思い出
「仁狼君……本当は僕から伝えるべきだったんだけど、お父さんのこと……」
からすき……香堂雄綱さんがすまなさそうに言った。
「いいぜ。さっきぜんぶ見せてもらったから」
笑って親指を立てる。それで通じるはずだ。
ついでに雄綱と言う名前は、円の小角にあやかったんだと教えてくれたが、誰だそれ?
ともかく俺たち七人は『もうとく』様を補助する役目だ。
『ひつき』『いなみ』『うるき』『とみて』『うみやめ』『はつい』『なまめ』と、『かいたん』様補助の七人が終わって、グルッと一周が終わった。
年齢はバラバラ、なんかの宗教集団みたいにここに暮らしているのかと思ったが、専業主婦、OL、自営業、植木職人から学生とそれぞれちゃんと職業を持っていた。
「意外だべ? みんな案外フツーっての」
『からすき』の手前に座っている大学院生だと言った、『とろき』の六郷宗馬さんが、ヘラヘラしながら手を振っている。
「ま、中には変わったのもいるけどなぁ」
そう言いながら左斜めにいる、『みつかけ』の万代夢さんに視線を送る。
「うるさいわね! このおちゃらけ宗馬!」
「夢ちゃん、怒っちゃイヤ!」
「あ! 夢さんって、中学の駅前にある八百屋の人じゃねぇのか?」
以前、エルティを悲しませてしまったときに鈴乃が隠れさせてもらった八百屋の気前よさそうな人だ。
「そうよ! 鮮度と愛想よくて評判なの。今度買いに来て、オマケするわ」
「母さんに言っておくぜ」
「私も給料前にはよく助けてもらっているんだ」
たしか、『とみて』と言った消防隊員。榎原繁さんが、頭を掻きながら笑っている。
……あれ? この人もどこかで見た気がする……。
あ! 思い出した。
「あんた、親父を救急車で運んだ……」
もう一人のヤツがとんでもねぇこと言った時に、手を合わせてくれた人だ。
「ああ、私が義鳳さんの亡きがらを運んだんだ。あの現場はすごかったよ」
「一緒に来たあやしいトラックは、何なんだ? 運転手のことを次元開口体なんて呼んでやがったけど」
「あれは政府の自衛隊所属の特務機関なんだ。私たちのように世界から与えられた能力ではなく、科学的アプローチから次元バランスの解明を試みている」
「そんなもんがあったのか? だったら国は俺たちのこと知っているってことか」
「知っているも何も、みななふたには現実に世の中を動かしている政治家や、大企業のトップ、政府を裏から操っている黒幕もいるんだよ」
「なんでそんなヤツらが仲間なんだ」
「おいおい、黒幕ってだけで悪いイメージしているけど、色々な人がいるんだ。
現実の社会で一般に私たちの行動を隠しておくには、そんな人がいないと困るだろう。彼らは能力が小さい分、社会でステータスの高さが与えられているんだ」
確かに事故処理の時に刑事がそんなことを言っていたな……それに明らかに報道規制が行われていた。
「それって逆に言えば能力が大きいほど出世しないってことか?」
「うーん。あまりアテにしない方がいいな」
それなら俺はどうなるんだ?
「なあ、俺の能力って大きいのか?」
「そらすごいわ。自分さっき使こた能力、ぜんぜん本気やなかったやろ? ふたやの中でいちばん大きいわ」
弓香さんが興奮気味に説明すると、他の人もウンウンと納得している……って。
「うお、なんかぜんぜん嬉しくねぇ!」
「でも『うか』様のような、大学教授もいるよ」
雄綱さんがフォローしてくれる。
「そうなのか?」
「三年後には定年だけど」
宗馬さんの突っ込みに全員笑うが、笑いごとじゃねぇ。
なんだかんだ言いながら、結局みんなごく普通のいいやつばかりだった。それからしばらくむうの地で雑談した。
帰る時は空間を操る三人が、みんなを次々と希望する場所へと空間を開く。
「天凪君、あまり驚かせないようにと思って私の店から来てもらったったんだが、帰りはここから家まで送るよ」
充分驚いたっての!
「俺は来る時に通った山の中をもう一度通ってみたいから、店の方に送ってくれ」
「なら一緒に帰ろう。少し待っていてくれ」
「仁狼くん、あたしも言わへんけど、佳月ちゃんにあたしのこと言うたらあかんで」
「分かってるぜ。それより俺のことは今までどおり仁狼って呼んでくれ。あいつ勘がいいから急に変えたら何か感づかれる」
そう言うと弓香さんは、笑いながら帰って行く。
みんなが次々と送られて行く中で、ふと葵ちゃんが俺の方を気にしながら、このまま帰ろうかどうしようか迷っている姿が見えた。あ、親父の言っていたエルティの関係、聞いてなかったぜ。
「葵ちゃん! よかったら俺と一緒に帰ろうぜ」
大声で呼ぶと、彼女は嬉しそうに走って来たものの、目の前まで来ると、恥ずかしそうにうつむいて黙りこむ。
「ほら」
葵ちゃんの渡してくれた写真を差し出した。
「え?」
「これは葵ちゃんが親父から直接受け取ったものだ、よかったら形見としてもらってくれないか」
「ですが……」
遠慮しているが、欲しい気持ちがありありと感じとれる。
「元ネガがあるから、いくらでも焼き増しできるぜ、今度そっちもやるから。ほら」
わざとムリに押しつける形で手に握らせた。
「ありがとう……仁狼さん」
すごく嬉しそうに写真をじっと見つめている……この子はこうやって俺の知らないあいだにも、ずっと親父のこと考えてくれていたんだろうな。




