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明かされる能力  作者: 吉川明人
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重み


玲子れいこ、いい夫とは言えなかったかもしれんが、俺は今でも出会った時と同じように愛していた。こんなに早く先に逝ってしまうことを許して欲しい。

 仁狼、俺が死ぬことによって、お前の能力が目覚める……それも俺とは比べ物にならないほどの大きな能力がなぁ。

 生まれた時から気づいていた。だからこそ、お前につけた名前に込めた願いを……」


 ゴウッ!

 親父の全身から炎が吹き上がった。

「おじちゃん! おじちゃん!」

「くっ。仁狼、母さんのことを頼んだ。それと……鈴乃ちゃんを幸せにしてやれよ」

 炎の中で親指を立てて、ニヤリと笑ったように見えた。

「必ず伝えます。とかき」

 力強くからすきが答える。

「……たの……ん、だ」

 葵ちゃんは歯を食いしばりながらも、親父から目をそらさず、ポロポロ涙を流している。

 親父がいた場所から、強い光が放たれた。

 暴走した能力が解き放たれ、抑えようとしていたエネルギーがコントロールできるまで落ちた瞬間だった。

 それは、親父の死の瞬間を意味していた。

「おじちゃーん!」

 葵ちゃんがたまらずに叫んだ時、あたりは深い闇に包まれる。

 それでも親父がさっきまでいた方に向かって、葵ちゃんが歩きだそうとする気配がした。

 見せちゃいけねぇ。

 俺は親父の最期の姿を見た。葵ちゃんに見せるには、ショックが大き過ぎる。

「行くな、あみ……葵!」

 大声で止めるからすき。彼もおそらくそこに何があるのか理解している。

 葵ちゃんはビクッと体を震わせて立ち止まる。

「……おじちゃん、置いていけないよ? このまま置いてなんていけないよ? おじちゃんさみしいよ」

 放心して繰り返している。

「義鳳さんも言ってただろ、死は肉体のコートを脱ぎ捨てるだけなんだ。

 簡単に会えなくなるけど、本当の義鳳さんが死んだんじゃない」

「……死んだんじゃないの? おじちゃん、死んだんじゃないの? でも、おじちゃん動かないよ」

「葵だって、脱いだ服は動かないだろ。義鳳さんのことだから、今は葵の頭を撫でてくれているよ」

「わたしの……」

 その時、葵ちゃんの頭のところが確かにボウッと光った。

「あ」

 葵ちゃんが驚いて頭に手をやると、手が触れたと同時に光が消える。

「ほら。言った通りだろ」

「おじちゃん、いるなら一緒に帰ろう」

 闇の中に向かって葵ちゃんの声が響く。

「大丈夫だよ葵。義鳳さんなら一緒に来るよ」

「ほんとに? からすき、ほんとにおじちゃんも一緒に来るかな?」

「義鳳さんが葵に嘘ついたことがあったか?」

「……ううん」

 葵ちゃんはそう言って少しだけ微笑む。

「よし、戻るぞ葵。ここはもうすぐ人が来る」

「うん。行こうおじちゃん」

 そうつぶやきながら、葵ちゃんはからすきと一緒に闇の中に消えて行った。




「事故として処理しろですって?」

 誰かの叫び声が聞こえた。

 俺はまださっきの現場にいる。

 自家発電の照明灯に照らされ、あたりは昼間のように明るい。

 親父がいた場所にはシーツが被せられていて、少し離れた場所には同じシーツを何枚も使った細長いものが覆ってある。

「どう考えても、これは事故じゃありません。異常です!」

 若い背広姿の人が年配の人に詰め寄っている。

「しょうがないだろう。上からの命令だ」

「しかし……」

 そうか、この二人刑事か。

「異常だからこそ、この現場に立ち入る者が規制されていることをよく考えろ」

「それはそうですが」

 それでも若い刑事は納得いかない様子だった。

 確かにこれだけの事故なのに処理に当たっている人数は少ないし、まっ先に駆けつけて来るはずの報道陣もいねぇし、ヘリさえ飛んでない。

「それに上と言っても、ただの上じゃない。まだ出世したいのなら、黙っとけ。その方が利口だぞ」

「…………」

 若い刑事はまだ何か言いたげだったが、それ以上何も言わなくなった。


 そこに救急車ともう一台、何の表示もつけていない大型のトラックが到着する。

「うわあ、すっかりウェルダンだな」

 降りて来た救急隊員の一人が親父にかけられていたシーツを軽くめくって、そんな事を言いやがった。

「バカもの! 仏さんに失礼だろ」

 もう一人が手を合わせながら言ってくれたので少しは気がおさまったが、体が自由なら殴ってやるところだ。

 大型のトラックから降りて来たのは軍服をきた男たちだった。

「佐々木部隊現場に到着。これより次元開口体とおぼしき遺体を回収する」

 隊長らしき人物が無線でどこかと交信している間に、荷台からいかにも特殊なケースが降ろされ、他の隊員が細長いシーツを取り除き、一斉に手を合わせてからケースに細長いものを納めてさっさと荷台に運び入れる。

 ……次元開口体って、どう言うことだ?

 新聞には爆発のためにカケラも残らなかったってあったはずだ。

 トラックと親父を乗せた救急車は、現場から走り去って行く。


 ……感覚が戻って来る。

 自分の体なのに、ひどく重く感じられる。

 目を開くと、俺は泣いていることに気がついた。


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