一日目その3 なんか女騎士の世話をしてもらった
少なくとも二日に一話は更新する予定です。
執筆遅くてすみません。
「暇だし、覗きに行くか」
そう言った途端、店員が戻ってきた。
「あ、すみません、ホントいろいろと。お礼はしますので」
「いえいえ、いいんですよ。困った人を助けるのは好きですから」
俺は四方を見渡し、店員に尋ねる。
「ここはお店なんですか?」
「そうですよ。薬草を主に売ってます」
「このビンの中身全部薬草なんですか?」
「はい」
俺は続けて質問する。
「それで、アイツはもう大丈夫なんですか?後遺症とか」
「はい。ドクヤクサダケは、不味いのと体臭がひどくなる以外には無害なきのこですから」
「あれが無害・・?あの激臭は人間殺せますよね」
「まあ、ずっと嗅ぎ続ければ気は狂いそうですね」
軍曹は気が狂うどころか気絶したのだが。
「なんで食った本人は何ともないんだろう」
「鼻を麻痺させる成分が入っていると聞きました」
店員がふと怪訝そうな顔になった。
「それにしてもよくあれを食べられましたね。昔好奇心で口に入れたら胃の中をすべて戻してしまいました」
「そんなにまずいんですか」
「舌につけただけで強烈な吐き気が・・・ああ、思い出したくない。相当お腹が減ってたんでしょうね・・」
俺は初めて女騎士に感心した。
そうこうしていると、女騎士が戻ってきた。
「早かったな」
「軽く水浴びしただけだからな」
試しに口呼吸から鼻呼吸に変えてみると、匂いは全くしなかった。
臭みは完璧に取れたらしい。
女騎士が店員に体を向ける。
「いろいろと世話になった、感謝する」
「いえいえ」
「礼をさせてほしい」
「いいですよ。お金の無い人にも薬をあげたりしてるので」
「いや、そういうわけにはいかない」
女騎士の顔が怖い。
「えっと、では、薬の代金だけ頂きます」
「いくらだ?・・って、あれ?」
女騎士が自分の体のあちこちを見る。
「金が無い、何故だ!・・・あっ、三日前に使い果たしたのを忘れていた」
「あはは、ならいいですよ」
俺はこの女騎士は本当にバカなのではないかと感じた。
「じゃあ俺持ってるから出しとくよ」
「いや、私の分を払ってもらうわけには・・」
「気にすんなよ。俺たちもう仲間だろ?」
「・・・ああ、そうだな!では恩に着るぞ!」
女騎士が男泣きをしている傍らで、俺は店員に向き直る。
「店員さんいくらですか」
「10000ガスクです」
いくらだよ。
「じゃあ、これで」
俺はさっき軍曹からくすねた金貨を一枚渡した。
金貨なのだから足りないことは無いと思う。
「・・・・・・・」
店員が一度固まり、俺を見る。
「あれ、足りませんでした?じゃあこれ全部あげます、手持ち全部です」
店員が袋を受けとって中身を見ると、また俺を見た。
「あ、いや、これ以上は払えないので勘弁してください」
あれおかしいな。
この金貨メッキなのか?真鍮製?
この世界の金はそれほど価値ないのか?
俺はふと江戸時代末期の小判は3000円ほどだったとかテレビのおっさんが言ってたのを思い出した。
「・・・お願い」
「えっ?」
「お願いします。どうか、見逃してください」
店員は床にへたりこむと、口を押さえて泣き出した。
「私、お金なくて・・お店の経営も赤字で、いつも村のみんなに恵んでもらって生きているんです。払えるお金なんてどこにも・・・」
「えっ?」
「ああ、まさか、金ではなく体で?そんな・・・」
「えっ?えっ?」
「どこかに奴隷として売って、屈強な男たちに囲まれて、かわるがわる・・・うう」
「何が!?」
店員が号泣し始めた。
「貴様ぁ!私の恩人になんてことを!」
「なにもしてねーよ!」
「貴様本当に最低だな。仲間だと思っていたのに、見損なったぞ」
「だからしてねえって!」
「とぼけるな!大金を与えるということは、後日利息つきで取り立てに来るということだろう!」
俺は闇金業者か。
「違う!本当にやるつもりでやっただけだ!返して貰おうとか思ってないし!」
「・・・そうか、すまなかった。しかし、そんな大金を与えるとは、貴様は王子か何かか?」
「・・・なあ、そんなにこの金貨は価値があるのか?」
「あるも何も、それ一枚で一生遊んで暮らしても余る。金銭感覚どころか硬貨の価値すら分からんとは、さすが王子だ」
「王子じゃねえよ」
軍曹金持ちすぎだろ。
俺は泣いている店員のそばでしゃがみこむ。
「あとで回収しにきたりとかしないから。これは本当に感謝のしるし」
「・・・でも、こんな金額、受け取れません」
「いいですって」
軍曹のお金だけどな。
「そんな、恐ろしくてとても・・・」
「じゃあ一枚だけでも」
「駄目です、駄目です」
俺は棚の薬草が入ったビンを見る。
「じゃあ何か高価な薬草をください。それでいいでしょう?」
「・・・・・・・・」
店員は何も言わずに首を振った。
「そんなに俺のこと信用できないか?」
「・・・・・はい」
やっぱり、こんな格好だと怪しまれるか。
俺は女騎士に向き直った。
「だそうだ。行くぞ女騎士」
「どこへ行くというのだ?まだその者に礼をしていない」
「お前今のやり取り見てなかったのか?お前は金持ってないし、俺は渡せないし、どうしようもない」
「ならば私がここで働いて払う」
「だめだ」
俺は女騎士の言葉を切って捨てた。
「なぜだ?そのぐらい許してくれても良いだろう」
「俺たちには時間がない。そんな事をしている暇はない」
「確かに魔王軍の侵攻はすさまじいが、今に占領されるわけではないだろう?そんな焦らなくても」
「いいや、迅速に対処しなきゃいけない。魔王が全世界を占領するまで、あと一週間だ」
部屋の空気が凍った。
「・・・何の冗談だ?何も面白くないぞ。いくら何でも早すぎる」
「冗談じゃあない。これは本当だ。この世界はあと7日で滅ぶ」
「ははは、付き合ってられん。勝手に言っていろ」
「・・・そうか、なら俺は先に行く。お前はここで草取りの仕事でもしてろ」
俺は出口へと向かう。
扉に手をかけようとした時、後ろから腕を掴まれた。
「ま、待て、本当なのか?今の話」
「ああ、本当だ。信じないなら来んな」
俺は女騎士の手を引き離し、扉を開ける。
すると女騎士が俺に掴みかかってきた。
「信じる、信じるから!私を置いていかないでくれ!」
「う~ん、どうしようかな~。さっきサイテーとか仲間じゃないとか言われたしな~」
「それについては謝る!本当に済まなかった!今はそんなこと微塵も思っていない!だから先に行かないでくれ、頼む!」
女騎士はいつのまにか俺の背に抱きついていた。
「ま、そこまで言うなら連れていってやるよ」
その言葉を聞いた女騎士はそっと胸をなでおろした。
俺は店員に向き直る。
「この度はどうもお世話になりました。こんな迷惑な娘の面倒を見てくださって」
「いろいろと助かった。礼をできなくて本当に申し訳ない」
「・・・・・・・・」
店員は黙っていた。
「じゃあ行くか、急ぐぞ」
「ああ」
俺たちは再び外に向き直る。
「待ってください」
不意に後ろから声がかかった。
「私も共に行かせてください!」
店員の意外すぎる一言に、俺たちは驚くしかなかった。