第1話...目
はじめまして、佐藤ビー玉と申します。楽しんでいただければとても嬉しく思います。
もう何も見せるな。
私の中に入ってくるな。
私の心を探り当てるな。
私は絶望しているんだ。
「…痛いでしょーが、山都ちゃん」
8:24am。
不自然な痛みで目を覚ました功刀幸一郎は、自分の額を軽くおさえてムクリと体を起こした。
目を覚ましたと云っても彼の目はまだまだとろんとしていて、焦点が合っていない。
二度寝しようとしてもう一度ベッドに横になったが、すぐに面倒くさそうな様子で
「はいはい」
と言ってベッドから離れた。
「もうすぐ8時半よあほ」
そう言って分厚い本を片手に幸一郎を睨みつける、少し茶色みがかったセミロングの女性。
東海林山都、18才。
山都が通う学校では美人と評判だが、頭の回転があまりにも遅いためテストでは毎回赤点、追試の常習犯である。
彼女が分厚い本を持っているのは、恐らく幸せそうに寝ている幸一郎の額をそれでぶったたいたからだろう。それを証拠に彼の額は赤くすりむいている。
「だからってそんなに重そうな本で叩かなくても…」
「幸一郎さんの部屋ってベンリな物いっぱいあるのね♪♪」
痛そうに顔をしかめて抗議する幸一郎に対して、山都はとても嬉しそうに(?)そう言い放つ。どうやらだいぶ機嫌が悪いようだ。
見兼ねた幸一郎はそんな山都を見つめるとにこっと笑って、
「そんな可愛い顔しないでくれよ、困ってしまうだろう。それとも山都ちゃんは私を困らせたいのかな?」
「…!!!」
みるみるうちに山都の顔は赤く染まり、拳をふるふると震わせながら叫んで部屋から出て行った。
「この最低エロガッパ!!」
そうである。
功刀幸一郎20才、彼は何を隠そう女好きなのだ。
お茶目な性格で、女性に関わる事ならなんにでも首をつっこんでは問題を起こし、その度山都に迷惑をかけている。真っ黒な髪で、今日はスーツ姿だが毎日ころころとファッションは変わる。オシャレが好きらしい。また、その男にしてはかわいらしく綺麗に整ったいわゆる‘美少年’的な顔立ちもたすけて、彼に悩みを打ち明ける女性(主に女子高生)が増えていた。
そんな幸一郎は当然のごとく彼女らの悩みを聞く。そしてその悩みがきれいさっぱり解決された時、幸一郎は『報酬』を貰うのだ。
しかし、『報酬』と云ってもお金ではない。第一この男の事だ、女性からお金などもらおうなどと思うわけがない。
それは、物であったりお茶したりなど、まあ相手の女性によって毎回異なる。お金をもらうよりこちらの方が嬉しいのだろう。
その『報酬』は、たまに山都のもとへといく事がある。
山都は幸一郎の家で住み込みのバイトをするために、“大学行ったら自立しなきゃなんだから、そろそろバイトして一人暮らし始めるわ”とかいう口実で家を出たのだ。家族には、ここに一人で住むからと幸一郎の住所を渡して。
やる事はないが一応バイトをしているのだ。ご褒美が欲しい。だから『報酬』ももらう権利があるのである。
「…あ」
土曜日なので久しぶりに廊下の窓を拭いていた山都は、この家に入ろうとしている一人の女性を見つけた。
さらさらの黒いロングヘアが風で踊っている。
(年は…幸一郎さんより年上かしら?)
「幸一郎さあーん、お客様よー!」
山都の声が廊下中に響きわたる。じきに、はーいと嬉しそうな返事が聞こえた。
幸一郎の家には二階はないが、だいぶ広い。五目状につながる廊下の壁には、価値があるのかどうかもよく分からない絵画が所々に掛けられている。幸一郎の部屋は、玄関から向かって正面の、廊下のつきあたりに位置している。山都の部屋は、その斜め右手前である。
山都は
「なんでこんなに無駄に広いのよこの家」
だとか
「玄関まで行くの時間かかるじゃない」
だとかぶちぶち独り言を言いながら、急いで玄関へ向かった。
たどり着きドアを笑顔でゆっくりと開けると、山都はその女性のあまりの美しさに息を呑んだ。
憂いを帯びた瞳。遠くから見たら気付かなかったが、彼女の目は綺麗な金色をしていた。
吸い込まれそうになる位。
おもわずぼーっと見とれていたが、はっとして笑顔をつくり、
「ようこそ、中へどうぞ」
「…」
女性は山都を一瞥すると、何か言うでもなく一人でずんずんと中へ入っていった。
「あ…?!あっあの、幸一郎さんの部屋はつきあたりですよ」
慌ててついていく山都。なんだか二人の立場が逆転している。
お客様なのに…と少し不満を抱いている自分に山都は嫌気がさした。
幸一郎はきれいで大きい机のゆったりとした椅子に座って、窓の向こうを見ていた。
(今日はどんな相談かな)
そう楽しみにしていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「いらっしゃい、はじめまして。私は功刀幸一郎と申し…」
バンッ!!
セリフを言い終わらないうちに、女性は両手を机にたたきつけぎろりと幸一郎を睨んだ。
それでもなお、彼女はため息が出るくらい美しい。
「あちらは使用人の山都ちゃん」
にこにこと紹介を続ける幸一郎の胸倉を、その女性は鋭い目付きのままぐいっとつかんでひきよせた。
あっ、と声をもらす山都。幸一郎は、何か不敵な笑みを浮かべて目の前の女性をみつめている。
金色の瞳と子供の様な瞳が交錯して四秒、
「貴女の名前は?」
懲りずに笑顔で女性に問う。
女性はため息をつくと、手を離して俯いた。
「…皆川美由…」
初めて聞いたその声はとてもか細く、か弱かった。
「皆川さんさ、どーしてそんなに怒っているのかな?私何かしたかね」
優しくなだめる様に美由にかけた言葉。
彼女の頬を伝っているものに気付いていた。
「…たすけて、下さい」
お読みいただきありがとうございます!佐藤ビー玉です。拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。ていうか早くも主人公の性格の悪さがうかがえますね。佐藤ビー玉でした。