禁じられた迷宮
雲行きが怪しい。
額に汗が落ちた。
回りくどく並べられる壁は、何も言わず沈黙を貫いている。
いつしか霧は晴れ、白かった視界の先に、パズルの様に壁が合わさっている。
『もう無理だ……。』
そうつぶやくのは何度目か。
半年前から履いているお気に入りのアシックスのスニーカーはすっかり泥に塗れていた。
今はもう、泥を払うのも無意味に思えてきた。
迷宮。よく言ったもんだ。
『うるさい…。』
『うるさいうるさいうるさいうるさい!!』
聞こえない雑音に耳を押さえた。
もう嫌だ!逃げだしたい!隠れたい!!忘れてくれ!!
何に訴えるのではなく、自分にそう叫んだ。
握り締める砂を壁に投げつけた。
いつしか僕は壁を蹴っていた。
もう立ち上がるのは無理だと思っていた。何日も何も口にしていない。
睡眠と言える睡眠なんか取っていない。それでも僕は、壁を蹴った。
立ち尽くす。
この迷宮の壁は、決して高い物ではなかった。登ろうと思えば登れるだろう。壁の上から出口を探せばいい。ただ。
ゴールして何になるのだろうか。
ゴールすることが正しいのだろうか。ゴールすることが間違いならば、いま何に迷っているのか。
そう。何に迷っているんだろう。
地面から伝わる。確かな体重。
体はいつもよりも重くなっていた。
ニュートンが発見した重力は、文字通り地面に体を引きつけている。
耐え切れず壁もたれ掛かる。
冷たい空気が鼻を通る。
肺を膨らまし、二酸化炭素と酸素は入れ替わる。
落ち着いて見た壁は、変わらず冷たく立っている。
何に迷っている。
そしてまた歩き出した。
2週間後、僕は友人とランチをしながら笑っている。
『え?あの時の話かい?』
『うん。確かに大変だったね。
もう死にそうだったよ。イライラしたし。何もかも嫌だったね。』
『でも今となっては良かったよ!
本当にもうスッキリさ!』
『君もするといいよ”禁煙”!人生楽しくなるぞ!』
ただ、僕の話を聞いて、友人は煙草を置こうとはしなかった。
苦い笑いを浮かべ煙草に火をつける。
僕は友人の煙草を奪い火を消して、迷宮に叩き落とした。