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一週間で魔王倒せと言われた  作者: 斉藤 瞬
一日目
3/7

一日目その2 なんか女騎士を助けてもらった

「う、うう・・・」


女騎士がむせび泣いている。

すぐ傍には軍曹のオークが倒れている。


「お~い、大丈夫か?」

「ぐすん、大丈夫じゃない」

「そ、そうか」


うむ、どうしたものか。


「・・・ひ、ヒドいよぉ」

「まあ、元気だせよ」

「・・・ぐすん」


俺は倒れている軍曹に向き直り、軍曹の体をまさぐる。

何か金目のものを持っているかもしれない。


ふと女騎士が口を開く。


「貴様、強いのだな」

「ああ、見てたのか」


軍曹の体をまさぐっていると、何か袋が出てきた。

中をあけてみると、十数枚ほどの光るコイン。

金貨か?


「あれほどの筋力強化魔法を使える者は私の騎士団にもいないぞ。貴様本当に何者だ?」

「だから勇者って言ってるだろ。あとさっきのは筋力強化魔法じゃない」

「違うのか?」

「似てるけどな」


袋をひっくり返して、金貨を全部だした。

黄金色に輝く金貨。

俺は思わず「おお・・」と感動する。

俺は金貨を袋に戻し、袋ごとポケットに入れた。


「貴様、勇者と言ったな?魔王を倒すつもりなのか?」

「そうだ。それだけが目的でここに来た」

「ならば、共に行動しないか?実は私もなのだ」


仲間か。


俺は女神の言葉を思い出す。


仲間にしたほうがいいんだっけか。


「嫌だ」

「な、なぜだ!」

「いやあなたのワキガはちょっと・・・戦闘に支障がでる」


戦闘どころか生活に支障きたすわ。


「う、うう、や、やはり私の脇は、そんなに臭いか?」

「ああ臭い。臭み通り越して痛いくらいな」

「ヒ、ヒクヒク、今までこんなことはなかったのに」

「いやそれ絶対うそだろ」


その激臭で共同生活が送れるはずがない。


「ほ、本当なのだ。生まれてから一度も脇どころか体が臭いと言われたことがない。信じてくれ」


涙目になった女騎士が俺を見つめた。

女の子座りの形になっているので、自然と上目遣いになる。

かわいい。

顔も良く見ると綺麗で、美人だった。



「あ、やはりアレか」

「?」

「いや実は少し前に、あるキノコを食べたのだ。紫色でとてつもなくまずかったし、あれが原因に違いない、うん」

「それ毒キノコじゃね?」


女騎士が固まった。


「やはりか、やはりそうなのか!?ど、どうしよう!?死ぬのか、私は死ぬのか!?」

「だって紫色って絶対やばいだろ。これは死ぬな」

「嫌だ、死にたくない!頼む、助けてくれ!」

「わああ、寄るな臭い!お前さっき『くっ、殺せ!』とか覚悟してたくせに!」

「戦死は構わんが、毒キノコを食べてワキガになって死ぬなど恥ずかしすぎるだろう!」

「ハッ、自業自得だろうが。安心しろ、戦死も毒死も同じ死だ」

「戦死とワキガ死は別物だ!」


女騎士が自分の腰をまさぐり始めた。


「何をしてる?」


女騎士が腰からナイフを取り出した。


「どうせ死ぬならば、せめて自分で・・・」


おい、まさか!


「待て、早まるな!シリアス展開だけは許さないぞ!」

「シ、シリアス展開だと?何をわけの分からないことを、いいから離せ!」


俺は左手が使えないので、右手だけでナイフを掴む。

そして女騎士の手からナイフを引き離した。


「くっ、騎士の誇りがあるうちに死ぬことも許さないというのか」

「・・・・・・・・・・・・」

「怪しい格好と思ってはいたが、やはり人ではなかったか。この人間の皮を被った悪魔め」

「・・・・・・・・・・・・」

「鬼!悪魔!!」

「・・・・・・・・・・・・」


きれいな女騎士のお姉さんに罵られるのって、なんかいいな。

なんだか目覚めそうになった俺は口を開く。


「まあ待てよ。まだ死ぬと決まったわけじゃない。ひょっとしたら万に一の確立で生き残るかもしれない」

「そんな奇跡に希望を持てというのか?あんなに紫色で毒々しいキノコを食べたというのに、助かるわけがない!」


じゃあ何で食べたんだよ。


「とりあえず医者に診てもらえよ。話はそれからだ」

「くっ、分かった、一応診てもらってから死ぬとしよう」

「もし毒きのこだったら、俺が安らかに死なせてやる。墓もちゃんと立ててやるからな」

「ほ、本当か?良ければ私のことをずっと覚えていてほしい。私という人間が魔王討伐を目指し、志半ばで死んでしまったことを。誰かに忘れられたまま一人で死ぬのは、怖いのだ」

「分かった。お前という勇敢な女騎士がいたことは絶対に忘れない。俺が魔王を倒した後には、お前の生き様を世間に伝えよう」

「そうか。お前のような戦士に看取ってもらえるとは、私は幸せだ」

「・・・・・・・そろそろ行こうか」

「ああ、と言いたいところなのだが・・・」


なんだよ。


「空腹で体に力が入らないのだ。すまないが運んでくれ。実は私はもう三日も何も食べてない」

「いや毒キノコ食っただろ」

「あんなもの食べ物ではない、嘔吐物だ、嘔吐物」


俺はしゃがんで、女騎士に背を差し出す。


「すまないな。私は重いぞ、鎧脱ぐか?」

「いやいい」

「さすがだな」


あなたの体臭がさらにキツくなりそうだからな。


女騎士が俺に身を預けた。

俺はそれを確認すると、立ち上がる。


「さっきはその、済まなかったな、悪魔とか言ってしまって・・・」

「いいって」


俺も女神に同じこと言ったしな。人のことは言えん。

それに、あなたのようなお姉さんに言われるのは、嬉しかった。


「んじゃ、行くか」

「ああ」


俺は再び、この森の中を走り出した。

体のあちこちに枝や草が当たるが、それをもろともせず走る。

俺は走り続けた。


「おい、そっちじゃないぞ」

「どっちだ?」

「こっちだ」


女騎士が方向を指差す。


「って俺たちが来た方向じゃねえか!早く言えよ!」

「あまりにも早かったものでな。言うの忘れてた」


俺たちは来た道をまた走りだした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


しばらく走り続けると、だんだん木の密集度が落ちてきた。


「もう近いぞ」


森の密度が下がり、空から差し込む光が多くなる。

やがて俺たちは開けた土地に出た。

俺たちは立ち止まって周りを見渡す。


あたりには小麦畑が広がり、その上にヨーロッパ風の民家が乗っている。

木がところどころに生えており、小道も走っている。

山がその周囲を取り囲むようにして立っていた。


田舎の盆地だ。


俺は畑仕事をしている一人のじいさんを見つけた。

近くまで駆け寄り、話しかける。


「あのー、すみませーん」


じいさんが振り向く。


「なんだ」

「この辺りに医者っていますか?この人毒キノコ食べちゃって」

「それならあの赤い屋根の家にいる娘を訪ねるといい」

「あ、どうもありがとうございました」


俺はその家を訪ねた。

鍵がかかっていなかったので、そのまま入る。

中では、大量のビンが周囲を埋め尽くしていた。

いろんな色の中身があって、実にカラフルだ。


「あ、お客さんですか?」


横を見ると、二十代と思われる若い女が出てきた。


「この人毒キノコ食べちゃったみたいで、一応診てくれませんか」

「毒きのこですね。きのこの特徴は・・くさい!」


店員の女が鼻は押さえた。


「う、うう・・ぐすん」

「あ、鼻押さえるの言うの忘れてました」

「きのこ・・激臭・・まさか・・」

「どういうきのこなんですか?」


店員の女が答えた。


「これは・・・ドクヤクサダケですね」

「『ドク』だと!私はもう死ぬしかないのか・・・」

「お前の最期は、俺が見届けてやるからな」


店員の女が俺たちを見ながら苦笑する。


「貴様、何がおかしい!私が死ぬのがそんなに嬉しいか!」

「あ、すみません!でも、ドクヤクサダケは無害なきのこなので、死んだりはしませんよ」

「えっ、そうなのか?」

「はい。その毒々しい見た目とあまりにもまずい味から、これは毒に違いないと考えられてつけられたらしいですよ」

「そうか、私、生きられるのか・・」


女騎士の目から、大粒の涙が溢れ出した。

その濡れた顔を俺の肩に押し付ける。


「良かったな。毒キノコじゃなくて」

「私、怖かった、覚悟していたつもりだったが、内心震えていた」


女騎士が俺の上でわなわなと震えている。


いくら気高き女騎士とはいえ、中身は可憐な乙女。

自分の怯えた心を、騎士にふさわしく律してきたのだろう。


「ええと、じゃあ消臭薬持ってきますね」


そういうと、店員の女は奥に入っていく。

俺は泣いている女騎士の頭を右手でそっと撫でた。


しばらくすると、店員が白い液体の入ったグラスを持って戻ってきた。


「これを飲んでください。一晩もすれば匂いは出なくなります」

「分かった」


女騎士がグラスを手に取り、一口飲んだ。


「う、にがくてまずい・・」

「がんばってください。薬は苦いものです」


女騎士は覚悟を決めて、グラスをひっくり返した。

辛そうな顔をしながら、ごくごくと飲み込んでいく。

なんかエロい。

白い液体を飲み干し、咳き込みながら息をする女騎士。


「ゴホッ、ゴホッ」

「だ、大丈夫ですか?」

「問題ない」

「では、体についた匂いを落としましょう。お風呂貸しますのでこちらに」

「そ、それは嬉しいが・・・その前に・・」

「?」

「何か食べるものをくれ・・・死にそうだ」


俺が付け加える。


「この人三日も何も食べてなくて、きのこを除いて」

「分かりました、すぐに持ってきますね。それまでそちらに腰を下ろしてください」

「すみません。こんな人のためにいろいろしてもらって」

「いえいえ」


店員が再び奥に戻り、俺は横にあった椅子に女騎士を腰掛けさせた。

すぐに店員がパンと白い液体の入ったグラスを持って戻ってきた。

店員がそれらを女騎士に差し出す。


「ま、また飲めというのか?こんなまずい物を」

「違いますよ、これは牛乳です」

「牛の乳か」


女騎士は先に牛乳のグラスを手に取ると、すばやく口につけてグラスをひっくり返した。

ごくごくと、今度はとてもおいしそうに牛乳を飲み込む。

さっきは嫌そうにしてたくせに、今はこんなに嬉しそうに飲みやがって。

女騎士が牛乳を飲み干した。


「お前、そこまで堕ちたか」

「何のことだ?」

「いやなんでもない」


女騎士が続けてパンにかぶりつく。


「む、噛み切れん・・そうだ牛乳、ハッ、全部飲んでしまった・・」

「お前バカだろ」

「ははは・・おかわり持ってきますね」


また店員が戻る。


「くっ、これしき、噛み千切ってみせる・・!」


女騎士は悪戦苦闘していた。

すぐに店員が牛乳を持って戻ってくる。

女騎士が牛乳を受け取り、パンを牛乳でやわらかくして食べる。

もぐもぐととてもおいしそうに食べる。

完食した。


「よし、元気が沸いてきたぞ。魔王でも何でも倒してやる!行くぞ勇者!」

「あ、あの、お風呂は・・・」

「あ、はい」

「ではこちらに」


女騎士は店員に連れられて外に出る。


「覗くなよ。覗いたら殺すぞ」

「分かってるよ」


そういうと女騎士と店員は姿を消した。

ここにただ一人残される俺。


窓を見ると、既に日は落ちかけ、暗くなり始めていた。


もう夕方かよ。

この調子で一週間って間に合うのか。


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