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.rar

作者: 尚文産商堂
掲載日:2012/04/30

「警察だ!おまえを逮捕する。罪状は、今年の6月3日から1週間に渡り行った業務上横領だ。お前には黙秘権があり、弁護士を必要なら呼ぶこともできる。供述は不利な証拠となりうる。もしも弁護士をつけたくても経済的につけられないのであれば、当方が弁護士を国費によってつけさせることができる。分かったか」

俺が逮捕状を読み上げている時、突入した家の一つしかない部屋の中の真ん中で、椅子に座って俺らをじっとみていた。

コクンとうなづいたのを確認すると、傍にいた制服警官に手錠をかけさせる。

金崎博音(きんざきひろと)。お前を逮捕する。18時51分、被疑者確保」

俺はふうと一息ついてから、部屋の中を改めて見回した。壁際には腰ほどの高さがある本棚があり、中には文庫本が主にあったが、水色や紺色と言った感じのファイルも複数あった。

「こいつら全部押収しろ。それに、そこにあるパソコンもだ。電子取引をしてたから、その証拠があるかもしれん」

それから、いろいろな場所を見て回った。

何か確固たる証拠がない限り、金崎は釈放せざるをいない。

それだけは何としても避けたい。

「いいかぁ、すべて証拠品として押収するんだ。ラベルを貼るのを忘れるな」

「富岡警視、これを見てください」

俺は一人の鑑識に呼ばれた。

「どうした」

「パソコンです。ただ、バッテリーが抜かれていて、コードから電力供給を受けているようなんです。このまま抜けば、内部データが破損する恐れがあります」

「誰かぁ、バッテリー見つけなかったかぁ」

「これですか」

別の鑑識員が、長太い黒色の物を見せた。

「よし、でかした」

すぐに受け取り、パソコンに合わせる。

「パスワードが設定されているようなので、解除してからシャットダウンします。持ち帰ってから、専門家に任せましょう」

「じゃあ、そいつにも証拠品シール貼り忘れるなよ」

俺は鑑識とは別に、先に署へ帰った。

金崎を尋問したかったからだ。


「なあ、お前がしたことはわかっているんだ。それを、どこに送金したか。それを教えろって言ってんだ」

金崎に俺は取調室で、きつく当たっている。

「残念だが、それは教えられない。知りたいんだったら、調べればいいじゃないか」

嫌味な口調で俺に言った。

「っち」

舌うちまでされる。

俺は、こいつを殴りたい衝動を必死に抑え、取調室から出た。


パソコンの解析を担当している技術部に向かい、何か証拠があるかどうかを調べた。

「ええ、一つだけ大収穫がありました」

「良い知らせなんだろうな、その顔から見るに」

担当技官は笑顔で言った。

「もちろんです。このパソコンで.rarの拡張子にファイルを分割し、ネットにばらまいたことが証明できました」

「なんなんだ、「どっとあーるえーあーる」というのは」

俺は知らなかったから、技官に聞いてみると、得意げになって説明をしてくれた。

「いいですか、.rarという拡張子は、.zipとかと同じように圧縮されたフォルダに用いられます。特徴としましてはジップと比べて、復元率が高いという点と、分割して保存することが可能だということです」

「分割ということは、複数のファイルに分けられているということだな」

「そういうことです。制作のナンバリングから見て、最低でも5つに分けられていますね。几帳面なことに、その後データを消去していますので、ここから復元するのは不可能ですが」

「どこに飛ばされたかということを調べることはできないのか」

「それは現在調査中です。フォルダ名は把握していますので」

「分からないのは、なんで単に消さなかったのかということだな。なんで普通に消去はしなかったんだろうか」

俺は技官に話してみたが、肩をすくめるだけだった。


休憩室で、濃すぎるコーヒーをお湯で割り、それを飲みながら今後について考えていた。

「富岡警視、ここにいたんですか」

部下の一人が、やっと見つけたという顔をして、俺のところに来た。

「何かあったか」

アメリカンコーヒーを手に持ちながら、部下に聞く。

「消去したくなかった理由が分かったんです」

「そうか、なら聞こう」

「今回あちこちに飛ばしたrarファイルの1つを見つけて、内部を確認したら、銀行の書類のコピーがあったんです。このコピーを提示しない限り、銀行から預金を下ろすことができない仕組みのようです」

「しかし、原本はどうしたんだ」

「逮捕されることを見越して、押収されても預金を手に入れられるようにしていたのでしょう。rarファイルでは、特殊な方法を使わない限り、連続して解凍することを前提にしていますので、すべてのフォルダを分散させておいたのでしょう」

「なぜジップフォルダじゃダメなんだ」

「それは、一つ見つかっただけで他の者に解凍されて、預金を盗られることを恐れたのでしょう。全てを集めないと全体像が把握できないように」

「まるで宝探しだな」

コーヒーを一気に飲み、俺は紙コップをゴミ箱に、丸めて捨てた。


この書類も証拠として提出し、金崎は検察によって無事に起訴された。

俺で残っている仕事といえば、証拠をまとめるだけだ。

これが終わっても、俺には別の山がある。

いつまでも終わることのないこの仕事スパイラルは、俺が警察を定年退官してからも続いていくだろう。

人類在る処、犯罪在りだ。

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