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01-13 『アカガワ中隊長(11) ゴドー』 4月3日

 副隊長は首を横に振る。

「違いますよであります。監視対象は、タケヤ君ではなく村長であります」


 アカガワは考える。そろそろはっきりさせておかねばならぬ部分がある。村長を監視している? 結構。だが、どうして私に知らされていない?

「さて、副隊長。私に隠してることを少し話して貰おう。村長を監視? 初耳だ。

 どうして中隊長である私に隠されている?

 ……極秘なら補佐たちは下がらせるが?」


「構いませんであります。つまらない話ですよ。ヒノデ村の中に我らのスパイが居るってだけのことです」

「スパイだ? 私にさえ知らせずにか?」

「誤解されてるようでありますな。私が勝手に村の内部へ、スパイを放ってるのではありませんよ。大隊長、あるいは総司令直属の隊員です。

 どちらの所属かさえ私は知りません。そのスパイからの情報が大隊長経由で知らされます」

「誤魔化すなよ。どこの所属だろうが知ったことではない。その存在が私に知らされてないのが問題だ」


 副隊長は舌打ちした。

「まさか巨大な陰謀に巻き込まれる哀れなヒロイン気取りじゃありますまいな、アカガワさん」

 アカガワは笑う。

「アカガワさんときたか。馬鹿な大声張り上げられるよりマシだが、おふざけなしだと途端に怖くなるな、ゴドー副隊長」


 ゴドー副隊長は、ベッドの上に座る隊員の頭をなでる。

「なんだかんだといって、一所懸命にやってる部下の失敗なんざ可愛いものです。フォローが出来る範囲ならばね。

 でもねえ、アカガワさん。司令官へできるフォローなどしれてます」


 怖いと言いつつも、本性をだしたゴドーの姿をアカガワは面白がる。

「私のお守りは大変か?」

「馬鹿なら簡単に扱えるし、利口なら手間そのものがかかりません」

「私はどちらでもないと?」

「そうですよ、アカガワさん。あなたは半端に利口だ」

「何が言いたい?」


「本質に関わらない細部の分析はできるのに、肝心の部分が理解出来ていない」

「本質だと? ヒノデ村を巡る、この不条理な茶番のか?」


「そこです。不条理などという便利な言葉を使い、そこで止まってる辺りが半端な利口というのですよ」

「不条理に意味があると? はっはっは。これは面白い。

 まさか副隊長殿が詩人だとは思わなかったな」


「違いますよ。全ては必然、必然性がないがしろにされる、必然的な理由への考察なんかしてないでしょ? 『必然性がない、必然的な理由』ですよ」


「考察ねえ。何があるにしろ、哀れなヒロイン気取りの私には、秘密にするんだろ?」

「いいですよ。秘密になんかしません。本当の利口ならとっくに感づいてるレベルですから」

「ご教授願おうか」


 ゴドーは静かに口を開く。

「……ヒノデ村内部のスパイ、おそらく総司令直属の隊員でしょうな。

 やつか、やつらかは知りませんが、村長の暗殺命令を帯びているはずです」

「おいおい。面白いじゃないか。それはつまり」

「ヒノデ村の村長を殺せば、この不条理な茶番も終わりってことですよ」


 この任務における、絶対のルールの一つ。それが目の前でゴドーにより否定された。

 アカガワは言った。

「ヒノデ村の村人の命を奪ってはならない。これが第一の使命じゃなかったか? 村人により、命の危険にさらされた時は除外だけど」


 ゴドーはあきれてため息を吐く。

「上の下ぐらいかと思ってましたが、中の上ぐらいのオツムですなアカガワさん」

 ゴドーの説明が始まる前に、アカガワは理解した。


「あ、そうか。これは村長と総司令の争いってことか。

 村長と、総司令がプレイヤーで、プレイヤーが死ねばゲームは強制終了。

 村長が死ねば、ルールもへったくれもなくゲームは総司令の勝ちで終わり、だな?


 とはいえ総司令と張り合うぐらいだ、村長とやらは簡単には殺せないんだろう。

 そして殺し損ねたらルール違反で大変なことになる。だから小娘の中隊長が、早まって村長に刃を向けたりしないように事実を伏せている。


 必然性をかなぐり捨てた不条理な部分は、ただの取り決め、総司令と村長の間に決められたゲームのルールに過ぎない。

 ゲームを成立させる、合理性のあるルールもあれば、こっちの方が面白いと思えば変なルールも入り込む」

「ご明察とは言いませんよ、アカガワさん。すぐに気がつくと思ってましたから」

「正直、ちょっと恥ずかしい。村長が重要人物だという考察をさっさと放棄してしまった」


「ルールの裏にある事実について、私は存じませんがね」

「おい副隊長。そもそも村長って何者なんだ?」

「それも知りません。村長と呼ばれる人物は、村の中の『炭焼き小屋』に閉じこもり、滅多に姿を現しません……という情報が大隊長経由で来てます」

「で、総司令が用意する可哀想な鬼が、年末に命がけで『炭焼き小屋』を目指すと。炭焼き小屋が鍵か」

「それも半端な推察ですよ。重大な要素の一つとは思われますが」


 少し見通しがよくなり、アカガワは大きく伸びをした。

「でもさ。あんまりマスター……じゃなかった総司令好みのやり口じゃない。大げさ過ぎて時間もかけすぎだ。きめ細かく慎重って、あの人からは考えられない」


 ゴドー副隊長は静かに言った。

「そりゃ、いくらあのお方でも慎重を期しますよ」

「どうしてだ?」

「我らが対ヒノデ村最後の砦。我らがヒノデ村に屈すれば世界は滅びます」


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