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月と太陽

作者: 水那月

昔、世界は2つの国に分かれていた。

太陽の神を崇拝する『陽の国』

月の神を崇拝する『陰の国』

それぞれの国の王は仲が悪く、常に戦争を繰り広げていた。

2つの国には、王に従う大賢者がいた。

そして、陽の国には2人。陰の国には3人の魔導師がいた。

魔導師は、それぞれの国で崇拝している神の力を借り魔力を作るのだ。

それぞれの王の名前はウィルヘルミナとアルベールと言った

陽の国の王はアルベール、陰の国の王はウィルヘルミナとなっていた。

そもそも戦争の始まりは陰の国の王が、『陽の国をも我が領地としたい。私が全ての覇者となるために、奪いたい。』と言ったのが始まりだ。

陰の国の大賢者アナトはウィルヘルミナに向かって

「我が王よ。貴女こそ、この国…いいえ陽の国をも統べる王にふさわしい。」

という助言をしたのだ。

「3人の魔導師を我が前へ。」

「はっ!」

陰の国に仕える3人の魔導師、名をそれぞれ

『イシス』『セト』『オシリス』と言った。

「イシス。そなたに宣戦布告の手紙を託そう。陽の国のアルベール王に渡してまいれ。」

イシスは跪き、恭しく手紙を預かりながら叫んだ。

「我が神ディアーナと我が主なるウィルヘルミナ王に誓い必ずや手紙を渡してまいります!」

「うむ。頼んだぞ。」

イシスは早速手にした手紙を陽の国に届けるべく、魔法陣を描くため専用の部屋へ向かったのだった。

「セト、オシリス。お主等は迎撃準備と防御の準備をしてまいれ。」

「はっ!我が主よ!その命この命に代えても守りましょう!」

「はっ!我が主!我が攻撃で軍勢を圧倒させてみせましょう!」

そう言い放ち各自与えられた役割を全うするため準備に取り掛かった。

そして、魔法陣を描き終えたイシスは陽の国へと飛んだ。

城の入り口の兵士に向かって

「私は、陰の国のイシス!陽の国の王アルベール王に我が国の王ウィルヘルミナ王からの手紙を持って参った。門を開けたまえ!」

そう叫ぶと、兵士は大きな門を重そうに押して開けたのだった。

ゆっくりと王宮の道を歩きアルベールの元へ向かうイシスの前に陽の国の魔導師が現れた。

「イシス!また戦争の話か?」

「あぁ…。ネイトにマアト。そうだ、我が国の大賢者様がまた王をそそのかしておいでだ。」

「またか…。」

「また私たちが、戦争の前線に立たされるのね…。」

マアトが悲しそうにぽつりと言った。

「マアト。そんなこと言うな。我が王をお守りできるのは兵士達だけじゃできない。」

「ネイトは怖くないの?」

「俺だって怖いさ。多分イシスも怖いと思ってるさ。」

「あぁ。思ってる。」

「でも、やらなきゃいけないもんね…。」

3人で王宮の廊下を歩きながら会話していた。

そして、王の部屋の前に着くなりマアトとネイトの表情が一変した。

「我が主アルベール王よ。陰の国より使者が参りました!」

そう叫び扉をゆっくり開けた。

「ごくろう。イシスか…。お主が来るのはもう何回目かの?マアト、ネイトご苦労であった。」

「はっ!失礼いたします!」

「陽の国のアルベール王よ。我が主ウィルヘルミナ王より手紙でございます!」

アルベールの傍に近寄り片膝を付きながら言った。

「うむ。ご苦労。おい、受け取れ。」

そう言うと兵士の一人が手紙を受け取った。

「マアトとネイトを呼べ。」

そう言うと兵士の一人が駆け出した。

「イシス。お主が来ると必ず戦争の前触れだと陽の国では噂になっておる…。今回もまた戦争か?」

「恐れながら…。」

「そうか…。」

「我が主アルベール王よ!お呼びでしょうか!?」

「すまんな。毎回…。お主等に任を命ずる。我が国を守れ。」

「はっ!我が神アーディティアと我が主アルベール王に誓い必ずお守りして見せましょう!」

「頼んだぞ。イシス我が国は陰の国に攻撃をできるだけしたくない…。だが、きっと今回も無理なのだろうな…。」

「…。すいません。」

「お主が謝る必要はない。陰の王ウィルヘルミナに伝えよ。我が国は全力を持って陰の国を潰しにかかると!」

アルベールは王座から立ち上がりながら言った。

「はっ!かしこまりました!」

それだけ言うとイシスは立ち去った。

国に帰るなりウィルヘルミナにアルベールに言われたことを伝えた。

すると

「おのれ…。アルベールめ…。許さぬ。我が国が勝った暁には打ち首にしてくれよう!」

それだけ言い放ちウィルヘルミナは自分の部屋に帰って行った。

イシスはもう一度、今度は城の中へ魔法陣から飛んだ。

「ネイト!マアト!いるかい!?」

「え?イシス!?帰ったんじゃ…?」

「ちょっと用事さ。なぁ2人とも…この戦争おかしくないか?」

「どういう事だ?」

「我が国の大賢者様が首謀でこの国を襲おうとしているのは話したよな?」

「あぁ。」

2人そろって首を縦に振った。

「6年間平和に過ごしたというのに、なぜまた争わなければならないんだ?」

「それは…。」

「俺は中立の立場に立ってこの国々を平和にしたい!」

「それは無理よ。イシス。」

黙っていたマアトが突然喋り出した。

「だって、陰の国の大賢者が生きている限り平和は無いと思うの。」

「何故だ?」

「きっと、その大賢者が死んでからも意思を受け継ぐものが現れて両国の戦争は一生続くと思うの。」

「……………。」

2人で黙ってしまった。マアトが言っていることは確かに正しかった。

「そうだな…。俺が中立の立場で事を終わらせられれば…。」

イシスはそう呟くと2人をしっかり見据えた。

「マアト…。ネイト…。俺一回戻るな。」

「あぁ…。気をつけろよ?」

「わかってる…。」

2つの国で決めた1つの罰があった。それは許可も無しに両国の間を行き来すると、裏切者扱いされ火あぶりの刑に処されるということだった。

「ばれないことを祈るよ。」

「ありがとう。じゃあな…。」

「おう…。」

そして、イシスは陰の国へ帰った。

魔法陣を描いた部屋は鍵をかけ、誰も入れないようにしていたつもりだった。

しかし、防御の魔法を任されているオシリスが部屋にいた。

「イシス…。貴方許可も無く陽の国へ行ったの?」

「オシリス…。うん。ごめん。」

「貴方何をしたのかわかってるの!?」

「わかってるよ。」

「貴方今罪を犯したのよ?」

「うん。」

「死ぬわよ?」

「うん。」

「我が主ウィルヘルミナ王にお知らせしなければ…。」

「オシリス…。」

「何?イシス見逃してとは言わないわよね?」

「見逃してなんて言ったらオシリスまで一緒に火あぶりになるんだよ?言うわけないだろ?」

陰の国では無許可で国を行き来する者は当然、それを一緒に隠した人まで火あぶりの刑に処されるのだ。

「イシス…。ごめんね。」

「ううん。大丈夫だよ。やっぱなんでもない。」

「ごめんね…。」

オシリスは目に涙をいっぱいに溜めながら部屋を出て行った。

暫くして兵士が走ってきた。

「反逆者とみなして、イシス!お前を捕まえる!」

そう言うと1人がイシスの手を掴んだ。

イシスは抵抗せずおとなしく従い牢屋に入った。

数日後イシスのいる牢屋の前に1人の人が現れた。

「イシス…おぉなんということでしょう。私を裏切るなど…。」

「我が主ウィルヘルミナ王…。すいません。しかし、決して我が国に不満があって行ったことではありません。どうか信じてください。」

「裏切者の話を信じてはなりませぬ。我が王よ。」

「アナト…。そうですね。イシス…貴方の処刑は明後日です。覚えておきなさい。」

「はい。」

「我が王よ、その考え少し待てませぬか?」

「アナト?なぜだ?」

「このイシスという男は陽の国の王アルベールと仲が良い。それを利用したらどうか?」

「どういう事だ?アナト説明してみなさい。」

「はっ!我が王よ。このイシスと言う男は戦争のたびに使いに行かせている者。なのでこのイシスという男を陽の国の王に渡すのです。」

「渡したら、我が国が不利にならぬのか?」

「いいえ。正しくは囮に使うのです。我が王よ考えてみてください。魔導師が1人増えるというのは戦いにおいて有利。そうわかっているのならこの男を引き渡す。その代り少数の兵だけを連れ、敵陣まで来いと言うのです。さすれば陽の国の王は少数の兵を引き連れてやってくるでしょう。そこを我が陰の国の大勢の兵で攻めれば陽の国は我が王の手中と言うわけです。」

「なるほど…。」

「そんな…!我が主ウィルヘルミナ王よ!陽の国の王アルベールはきっとその交渉に応じぬでしょう!」

「…。裏切者は黙っておれ。」

そう一言吐き捨ててウィルヘルミナは牢屋から去って行った。

「イシス。お前は馬鹿だ。中立の立場で両国を和解させようとするからこうなるのだ。」

ウィルヘルミナと共に去ったと思っていた大賢者アナトがそこに立っていた。

「アナト様…。なぜそれを…。」

「お前が企てていることくらいわかっていたさ。だからお前の部屋のカギを開けオシリスを中に入れたのだろ?」

「そんな…!」

「困るのだよ。勝手なことをされては。我が陰の国と敵国陽の国とは一生戦争をしていてもらわなければ困るのだよ。」

「なぜ…。なぜ戦争をしようとする!」

手についていた鎖が床に打ち付けられガシャンと音がした。

「簡単なこと。私は戦争が好きなのさ。我が主は馬鹿で扱いやすいから簡単に戦争をしてくれる。いいことだろう?」

「アナト様の考えは間違っている…。歪んでいる…。」

「みんな歪んでいるだろう?もうじき戦争の火ぶたが切って落とされる。」

「必ず止めてみせる…。」

「その無様な格好でか?」

「必ず止めるすべはある!」

「精々もがき苦しむといい。」

そう言ってアナトは薄ら笑いを浮かべながら去って行った。

アナトは考えた。

そして1つの手段を考えた。

自分の手を切り血が流れたのを確認し、その血で魔法陣を描き始めた。

イシスの体力、精神力は限界に達していたが、魔力だけは余るほどまだ残っていた。

魔法陣を描き終えると鎖を断ち切る呪文を早口に唱え、手や足についた鎖を切った。

イシスは魔法陣の上に手を置き一心に祈った。

『どうか…どうか届いてくれ!誰か陽の国にいる誰か気付いてくれ!』

暫くと祈っていると心の中で声がした。

『誰だ?』

聞きなれないその声の主は怪しむように聞いてきた。

『私は陰の国のイシス。そちらは陽の国の者か?』

『いかにも。私は陽の国の賢者アテン。』

『アテン様あとどのくらいで戦争が始まるのかわかりますか?』

『あと、2日…いや今すぐにでも始まりそうだ。』

『そんな…。』

『なぜ、お前は私に語りかけてきた。』

『アナト様をどうか止めていただきたい。』

『お前の国の大賢者か…。』

『そうです。』

『できる限りのことしかできん。』

『そうですか…。』

そこまで、会話をしてイシスは倒れた。

魔力はあるものの、やはり体力がもたなかったのだ。

イシスは、治癒の魔法を自分の体にかけた。

そして、暫く寝ると摑まる前まで体力が回復していた。

「誰か!誰かいませんか!?」

そう叫ぶと、向こうの方からコツコツ誰かが歩いてくる音が聞こえた。

「イシス…。」

「オシリス…。」

「戦争…始まった。」

「我が主ウィルヘルミナ王を呼んでくれ!」

「できない…と言いたいけど緊急事態って連れてくるね。」

「ありがとう…。」

オシリスはウィルヘルミナを呼びに牢から離れて行った。

そして数分もしないうちに王がやってきた。

「裏切者が呼び出すとは…。覚悟はできておろうな?」

「我が主ウィルヘルミナ王よ。月の神ディアーナに誓ってこの戦争に貢献すると誓いましょう。」

「信じぬ。」

「神に誓ったことは絶対。破りはしません。」

「陽の国に逃げるつもりか?」

「逃げません。この国の勝利の為に我が命を捧げましょう!」

「信じてよいのか?」

「信じてください。魔導師が2人より3人の方が力が強いでしょう?」

「それも…そうだが…。」

「気を許してはなりません。我が王よ。」

「アナト…。」

「そやつは、神への誓いすら破りかねませぬ。」

「いいえ!我が主ウィルヘルミナ王よ!決して神への誓いは破りません!」

「アナト…。こやつを釈放しろ。」

「王よ!」

「よいから!早く牢から出せ!」

「…はっ!」

こうして、イシスは牢より出ることになった。

「イシスよ。裏切った時は覚えておれよ…。」

「心にとめておきます。」

跪き再びイシスはウィルヘルミナに忠誠を誓った。

「我が王よ!戦争は最早始まっています。指示を出すためお部屋へお戻りください。」

そうアナトが促した。

「そうだな…。イシス。後で私のところへ来い。」

「はっ!」

そう言い放つとウィルヘルミナは足早に牢の前から去って行った。

「おのれ…。」

「アナト様…。思い通りに行かない気分はいかがですか?」

「ふんっ!」

アナトは鼻を鳴らすとウィルヘルミナの元へ向かった。

一方陽の国では大賢者のアテンがアルベールにさっきあったことを部屋で話した。

「我が王よ!陰の国のイシスなる男をご存知か?」

「毎回、戦争の宣戦布告の手紙を私に来る少年であろう。」

「さっきそのイシスなる男が私の心に話しかけてきました。」

「ほう…。して、なんと?」

「陰の国の大賢者アナトを止めて欲しいとのこと。」

「何故ゆえに?」

「私めにもわかりかねます。」

「それは何故だ?」

「イシスは話の途中で突然話しかけるのをやめたのです。」

「何かあったのだろう…。」

すると、扉の外から誰かが走ってくる音が聞こえた。

バンッと扉が勢いよく開きネイトが入ってきた。

「ネイト!無礼だぞ!」

「申し訳ありませんアテン様!しかし、急を要しましたのでお許し願いたい!」

「して、どうしてそんなに急いでおるのだ?」

「はっ!我が主アルベール王よ!陰の国の兵が攻めてまいりました!」

「防御はできているであろうな?」

「はっ!まだ、陰の国の魔法使いが動き出していないのでマアト1人で何とかなっています。私もすぐ防衛に…。」

「いや。それよりネイト。お主に頼みがある。」

「なんでしょう?」

「攻撃してくれ…。陰の国を。」

「よいのですか?戦いが悪化しますよ?」

「その前に倒してしまいたい。なるべく戦いたくないのだ。」

「わかりました。我が神アーディティアと我が主アルベール王に誓って必ずや勝利を我が国に!」

そう言ってネイトは出て行った。

「よいのですか?攻撃を本当にしかけて。」

「しかたなかろう…。マアトとネイトを守るにはそうするしかない。」

「そうですね…。」

2人を戦争に駆り出してしまったことをアルベールは深く反省していたのだった。

そして、戦地の中心部。

そこは『灰色の森』と呼ばれる陰と陽の国の丁度、中心にある森だった。

イシスはセトと共に攻撃の準備をしていた。

「セト…。このままでいいのかな?」

「イシス。それを言っては駄目だ。」

「セト…。ごめん。」

小さい声で会話をしながらお互いは集中力を高めていった。

「イシス様!セト様!敵がやってまいりました!」

「わかった。今向かう!」

そう言ってイシスとセトは戦いの最前線へ向かった。すると…

「イシス…。」

「ネイト…。なんで…。」

「イシスと戦わなきゃいけないの?セトとも…。」

「しょうがないだろ?ネイト。我が主の命だ。死んでくれ。」

そう言いながらセトが走りだした。

「それは我が主の期待に背くことになる。俺はこんなとこで殺されないよ?」

そう言いながらネイトはセトの攻撃をよけた。

「セト。君を殺したくない…。だから捕まえさせてもらうね。」

そう言うなりネイトは目で追えないような速さでセトの後ろへ回り込み急所へ一撃入れた。

セトは苦しそうにうめきながら倒れピクリとも動かなくなった。

「ネイト…。セトを離せ。」

「無理だよ。我が主と約束したんだ。」

「…。」

セトを担ぎ上げながら話すネイトの目は今まで見たことのないような獲物を狩るような目だった。

「死にたいやついる?」

そう言いながらネイトは焔玉をいくつも体の周りに作り、放った。

縦横無尽に動く焔玉に身を焼かれもだえる陰の兵士が続出した。

「ネイト!」

「あははっ!みんな死んじゃえ!」

そう言いながらさらに焔玉を作り放つ。

「人の丸焼きになっちゃった…。美味しそうじゃないな…。」

そう言ってネイトは空へ高く飛び上がった。

「ネイト!!降りて来い!」

「五月蠅いよ。イシス。そんなに五月蠅いならイシスも死んで?」

そう言うなりネイトは空気中の水蒸気を集めて凍らせ氷の刃を何本も作った。

「バイバイ。イシス。」

手を大きく振りかぶって下におろしたと思ったら氷の刃も一緒に下に落ちてきた。

イシスは数多の氷の刃を交わしながらネイトを追いかけた。

「待て!セトを返せ!」

「嫌だ。イシス僕は君を殺したくない。なぁ我が陽の国に来ないか?イシスなら歓迎するよ。我が王だって喜ぶはずさ。」

「ネイト…。」

「いいだろ?イシス!セトには我が国の味方にまわってもらう!」

「セトは従わないさ。」

「従うさ。無理やりにでもね。」

「…。ネイト変わったな。」

「元からさ。」

「戦争のせいか…。」

「さぁ!イシス!僕と一緒に我が陽の国に行こう!」

「できない…。無理だネイト…セトは返してもらう!」

そう言うなりイシスはゴーレムを何体も作り出した。

「空中にいる相手にゴーレムなんて…イシス気でも狂ったのか?」

「ネイトは相変わらず馬鹿だなぁ…。」

そう呟きながらイシスはゴーレムの中で作っていた氷の蔓を天高く伸ばした。

「なんだこれっ!」

氷の蔓はネイトを囲み捕獲する用の網となった。

「こんなもの!焔で簡単に敗れる!」

「本当にそんなことしていいのか?ネイト。」

「イシス…。何をたくらんでいる?」

「何も…。」

「…。」

2人でにらみ合いになった。

「ここでにらみ合いしても変わらない。」

「そうだな。」

「さぁセトを返してもらうよ。」

「それは無理。じゃあなイシスまたどこかで…。」

そう言うとネイトは鳥かごのようになっていた氷の蔓の真上を突き破り脱出したと思ったらそのまま姿を消した。

「畜生!一部撤退!我が主ウィルヘルミナ王に伝えよ!魔導師セトが掴まり陰の国が不利になったと!」

そう言うなり伝令係の兵士が足早に去って行った。

「私と共に戦い続けるものは進むぞ!ついてこい!」

イシスはそう叫び歩き出した。

「イシス様に続け!!」

そう誰かが言うと後方で

「オー!!!!!!勝利を我が手に我が国に!」

口々にそう叫びながら指揮を高めていった。

灰色の森を抜けるため歩き進めると頭の中で声がした。

『イシス!戻ってきて!』

『オシリス!どうした?』

『陽の国の兵がすごい勢いでこっちに向かってるの!』

「なんだって!!」

「撤退!一時撤退だ!陰の国を守れ!」

「でも、陰の国の防御はオシリス様がやっておられるのでは?」

「オシリスが助けを求めている…。」

「きっと何かあったのだ。」

そう言うとイシスは陰の国に向かって走り出した。

ただ走るのではなくもちろん魔力でトラップを仕掛けながら走って行った。

そして、陰の国の近くで見た光景にイシスは愕然とした。

「セト…?」

「…。」

陰の国を攻めていたのは陰の国の魔導師セトだった。

「あー!イシス!追いかけてきたの?」

そう言いながら顔を見せたのはネイトだった。

「ネイト!貴様!」

「セトはもう僕の物だよ。」

「何をいっている!セト!攻撃をやめろセト!」

「無駄だよ。セトは僕の言うことしか聞かないようにしてあげたもの!」

ネイトは面白そうにクスクス笑っていた。

「そんな…。」

「ねぇイシス?」

「…なんだ?」

「そんなに睨まないでよ…。悲しいじゃないか。友達だろ?」

「戦争中だろそんなこと言ってられないさ。」

「まぁね。ねぇイシス交換しよう?」

「交換?」

「そう!セトを返してあげるからさイシス…。こっちに来てよ。」

「………。本当にセトを返してくれるのか?」

「うん。」

「……………。」

「イシス様!駄目です!行ってはなりません!」

兵士の一人が大声で叫んだ。

「五月蠅いなぁ…。セトあいつら殺しちゃって?」

すると、セトは軍隊に向かって雷を放った。

「セト!!」

「だから言ったでしょ?僕の(おもちゃ)だって。」

「くそっ!」

雷が落ちたところに倒れている兵士の数は多かった。

半分の兵士が雷により命を落としただろう。

「セト!!お願いだ!やめてくれ…。どうしてこうなるんだよ…。」

「……………。イシス?なんで泣いてるの?」

「えっ…?」

イシスは無意識のうちに涙を流していた。

人が死ぬのは最早当たり前のような光景になっているのに今更涙を流すなど周りは驚いただろう。

もちろん、一番驚いていたのは涙を流した張本人イシスであった。

「あれ…。おかしいな…。止まらない…。」

「イシス?…イシス?どうしたの?大丈夫?」

ネイトはさっきまでのような鋭い目ではなく、前に話した時のような普通の目をしてオロオロしていた。

「ネイト…。大丈夫。」

「ほっ本当?」

「ん…。」

「そっか…。」

「なんか…ごめん…。」

「いやっうん…。大丈夫…。………まぁ、シラケちゃったからまた来るね。」

「セトを置いて行けよ。」

「それは無理。じゃあねイシス。」

そういうと、ネイトは姿を消した。

「………。」

イシスは何も言えずにその場に崩れ落ちた。

「イシス様。宮殿より参りました。ハートの10です。」

陰の国では兵士に名前を与えず、トランプのカードの名前で呼ぶことになっている。

「ハートの10…。」

「はっ!」

「どう言った要件だ?」

「ウィルヘルミナ王がお呼びです。一度お戻りください。」

「…。わかった。兵を一旦兵を引き上げるとしよう。」

一部の兵士を城の周りに配置させるとイシスはウィルヘルミナ王の元へ向かったのだった。

「ジャックよ!王は!我が主ウィルヘルミナ王はどこにいらっしゃる!?」

城の入り口にいたジャックへ声をかけると

「はっ!イシス様!王は王座にお座りになられています!」

そう言いながら敬礼をされた。

「ありがとう…。」

王座のある部屋の前の扉に立ち甲高く叫んだ。

「失礼いたします!!我が主ウィルヘルミナ王の(しもべ)イシスです!」

「入れ…。」

ウィルヘルミナ王が一言述べた。

その声は重々しくそして、恐怖を抱いているのが分かった。

「はっ!失礼いたします!」

イシスはそう言うと扉を開け中へ入った。

「イシスよ…今の現状を申してみよ。」

「はっ!我が国の魔導師…セトが囚われました…。」

「おぉ…なんということでしょう…。」

「…。敵の魔導師は、私とセトの交換を願っております。」

「…して、どうするつもりだ?」

「はっ!私は、セトに変わってあちらへ行き影から攻撃しようと考えております!」

「ふむ…。確勝はあるのか?」

「わかりません…。しかし、やれるだけやってみたいと思っています。」

「そうか…。」

ウィルヘルミナ王はそれ以降黙ったままになってしまった。

「我が王よ。イシスの言葉を真に受けてはなりません。きっとこやつの策略でしょう…。」

突如王座の隅からアナトが姿を現した。

「アナト…。」

「我が王よ。こやつは1度我々を裏切った。そう簡単に信じてはなりませぬ。」

「アナト様。内乱でも起こす気ですか?」

「いいや。お前の言っていることがわからぬから言っておる。お主に得な話ばかりではないか?」

「………。確かに…。」

「そうだろう?おかしいだろう?」

「ですが!アナト様!陽の国の魔導師が持ちかけた話は本当でございます!」

「別に疑ってなどいないぞ?ん?」

「…………。」

2人で睨み合いをしていると

「2人とも、そんなことをしていて我が国が有利になるのか?」

ぽつりとウィルヘルミナ王が言った。

「…。そうでございますね。無益な争いでした。お許しを。」

「申し訳ありません。王よ。」

2人はウィルヘルミナの前へ行き謝った。

「イシス。お前は明日セトを奪還せよ。」

「はっ!このイシス命に代えても魔導師セトを取り戻して見せましょう!」

それだけ言い放ち「失礼します。」と一礼して部屋を後にした。

しばらく廊下を歩いていると

「イシス!」

後ろから突然呼び止められた。

「オシリス…。」

「イシス…。セトは?」

「セトは…捕まった。」

「そんな…ネイトに?」

「うん。」

「………………。」

「…………………。」

2人は黙ってしまった。

イシスは何と言っていいのかわからずに。

オシリスは絶望と、悲しみで言葉を失っていた。

暫くの沈黙の後、先に口を開いたのはイシスだった。

「絶対…絶対セトを取り戻してみせるからね。」

それだけ言うとオシリスの頭を撫でた。

「うん…。………うん…。」

それだけ言うとオシリスは駆け出した。

それを見届けたイシスは自分の部屋へ向かった。

「さて…。どうしよう…。これ以上戦争を続けたくない…。」

そう考えているとふとあることを思い出した。

「そうだ…。デメリットは多いがやってみよう…。」

そう呟くとイシスは魔法陣を描きブツブツと呟きだした。

「我が眷属よ。我が命を受けその姿を現せ…。我が神ディアーナの使いよ。我が眷属に力を持たせよ…。」

すると、魔法陣の中から女性が1人出てきた。

「…!!ディアーナ様!?」

「…。違います。我が主よ。私は、神の姿を借りた貴方様の眷属でございます。」

「そっ…そうか…。突然だが、お前には手伝ってもらいたいことがある。」

「なんでございましょう?」

「この陰の国を守るために陽の国を滅ぼす魔法陣を描きたいんだ。」

「私はその魔法陣を描けばよろしいのですか?」

「そうだ…。俺は陰の国に守りの魔法陣を描くからお前は陽の国に忍び込んで破滅の陣を描いてくれ。」

「わかりました。我が主。いつまでにご所望か?」

「そうだな…明日。いや今日中にできないか?」

「かしこまりました。」

「1個じゃ駄目だ。ばれにくいところにいくつも描いていってくれ。」

「かしこまりました。」

そういうなり眷属は水のようにドロッと溶け地面に消えて行った。

イシスは早速守りの魔法陣を陰の国のあちらこちらに描き始めた。

描いているうちに夜が明けいつの間にか朝日がさしていた。

「………。こんなもので平気だろうか…。」

不安を隠せないままイシスは城の中に戻った。

部屋に入ると眷属が立っていた。

「おはようございます。我が主。魔法陣を一通り描き終えました。」

「そうか…ありがとう。」

そういうと、イシスはすぐにまた部屋をでた。

一人で集中できる場所へと向かった。

イシスは大きなことをやる前は誰にも言わずに雲の上に行くのだった。

もちろん、足をついても落ちないように魔法で地面を固めているので安全だった。

イシスは大きく深呼吸した…そして手を打ち合わせ大きな声で叫んだ。

「月の神ディアーナよ!太陽の神アーディティアよ!我が身に力を貸したまえ!」

言い終わるとイシスの体はオーラに包まれた。

イシスは力を与えられたことを確認し魔法陣を動かした。

イシスは、陽の国を滅ぼす魔法陣も陰の国を守る魔法陣も描いていなかった。

描いてあったのは、世界が、全国民が眠りに落ちる魔法陣だった。

地面が光だし、世界が光に一旦包まれたかと思うと急にいつもの通りの風景になった。

もちろん、人々は眠っていた。

イシスは陰の国と陽の国の城を訪ね王はもちろん、大賢者や魔導師も眠っているか確かめた。

イシスは世界でただ一人の起きている人となったのだ。

イシスは、この時を待ち望んでいた。

彼は神との対談の為に天空へと飛び立った。

そして、神の宮殿の入り口の門まで来ると大きな声で叫んだ。

「私はイシス!月の神ディアーナ様のご加護を受けております!このたび、私は神々と話し合うためにやってまいりました!」

そういうなり、入り口の門が大きな音を立てて開いた。

そして、どこから声がしているのかわからないが声が聞こえた。

「入りなさい。イシス…。」

声に促されるようにイシスは宮殿の中を歩いた。

そして、大きな扉の前で立ち止まった。

「ディアーナ様、アーディティア様お入りしてもよろしいですか?」

そう問うと、扉がひとりでに開いた。

「待っていましたよ。イシス。」

「お前が来ることは予想していたよ。」

2人の神がイシスの前にいた。

「ディアーナ様…。アーディティア様…。私は、お二人にお願いがあってまいりました。」

跪きながら言うとディアーナが一言述べた。

「イシス。貴方の願いは聞かなくてもわかりますよ。」

イシスはそう言われ覚悟を決めた。

「……。して我らに頼み事は?もしや、戦争を止めて欲しいとの願いならばお門違いもいいところだ。」

「アーディティア様…。まことに申し上げにくいのですが、私は、戦争を終わらせたいと願いにまいりました。」

そう言うなり、アーディティアの顔がみるみる赤くなっていった。

「イシス!戦争を起こしたのは我々ではない!だから我々に言うのはおかしいだろう!」

肩で息をしながらアーディティアは怒鳴った。すると

「アーディティア落ち着いてください。きっとイシスには考えがあってのことです。」

隣にいたディアーナがアーディティアをなだめた。

「ディアーナ様…。」

「イシス。続けてください。」

「あっ…はっ!私は戦争を止めたのです。そして、もう起こることの無いようにしたいのです。なので………そもそも2つの国があるのが悪いと思い昼夜混合の世界を創っていただきたいのです。」

「イシス…。その話ならば確かに戦争を終わらせることができます。しかし、犠牲がでますよ。」

「これまでに、何人も死んできました。今更、犠牲などで怖気づきはしません。」

「貴方は犠牲の意味が解るのですね。」

「はい。犠牲とはすなわち私の命のことですね?」

「そうです…。本当にいいのですか?」

「はい。この意思は揺らぎません!」

2人を見るイシスの目には固い決意が宿っていた。

「わかりました。ではアーディティアと協力してみます。」

そういうと、2人は立ち上がった。

「イシス…。ここへ。」

そうディアーナに言われイシスは指定された場所に立った。

2人の神はイシスを真ん中に立たせ、それを囲むように手を合わせた。

「イシス。貴方の望んだ国を作ってあげましょう。どんな国がいいですか?」

ディアーナに問われイシスは恥ずかしそうに答えた。

「明るくて、戦争も魔法もない国がよいです。朝には太陽が昇り、夜には月が出る。そして…アナト様のような戦争好きな人がいなくなることを願います。」

「それだけでよいか?」

「それと…。それと最後に…私のことをみんなの記憶から消して欲しいです。」

「いいのかそれで?」

「はい。それがいいのです。」

「承った。」

「イシスあなたの思う国はよい国ですね。任せてください。」

2人は口々にそう言った。

そして、2人の神はイシスの命と引き換えに昼夜混合の平和な国を作り出した。

もちろん、みんなの記憶の中からイシスのことを消して…。

2つの国は1つの国にまとまり、王政から市民が政治の主権を握るようになった。

そして、魔導師として重宝された4人は突然魔法が使えなくなり、一般人と同じ生活を送っている。

「イシス…。これでよかったのですか…?」

そう呟いたのはディアーナだった。

「いつまで言っている。あいつの勇士を忘れるな。」

「そう…ですね。でもこのままイシスのことを忘れてしまうのは残酷と言うもの…。そうだこうしましょう。」

そう言うなりディアーナは地上に向けて一つ魔法をかけた。

ある日オシリスとマアトが野原を駆けていた。

「マアト!待って!」

「オシリス!置いてっちゃうよ!」

「待ってって!…あっ!イシスの花が咲いてるよ!」

「えっ?あっ本当だ!」

2人が眺める先には1本の花が咲いていた。

2人の神はイシスの勇士を称え、みんなの記憶から消す代わりに花の名前としてイシスの名前を残したのだった。

イシスの花は、真っ白な花弁をたくさんつけたタンポポのような花だったのでした。

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