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明かされる能力  作者: 吉川明人
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いつもの店が


「それで、なんでこの写真をおまえが持っているんだ?」

「わ、わたしと、『からすき』が……うぅ……」

 まずい、エルティの泣き出すパターンと同じだ。

「あーっ、泣くんじゃねぇ」

「わたしとからすきが、おじちゃんが死ぬのを見届けたんですぅ……ううぅ」

 ポロポロ涙を流し始める。

 からすき?

 いや、そっちじゃねぇ。

 親父が死ぬのを見届けた? 確かにこの子、そう言ったよな?


「どう言うことだ?」

 思わず女の子の腕をつかんだ。

 だが、懸命に涙をこらえようとしているが、涙は止まりそうにない。

 通りすがりの人がチラチラと怪訝そうな視線を俺に向ける。なんだかエルティが外に初めて現れた時を思い出すぜ。

「あー……えーと、どこに行けばいいんだ?」

「ふわぃ?」

 鼻をすすりながらも返事をする。

「言ったろ、ついて来て欲しい場所があるって」

「じゃ、じゃあ、来ていただけるんですね!」

 泣き顔から、目のはしに涙をつけたまま、パッと花が咲いたような笑顔。コロコロと変わる表情までエルティにそっくりだな……。


 そういえば昔、オウ……何とか言うヤバイ宗教でも、カワイイ女の子が話ができる店まで誘って、中に入ったとたん、ゴッツイ男と入れ替わって逃がさねぇ勧誘パターンあったらしいな。

 でも女の子って言っても、こんな子どもに引っかかるヤツなんていねぇだろ。

 しかし俺はすでに引っかかってるじゃねぇか……いや、もしかしてこれは新しい勧誘の手なんじゃねぇか?

 子どもなら怪しまれねぇし、ついて行かないと泣き出して、周りのやつらの手前、行かざるをえなくしてしまうとか何とか……とすると、これはヤバイんじゃねぇだろうか。

 女の子についていきながら、恐い考えが頭の中を巡る。


「仁狼さん、どうされたんですか?」

 女の子が俺の顔をのぞき込んでいた。気がつかないあいだに立ち止まっていたらしい。

「いや、何でもねぇ……」

 あわてて視線をそらせて、また歩き始める。

 とにかく親父のこと……まるでほんとの遺言を知っているかのような口ぶりだったのは気になる。

 まあ、なんとかなるだろう。なるようになれだ。


「あそこなんです」

 女の子が指したのは、よく知っている場所。仲間どうしの行きつけの、ラオムと書かれた、小さな喫茶店だった。


「やあ、仁狼くん。いらっしゃい」

 カウベルが素朴な木の音色を響かせ、いつもの蝶ネクタイのマスターが迎えてくれた。

 お客は俺たち以外に誰もいない。店内は素朴な自然木を基調にして、和の雰囲気の中に飾られた絵や花が、すっぽり空間におさまっている。相変わらずいい雰囲気の店だ。


 芸術とはほど遠い俺が感心するくらいだから、鈴乃や順崇もこの店ではずいぶんとくつろいでいる。そもそも、ここのコーヒーはメチャクチャうまい。

 この店を教えてくれた修仁には、本当に感謝だ。ここだけでなく、修仁と佳那の二人が教えてくれる店の食べ物は、どこもうまいんだが。

 とにかく窓際のいちばん明るい光が差し込む、いつもその辺に座ることにしているテーブルに着いた。


「あ、違うんです仁狼さん。こちらなんです」

 女の子があわてながらカウンターの奥のドアに入ろうとしているが、マスターも止めようとしない。

「え? どう言うことだ?」

「どうぞ。今日はこっちへ」

 戸惑っているとマスターにうながされた。

 中に入ると小さな部屋があって、水出しコーヒーの器具が置いてあり、強い香りが漂っている。そして、その奥に地下へと続く階段があった。

 うお! 地下なんてあったのか?

 マスターのことは知っているといっても、あくまでこの店のマスターと常連という関係だ。

 なんかヤバイぜ。まさか、このままどこかに連れていかれて、わけの分かんねぇ話聞かされた上、全財産取られるってんじゃねぇだろうな。

 ええい! いざとなったらそこにいるヤツ全員ぶっ倒せばいいか。

 おいエルティ、イザって時は頼むぜ……コンコンと胸をつついたが、エルティからは返事がない。そう言えば、今日は一度も出て来てないな。どうしたんだ?

「仁狼さん、どうされたんですか?」

 エルティかと思って顔を上げたが、それは、階段を先に下りている女の子の声だった。

 なんで声までそっくりなんだ?


「大丈夫。ご安心を」

 後ろからまたマスターに声をかけられる。

 その大丈夫の根拠がぜんぜんねぇ! 安心できるかっての!

 まあいい。行ってやるぜ。

 エルティそっくりの女の子が悪いやつのはずがねぇ……もちろん根拠なんてねぇが。

 覚悟を決めてあとに続いて階段を下りる。


 少し窮屈だが、蛍光灯の明かりが足元を充分照らしているので足を踏み外すことはない。


 階段を下りて左に5mも進んだところで、もう行き止まりになっていて、正面には磨かれたようなピカピカのでかい岩が立ちはだかっている。

 だが、それだけで他になにもない。


「なんだ? ここで何をするんだ?」

 女の子に尋ねる。

「もうすぐ、『みぃ』さんが来られますから、少しお待ください」

「みーさん?」

「上におられたマスターです」

 マスターって、みーさんって呼ばれてたのか。なんだかおかしいぜ。


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