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01-27 『タケヤ対拷問官(9) 三十一桁』 2月1日

 この人は怒らせたらいけない種類の人だ。なんとしてでも、話題を変えなければならない。

 タケヤは言った。

「ところで、僕が元の世界に帰る方法はあるんでしょうか?」

「……唐突ですな。今まで気にもしてなかったのに」

「気にしてますよ! 置かれてる状況が異様過ぎて、後回しになってるだけです」

「あぁ、帰る気はあったんですね。うどんのことしか頭にないと思ってました。

 結論から言いますと、恐らくあります」

「恐らくって何ですか?」

「帰れたかどうか、証明する方法がありません。一度戻って、再びこの世界に来た人が居ないと検証できないでしょ」

「そりゃそうです。といいますか、その言い方だと、異世界と行き来する手段じゃないんですね?」

 村長代理はうなづく。

「そうです。論理としては異邦人、タケヤ君のように別の世界から来た人を異邦人と呼びますが、異邦人を元の世界に戻す方法ですね」

「村長代理はその方法を知ってるんですか?」

「知ってますよ」


 タケヤの顔が明るくなる。

「教えてください、村長代理!」

「お断りします」

「どうしてですか!」


 村長代理は意地悪く笑う。

「情報ってのは無料じゃないのですよ」

「お金なんか持ってませんよ」

「情報には対価が必要です」


 タケヤは口を開く。たまに鋭いなと村長代理はタケヤの言葉を聞いて思った。

「おかしいじゃないですか。戦闘方法だって情報でしょ? 僕は対価を払ってないのに教えてくれたじゃないですか」


 あれは三十一桁を呼び出すための手段である。だが、彼に説明しても意味はないだろう。拷問官は嘘を吐かない。しかし別の真実を語ることはある。

「取り引きしたのは村長ですよ。彼からある程度の戦闘訓練を、村人にするようにも頼まれてます」


 納得いかない表情のタケヤに村長代理は言った。

「戻る方法があるという情報もかなりの情報ですよ」

「そりゃまあ、そうなんでしょうが」

「どちらにしろ、この村の中じゃどうにもなりません。外の世界に出て方法を探しなさい」


「うーむ」

「諦めてちゃ始まりませんよ、タケヤ君」

「でも悩みますよ。少なくとも年末を除けばヒノデ村に居れば安全なようですからね。外に出たらとんでもない異世界だったら洒落になりません」


 これを弱気と切り捨てるのは酷だろう。何せここは異世界で、しかもヒノデ村だ。彼の視点では外の世界がどうなってるか判るはずもない。

 村長代理はタケヤに教えた。

「恐れることはないです。貴方にとっては異境でしょうが大丈夫です」

「大丈夫と言われましても」

「同じです。ここもタケヤ君の居た世界も別の異世界も。世界は甘くないですが、かといって貴方を特別に憎んでるわけじゃない」


「もうちょっとヒントが欲しいですね。何か取り引きに使える情報ってないかな?」

「よいでしょう。三十一桁の抜け殻という情報は貰いました。情報はないという情報だって立派な情報です。

 いいですかタケヤ君。外の世界にでたら、包み隠さず自分が異世界からの来訪者、異邦人だと話しなさい。

 そういう人は保護されます」

「三十一桁? いや、警察っぽい組織があるんですね」

「人道的見地からの保護とかほざいてますが、異界の物資、技術を欲しがってる連中です。私は嫌いですがね、アイツらは」


「ヤバい連中なんですか?」

「いえ。私が嫌ってるだけです。貴方の所持品と引き替えに数年の保護とこの世界で生きていくだけの教育はしてくれます」

「微妙だなあ、正義の組織に見せかけて悪い組織な感じが」


 村長代理は笑った。

「そういう面倒な連中ではないです。所持品を渡すのが嫌なら、保護を断ればよろしい。断ったからといって付け回すような組織ではないですよ」


 真実は隠したが、嘘は言ってない。タケヤに与えたこの情報が実を結ぶか知れないが、村長にこれぐらいのサービスはしてやってもよかろうと、拷問官は考える。


 タケヤは言った。

「よし、そういうことなら腕を上げて外の世界を目指すとします!」

「そう簡単にはいきませんが目標があるのはよいことです。ヒノデ村からの脱出は難題ですし、元の世界に戻る技術を探すのも手間で、それを実行するのはもっと大変です」

「他にすることもないですしね!」

「そこは、覚悟の上です! とか言っといてくださいよ」


「それはそうと、村長代理。村長代理と会ってから、なんか時間が飛ぶような変な感じになるんですが。これはなんでしょ?」

「気にしなくていいです」

「病気と」


 そこでまた、タケヤの動きが止まる。

 タケヤとの会見もそろそろ終わりにしたい。薬煙を止めれば彼の断続的な停止も終わる。

 村長代理、いや拷問官が煙を止めようとパイプに手を伸ばした時、タケヤは言った。

「手間かけさせたなジジィ。その変な煙はもうちょいばらまいといてくれ」


 拷問官は瞬時に飛びすさり、杖を構えた。拷問官の目前に居たのは、書類にあった写像のままのタケヤだった。人間離れした整いすぎた顔。

「……貴方は」

「たぶん三十一桁だな。三十一桁ってのが何かは知らんが。俺に用事があったんだろ? いいぜ相手してやる。知りたいことでもあるのかい?」



 今度の時間の飛びは特に酷い。何分ぐらい時間が飛んだのだろう? 煙の形とかのレベルじゃなく、影の位置が変わってる。

 村長代理は相変わらず僕の前にいるから何時間ってことはないだろう。

 ん? 村長代理は真顔でこちらを向いてる。

 それは構わないけど、どうして全身から汗を流しているのだろうか。

 燐銅を何発も撃った時とは違う。

 息が上がった様子はなく、ただ汗がダラダラ流れている。冷や汗か熱射病で倒れる寸前という感じだ。

 村長代理と見つめ合ってても仕方ないので何か話そう。

「そうだ! 村長代理は任期が過ぎたら外の世界に戻られるんでしょ? もし僕が外の世界に出られたら元の世界に戻る方法を一緒に探してください……あ、違ったか。

 村長代理は元の世界に戻る方法は知っていて、僕がそれと交換できる情報をもってなかったんですね」


 村長代理の汗は止まらない。口にくわえたパイプからは煙が出ていない。

 村長代理は言った。

「元の世界に帰りたいですか?」

「そりゃ帰りたいですよ! 好きでヒノデ村でうどん食べてるわけじゃないんですよ!」

「ヒノデ村から脱出したいと?」


 なんかさっき話してた会話の繰り返しだ。また変なループが始まってるのかと思ったが村長代理の顔色を見る限りそうではないようだ。それどころではない緊迫感さえある。


「ですね。そのために剣の腕を上げて」

「タケヤ君。貴方をヒノデ村から逃がして上げましょう。元の世界に戻る方法も教えます。元の世界に戻る為の手配もしましょう」

「でも、そこまでしていただく対価に釣り合うような情報は持ってないですよ」

「情報はいただきました」


 これは何の冗談なんだろう。笑い所が判らないが愛想笑いの一つでもしておこう。

「ありがたいですが、付けときます。それにあれじゃないですか、僕が腕前上げて村の人の訓練しないとヒノデ村が全滅しますよ!」


 やはり切り返しとして甘かったのか、村長代理はピクリとも笑わない。

「判りました。今は付けておいてください。しかし必ず代償はお支払いします」


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