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明かされる能力  作者: 吉川明人
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違い


 穴……引き伸ばされた運転手の軟らかい感触が伝わって来るようだったが、親父は気にする様子もなく、穴の中に頭を突っ込んだ。


 いきなり光景が変わった。また場所が移動したのかと思ったが、どうも違う。俺は親父の服のままだったし、緊張した親父の表情も変わっていない。

 見たくはなかったが、その景色を見た。

 見てしまった。化け物の全身を。

 ……え? どう言うことだ?

 化け物なんて、どこにもいねぇ。


——次元の違いは認識の違い。本来知ることのできない認識の違いを、わたしたちは知ることができます——


 声がきこえて来る。

 そうか。ここは違う次元の、本来あるべき状態なのか。だとすると……攻撃するわけにはいかねぇ。

 異次元の向こう側の入り口は古いおもちゃ箱だった。

 そして、それを開けて中を覗き込んでいるのは葵ちゃんくらいの男の子だ。正確に男の子と言えるのかどうか分からねぇが、とにかく子どもだ。

 どこかにしまわれていた古いおもちゃ箱のふたが、異次元に通じる入り口につながってしまったらしい。不幸にも俺のいる次元では、それがトレーラーの運転手の体だった。

 この子は知らずにそれを開いた。

 振り返って見る箱の中身は、よく分からねぇがおもちゃに見える。

 枝分かれした目は興味しんしんでのぞき込む目そのもの。

 八本の触手は親指をのぞく指。

 でかいユムシは一度押し戻されたために、もう戻されまいとして突っ込んだ足だ。

 穴に突っ込まれた親父の頭は、おもちゃの一つに認識を変えている。

 どうするんだ? しばらくは諦めてくれそうにねぇぜ。

 この子が自分からふたを閉じてくれないことには、どうすることもできねぇんじゃねぇか?

 悩んでいると親父が光を周囲に向けて放った。


——『たのし』の能力、光を操っています——


 何種類か試すように放って、元の次元に戻る。

「どうでしたとかき?」からすきが尋ねる。

「やっかいだな。子どもだ」

「子ども?」

「次元を開いていることも知らずに無邪気なもんだ。攻撃するわけにはいかんなぁ」

「帰るのを待ちますか?」

「いや、待ってことが解決するなら俺らが来る必要はない。このまま放っておくわけにはいかんだろう。ただ、向こうで少し試してみた」

 化け物に見える子どもに、親父が腕をまっすぐ伸ばす。


 光線が伸びた。

 ラフトの、人のプレートから放たれるものによく似た光だ。

 そうか。子どもの考えを変えて、おもちゃ箱から興味を失わせようとしているのか。あれ? それなら、いつもエルティに頼んでいる俺はどうなるんだ? 俺は親父のように、直接この能力が使えねぇのか?

 あるいは親父のエルティが俺には見えねぇのか。

 色が微妙に変化する光が当たると、ソイツは動きを止める。

 行けるか?

 入り口を広げていた指がスルリとほどけた。

 このまま飽きてくれれば。

 ほどけた指がゆっくりと穴の奥に戻る素振りを始めたが、違った。

 今度は手を一度離して、改めて腕を突っ込んだらしい。先が五本に分かれた巨大な触手が周囲にブンブン振り回される。

 道路脇の木がなぎ倒され、手のつけようがねぇ。それでも親父は光を放ち続ける。

 やがて、子どもは足元にあったトレーラーに気がついたようだ。

「あ! マズイ!」

 からすきが重力を操ってトレーラーを持ち上げるのを防ごうとしたが、逆に急に重くなったため手を滑らせてしまった。


 落下するトレーラー。

 裂ける貨物。

 吹き出す燃料。

「しまっ……」


 爆発。


 振り返って葵ちゃんをかばう親父、重力を変えて炎と爆風を遮り二人をかばうからすき。

 一瞬が永遠ほどの……。


「みんなぁ、生きてるかぁ?」

 せっぱ詰まれば詰まるほど、とぼけた口調になる親父の声にホッとした。

「なんとか……すいません。とかき、あみ」

 からすきは、爆風と燃える燃料の雨から全員を防ぎきっていたが、本人だけは服がかなり焦げている。

 周囲は火の海となり、ものすごい熱気と燃料の燃える臭いに包まれるが三人は平気のようだ。

「大丈夫? おじちゃん、からすき」

「何とか、服がかなり焦げたみたいだけど」

「気を抜くな。まだ次元は開いたままだ」

 親父が再びソイツを見上げた。

 爆発に驚いたのか、足が引っ込められている。

 しかし、また腕が伸びて来る。

 今度は二本、そして頭ごと。

 向こうの次元とはまるで違うグロテスクな頭部。昆虫の腹のような節くれだった皮膚。ところどころ突き出されるヒレのような物。

 何もかもが異質で生理的嫌悪の塊。

 さっき見た男の子とはとうてい思えないが、間違いなくソレは子どもだ。

 熱さを感じねぇのか、振り回される腕が燃料を炎ごとかき回し周囲の木に次々引火して行く。

 このままだと大規模な山火事になるぞ。

「頭に直接なら……」

 光を、おそらく額に集中させる。

「うおおお!」

 輝きが強まると、動きが止まった。

 光が当たっているせいか、ソイツの意思が伝わって来る。

《面白い……こんな箱……入れるなん…楽しい。遊ぼ…ずっとこの中いよう……》

 とんでもねぇこと考えるんじゃねぇ!

 このままおまえがこっちにいると、どれだけ被害が出ると思っているんだ!

 しかし、コイツはそれが分からねぇんだ。


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