.rar
「警察だ!おまえを逮捕する。罪状は、今年の6月3日から1週間に渡り行った業務上横領だ。お前には黙秘権があり、弁護士を必要なら呼ぶこともできる。供述は不利な証拠となりうる。もしも弁護士をつけたくても経済的につけられないのであれば、当方が弁護士を国費によってつけさせることができる。分かったか」
俺が逮捕状を読み上げている時、突入した家の一つしかない部屋の中の真ん中で、椅子に座って俺らをじっとみていた。
コクンとうなづいたのを確認すると、傍にいた制服警官に手錠をかけさせる。
「金崎博音。お前を逮捕する。18時51分、被疑者確保」
俺はふうと一息ついてから、部屋の中を改めて見回した。壁際には腰ほどの高さがある本棚があり、中には文庫本が主にあったが、水色や紺色と言った感じのファイルも複数あった。
「こいつら全部押収しろ。それに、そこにあるパソコンもだ。電子取引をしてたから、その証拠があるかもしれん」
それから、いろいろな場所を見て回った。
何か確固たる証拠がない限り、金崎は釈放せざるをいない。
それだけは何としても避けたい。
「いいかぁ、すべて証拠品として押収するんだ。ラベルを貼るのを忘れるな」
「富岡警視、これを見てください」
俺は一人の鑑識に呼ばれた。
「どうした」
「パソコンです。ただ、バッテリーが抜かれていて、コードから電力供給を受けているようなんです。このまま抜けば、内部データが破損する恐れがあります」
「誰かぁ、バッテリー見つけなかったかぁ」
「これですか」
別の鑑識員が、長太い黒色の物を見せた。
「よし、でかした」
すぐに受け取り、パソコンに合わせる。
「パスワードが設定されているようなので、解除してからシャットダウンします。持ち帰ってから、専門家に任せましょう」
「じゃあ、そいつにも証拠品シール貼り忘れるなよ」
俺は鑑識とは別に、先に署へ帰った。
金崎を尋問したかったからだ。
「なあ、お前がしたことはわかっているんだ。それを、どこに送金したか。それを教えろって言ってんだ」
金崎に俺は取調室で、きつく当たっている。
「残念だが、それは教えられない。知りたいんだったら、調べればいいじゃないか」
嫌味な口調で俺に言った。
「っち」
舌うちまでされる。
俺は、こいつを殴りたい衝動を必死に抑え、取調室から出た。
パソコンの解析を担当している技術部に向かい、何か証拠があるかどうかを調べた。
「ええ、一つだけ大収穫がありました」
「良い知らせなんだろうな、その顔から見るに」
担当技官は笑顔で言った。
「もちろんです。このパソコンで.rarの拡張子にファイルを分割し、ネットにばらまいたことが証明できました」
「なんなんだ、「どっとあーるえーあーる」というのは」
俺は知らなかったから、技官に聞いてみると、得意げになって説明をしてくれた。
「いいですか、.rarという拡張子は、.zipとかと同じように圧縮されたフォルダに用いられます。特徴としましてはジップと比べて、復元率が高いという点と、分割して保存することが可能だということです」
「分割ということは、複数のファイルに分けられているということだな」
「そういうことです。制作のナンバリングから見て、最低でも5つに分けられていますね。几帳面なことに、その後データを消去していますので、ここから復元するのは不可能ですが」
「どこに飛ばされたかということを調べることはできないのか」
「それは現在調査中です。フォルダ名は把握していますので」
「分からないのは、なんで単に消さなかったのかということだな。なんで普通に消去はしなかったんだろうか」
俺は技官に話してみたが、肩をすくめるだけだった。
休憩室で、濃すぎるコーヒーをお湯で割り、それを飲みながら今後について考えていた。
「富岡警視、ここにいたんですか」
部下の一人が、やっと見つけたという顔をして、俺のところに来た。
「何かあったか」
アメリカンコーヒーを手に持ちながら、部下に聞く。
「消去したくなかった理由が分かったんです」
「そうか、なら聞こう」
「今回あちこちに飛ばしたrarファイルの1つを見つけて、内部を確認したら、銀行の書類のコピーがあったんです。このコピーを提示しない限り、銀行から預金を下ろすことができない仕組みのようです」
「しかし、原本はどうしたんだ」
「逮捕されることを見越して、押収されても預金を手に入れられるようにしていたのでしょう。rarファイルでは、特殊な方法を使わない限り、連続して解凍することを前提にしていますので、すべてのフォルダを分散させておいたのでしょう」
「なぜジップフォルダじゃダメなんだ」
「それは、一つ見つかっただけで他の者に解凍されて、預金を盗られることを恐れたのでしょう。全てを集めないと全体像が把握できないように」
「まるで宝探しだな」
コーヒーを一気に飲み、俺は紙コップをゴミ箱に、丸めて捨てた。
この書類も証拠として提出し、金崎は検察によって無事に起訴された。
俺で残っている仕事といえば、証拠をまとめるだけだ。
これが終わっても、俺には別の山がある。
いつまでも終わることのないこの仕事スパイラルは、俺が警察を定年退官してからも続いていくだろう。
人類在る処、犯罪在りだ。




