01-23 『タケヤ対拷問官(6) 生体都市』 2月1日
村長代理が教えてくれる、剣や村のシステムの話は面白かった。
ただなんだろう、この違和感。パイプの煙が目に染みるとかそういうものではない落ち着かない感じにさっきからつきまとわれている。
意識がはっきりしている、妙なうたた寝感。ショボいゲームの処理落ち、古い映画のカクツキ感。一秒に遙かに満たない短い時間が飛んでいる感覚だろうか。
そうか、パイプの煙だ。煙がなかったらこの違和感を意識できなかった。
普通、煙の形はなめらかに変わっていくはずなのに、そうではない。
煙の動きがギクシャクしている。
ヒノデ村、そして自分のおかれている状況はまだはっきりしないが、どちらにしろ出来ることは少ない。
村から脱出をするにしろ、鬼と戦うにしろ、今の僕には手段というものがほぼない。
メンテナンスフリーである、ゆっくりと燃える黒い炎の剣の使い方を教えてもらえるならこれほど助かることはない。
目の前では村長代理が、斬り落とした僕の左手を、バトントワリングのように、くるくる回しながらこちらを見ている。
あぁそうか。左腕が斬り落とされたのだ。
「うわ! 腕が斬り落とされた!」
村長代理が言った。
「つまらないリアクションですね。
まったく、生体都市のおかげで仕事がやりにくくて仕方ない。言っておきますがタケヤ君。生体都市にいけば誰でもどんな怪我でも治るってわけじゃありませんからね。
サイズの合う別の腕を用意するのだって大変なんですから。第一、ヒノデ村から脱出するのだって」
「あの、村長代理?」
「はい」
「生体都市ってなんですか?」
「何言ってるんですか、南極山脈を越えて外南極草原の先にある……もしかしてタケヤ君、あなたは生体都市を知らないと?」
「はい」
「生体都市の存在を知らなくて、腕を斬り落とされた時の台詞が『うわ! 腕が斬り落とされた!』ですか。やはり、いろいろと凄いですねタケヤ君。
……肉体を破壊され、取り乱さないのなら戦士の資質はありますね」
「そうなんですか、ありがとうございます!」
「褒めてるんじゃありません、十人中六人ぐらいは持ってる素質ですよ。腕を吹っ飛ばされるような状況は、腕のことを心配してられる呑気な状況ではないのがほとんどですからね。
生体都市も知らずに『うわ! 腕が斬り落とされた!』なんて台詞を吐けるのは何万人いてもタケヤ君だけでしょうが」
「ところで、ゆっくりと燃える黒い炎の剣の使い方は」
「あのね、タケヤ君。この状況で懇切丁寧な指導があると思いますか? 実戦でいきますよ。その黒剣で私と戦いなさい」
「えー、そういう泳げない人を海に放り込んで泳ぎ方を覚えろ的なやり方はどうかと思います」
「大丈夫、手加減はします。村長に村人は殺すなと言われました」
「おぉ、そうなんですか!」
「殺さなきゃ何してもいいと解釈してます。いい加減に出てきなさい三十一桁」
「はい?」
「いえ、こちらの話です」
ポイと人の左腕を投げ捨て、村長代理は自分の腕に引っかけていた杖を構える。
左手にパイプ、右手の杖の構えはフェンシングに似ていた。




