一日目その4 なんか店員に仲間になりたいと言われた
遅れてすみません
「私も共に行かせてください!」
俺と女騎士が固まった。
「えっ、なんで?」
「?」
店員が口を開く。
「・・・魔王を倒しに行くんですよね。しかも一週間でなんて、無茶すぎます」
「無茶でも行かなきゃいけないんだ、俺は」
「死にに行くようなものですよ」
「かもな」
「・・・・それでも、行くんですか」
「ああ」
店員は少し間を空けてから口を開く。
「私は治癒魔法を使えます」
「何、治癒魔法だと!?」
女騎士が急に大きな声を上げた。
「どうした?」
「知らないのか?治癒魔法が使えるものは非常に少ないのだ。本来ならこんな辺境な場所にいるはずないのだが・・・」
店員が力強く懇願する。
「必ず役に立ちます。私を連れて行ってください」
「仲間になるのは嬉しいけど、何でそんなことしてくれるんだ?」
「心配なんです。死んでしまうかと思うと」
「心配?さっきまで信用してなかった人間をか?」
「・・・あなたは、信頼できる人な気がする」
感覚、か。
「分かった。じゃあ連れてくよ」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、感謝するのは俺の方だけどな」
俺はそう言いながら店員に笑いかけた。
「これで俺らは魔王討伐の仲間だな」
「ああ、そうだな、よろしくな」
「よろしくお願いします」
少し辺りが沈黙する。
「そういえば俺たちまだ名前知らないな」
「うむ。立て込んでいて訊く暇がなかったな」
「ははは、そうですね」
俺はとりあえず自分から名乗ることにする。
「俺の名は斉藤瞬。勇者だ」
「私はクレヴァー・クレイカリヴァーだ。魔王討伐が目的だから、私も勇者だ」
「ミステリッテ=ミスターリズィです。それでは私も勇者ですね」
なんだか俺の名前だけ仲間はずれじゃないか?
俺は自分の新しい名前を思いついた。
「・・・待った、今の偽名!本当の名はスピード・スピットサイトだ。それに勇者は俺だけだ」
「偽名だと?私たちが信用できなかったのか?もう仲間だろう!?それと私だけが勇者だ」
「そうですよ!嘘つくなんてヒドイです。あと私も勇者です」
「別にいいだろ!本名言ったんだから!それに勇者は俺だけだっつってんだろ!」
「ふん、まあいい、許してやろう。それと私だけが勇者というのは譲れない」
「ではスピードさんですね。あと私も勇者です」
「・・・全く、そこまで言うんならミステリッテに勇者譲ってやるよ」
「私もだ。どうぞどうぞ」
「えっ、なんで私だけ!?やっぱり勇者いらないです!」
俺はなんだか愉快な気持ちになった。
「じゃあもう行こう。クレア、そして勇者ミストよ」
「クレアではないクレヴァーだ!」
「ミステリッテです!それから勇者はもういりません!」
「だってお前らの名前覚えにくいんだよ!」
「覚えやすいぞ!英語で覚えやすい単語ベスト3に入ると自負してるぞ」
「あだ名ですね。私は構いませんよ」
「そうだあだ名だ」
「まあ、名など分かればどうでもいいからな」
俺は一息ついてから、再び出発の合図を出す。
「じゃあもう行こう」
「ああ」
「あの、その前にちょっと・・・」
「なんだ?」
「?」
ミストが答える。
「村のみんなにお別れの挨拶をしたいのです」
「まあそれくらいなら」「うむ」
「あ、ありがとうございます。それではここで待っててください」
そういうとミストは出て行った。
ふと窓を見ると、外はすでに夜になっていた。
店内も相当暗く、窓から差し込む星明かりだけがあたりを照らしている。
「うわ、もう一日経っちまった・・」
本当にこんなんで間に合うのか?
明日から飛ばそう。
俺は床に腰を下ろした。
続いてクレアも座り込む。
「そういえば、なんでお前オークに襲われてたんだ?」
「・・・順序よく話そう」
「ああ」
俺はクレアの話を聞いた。
まとめると、クレアが空腹で道端に倒れているところを軍曹たちが通りかかり、そのまま人目のつかない森の中まで運び出され、あの状況になったということだった。
空腹で力もでないので、なすすべもなく捕まったらしい。
「うう、思い出すと今でも涙が・・・」
クレアは話が終わると泣き出してしまった。
「まあ元気だせよ。脇嗅がれるだけで済んで」
「でも、脇臭いと言われた・・」
「あれはきのこのせいだろ。お前がくさいわけじゃないって」
「関係ない。オークに脇臭いと思われたのだ・・私は」
「別にいいだろ。勝手に思わせとけばいい」
「良くない。貴様はオークに嗅がれることの意味を知らないのか?」
なんだよ。
「知らないなら教えてやる。オークにとっての嗅覚は、人間でいう味覚だ。奴らは匂いを味わうことを娯楽としている。そして、人間の女の匂いは中でも美味とされているらしいのだ」
「ええっ、そうなのか?」
「ああ。今まで私の仲間も味見されてきた」
なんか言い方がエロいぞ。
人間の女の匂いを嗅いで悶絶するオーク・・・
う~む。
「さらに、オークたちは女を味見して、とあるコミュニティで格付けしているらしいのだ。この前の女は甘いいいにおいだったとか、今回は少し臭くて癖のある匂いだったとか」
「それまたすごいな・・」
「そして私は、オークに脇を嗅がれてしまったのだ、あのきのこを食べた後に。この意味が分かるか?」
つまり、まさか。
「ああ、今頃きっとオークの間でうわさになっている。私は嗅ぐと痛いほどの激臭を持つ女だと。きっと風呂にも入っていない不潔な女だと広まっているのだ。うう、違うのに、ちゃんと綺麗にしてるのに、匂いには気をつけてるのに、うう・・」
「うわ、それはかわいそう・・」
クレアは再び泣き出してしまった。
俺はあの時を振り返る。
クレアがオークに襲われている時、俺はただ見ているだけだった。
オークと女騎士のエロいことが見れる!と自分のことだけしか考えていなかった。
こんなことになるなら、すぐに助けに入っていればよかった。
俺は後悔した。
すぐに助ければ、女騎士は俺に惚れて、最終的にギシアンできたかもしれないのに。
ああ、失敗した。
目先のことしか考えていなかったなんて、俺はなんて馬鹿なんだ。
「・・・ごめんな。助けに入ればよかった」
「うう、よいのだ。お前にそんな義務はない。無駄な戦闘は避けるべきだからな」
クレアが泣き止み、少し間があく。
「それにしても遅えな。アイツ」
「そうだな。もしや村の者全員をまわっているのではないか?」
ありえるな。
だとしたら相当かかるな。
暗闇の中で、俺たちはただ帰りを待っていた。