表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ディビッド・レオンシリーズ

ディビッド・レオン シリーズ   過ち

作者: 社岩家難

   過去と嫉妬と近所付き合い


 北大阪秋雨事件での活躍によって我々の探偵事務所は大阪でかなり有名になった。この事件を担当した南警部は、帰って来ると言っていたのにもかかわらず、連絡をよこさずに事件を解決して、さらに第二の事件を未然に防いだということに対してひどくふくれていた。ただ当時の状況ではさすがに南警部の出世を考える余地はなく、我々だけが目立ってしまうという結果になった。ここではこの事件のおかげで有名になったばかりの我々に来た依頼について書くことにする。

 この事件は実に単純なものなのだが、多少珍しい事件であったため、ここに記すことにした。


 秋のある日の昼間、それぞれ担当する依頼を頭で整理して解決にもっていく作業を終わらせた私と姫子は、依頼人を待つという名目で居眠りしていたゴールド君を誘って食事を始めた。そしてもうあと少しでカレーが食べ終わるという時に依頼人がやって来た。

「ご飯時すみません。ここの探偵事務所はお昼でもやっていますか?」

「えぇ、やってますわ。さあ、レオンお客様を案内してくださる?」

「私か……」食事をいつも早く済ませる姫子がすべてやってくれればいいのに、二人とも空いていれば絶対に二人で依頼人の話を聞くという彼女のスタイルに、食事を妨げられたこともあって多少いらいらした私は、やさぐれた様子で依頼人を見た。そこには痩せこけた長身の男が立っていた。

「こちらです」と私は応接間に案内した。

「いつもはどんなお仕事をされているのかお聞きしてよろしいですか?」

「いつもは不動産屋で事務の仕事をしていますが」

「何か病気を患っていらっしゃいますか?」

「いいえ、何も。そんなことより私の話を聞いてもらえますか?私の友人が昨晩殺されたんです!この間の事件でここの事務所を知りまして、警察にも話したんですが、一刻も早くこの忌まわしい事件を解決してほしいので、ここに助けを求めにやって来たのです!」その男はひどく興奮した様子で私たちに訴えかけてきた。

「それは大変だ」私は自分の質問に適当に返事をされたこともあって不愛想な言い方でそういった後、話を続けた。

「では詳しく事件のことをお話下さい」

「とにかく急いでほしいのです。今から現場に来てもらえませんか?話は向こうに着いてから警察の人に聞いてください。私はこのことについてよく知りませんし、なにせ口下手なものですから」

「わかりました。では今から向かうとしましょう」そう言うと私とゴールド君は支度を始めた。姫子も一緒に行こうとしたが、事務所の留守番を頼むことにして、我々は現場に向かった。


 現場には南警部が不機嫌な様子で立っていた。彼は私たちの到着を歓迎したが、その笑顔からは目が笑っていないことがうかがえ、本心は喜んでいないことが容易に読み取れた。

南警部の相手をゴールド君に任せて私は早速現場を調べた。

 被害者が倒れていたのは三階建ての一軒家の裏庭。深夜になっても姿が見えない夫を不審に思い、家の中を探したところ、三階の窓の下で倒れているのを被害者の妻が一番初めに目撃したらしい。奥さんに話を聞くと、目撃した当時、三階の窓は開いていて、頭から落ちたせいか頭からの出血がひどかったという。家族は被害者とその妻、そして五歳になる息子の三人で暮らしており、愛想もよく、近所付き合いも何の問題もなかったらしい。

「あなたは昨晩出かけていたのですか?」

「えぇ。息子と一緒に幼稚園のお泊り会に行っていました。息子はそのまま幼稚園に泊まって、私は夜の十時に帰ってきました」

「十時?幼稚園のお泊り会にしては遅いですね」

「はい。源さんとお話ししていたものですから」

「源さんというのはもしかして私をここに連れてきてくださった依頼人の奥さんですか?」

「はい、そうです。夫が死んだというのを話したら親身になって手伝ってくれてるんです。やはりご近所付き合いは大事ですね、私一人だったらどうなっていたか」

「ほう、そうでしたか。ありがとうございます。息子さんに話を聞かせていただけますか?」

「わかりました。ちょっと来て健太。このお兄さんとお話しできる?そうね、いい子よ。ではお願いします」

「健太君、源さんとは仲良しかい?」

「いいや、源君とは仲いいけど源君のお母さんとお父さんは嫌い!」

「こら!何を言い出すのこの子は!」

「いやいや、息子さんに罪はありませんよ奥さん。ありがとう健太君。もう聞きたいことは聞けました」そう言って私は南警部に最後の確認の質問をした。

「警部、今の捜査状況はどうなっていますか?」

「やあ、レオン君。もう話は済んだのかい?あぁ、今はとりあえず自殺と他殺の両方の線で捜査しているよ」

「あの源という男、南警部ご存知ありませんか?」

「あぁ、見たことはある気がするんだが私の知っている名前じゃないんだよな」私にはそれだけで十分だった。


 私はゴールド君と一緒に今すぐにでも帰りたいのに話をさせられていらいらし始めているある男に話しかけた。すると私の顔を見た途端に男は話をやめて逃げようと走り出した。私たちは男を取り押さえて警察に身柄を渡した。

「なんで!源さん?どうなってるの?」

「奥さん、落ち着いてください。あなたの旦那さんを殺めたのはこいつなんです」

「え?それはどういうことです?ちゃんと説明してください!何が何だか…」

「わかりました、説明しましょう。南警部もいまいちピンときていないようですからちゃんと聞いておいてくださいね」


「まず、私たちの探偵事務所に来たこの源という男には前科があるのです。彼は重労働者でもなく、病気もしていないのに、異常な痩せ方をしている。私はこの時点で彼には麻薬をやっていた過去があると推理しました。これについては先ほど南警部もおっしゃってましたよね?見たことがあるけど名前が違う、と。彼は出所してから名前を変えて結婚して息子ができた。ここからは私の推測ですが、彼は息子を溺愛している。そして自分の息子が仲良くしているここの家族の存在を知った。仲が良くて幸せいっぱいで三階建てで庭もある裕福な家庭が羨ましいとともに憎かったんでしょう。そして健太君にこっそりいやがらせをするようになった。そうだね?健太君」健太君は悲しそうな表情でうなずいた。

「やはり。そして自分の息子がいやがらせをうけていることを被害者は知ってしまった。そのことについて追及された彼は逆上し、殺人の計画を立てた。昨晩のお泊り会でなるべく長い間被害者と奥さんとを離すことに成功した彼の妻のおかげで彼は余裕をもって三階の窓から被害者を落とすことに成功し、計画通りに事は運べた。といったところですね。おそらく」そこで身柄を拘束されている男が口を開いた。

「なんで俺が犯人だと分かったんだ?その話だと俺が犯人だと決めてそいつらに話を聞いたように聞こえるんだが、俺には前科があることぐらいしかわかってなかったんだろう?」私は思わず笑ってしまって、すぐにこのシリアスな場面に自分の笑顔がふさわしくないことに気づいて顔を戻すとともに質問に答えた。

「そんな簡単な推理、造作もないことだよ。まず、あなたは私たちのことをなめすぎていた。この間の事件でちょっと有名になった私たちのことをまぐれで解決に導いたとでも思ったんだろう。警察に捜査されるのが嫌だから噂の探偵事務所に助けを求めるふりをして警察の捜査の邪魔をすることを期待したんだろうけど、ぼろが出たのはあなただった。まず、一番いけなかったのは友人が殺されたと言ったこと。この事件には自殺の可能性があった。そう、飛び降り自殺という線がまだ現段階の捜査では残っていたから。さらにあなたは私に、自分に前科があるとばれるのを恐れたために現場に早く向かわせた。自分の逃げる暇を我々が与えないという環境を自ら作ってしまった」

「なるほどな。ちょっと有名になっただけで実力は無いだろうと思った俺のせいで自分の首を絞めることになるとはな」


 こうしてこの事件は終わりを迎えた。ゴールド君は私の推理を褒めてくれたが、私自身はそれほど頭を悩まされずに済んだ簡単な事件だったと思っている。姫子は自分が留守番だったことを怒っているのか本心なのかはわからないが、

「なんだ、そんな簡単な事件に結構時間がかかったのね」と言っていた。

 この事件がなぜ簡単だったかは皆さんもお分かりだろうが、依頼人が犯人というのはなかなか珍しいのではないかと思い、ここに書かせていただいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ