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一週間で魔王倒せと言われた  作者: 斉藤 瞬
一日目
6/7

一日目その5 なんか何もせずに一日目が終わった

俺たちはただ店員の帰りを待つ。

俺はすることもないので、女騎士に話しかける。


「なあ、お前はなんで俺を引きとめたんだよ?」

「ん?ああ、あの時か」


女騎士が答える。


「私もミステリッテと同じだ。嘘を言っている感じは無かったからな」


また感覚、か。


「ああ、それだけじゃないぞ。貴様は強いからな。一緒に行動すれば生き残れる気がしたんだ。それに・・」


そういうと女騎士は下に俯いた。


「貴様は私の恩人だからな。いつか恩を返したい」


恩?

俺はお前を助けずにただ見てたんだぞ?


「それ皮肉か?助けなくて悪かったな」

「ち、違う、そうではない!私の自決を止めてくれたこととか、動けなかった私を運んでくれたこととかだ!」


そういうと女騎士は顔をこちらに向け、俺の目を見て言う。


「お前がいなかったら私は今頃、自害か餓死だったろう。本当に感謝している」

「・・・面と向かって言われると、なんか恥ずかしいな」


彼女の碧い目がこちらを見つめる。

まじまじと見ると本当に美人だ。

今度はまた別の意味で恥ずかしくなって、俺は女騎士から目を逸らした。


「今度は私が助ける番だ。貴様が危ない目に遭ったら、私が命がけで助けてやる」

「おお、それは頼もしい」


女騎士が右手を俺に伸ばした。


「じゃあ、あらためてよろしくな。名は確か、スピードだったか?」

「そうだ。こちらこそよろしく、クレア」


俺は差し出された右手を掴み、クレアと握手した。

すると、やっと村人に別れを告げた店員が帰ってきた。


「ああ!私も入れてください!握手しましょう!」


ミストは俺たち二人だけが握手していたのが気に入らなかったのか、握手を強く求めた。

ミストに握手を要求され、テキトーにミストと握手する俺とクレア。

クレアがミストに問いかける。


「別れは済ましてきたのか?」

「はい。それでは行きましょう」

「そうだな」


クレアが立ち上がり、続いて俺も立ち上がる。


「それでは、魔王討伐に向けて出発だ!」

「ああ」

「はい」


その途端、クレアの腹からグウゥと音がなった。


「あ」

「そういえば俺も腹へったな」

「それじゃご飯食べてからにしましょうか。私持ってきますね」

「いいのか?ご馳走になっても」

「全然いいですよ」


ミストが部屋の奥に入る直前、こちらに振り返って言う。


「そちらに階段があるので、二階の部屋で待っててください」

「俺も手伝うよ」「私も」

「大丈夫です、持って来るだけですから」


そういうとミストは奥へと消えていった。


奥の扉の対角を見ると、確かに階段があった。

あまり大きくなかったのと、棚で隠れていたせいで今まで気付かなかった。

俺たちは階段を進む。

上り終えるとまっすぐに廊下が伸びており、左右に一つずつ扉がついている。

右側は寝室だったようなので、俺たちは居間と思われる左側に入った。

真ん中の円卓テーブルの椅子に俺とクレアは腰掛けた。


程なくして、ミストが土鍋と食器類を片手で器用に持ちながら来た。

土鍋にはシチュー?があり、俺たちは取り分ける。

後からパンを受けとり、シチューにつけて食べる。

肉や野菜、きのこなどいろんな食材が入っている。


「うまいな」

「ああ。うまい」

「それはどうも」


嬉しそうにミストは言った。


「作り置きにしては暖かいな」

「火はつけっ放しにしてるので」


現代人の感覚では考えられないな。火をつけるのが大変なんだろう。

俺は自分で納得しながら夕飯を食べ続けた。

前でクレアとミストが食事をしながら楽しそうに話している。


「料理が得意なのだな」

「まあ、仕事柄で調味料には詳しいので」

「羨ましいぞ。私が作れるのは肉の丸焼きと、魚の丸焼きと、きのこの丸焼きぐらいだ」


俺は吹き出しそうになって、口を押さえて下を向く。


「あ!今丸焼きだけじゃねえかとか思っただろう!絶対思った!」

「クク、丸焼きが・・料理って・・クク・・」


俺は笑いを必死でこらえる。


「ひどいぞ!人の不出来を笑うなど!」

「まあまあ、今度クレアさんには料理教えてあげますから」

「おお、それは本当か!見てろよスピード、いつか貴様に笑われないような料理人になってやるからな!」

「それは楽しみだな。いつか店開けよ」

「いや、さっきのは料理人並の腕という意味で、本当に料理人になりたいわけでは」

「クレアの店に行ったら他の店とどのくらいうまいか食べ比べしてやろう」

「クレアさんの店かぁ・・私も行きたいです」

「おい、なんで私が本当に店を開くことになっているんだ?店など開かないからな!」


俺とミストは大笑いする。

クレアはそれを見て大きなため息をついた。


食事も終わり、ミストが片付けに入る。


「ミステリッテ。今度こそ手伝う」

「俺も手伝うよ」

「大丈夫です。一人でできますから」

「そういうことではない。貴様が働いているのに、私だけくつろぐわけにはいかない」


クレアが真剣な声で言った。

クレアの顔が怖い。


「・・・じゃあ、皿洗いを手伝ってもらってもいいですか」

「分かった」


俺たちは食器を持って一階の台所に向かった。

台所には水の入った大きな桶があった。

棚から固形石鹸?を取り出し、皿につけて洗う。


そうか。水道とか無いんだよな。


俺とクレアはミストが洗った皿を拭く手伝いをした。


皿の片付けが終わると、急に眠くなってきた。


「あー、眠い」

「もう遅いしな」

「ではうちのベッドで寝ましょう。出発は明日ということで」

「ベッド三人分あるのか?」

「はい。病人用に用意してあるので」


そういえばミストは医者だったな。


「そうか。では私たちは今日ここで寝泊りすることにしよう」

「ありがとな」

「いえ」


俺は思い出して口を開く。


「あ、まだ風呂入ってない」

「じゃあ、出てすぐ左にあるのでどうぞ」

「わかった。お前らは入らないのか?」

「私はもう入ったからいい」

「あとで入りますね」


そうか、といいながら出口に出て左に向かう。

すると、目に入ったのは井戸のポンプと、そばに置かれた大きな桶。


「ええっ、これ?」


火をたいてお湯にしたりしないのか。

文化の違いか。


しょうがないので、桶に水を汲んでそのまま入ることにする。

俺はポンプのレバーを上下に動かした。

水が出てきたので試しに触れてみると、ぬるい。


「まあ、これくらいなら入れるか」


水をどんどん出し、桶をいっぱいにする。

俺は服を脱いで全裸になり、桶の中に体をつけた。


「うう、さむい・・・」


日本で熱々のお湯に慣れきってしまったせいで、ぬるい温度でも冷たく感じる。

ながいこと入りたくない。

俺は水の中に思い切り頭を入れ、頭皮をこすった。

シャンプーなども無いので、水洗いしかない。

冷たいので俺は早くに水からあがる。


「ああ、タオル忘れた・・・」


風呂の近くに当然あるものと思っていたので、持ってこなかった。

夜風に当たり、俺は凍える。

ミストに訊きに行かなければ。

そう思った時、ミストが家から現れた。


「あの、タオルを・・・あっ、す、すみません!」


ミストは慌てて俺の脱ぎ散らかした服の上にタオルを置いて、逃げるように戻っていった。

ミストの目線は一度完全に俺の股間をとらえていた。

俺の大事なところを見られてしまった。

もうお婿にいけない。


俺はタオルで体を拭き服を着て、ミスト家に戻った。

もう死ぬほど眠たい。

俺は強い眠気に襲われながら、夕食時に見た寝室に入る。

もうすでにクレアが寝ていたようで、すうすうと鼻息を立てていた。

俺はそのままの格好でベッドに入り込み、眠りに落ちた。


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