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明かされる能力  作者: 吉川明人
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向こう側


 なんてことするんだ!

 爆発に巻き込まれるぞ!

 しかし親父は暴れ狂うトレーラーに事もなげに飛び乗ると、上を向いていた側のドアを片手で引きちぎって中をのぞき込む。

 同時に俺は、親父の服になって一緒に中をのぞいていた。

「いない! 放り出されたか、すりおろされたか」

 親父がエグイことをつぶやいた時、トレーラーはようやく勢いを止めた。

「燃料輸送車か……今のところ爆発の心配はなさそうだが」

 トレーラーの上にゆっくり立ち上がった時、何かがボタボタと音をたてて流れ落ちる音がした。

「マズイ、漏れ出しているのか?」

「とかき! 上!」

 雄綱さんが叫んだ。


 反射的に見上げると。


「うおっ!」

 親父はトレーラーから飛びのき、雄綱さんが素早く葵ちゃんの前に立ちふさがって視界を覆った。

 俺には理解できねぇ。いや、理解することを精神が拒否してボーッとなった。

 ……まさか、こんなモンが。

 徐々に頭の霧が晴れて理解したくもねぇ、空中に浮かんだ異様なモノが理解できた。

「それ」が完全に死んでいることだけは分かる。

 右腕が肩から右足も半分すりおろされて無くなっているし、左足も膝から下がズボンに引っかかってブラブラ揺れて、左腕と首はありえない方向に折れ曲がっている。

 トレーラーの運転手だった人に間違いねぇ。ボタボタ音をたてたのは、流れ落ちる大量の血液の音だ。

 だが、なんで……なんで浮かんでいるんだ? 空間にソレを支えるものなんて、何も見当たらねぇぞ。


 ミッ……シ。

 ソレの腹から、意識を逆撫でされるような、生理的にイヤな音が響いた。


 ……ギシ。

 見たくなかったが、目が離れねぇ。


 ミ……ギギ……グシッ。

 形容しようのないイヤな音が響き、はらわたが垂れ下がり、音を出している張本人が現れ始めようとしていた。

「出て来るぞ。気をつけろ」

 緊張した声で親父が言った。

 何が出て来るんだ……。

 服を突き破って腹から最初に出て来たのは、細くて吸盤のないタコの足のような触手だった。

 こじ開けるように、少しずつ細い触手が出て来る。

 一本。二本。三本……。

 ……八本出て来たところで止まった。ほんとにタコの化け物なのか?


 ギィ……ギィ……と、音とも声ともつかないイヤな音が鳴り響き、腹に開けられた穴は八本の触手によって、ゴムが伸びるように運転手の体を引き伸ばして行く。

 もう人間の形はしていねぇ。

 肉の輪っかになったソレは、それでも、かつて目や鼻だった部分が伸びきりながらも分かる。

 強い嘔吐感を覚えたが、今の俺には口がない。

 輪が直径20メートルくらいにまで広がった時、その穴の中から、何かがヌゥッと出て来た。

 目?

 目……か?

 なん本にも分かれた枯れ枝のようなものの先には、それぞれ目がついている。

 さらにもう一本が突き出され、枝の先についたブヨブヨした目玉が一斉にこっちを見た。

 生理的嫌悪に襲われ、大声をあげて逃げ出したかったが、俺は親父の服のまま、動くことができねぇ。

「からすき、向こう側に引っ張れるか?」

 親父は急に雄綱さんを『からすき』と呼んだ。

「やってみます」

 呼び名を気にすることなく、からすき? は、何か集中する。

「ふん!」

 気合とともに何かをやった。

 突き出されていた目が、見えない何かでもとの穴の中に引っ張られ、穴をこじ開けていた触手も奥に押し戻されていくようだが。


——からすきは『たいち』の能力、重力方向を変化させて穴の向こう側に落下させようとしています——

 声が聞こえたが、たいちの能力ってなんだ?

「行けそうか?」

 親父が尋ねた時、ソレがさらに出て来る。

 ド……ニュ……リ。

 気持ちの悪い音と一緒に、穴の中からとんでもなくでかいユムシのような、もっとグロテスクな塊が、穴の入り口に垂れ下がり、穴をこじ開けていた触手がまた伸ばされ、穴をぐるっと一回転して反対側からつかんでガッチリ固定される。

 もう、ちょっとやそっとでは動きそうにねぇ。そして再び目が突き出されて来た。

「ええい!」

 葵ちゃんが突然叫び、その手にはバチバチ火花を散らしながら輝くプラズマの球を持っている。

 なんだ!?

——『ふるへ』の能力、電気・電磁波を操っているのです——

 そうなのか? それより、俺でも逃げ出したくなるようなあんな化け物を前にして、葵ちゃんはぜんぜんこわがっているように見えねぇが、すげぇな。

「『あみ』だめだ! やめろ!」

 親父が止めるより先に葵ちゃん……あみ、と呼ばれた彼女はそれを化け物に投げた。

 それに触れた目や触手はわずかに反応したが、パリパリと音をたてて球は消滅する。

「あみ、下にあるトレーラーに引火でもしたらどうするんだ」

 からすきがほっとしているが厳しい口調でとがめる。

「あ……ごめんなさい」

「まあ大丈夫だったんだからもういい。しかし、このままだと動きがとれないな」

「そうですね。アレの方からは、特に攻撃してくる様子はありませんし」

「しょうがない。少し危険だが向こう側へ行ってみるか」

 向こう側?

 向こう側って、あの穴の中か!?

 考えただけでもゾッとする。向こうを見るってことは、あの化け物の全身を見ることじゃねぇか……って考えている間もなく、親父が穴に向かって飛び込みやがった。


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