二日目その1 なんかまたお世話になった
大変遅れてすみません。忙しかった(汗)
暖かいベッドの中で、俺は目を覚ました。
クレアはまだ寝ているようだ。
俺は「ん・・」と唸りながら、重い体を起こした。
首や肩を回して、硬くなった体をほぐす。
「ん・・もう起きたのか?」
クレアがこちらに背を向けて横になりながら言った。
クレアが体を起こす。
「なんだ、お前起きてたのか」
「ああ、ついさっきから」
クレアが俯いた顔を上げ、こちらを向いた。
俺と顔を合わせる。
「ん?」
「うん?」
俺とクレアは互いの顔をまじまじと見る。
「・・・お前の寝起きの顔別人すぎ」
「・・・あなたこそ」
「「・・・・・・・」」
俺とクレアは固まった。
「って、お前だれ!?」
「キャアアアアア!?あなた誰!?誰か助けてええええええ!!」
俺とクレアと思ってた人はベッドから飛び起き、距離を取った。
「ミステ助けてえええええ!!いやあああああああ!!」
「ま、待て!とりあえず落ち着け!」
「殺されるううううううううう!!」
誰かさんが助けを呼び続ける。
寝室のドアが勢いよく音を立てて開いた。
「貴様が泥棒かっ!!・・って、貴様か」
ワンピースの寝巻きを着たクレアが俺を指差したが、すぐその手を下ろした。
「なんだクレアか・・・」
「じゃあ泥棒はこっちか!?」
「キャアアアアア!!泥棒が二人よおおおおお!!」
クレアが今度は誰かさんの方を指すと、その誰かさんは再び叫びだした。
「違うぞ!騎士の誇りにかけて、盗みなど私は働かない!!」
「キャアアアアアアア!!」
いい加減うるさいなこの女。
そう思った矢先、同じくワンピース姿のミストが部屋に入ってきた
「お母さん違うの。この人たちはお客さんで、泥棒なんかじゃないよ」
「え、そうなの?なんだあ」
さっきまで取り乱していたミスト母は落ち着きを取り戻した。
「母に言っておけばよかったんですけどね、起こすと悪いと思いまして。朝に言おうと思ったんですけど、まさかスピードさんが私のベッドに寝るとは・・・。スピードさんもとても気持ちよさそうに寝ていたので、起こすのが億劫で・・・」
「いや、起こせよ」
ていうか、俺はミストがいつも使ってるベッドで寝ちゃったのか。
におい嗅いでおけばよかったな。
あとでもう一度入ろう。
「ハハッ、貴様は間抜けだな。患者用のベッドで寝ろといわれただろう?ここはどう見てもいたって普通の寝室ではないか」
「昨日は眠すぎて頭回らなかったんだよ」
お前に間抜けとか言われるとなんか腹立つな。
ミスト母が口を開く。
「もう、ミステったら。そういう時は起こしてもいいのよ」
「ごめんなさいお母さん。次からは起こします」
ミスト母がミストから視線を外し、俺とクレアに顔を向ける。
「すみませんお騒がせして。泥棒とか言ってしまって」
「いや、俺も悪いので。こちらこそすみませんでした」
「気にしてないぞ」
年は40代くらいだろうか。
当然だが、ミストと同じく目は碧眼で肌色は白色だ。
ただ、髪の色だけはミストと違って茶色であり、むしろクレアの髪色に近かった。
「ところで、うちには何の用で?」
「・・・まあ、それを話すと長くなるのだが、ごにょごにょ」
「ワキガがひどくなる毒キノコをコイツが食ってしまって。そこで医者をされているミステリッテさんに診察してもらおうと思いお伺いした次第です」
「おい!ワキガとか言うな!私の脇は匂わないぞ!」
「はあ、そういうことでしたか・・・」
ミスト母は怪訝ながら納得した様子だった。
「毒キノコなら早く薬出したほうがいいんじゃないの、ミステ?」
「ああ、もうそれは大丈夫。毒キノコじゃなかったから」
「ならいいけど・・」
俺は口を開く。
「もう用は済んだので帰りますね。この度はどうもありがとうございました」
「私は何もしてませんが、また来てください。あの、よかったら朝も早いし朝食食べていきませんか?」
「えっ、さすがにこれ以上お世話になるわけには・・・」
さすがにこれ以上モタモタするわけにはいかない。
ところが、クレアの思考は俺のものとは正反対だった。
「本当か!?実はさっきから腹が減って仕方がないのだ。うれしい限りだ」
「そうですか。では今から食事の準備しますね。ミスト手伝って」
お前の辞書には遠慮という言葉はないのか。
ミストが返事をし、ミスト母に続いてドアに向かっていく。
「私も手伝うぞ」
「大丈夫です、人手は足りてるので。昨日夕食食べた部屋でくつろいでいてください」
「そうか」
そういうとミストは寝室から出て行った。
「世話になりっぱなしだな俺たち」
本来は俺のほうが世話をして惚れられる展開が当然じゃないのか?
「まあ、困った時はお互い様だしな」
お前は助けられてばかりだけどな。
とりあえず俺たちはミストに言われた通り、隣の居間でくつろぐことにした。
しばらく待つとミスト母とミストが料理を持って入ってきた。
パン数個と大きな瓶、切り分けられた肉と野菜類。
陶器製のコップが4人に配られ、取っ手がついた大きな瓶に白い液体が注ぎ込まれる。
まあ、牛乳だろうな。
中央に置かれた肉や野菜を取り分けて食べる。
「すみません、こんなお世話になって」
「いいですよ、困ったときはお互いさまです」
言う人が違うだけでこんなにも説得力が変わるとは。
俺はクレアとミスト母を見比べながら思う。
「なんだ?私の顔になんかついてるか?」
クレアが怪訝そうに俺を見つめる。
「いや、クレアとおばさんの髪色が似てるなと思って」
ミスト母の髪色はなぜかミストの髪色に似ておらず、むしろクレアに似ている。というか同じだ。
父に強く遺伝したのだろうか。
「まあ、同じクリミア人なのだから当然ではないか?むしろ貴様たちの髪のほうかおかしいぞ」
「ああ、人種が同じなら当然だよな」
ならばミストはクリミア人と何かのハーフなのだろうか。
「私の父はシーア人ですから」
「ほう、シーア人か。最近は移民も増えているらしいからなあ」
クレアが納得したように頷くと、今度は俺の方に向き直った。
「だが、黒い髪の人間など聞いたことがない。ある伝説上の主人公が黒髪だった気がするが、創作だしな。
貴様一体何者だ?どこから来た?」
俺は自信たっぷりにクレアの問いに答える。
「言っただろう?俺は神に選ばれし者、スピードだ。魔王を倒すため、異世界から召還された」
その時、その場の空気が一気に凍った。
「・・・・え?」
俺は向けられる冷たい目線と空気にさらされたことで、眠っていたある記憶がよみがえった。
小学校の授業が終わってクラスメイトたちが帰りの準備をしていた時、俺は帰り際に股間を手で隠し「股ねえ」という一発ギャグをかまし、盛大に空気が凍った記憶を。
その時の空気にそれは似ていた。
おそらく、この冷たい空気の感触を忘れることはできないだろう。
そして、この一度よみがえった記憶はしばらく眠りなおすこともないだろう。
たぶん、この一週間は絶対続く。