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明かされる能力  作者: 吉川明人
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思い

「実際に言葉で教えてくれたわけじゃありませんけれど、ある時、仁狼さんのお話をされていたおじちゃんから伝わってきたんです。

 自分がお父さん、つまり仁狼さんのお祖父さんから義鳳……古事記にいわく八咫烏やたがらすのように、義(道)を多くの人に広めるためのおおとりであれとの意味を込めてつけられたそうです。

 それなら、生まれつき世界から大きな能力を与えられていた息子の仁狼さんは、広められた道(義)を道(仁)として、人が歩むべき本当の道として伝える存在であって欲しい。

 そして狼は大神様からの遣い。この世界の根本である大いなる存在……世界からの遣いとなって欲しいと。

 日本では天保17年以前、狼は外国から狂犬病が入って来るまで、地域によっては大口の真神として敬われた存在だったこともあるんだそうです」

「おう、動画で見たことあるぜ」

 昔、エルティとパソコンの動画で見たのを思い出す。

「はい。それで……人の道を、より多くの『人に伝える』ための懸け橋となるよう願いを込めて仁狼と名づけることにした、と……」

「……そうか」

『俺の予想通りの能力を現した時』ってのは今日なのかもしれねぇが、まったく、そう大したことでもないくせに、もったいぶりやがって。

 いや、そうじゃねぇ。この理由をちゃんと理解するには、俺が親父と同じ能力を手にした上でなければ納得のしようがない……教えたくても、教えようがなかったってことか。

 思わず苦笑したが、今日一日で俺自身のことが何もかも教えられたような気がする。


 他人とは違う俺の力から始まり、親父の死んだこと、エルティの存在。俺の役割、そして名前の意味。

 知らぬは俺ばかりってところか。しかし、胸につかえていたものが取り払われて、スッキリしたことは間違いねぇ。

「なあ、葵ちゃん」

「はい?」

「これからは遠慮せずに遊びに来い。鈴乃だけじゃなくて、順崇や、佳月や舞貴。渓華、修仁なんかにも紹介したい。みんないいやつだぜ」

「はい。そうします」

 葵ちゃんは笑いながら頭を下げた。

「それと、俺に敬語はやめてくれ。堅っ苦しい」

「ですが、目上の人には……」

「俺はさっき葵ちゃんのこと妹だって言ったぜ、だからもう葵ちゃんは家族だ。

 だったら遠慮しねぇ。葵ちゃんもそのつもりでいてくれ。それとも親にも敬語で話しているのか?」

「はい。両親ともこうやって話しています」

 うお、俺とは大違いだ。この子の家はすごく躾けがいいらしい。

「しかしそんなんじゃ、堅っ苦しくないか?」

「いえ、ずっとこうですから気になりません」

「すごいな、葵ちゃんって」

「そ、そんなことないですよ」

 少し赤くなっているが、葵ちゃんが照れることはない。

「ほんとだぜ。クラスでも優等生なんだろうな」

「いえ、ぜんぜんそんなことは」

「恥ずかしがらなくてもいいじゃねぇか。葵ちゃんの言うことなら、クラスのやつらもちゃんと聞くんだろうな」

「いいえ、ちっとも」

「なんだ。やっぱり優等生だったんだ?」

 ビシッ!

「はうっ!?」

 うお! なんだ?

「あ、仁狼さん。鼻血が」

「お? おう。あれ、俺どうしたんだ。なんだか鼻の奥がツーンとしてるぞ?」

「大丈夫ですか?」

「ああ、なんだか分かんねぇが、痛いなんて久しぶりだ」

 まさか葵ちゃんが何か?

 ……それこそ、まさかだな。

「本当にわたしは、優等生なんかじゃないですよ。成績は普通ですし、苦手なものもたくさんありますし」

「あ、ああ分かった。だけどその礼儀正しさと謙虚さは、俺には真似できねぇ」


「あっ、仁狼さん。ここです」

 俺の家から15分ほど歩いたところにある、公団住宅の棟の一つの入り口で止まった。

「ここの6階の4号室なんです」

「そうか」

 葵ちゃんはB-604と書かれた郵便ポストから、新聞を取り出す。

 ……世界のバランスを護る、大きな能力を与えられた存在……。

 とてもそうは見えない。どこにでもいる普通の子どもと、どこも変わっているようには見えないこの子。

「仁狼さん、送っていただき、ありがとうございました」

 葵ちゃんはまた深々と頭を下げる。

「葵ちゃんは、どう思っているんだ?」

「はい?」

「俺たちの能力ってやつ……普通じゃねぇし、万一の時は危険にさらされることになる。それに最悪の場合……死ぬことも」

 俺の突然の質問に戸惑っている。って、最後のひと言は余計だった。まったく、俺ってデリカシーねぇな。

 だが、ほんとにどうなるんだろうか。もうとく様には、まかせとけと言ったが、これから俺は何をするんだろうか?


「……わたしは」

 かすかな声で答える……俺より5歳も年下の、まだ小学生の葵ちゃんに、こんなこと尋ねたのは間違っていたか……。


「わたしは……幸せです」

「え?」

「この能力のおかげで、おじちゃんや仁狼さんに出会うことができたようなものです。

 それに、世界が選んでくれたと言うことは、この世界が、自然がわたしを必要としてくれていると言うことです。

 そう考えると、道端の草でも夏の蚊でも、みんな好きになれますし、好きなものがたくさんあると毎日がとても充実しますから」

 葵ちゃんの言葉にショックを受けた。何が5歳も年下だ。俺なんかより、ずっとしっかりしているじゃねぇか。

 エルティの性格がああなのがよく分かる。俺の善の気持ちなんかじゃなくて、葵ちゃんの性格をそのまま反映していたんだな。


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