表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一週間で魔王倒せと言われた  作者: 斉藤 瞬
一日目
5/7

一日目その4 なんか店員に仲間になりたいと言われた

遅れてすみません

「私も共に行かせてください!」


俺と女騎士が固まった。


「えっ、なんで?」

「?」


店員が口を開く。


「・・・魔王を倒しに行くんですよね。しかも一週間でなんて、無茶すぎます」

「無茶でも行かなきゃいけないんだ、俺は」

「死にに行くようなものですよ」

「かもな」

「・・・・それでも、行くんですか」

「ああ」


店員は少し間を空けてから口を開く。


「私は治癒魔法を使えます」

「何、治癒魔法だと!?」


女騎士が急に大きな声を上げた。


「どうした?」

「知らないのか?治癒魔法が使えるものは非常に少ないのだ。本来ならこんな辺境な場所にいるはずないのだが・・・」


店員が力強く懇願する。


「必ず役に立ちます。私を連れて行ってください」

「仲間になるのは嬉しいけど、何でそんなことしてくれるんだ?」

「心配なんです。死んでしまうかと思うと」

「心配?さっきまで信用してなかった人間をか?」

「・・・あなたは、信頼できる人な気がする」


感覚、か。


「分かった。じゃあ連れてくよ」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、感謝するのは俺の方だけどな」


俺はそう言いながら店員に笑いかけた。


「これで俺らは魔王討伐の仲間だな」

「ああ、そうだな、よろしくな」

「よろしくお願いします」


少し辺りが沈黙する。


「そういえば俺たちまだ名前知らないな」

「うむ。立て込んでいて訊く暇がなかったな」

「ははは、そうですね」


俺はとりあえず自分から名乗ることにする。


「俺の名は斉藤瞬。勇者だ」

「私はクレヴァー・クレイカリヴァーだ。魔王討伐が目的だから、私も勇者だ」

「ミステリッテ=ミスターリズィです。それでは私も勇者ですね」


なんだか俺の名前だけ仲間はずれじゃないか?

俺は自分の新しい名前を思いついた。


「・・・待った、今の偽名!本当の名はスピード・スピットサイトだ。それに勇者は俺だけだ」

「偽名だと?私たちが信用できなかったのか?もう仲間だろう!?それと私だけが勇者だ」

「そうですよ!嘘つくなんてヒドイです。あと私も勇者です」

「別にいいだろ!本名言ったんだから!それに勇者は俺だけだっつってんだろ!」

「ふん、まあいい、許してやろう。それと私だけが勇者というのは譲れない」

「ではスピードさんですね。あと私も勇者です」

「・・・全く、そこまで言うんならミステリッテに勇者譲ってやるよ」

「私もだ。どうぞどうぞ」

「えっ、なんで私だけ!?やっぱり勇者いらないです!」


俺はなんだか愉快な気持ちになった。


「じゃあもう行こう。クレア、そして勇者ミストよ」

「クレアではないクレヴァーだ!」

「ミステリッテです!それから勇者はもういりません!」

「だってお前らの名前覚えにくいんだよ!」

「覚えやすいぞ!英語で覚えやすい単語ベスト3に入ると自負してるぞ」

「あだ名ですね。私は構いませんよ」

「そうだあだ名だ」

「まあ、名など分かればどうでもいいからな」


俺は一息ついてから、再び出発の合図を出す。


「じゃあもう行こう」

「ああ」

「あの、その前にちょっと・・・」

「なんだ?」

「?」


ミストが答える。


「村のみんなにお別れの挨拶をしたいのです」

「まあそれくらいなら」「うむ」

「あ、ありがとうございます。それではここで待っててください」


そういうとミストは出て行った。

ふと窓を見ると、外はすでに夜になっていた。

店内も相当暗く、窓から差し込む星明かりだけがあたりを照らしている。


「うわ、もう一日経っちまった・・」


本当にこんなんで間に合うのか?

明日から飛ばそう。


俺は床に腰を下ろした。

続いてクレアも座り込む。


「そういえば、なんでお前オークに襲われてたんだ?」

「・・・順序よく話そう」

「ああ」


俺はクレアの話を聞いた。

まとめると、クレアが空腹で道端に倒れているところを軍曹たちが通りかかり、そのまま人目のつかない森の中まで運び出され、あの状況になったということだった。

空腹で力もでないので、なすすべもなく捕まったらしい。


「うう、思い出すと今でも涙が・・・」


クレアは話が終わると泣き出してしまった。


「まあ元気だせよ。脇嗅がれるだけで済んで」

「でも、脇臭いと言われた・・」

「あれはきのこのせいだろ。お前がくさいわけじゃないって」

「関係ない。オークに脇臭いと思われたのだ・・私は」

「別にいいだろ。勝手に思わせとけばいい」

「良くない。貴様はオークに嗅がれることの意味を知らないのか?」


なんだよ。


「知らないなら教えてやる。オークにとっての嗅覚は、人間でいう味覚だ。奴らは匂いを味わうことを娯楽としている。そして、人間の女の匂いは中でも美味とされているらしいのだ」

「ええっ、そうなのか?」

「ああ。今まで私の仲間も味見されてきた」


なんか言い方がエロいぞ。

人間の女の匂いを嗅いで悶絶するオーク・・・

う~む。


「さらに、オークたちは女を味見して、とあるコミュニティで格付けしているらしいのだ。この前の女は甘いいいにおいだったとか、今回は少し臭くて癖のある匂いだったとか」

「それまたすごいな・・」

「そして私は、オークに脇を嗅がれてしまったのだ、あのきのこを食べた後に。この意味が分かるか?」


つまり、まさか。


「ああ、今頃きっとオークの間でうわさになっている。私は嗅ぐと痛いほどの激臭を持つ女だと。きっと風呂にも入っていない不潔な女だと広まっているのだ。うう、違うのに、ちゃんと綺麗にしてるのに、匂いには気をつけてるのに、うう・・」

「うわ、それはかわいそう・・」


クレアは再び泣き出してしまった。


俺はあの時を振り返る。

クレアがオークに襲われている時、俺はただ見ているだけだった。

オークと女騎士のエロいことが見れる!と自分のことだけしか考えていなかった。

こんなことになるなら、すぐに助けに入っていればよかった。

俺は後悔した。

すぐに助ければ、女騎士は俺に惚れて、最終的にギシアンできたかもしれないのに。

ああ、失敗した。

目先のことしか考えていなかったなんて、俺はなんて馬鹿なんだ。


「・・・ごめんな。助けに入ればよかった」

「うう、よいのだ。お前にそんな義務はない。無駄な戦闘は避けるべきだからな」


クレアが泣き止み、少し間があく。


「それにしても遅えな。アイツ」

「そうだな。もしや村の者全員をまわっているのではないか?」


ありえるな。

だとしたら相当かかるな。


暗闇の中で、俺たちはただ帰りを待っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ