かった。

「そんな怖い顔しないでよ。俺、御園生に振られたばかりなんだから」

「それはご愁傷様」

「御園生の彼は手厳しいね」

 クスリと笑うと、

「うん、基本的には私にも厳しいよ」

 そう言って御園生も笑う。

「振られちゃったけど、これからも御園生とは友達でいられるみたいだから、できれば藤宮くんもよろしく」

 そんな挨拶をすると、

「よろしくされる道理はない」

 一言で却下された。

「ツカサ、鎌田くんも藤宮の医学部が第一志望なんだって。ツカサと一緒だよ?」

 御園生が会話の取っ掛かりを作ろうとしてくれてるのがわかった。でも、彼はそれに応じるつもりがないらしい。

 確かに御園生にも手厳しかった。

 御園生みたいなかわいい子の彼氏だったら甘くなるのかなって思ったけれど、どうやら外れみたいだ。

 それでも御園生は彼のことが大好きなのだろう。

「ごめんね」って視線を俺に送ってるのもかわいいと思うし、そんな関係の藤宮くんを羨ましいと思う。でも、今日はここで引こうかな。

「大学に合格したら同期になるね。そしたら、そのときこそはよろしく」

 俺は藤宮くんにベンチを譲るように立ち上がり、藤棚をあとにした。


 ハルたちが待つ場所へ戻ると、

「どうだった?」

 と矢継ぎ早に訊かれる。

「告白してきっぱり振られてきた」

「その割には晴れやかな顔しちゃって」

「うん、そうかも。なんかすっきりした。振られたけど友達ではいられるみたいだし」

「えっ……そんな話までしたの?」

「したした。だって、ここで何もかも全部失くすのは嫌だったから。そう思ったのは俺だけじゃなかったみたいで、御園生も同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかったんだ」

「……そっか。じゃぁさ、今年のうちの学園祭呼んだら?」

「あ、それいいね。そうしよう。藤宮くんと一緒においでよって」

「えっ!? あの、ミスターフリーザーとも仲良くなったの!?」

「まさか。手厳しく追い払われた感満載。でも、藤宮くんみたいな人ってさ、それで終わりじゃ絶対に仲良くなれないだろ? だから、もう少し粘ってみようかなと思う」

「かまっちゃんてさ、見かけによらずガッツあるし、微妙に物好きだよね」

「それはどうかな?」

 ……ただ少しだけ、自分から行動するということを学んだ。

 それを教えてくれたのはこの長い片思いであり、見守っていてくれた隼人先輩だろう。

 まだ、隼人先輩みたいに自分からチャンスを手繰り寄せるような行動には移せない。でも、いつかはそうできる人になりたいと思う。

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