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明かされる能力  作者: 吉川明人
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その日

 宇宙が始まったころ、他になにもない空間でたがいに引っ付きあっているチリに始まり、次第に小さな隕石から衝突し合って大きな隕石へと生長していった。

「巨大隕石となった俺」は、他の巨大隕石と衝突して大きくなり、やがて燃え盛る恒星、太陽となった。


 俺の周りには惑星が生まれ、惑星にはそれぞれの環境がつくられていく。その中に、まだ海のない岩石だらけの地球もある。

 俺は次々と「存在」を変えていく。

 大気の摩擦で燃え尽きる隕石となって地上に降り、大地から吹き出す生まれたばかりの溶岩から吹き出す水蒸気となって空へ昇り、上空から落下する雨になって、深海のバクテリアとなった。

 微生物から小さい生き物、それをかてとする生き物に食べられながら陸を目指し、ついに苔として大地に上陸した。


 やがて2000年以上のよわいを経たあの大木になり、名もない農夫となり、自分勝手に振る舞う支配者になり、うち捨てられ死んで行く仔犬になった。

 生きて行くために獲物を襲う肉食動物になり、彼らの餌食となる草食動物となる。

 昆虫になり、草になり、種子になり、微生物になり、分子となり、原子となった。


 それはこの世界の記憶そのもの、この世界という一つの生命の記憶だった。


 その生命は常に生長を続けている。

 巨大な樹が大地に精一杯、根を張って陽の光を受けようと全身から枝を広げて葉を開いているように。

 そして隣り合う樹どうしは、たがいに生きられるよう大地と光を採り合い、最大のところでバランスを分かち合っている。

 それは、この世界も同じ。

 俺たちが暮らすこの世界さえも、デカ過ぎて見えない世界と隣り合っているが、絶妙なバランスによって保たれていて、バランスが乱されることはめったにない。

 しかし、あらゆる記憶をたどった中に、ところどころで違和感を感じた。いや、違和感と言うより『異物』と呼んだ方が正しい。

 それは、異次元からの侵入だ。

 例えるなら、悪性の病原体やウイルスが体内へ入ってきたようなものだ。


——そこで世界は、生き物が体内に免疫機能を作り出したように、異物を排除するための抗体をつくり出すことにしたのです——


 その時、景色が変わった。

 どこかの会社の建物から誰か出てくる。


 お、親父!?


 四年前の、俺の記憶に焼きついたままの……あのままの姿で、そこにいた。

「……親父?」

 声をかけたが、聞こえている様子はない。

 気がつくと俺は駐車場に止めてある車になっていた。

 目の前を通り過ぎる親父。

「親父!」

 もう一度声をかけると親父は振り返った。

「おっ。新型だな」

 目配せしながらまた歩いて行く。

 遠くの方から車のドアを開く音がしたとたん、突然、親父が目の前に現れる。いや、今度は親父の車に変化していた。

「9時か。1時間も高速を飛ばせばすぐだな」

 独り言をつぶやきながら乗り込もうとした時、親父の目の前に人影が現れた。

「おう、雄綱おづなくんと葵ちゃんか」

 驚く様子もなく、当たり前のように声をかける。

義鳳みちひろさん、ごぶさたしています。おさから『とかき』と行動するよう命じられました」

 大学生くらいの人が、ちゃんと『みちひろ』と呼んで笑いかける。

「おじちゃん!」

 もう一人、見覚えのある女の子が親父に飛びつく。葵ちゃんだ。

 しかし、さっき会った時よりもずっと幼い。

「はははっ! 葵ちゃんは、あいかわらず元気いいなあ」

 親父は葵ちゃんの頭をクシャクシャと撫でた。

「よし、二人とも乗った乗った!」

 用件も聞かず二人を車に乗せて走り出す。

 助手席の葵ちゃんは嬉しそうに学校での話を一生懸命に説明している。

「……でもね、明日学校の授業参観があるんだけど、お父さんもお母さんも、仕事があるから来れないんだって」

「そうか。葵ちゃんが通っているのって、邑久辺おくなべ小学校だったかな?」

「うん。三年四組」

「参観はなん時間目から」

「うーんと、五時間目」

「すまん、雄綱くん。明日の予定、2時に何か入ってないか見てくれないか」

 上着から携帯を取り出して後部座席の雄綱さんに渡す。

「いいんですか? 企業秘密まで見てしまうかもしれませんよ」

「はははっ! 俺は人に見られてまずいような仕事なんかやらないよ」

「そりゃあそうでしょうね。筋の通らないことには絶対にしないんですから」

 よくそれで会社勤めなんかできたな。

 そもそも家ではバカばっかりやっていた、ただのオヤジで、仕事の話はしたことねぇから、実際に何をやっていたのかよく覚えてねぇ。

 母さんが言うには、当時、創業が相次いでいたIT企業の創立に関わっていたらしく、役員だったらしいが……。


「ええと、6月14日は『10時から御小波みこなみのおっさんと打ち合わせ』……あの、ひょっとしてこの御小波のおっさんって」

「おう、あの御小波グループの社長だ。おもしろいおっさんだぞ」

 やっぱり親父のやつ、佳月のオッサンを知っていたのか。あのオッサンも知っていたくせに黙ってやがったんだな。それにしても、オッサンをおっさん呼ばわりするなんて、大したやつだぜ。って俺もそうか。


 あれ? だとすると、俺が見ているのは6月13日ってことになる。

 この日は、親父が事故で死んだ日じゃねぇか! 俺は親父の最期の姿を見ているってことか。


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