病室と涙 様々な想いを胸に
第五回、おもいつき余興作品。
興味があったらお読みください。
「どうしたのお兄ちゃん?」
琴那の言葉で我を取り戻す。
ここは琴那の病室。
今、俺は琴那の見舞いに来ている。
琴那は肺がんで半年前からここに入院している。
八歳という若さにはあまりにも過酷過ぎることだった。
肺がん発見から半年後が余命と宣告されたあの時はまだ時間はあると思ったが半年経った今、そんな事は思えない。
もう、いつ死んでもおかしくなかった。
「いや、なんでもない」
琴那には肺がんの事は伝えていない。
もちろん余命の事も。
きっとその方が琴那にとって良いことだと医師との相談の結果決まった。
寝たっきりだった体も今日は調子が良いらしくベットに座る体勢で俺と話をしている。
「毎日ありがとうね。はやく元気になるから」
琴那の言葉が胸に突き刺さる。
医師から聴いていたことだが死期間近になると超回復を見せるらしい。
もしそれが今の琴那の状態なら……。
考えるだけでも涙が出そうになる。
「あぁ」
剥いてやったリンゴを完食した琴那はお腹を擦っている。
お腹いっぱいという意思表示だ。
その光景をみれば、今までのつらい事なんて全て消し飛ぶ。
琴那の肺がんの事さえも。
「ごめん。なんか眠たくなってきた。折角きてくれたのに……ごめんね」
「いや、良いよ」
ついに……。
琴那は身をベットに倒し、目を瞑る。
俺はそっと琴那の手を握る。
「どうしたの?」
「ううん。たまには良いかなって」
「そっか」
琴那な俺の手を握り返す。
その手はとても暖かかった。
「目が重たい……。」
琴那が呟く。
俺はもう分かりきっていた。
琴那の体がもう限界に来ていることが。
そしてそれがついに表に出始めただけのこと。
覚悟していた。分かっていた。
なのになんでだ?
なんでこんなに胸が痛いんだ。
「それは、もう瞼が眠い眠いって言ってるんだよ」
うまく言葉であやす。
「そっか。じゃあ寝るね」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみ」
病室が静寂に包まれる。
琴那の小さな寝息だけが聞こえる。
手は握り締め合ったまま。
もう、目を覚まさない。
そう感じる。
涙が溢れ出す。
止まらない。止まらない。止まらない。
空いてる手で拭っても次々と溢れだす。
くそっっっ!何でだよ!なんで……。
「お兄……ちゃん」
琴那が呟く。
寝言のようだ。
だから黙って聞くことにした。
「ありがとう……楽し……かったよ。ずっと一緒に……居ようね。お兄ちゃん……………大好き」
最後の一言でさらに涙が出た。
握り締めた手に力が入る。
でも琴那は目を覚まさない。
寝言が途切れると共に、寝息も聞こえなくなった。
握り合っていた手も、いつの間にか俺が一方的に掴む形になっていて。
なにより、その琴那の手は、冷たく……暖かさを名残残していた。
「琴那!!! 琴那!!」
俺の叫びは病室に木霊するだけ。
琴那には届かない。
俺は冷たい琴那の手を両手で握り、額を引き寄せた。
俺の全てを失った。
悲しい。寂しい。空しい。
琴那の声が頭に渦巻く。
いつまでも続くはずだった幸せは、一瞬にして終わる。
あまりにも残酷だ。
神様は俺みたいな……クズを生かして、琴那みたいな未来のある少女を死なすなんて。
頭がイカれてるとしか思えねぇ。
きっと琴那も寂しい思いをしているはず。
だから主治医が来るまでそばにいてやろう。
そう自分を甘やかす。
俺の涙は地面に落ち、弾け去る。
ごめんな。
ありがとう。
大好きだ。
来世でも知り合いになろうな。
様々な想いを胸に
俺は琴那の手をしっかり握った。
END
更新遅れてすいません。