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01-02 『異形の剣』 2月1日

 タケヤは慣れぬ農作業に苦労するかと思ったが、村人がずぶの素人に複雑な作業を要求するはずもなく、雑事の手伝いぐらいしかすることはなかった。


 年末の鬼襲撃時に村の建物の幾つかは焼け落ち、再建の大工仕事(の手伝い)もあったがそれでも忙しいと言えるような状況でもない。


 今日は朝から休みである。


 詰め襟の黒い学ラン姿のタケヤはスラリとして見える。

 髪型は2ブロックの少々ボサッとしたショートだ。

 これで引き締まった表情の一つでも出来れば、そこそこの美形に見えなくもないかもしれなかったが、生憎、表情が緩い。致命的に緩い。


 お世辞でタケヤ顔を褒める羽目になった人間なら、だれしも少し考えて『温和そう』『優しそう』と答えるだろう。


 食堂で早めの昼食を済ませたタケヤは、村はずれの資材置き場で剣を振るっていた。

 剣の鍛錬だ。


 既に三十センチ程度に切りそろえられた丸太が資材置き場に保管されている。

 その丸太を鉈で縦に割り、薪にする仕事を、鉈の代わりに剣でやってみようという魂胆である。


 薪割りの土台にする、切り株の上に丸太を立て、タケヤは大上段に構えた剣を振り下ろす。

 スコン。

 丸太を外れ、剣は土台を叩く。


 気を取り直し、再びタケヤは剣を振り下ろす。

 カン。

 丸太の端に剣は当たり、丸太は明後日の方向に飛ぶ。


 丸太を拾い、三度目の挑戦だ。

 今度は慎重にいこうと、緩い顔の眉間に皺が寄る。

 振り落とされた剣は丸太を真芯に捉えた。

 ジャッ。

 とても木と金属がぶち当たったとは思えない音が響く。

 丸太は斬れていない。ただ剣に触れた部分はささくれ、木の繊維がむき出しになっている。


 タケヤは、ささくれだった丸太を手に取る。

「やっぱり斬れるわけないなあ。イシガキハカセの言ったとおりだ」



 キガシラに形見の剣を貰ったはいいが、タケヤにはこの剣の使い方がとんと判らなかった。


 使い方を知ってそうな戦闘班の皆様は年末に綺麗さっぱりと全滅、他の村人に尋ねても、この学生さんは何を言ってるんだという表情で、

「剣なんだから斬れば斬れるでしょ? 押したり引いたりで。キガシラさんはそうやって、色々なモノをぶった斬ってたよ」

 との返事が戻るばかりだった。


 村人の言葉はもっともで、タケヤも木っ端の木材で試し斬りを試みたが、これが斬れない。見事なまでに斬れない。


「大変じゃタケヤ君! その剣には刃がない! 刃がない刃物とはこれいかに!」

 と、イシガキハカセがいつもと同じく大騒ぎしたように、そもそもこの剣には刃がない。


 幅三センチ、長さは七十センチ、厚みは一センチの、平べったく黒い四角柱。

 剣と呼ぶにはあまりに異形過ぎる。

 まさか異世界にセンチ基準のメジャーなり定規の類いがあるわけでなく、数字はタケヤとイシガキハカセの目算だ。


 1:3:70


 イシガキハカセは、この比率に数学的な美しさは皆無だと言い切った。

 ただし、3センチ×70センチの上面下面にうっすら浮かぶ、うねうねした蛸足風の模様は、明らかに対数螺旋を連想させる。

 装飾ならそれまでだが、製造過程によって生じた痕跡ならこの武器の性質を知る手がかりになるだろうと推察した。


 ええそうですともと、イシガキハカセにうなずきながら。タケヤはこの剣の素性を、使いながら探ろうと決めた。別に対数螺旋の意味が判らなかったからではない。と自分に言い聞かせる。


 赤いコートの連中もこれと同じ、異形の黒い剣を携えている。その意味も考えたがやはり判らない。


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