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化け猫物語  作者: takayuki
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奇妙な時

【化け猫】

猫は当時犬に比べ、なつくこともせず、夜の暗闇のなかでも目がギロリと光り、したたりおちた油や血などをなめるということで、あまり好まれた動物ではなかった。

 化け猫という由来は、寺の和尚が夜、町医者に化け町へと遊びにでかけたことからバカにされ、和尚が猫に会いに行くという話しから化け猫である。

 しかし、それだけではなく、実際ここ最近の江戸では化け猫ではないかと思われる残忍な事件が人知れずあったのだったが、それは少人数の知るべきひとにしか知らせれて、いなかったのである。

【化け猫】

【第一幕一節】奇妙な時


 満月の月明つきあかりが、照らし出しているはずのこの江戸城には、一寸先もわからなぬほど霧が立ち込めてはいたが、その夜をさらに深く暗く閉ざしていたのは、人に迫る恐怖心である。奇妙なことに七月という季節なのに、どうして息が白くなるほど寒さを感じるのだろうと みなが心から震えていた。

 普段はきらびやかに振舞う大奥の女性たちも、みな外で寒さに震え何かこのただならぬ事態に、手間取っている。

 あの屈強くっきょうで、過去例のないであろうとさえいわれた冷徹きわまりない、将軍の側近、柳沢吉保やなぎさわ よしやすでさえ、名門柳生一門の武士100人をしたがえてもなお、その異様な状況に表情を隠しきれないのである。


 城から一人、足を引きずり、片腕を失った武士がもだえ、柳沢吉保の前で倒れながら報告した。


 「だ・・・第一隊   よ・・40名。本丸に入る前に霧により方向もわからず 襲われ・・・・全滅でございます・・・」



 「えーい!何をしておる柳生!天下の柳生たるものが、上様にもしものことがあれば、その責任により取りつぶしの上、切腹ぞ!」


 しかし、柳沢吉保が叫べども、さきほどからすぐに体が動こうとできない柳生たちであった。


 「どうして、体が動かぬ・・・・・?」兵士たちは、手間どうばかり


 その姿をみて大奥で毅然きぜんと立ち振舞っていた柱昌院けいしょういんが兵へと懇願こんがんする。


 「お主たちよく聞きさい!いま上様があのような、とりつき者によって、手にかかったとあれば徳川幕府、心中不穏しんちゅうふおんの想いが天下のこころと思い込み、北からは伊達、南からは毛利が攻め寄せてくる事態にもなりかねぬ。さすれば日本国がまた戦乱の世になり、人々を苦しめ無駄な死がおのれたち家族にも及んでまいるぞ?!!

 わしも 上様もそのようなことは望んでおらぬゆえ、ここで亡くなられては、ゆかぬ。ゆかぬのじゃ!望んでおるのは、日本国の安泰あんたい。殿を助けれるのは今はお主たちだけじゃ。おたすけするのじゃ!」


 柱昌院けいしょういんは将軍綱吉の母。普段から あの春日局かすがのつぼねの意思を引き継ぎ、幕府の為その情熱と愛情を将軍綱吉にも日々伝え みなから慕われた存在であった。そんな柱昌院が懇願こんがんする姿で武士に頼んでいるのだ。将軍を守ることと、剣一筋に生きてきた武士の心が奮い立たぬわけがない。


 一人の武士が声で、ふるい立たす

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」

すると、みなが一斉に、一つの咆哮ほうこうとなって外郭がいかくまで響くほどに叫んだ。     

「うおおおおおおおおおお!」



 そのすみに恐怖もモノともせず、何かを感じ取ってるかの様にポツンと静かに立っている、みすぼらしい西洋風の目も見えぬであろう男は、また違った異様さをかもし出していたのだった。その男は水戸の光圀公みつくにこうにより見出され、怪奇事件かいきじけんを幾度も解決してきたキリシタンの翔平八郎しょうへいはちろうであったのだ。


【第一幕一節】完 


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