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明かされる能力  作者: 吉川明人
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自己紹介


「天凪くん」

『もうとく』様が俺を呼ぶ。

 あれ? いつの間にか『様』って付けているじゃねぇか。まあいい、その方が自然な感じがするぜ。

「わたしたちとともに、この世界のバランスを護って行ってくれますか?」

「おう、俺にできることは何でも言ってくれ」

「ありがとう」

 まさに好々爺の表情で、もうとく様がニッコリと笑ったとたん、周囲からまた意識に直接伝わる歓声が沸き起こった。

 今度は驚かねぇ。

 一つパフォーマンスでもしてみるか。


 能力を集中すると一気に周囲からエネルギーが集まり、頭上に巨大な光の玉ができる。それだけですでに、親父の制御しきれなかった何倍ものエネルギーだったが、俺にとっては操れる何分の一かに過ぎない。

 晴れ渡る青空に向けて、巨大な光の柱が空に吸い込まれて行く。ただの光の塊なので、人工衛星に当たってもどうってことはないだろう。

 俺のパフォーマンスに、周囲からの歓声が一層高まった。

 ま、こんなもんで止めておくかな。

 あれ? 今のエルティに頼んでないぞ。

 何も考えないで自分の意思でやったのか?

「それこそ俺が……いや、この世界が待っていた能力だ。お前が俺のあとを引き継いでくれるなら、もう何も心配することはないな」

 親父が初めて俺を頼もしそうな目で見ながらつぶやいた。

「おう、任せとけ」


 やがて、親父がこっちにいられる時間が終わりに近づいて来た。さっきまで鮮明に見えていた姿がゆっくりかすみ始めている。

 葵ちゃんは時間を惜しむように親父と話をしている。ほんとなら、抱きついて頭でも撫でてもらいたいんだろうけど……触れることができないってのも、かわいそうだな。

「……さて、そろそろか」

 陽炎のような親父が立ち上がると、葵ちゃんは体をビクッと震わせる。

「すまんな葵ちゃん。しょうがないんだ」

「……うん。分かってる」

 涙を浮かべているが、それでも親父から目を離そうとしない。

 強いな、この子。

「仁狼、玲子を頼むぞ元気に暮らせ」

「親父もな」

 おたがいに笑って親指を立てた。

「おじちゃん」

 葵ちゃんも俺たちの真似をして、親指を立てる。親父はそれに答えてもう片方の手で同じポーズを取りながら、その姿のままゆらゆらと消えて行った。


「では、あみよ。自分の祭壇に戻りなさい」

「はい」

 もうとく様にうながされ、葵ちゃんは寂しそうな目を一瞬俺に向けて、自分の祭壇に向かった。


——『ここのむゆ』『みななふた』よ 新たなる『とかき』が我らと輝いた 残る『すばる』はまだなれど 時が満つれば必ず集う 今日はご苦労 ご苦労だった——


 意味の分からねぇ長の言葉にまた歓声があがり、何の合図もなく全員が同時に立ち上がったので、俺もあわてて立ち上がる。

「うちらはまだええんや。ふたやどうしで自己紹介みたいなことやるからな」

 隣の弓香さんが笑いをこらえながら教えてくれる。今日は、なんか恥ずかしいことばかりだぜ。

 立ち上がった周りの人……ここのむゆとみななふたの目の前の空間が開いて行く。

「喫茶店の地下で見たやろ? 『とどめ』の能力や。それぞれ行きたいところの空間つないで帰って行くんや」

「あれがそうなのか? だが岩はないぜ」

「やろと思たら、どこでもできるんや。そやけどあの岩とか、あんたの近所にある木ぃとか、自然が媒体してくれて、能力ほとんど使わんでもええようなもんがところどころにあるんや」

「そうなのか」

 やっぱりあの木も関係あったのか。

 残ったふたやがそれぞれの祭壇を降りて、一か所に集まれる場所……入り口から祭壇の山をグルッと回ったいちばん奥にある、大きなへこみのような場所に集まった。

 壁にはものすごい量の古めかしい本がいちめんを埋めている。

 もうとく様たち四人の『ししん』様は先に帰り、『おさ』は祭壇の頂点に今もいて、ここにはいない。

 おさは元々は人間だが、おさになってしまうと世界と直接交流できる橋渡し役として、根が生えた樹木のようにあの場所から離れることができなくなる……ということが自然と理解できた。そのかわり、役目を終えるまで人間を超越した自然との一体感によって最高の幸福感が続く。おさとなるからこそ、そうあるよう生み出された存在なんだ。

 奥のへこみには、おさからの光に照らされて気持ちよく、大きく円いテーブル……でかい木が切り倒された根っこをそのまま利用した台と、輪切りにされた木の椅子に、祭壇の位置と同じ位置に座った。


「改めて、天凪仁狼だ。今18歳で来年大学受験なんだ」

 簡単に挨拶と自己紹介をした。

「僕は三の関皓介さんのせきこうすけ。中学三年生です。ふたやでは『す』と呼ばれています」

「あ、朝日奈葵です『あみ』です」

 葵ちゃんが少し恥ずかしそうにしながら言った。

「おう、よろしくな」

 俺と正面に座る皓介から、右回りに自己紹介が始まった。

『とも』『そい』『なかご』『あしたれ』。『み』は、さっきの喫茶店のマスターだ。

『みーさん』じゃなく、ただの『み』で本名は真柴賢二郎ましばけんじろうで、これがししん様の一人『かいりん』様を補助する七人だ。

『ちちり』『たまおの』『ぬりこ』『ほとおり』『ちりこ』『たすき』『みつかけ』が、『うか』様の補助の七人。

 そして『もうとく』様を補助する『とかき』が俺で、弓香さんは『たたら』。さらに『こきえ』『すばる』『あめふり』『とろき』『からすき』の雄綱さん。だが『すばる』の席は空いていた。

「ついこのあいだまでは、おったんやけどな」

「死んだのか?」

 その割にはニヤニヤしてるけど。

「宇宙人と結婚して、一緒に宇宙に行ったんや」

 絶対信じられねぇ! 弓香さんのこと知ってなかったら、やっぱりアブネェ集団だって思うところだぜ。


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