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片恋SS  作者: 葉野りるは
鎌田公一編
6/10

学園祭02

 俺たち一行は、御園生ともうひとりの女子に案内されて藤宮くんのもとへ向かって歩きだした。

 ハルに、「この子なんでしょ?」 と肘でつつかれつつ、下田と郷田にも背中を押される。

 何か話さなくちゃと思えば思うほどてんぱってしまう。

「ほら、話せよっ」

 小声でせっつかれてようやく御園生の横に並ぶ。と、隼人先輩も御園生の横に並んだ。

「……姫って呼ばれてるの?」

 訊くと、御園生は困ったようにコクリと頷いた。

 次は何を訊こう。そう思った瞬間、心臓が口から出てしまいそうな質問を隼人先輩がした。

「ね、彼氏いるの?」

「えっ!? わ、あ……いません」

 御園生は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 何か話さなくちゃ、助け舟になりそうな会話。何か何か何か……。

「御園生さん部活は?」

 困っている俺をよそに、隼人先輩が会話の主導権を握った。

「部活は、写真部です」

「カメラ、好きなの?」

「はい……」

 ようやく自分が混ざれそうな会話になる。

「御園生だったら茶道部とか華道部かと思ってた」

「あ……えと、茶道部には入っていたのだけど、カフェインが体質に合わなくて一学期で辞めてしまったの」

「そうなんだ……」

 そこでまた会話が途切れる。もう情けないのを自覚しつつ隼人先輩を見る。

 先輩っ、次の会話っ。話続かないっ。

 先輩は仕方ないなって顔で次なる話題を提供してくれた。本当になんてことのない話で場をつなぐ。たとえば学園祭の準備はいつからやっていたのかとか、あまり彼女が答えるのに困らないような内容を。

 俺は先輩と話す御園生を見て、御園生の声を聞くだけで胸がいっぱいだった。


 テラスをある程度進んだところで、前方から藤宮くんが歩いてきた。

 彼が歩くだけで周りの女子が騒ぐ。そんな容姿の持ち主。

 袴姿のときとはまた違った存在感があった。

「あ、いたいた。御園生さん、ありがとね」

 隼人先輩がお礼を言うと、御園生は「いえ……」と小さく答える。

「ところで御園生さん」

「はい……?」

「インハイのとき、夜、藤宮くんに電話した?」

 御園生は、「え?」といった顔で先輩を見上げる。

「女の子から電話かかってきたんだよね。なんとなくなんだけど、それ、御園生さんなんじゃないかって思って」

「……たぶん、私です」

「そうだよね? さらにはさ、その黒い携帯。御園生さんのじゃなくて藤宮くんのじゃない?」

 御園生がびっくりした顔をして、次の瞬間には真っ赤になった。

「あのとき使ってた携帯とは違うんだけど、携帯、代わってもらうときに表示されてた名前が『翠』ってなってた。それって御園生さんの下の名前なのかなと思って。あのとき、電話に出た藤宮くんも『スイ』って言ってたし」

 先輩は続けて、「藤宮くんと付き合ってるの?」と訊いた。

「ちっ、違いますっっっ。ツカサには好きな人がいますしっ……」

「……力いっぱい否定、ね? ……で、藤宮くんには好きな人がいる……か。じゃぁさ、俺が付き合ってくださいって申し込んだら少しは考えてくれる?」

「えっ!?」

 話の展開についていけない。ただただ唖然とするのみ。

「あのっ……」

「答えは今じゃなくてもいいんだけどな? 俺は一目惚れだけど、御園生さんは俺のこと何も知らないでしょう? 何度か一緒に遊んだりどこか行ったりして自分のことを知ってもらってから決めてもらえると嬉しい」

「あのっ……」

「ん?」

「ごめんなさいっ……」

 御園生は腰を直角にするような形で頭を下げた。

「やっぱりここで返事されちゃうのかな?」

「あの……私にも好きな人がいます。片思いなんですけど……失恋決定なんですけど……。でも、今はまだその気持ちを大切にしたいから……」

 先輩はクスリと小さく笑った。

「ま、ライバルがアレじゃ敵う気はしないんだけどさ」

 アレ、と視線を向けたのはほかの誰でもない藤宮くんだった。その姿を認めた途端、御園生がそれまで以上に真っ赤になる。

 どうしよう……。全然嬉しい展開じゃないのに、顔を赤く染める御園生がかわいくてたまらない……。

 そう思ったのは俺だけじゃなかった。先輩が目尻を下げて絡んできた。

「かまっちゃーん! 本当、この子かわいいね? 容姿はもちろんなんだけど、反応がいちいちかわいくて困っちゃうよ」

 まったくもってそのとおり……。

「でも、彼氏が無理でも友達ならどう? 俺ね、人と真っ直ぐ向き合おうとする人は男女問わず好きなんだ。だからこれ、もらってね」

 いつの間に用意していたのか、隼人先輩はメモを御園生に握らせた。

「俺の名前は滝口隼人。メモに書いておいたから、忘れたらメモ見て思い出して?」

 にこりと笑う隼人先輩とは反対に、御園生は勢いに負ける形でメモを受け取った。

 俺ができないことをこの人はいとも簡単にやってしまう。どうしたらそんなスマートに自分の連絡先とか渡せるんだろう……。

 自分の不甲斐なさなど今に始まったことじゃない。けれど、これは正直痛い。痛すぎる……。


「青木、助かった。巡回戻って。翠は巡回に出なくていいから会計作業に戻れ」

 突如割り込んだ低い声に視線を上げる。と、御園生の前には藤宮くんが立っていた。

 御園生はその言葉を鵜呑みにして立ち去ろうとする。

「御園生ちょっと待ってっ」

 俺は御園生に声をかけたつもりなのに、どうしたことか、俺の前には藤宮くんが立ちはだかる。

「翠に何か?」

 ……えぇ、ですから、御園生に用があるのであって、君に用はないんだけども――。

 しかし、そんなことを面と向かって言えるわけでもなく、気づけば御園生が間に入ってくれていた。妙に慌てたふうで、

「ツカサっ? あのね、鎌田くんは友達なの」

 ただ友達って言われただけ――それでも、俺にとってはすごく嬉しい一言で……。

 俺、御園生に友達って思ってもらえてたんだ。

 そのことだけがひどく嬉しくて、なんか一気に心が緩んだ。

「御園生、クラス教えて? これ、投票するから」

 校門でつけられたブレスレットのバーコードを見せると、

「あ、一年B組のクラシカルカフェ。私、午後の二時間はクラスに戻るから、もし時間があったら寄ってね」

 笑みを添えて答えてくれた。

 御園生が、笑ってくれた――。

 御園生は後ろの建物へを姿を消し、その場に残った藤宮くんを交えて会話が進む。

 みんながみんな弓道部だったこともあり、藤宮くんを知らない人間はいない。さらには同級生という変な親近感が湧いたのか、全国模試の話へと移行していた。

 二学期の全国模試は藤宮が上位を占める。それにはどうやら理由があったようだ。

「二学期は模試の平均が八十点以下の人間は後夜祭参加権がないから」

「えっ!? 学園祭の後夜祭参加権まで成績関係すんのっ!?」

「それが何か?」

「いや……やっぱ藤宮って半端ねぇ……」

「俺、女子はいないけど海新で良かったわ。藤宮に入れたとしても後夜祭参加権得られる気がしない……」

 下田とハルがうへぇといった顔をする。対する藤宮くんは見るからに面倒くさそうな対応だった。

 あまりにもしんとしたから、

「二学期はさ、藤宮の生徒に上位独占されちゃうから、うちの学校は『打倒藤宮!』になるんだ」

 そんなふうに言ってみたけれど、「へぇ」の一言で片付けられる。

 どうにも自分では間を持てそうになく隼人先輩を見上げると、

「なぁ、弓道場の見学とかできんの?」

「できる。校内マップは?」

 隼人先輩が校内マップをポケットから取り出すと、

「ここが現在地。この階段を下りたら校舎沿いに進めばいい。突き当たった道路向こうに弓道場の案内が出ているから、あとはそれにしたがって」

「じゃ、おまえらちょっと行ってこいよ」

「先輩は?」と思ったけど、にこやかな表情で「行け」と言われたも同然で、俺たちは弓道場へ向かうことにした。


 階段を下りつつ、

「かまっちゃん、ダメダメじゃん」

 ハルにダメだしをされる。

「初対面の隼人先輩に先越されてどうするよ」

 確かに……。

 初めて会った隼人先輩はこの短時間に自分の連絡先を書いたメモを渡し、さらには告白までしてしまった。

 隼人先輩が本気なのかその辺はあまり問題視してなくて、ただただ自分の不甲斐なさを嘆くのみ。

「俺さ、御園生の前に出るとあがっちゃってだめなんだ」

「中学んときから?」

「ま、そうかな……」

「確かにかわいいけど、そこまで緊張する?」

「放っといてくれ……」

「いやいやいや、今日ってかまっちゃんのためにあるような一日っしょ。ここでスルーしたらどこでいじるのさ」

 まったくもってそのとおりである。

 今日何もアクションを起こさなかったら、それこそ今日で終わりだ。

「チャンスはあと一回でしょ?」

 ハルの顔を見ると、

「午後、カフェに行かない手はないでしょーが」

 言われてゴクリと唾を飲みこんだ。

「うん……午後こそ――」

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