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無二

作者: 倉下 漂

 私はファッションデザイナーである。私は裁縫をするのが好きだ。布を裁ち、継ぎ合せ、縫い合わせ、自分の作品にする。この作業が好きだ。

 

 若い頃は大手ファッションメーカーに就職したが、上司や同僚との考え方が合わなかったから辞めた。辞めてから、寂れたビルに自分のオフィスを構えオーダーメイドの服を作る仕事をした。始めた頃はまったく売れず、ビルの前でキャッチセールスのようなこともした。しばらくすると、私の作る服は大人気となり全国に知れ渡るようになった。私の作ったオーダーメイドの服を持ち帰る客を見ると幸せな気持ちになった。天職のはずだった。しかし、何か不満だった。


 不満に思いつつ仕事をしているうちに、私は唯一無二の作品を作りたいと考えた。目的を果たすため、私は仕事をやめた。オフィスを捨て、作品制作の準備を始めた。一人では難しいと感じたので協力者を探した。協力者も見つかり、準備が完了するのに数年を要した。


 私は協力者の力を借りつつ、少しずつ作品を創作していった。辛い思いもした。私の求める唯一無二がこんなに辛いものだとは思っていなかった。借金が増えた。お金が必要になったので年に数回、服を作っては売りさばいた。私が名前を名乗ると売れていく服を見ていると少し悲しくなった。


 協力者は完成する直前で出て行った。完成は見たくないと言って出て行った。別れる前に私は協力者に頼みごとをした。協力者が従ってくれたなら、私の生涯で最後に作った服はどこかの古着屋に売られたはずだ。そして、私の求めた理想の、唯一無二の作品は完成した。








 私は、裁縫をして自分の作品を作るのが好きだ。昔から、今でも好きだ。しかし、私は自分の作った作品を他人に服として着用されるのが嫌いだった。もちろん、自分の作品を自分が着るなんてあり得なかった。人間の、生き物の服を作るのが不満だった。私が好きなのは、布から自分の作品を作ることだけだった。自分の「作品」なのだ。画家の絵や、書道家の掛け軸と同じ「作品」なのだ。私の「作品」は他人に使用されるものではなく、鑑賞用なのだ。とても不満だった。


 私は、自分自身を「作品」にすることにした。誰にも使用されることのない、唯一無二の「作品」になることにした。まず、皮膚や毛を捨てた。私はこれらを衣服だと考えた。毛、鱗、羽、皮膚、は身を守るために着用している衣服だと考えた。衣服の上から「作品」を着るのは嫌だったので、皮膚や毛を捨てることにした。協力者と協力し、全身の皮膚と毛を剥がした。レーザーや紫外線を利用し細胞を破壊し、完全に捨てた。私は筋肉や神経、血管を隠すように布を当てて縫っていった。背中は協力者にしてもらった。指を自由に使えるうちに私は、最後の服を作った。自分の皮膚や、毛を使った完全人間素材の服を作った。全身を布で包み込み完成した。


 私は、いまヌイグルミをしています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


ホラーに挑戦してみました。少しでも後味の悪さや、恐怖を感じていただけると嬉しいです。

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