出逢い
【第二幕一節】出逢い
とても楽しい。とてもうれしい。このような平和な日々が続くことを、お藤は毎日ありがたいと笑顔で今日も過ごす。どんな人もその笑顔をみるとほっとして、幸せな気分を分けてもらえるかのようだったので、彼女のことを町内のみなはとても可愛がった。
彼女は江戸一番の長者の娘、名前を柳屋お藤と言った。そして、親の柳屋栄次郎も、江戸城下町で評判の商人であった。また、人格を重んじた男だったのだ。なにか困ったら、柳屋へ行けと言われるほどの人望が自然とこの柳屋を大きくしていったのだろう。
そんな栄次郎に育てられ、優しい母とまだ幼き弟に囲まれ育ったお藤は、とても器量がよく優しい女性へと成長していた。それだけではなく、外見は目は大きく二重で、肌は雪の様に白く、小柄ではあったが、いままで見たことがないほど、綺麗な和をかもしだす整った顔立ちだったので、この城下町では有名になるのはもちろん江戸にまで噂が伝わっていくほどだった。
のちの明和三美人のひとりに取り上げられたのが、この柳屋お藤であった。
いつものように、お藤は全ての物に感謝しながら、柳屋のおつかいのために町に出掛け、お使いが終わったので、お昼過ぎに柳屋へ戻ってきた。すると、ある男が両手に女性の着物をもって走りこんできて、暖簾のすぐ下で、栄次郎に向かって急に土下座をし頼み込みはじめた。どうもその着物を、栄次郎に買ってほしいようだ。
「柳屋様、お願いします。病気の母が病をぶりかえし、いま危篤中なのです。西洋の薬であったら母も助かるかもしれないと聞きまして、ここへこうやって参上して、お金をお借りしたいとまいりました。他のどの店にいっても相手にされません。ここであったら、柳屋様のところであったなら、情深きゆえ、金をお借りできるものと信じております。どうかこの与市いつか必ずお金をお返しいたしますので、なにとぞ、なにとぞお貸下さいまし・・・。」
栄次郎はすぐに与市の人間性を見抜き近寄り、与市の両肩を【ぽん】と軽く叩きながら立ちあがらせた。
「いきなりのことで、驚いてもいるが、どうもお急ぎの御様子。細かい事情はよいから、必要な分をその着物と変えてくれまいか?」
与市は立ち上がりながら眉を八の字に変え おそるおそる目をあげ栄次郎を見上げた。そして、信頼厚き男の顔をみて
「これがわたしの住まいの場所です。必ずお返しいたします!。」っと、
紙をわたし、申し訳ないの心を抱きながらお金を借りてすぐさま、薬を手に入れるために走り向かっていった。
お藤は何不自由なくこの柳屋で暮らしてきた娘。今のような急な出来事にとても驚いて、でも、そんな困ったひとに、すぐさま救いの手を差し伸べた、父の栄次郎をとても誇りにおもい、微笑みながら言った。
「お父様、わたしの夫には、お父様のような方をお探しくださいまし?、夫婦になる方は、お父様のような方がいいです。そのような方なら、わたし幸せになれるとおもいますよ」
それを聞いた栄次郎は、照れくさそうに目を泳がせながら
「なにを言っとる!!」と一言答え奥へとそそくさと行ってしまった。
お藤はそんな父をみて、また笑った。
【第二幕一節】完