虚街
朝起きると僕は夢の中にいた
僕は僕で、僕は僕じゃなかった
ベッドから立ち上がって震える膝に喝を入れながら歩くと、床にリンゴが落ちていた
真っ赤で、艶々したリンゴ
おいしそうだと一口かじり、甘い味を愉しんだ
夢中になって食べている時間は永遠のようだが刹那的に過ぎていき、リンゴが芯だけになると僕はそれを放り捨てた
いらないいらない
僕は甘い果実を求めてさ迷った
ふと足元に目を落としてみるとそこは赤色の海
あちらこちらに見えるリンゴが僕の視界を埋め尽くした
一つ手にとってかじる
甘い甘い
しだいに僕は変化が欲しくなって、誰かがやっていたアーティスティックな感じのウサギに切ったリンゴが食べたくなった
でも、どこを見ても、上を見ても、下を見ても、そんなものはなかった
——自分でやれよ
そう僕の中の僕が口を開いた
僕はそこにあった包丁でリンゴの皮を剥いた
赤い皮が落ちて、今まで目にも止めなかった表現するほどのない色の実が顔を出す
——はじめまして、こんにちは
僕は躊躇なく刃を実に突き刺すと半分に切った
甘い甘い蜜がたっぷり詰まった実が包丁で奇麗に整えられる
かわいいウサギが出来上がり、僕はそれを口に含んで噛み砕いた
口から漏れるのはもちろん悲鳴などでなく、ただ甘い香り。
それでもなんだか気分が悪くなり、僕は口をゆすいだ
水道の蛇口を捻って水を止め、前を向いたときに見えたのはどこまでも醜い人の顔だった
僕はそこに持っていた包丁を刺し何度もそれを繰り返した
何回やっても半分になるだけで、いつまでも映し続けるそれは僕の心を病ませていった
こっちを見るな
お前は誰だ
僕はもう抗うことに疲れて、包丁を自分の腹に突き刺した
傷口から溢れたのは、ただ赤い色
床のリンゴに零れたそれはより一層リンゴをおいしそうにした。
綺麗なものは素敵だ
僕は何度も自分の腹を刺して、綺麗なリンゴを作った
床に乱雑に飾られたそれらはとても艶めかしく、甘美に見えた
夢の中の僕は思い通りだ
僕は何度切っても治る腹を優しく撫でると、扉の外へと飛び出した
暑い暑い
太陽光の降り注ぐ街はどこまでも虚ろで形を持っていた
明るい街に寄り添って、僕は天を仰いだ
虚ろな街の僕は形がなくて、そこにいるのに認められなかった
僕は今何を見る?
僕は今何を見たい?
君は今何を見る?
君は今何を見たい?
道路に落ちたリンゴを一つ踏み潰し僕は語る
僕は僕、ここにいる
君は君、そこにいる?
また別の甘そうなリンゴを手に取ると、僕は一口かじって吐き出した
——見た目と中身は違うんだよ
どこまでも虚ろな街で僕は吐く
僕は僕だ、僕は僕じゃない
また一歩、リンゴを踏み潰して歩いた僕の背を僕は刺し殺した
はい。
いつもより少し残酷描写がありましたが大丈夫でしたでしょうか
まあ今回もまて感傷的なときに書いたのを一度編集しただけたのでまだまだだめですが
ご意見、ご感想等ありましたらお願いします
TwitterID:dakusanno