01-18 『タケヤ対拷問官(1) 邂逅』 2月1日
タケヤは精神を極限まで研ぎ澄まし、極限まで脱力し、ただ剣の重さが導くがままに極限の振りを、丸太に落とす。
が、黒い剣はそのままタケヤの両手からすっぽ抜け、資材小屋の壁にぶち当たり、壮大な音を立てる。
やべー、やっちまったと壁の確認に向かうが、運良く壁に傷はついてない。
いや、ついているが目立たない。
黙っていればバレなそうだが、後で謝っておこうと決め地面に転がる黒い剣を拾う。
さて、今の降りはどこの極限が間違っていたかと考えるが、判らない。
並の振り方では斬れそうにないこの剣、なんらかの極まった要素で振り抜くのだろうと思いやってみたが上手くいかなかった。
そういえば、中学の選択体育で剣道を取っていたとタケヤは思い出す。
竹刀の握りは教えて貰ったはずだが、どんなだったか?
雑巾を絞るようにだったか、雑巾を絞るようにはならないようにだったか?
考えても仕方ないので実際に両方のパターンを試す。
ぶおん。間を置き、ぶおん。剣は宙を斬る。
絞るようにパターンは力が乗っている気がし、絞らないパターンは的に当てやすい気がする。これがどちらがいいかの話になるとやはり判らない。
タケヤの武器に関する知識はほぼ出尽くしていた。
もしかしたら、その少ない知識の中に黒い剣を扱うヒントが紛れていたかも知れないが、何かひらめくということもなかった。
パズル感覚で剣の使い方を思案するタケヤだったが、ここまで進展がないと少しばかり飽き始めてくる。
あぁそうだ、まだ心眼を試してないじゃないかと気がついた。
タケヤは丸太の正面で剣を中段に構え、眼を閉じる。
閉じられた視界には何も映らない。
静かな呼吸で神経を落ち着かせていく。
風のそよぎ、揺さぶられる木の葉。
暗闇はそこにあり続けたが、千々に乱れていたタケヤの神経はゆるりと束ねられていく。
不意に思い出したように、タケヤの感覚が何かを掴む。
確実にそこにある気配。目の前に置かれた丸太の気配だと、タケヤは判断した。
自然との合一、世界に満ちる気の流れを掴んだ。
万物がただそこにある。
自分がそこにあり、丸太がそこにある。
全てがそこにあり、自分と丸太しかそこにはない。
人の気配のようにありありと、丸太の存在を感じる。
見えた。
この明鏡止水の心境で剣を振るうのだ。
タケヤがゆっくりと眼を開けると、丸太とタケヤの間に、不思議そうな顔でこっちを見る老人の姿があった。
タケヤは驚く。
「うひゃああ!」
老人はあきれた声で言った。
「何をやってるんです? 剣を構えたまま居眠りですか? まさか剣の持ち方も知らないのに、心眼とか明鏡止水とかやってました?」
タケヤは顔を真っ赤にした。
「そんなんじゃないですってば!」
「それは良かった。世界に満ちる気の流れとか言い出されたらどうしようかと思いました。鍛錬の邪魔をしてすいませんでしたね。
えーと、鍛錬ですよね?」
タケヤは答える。
「たぶんそうです」




