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本日も愛され日和〜不遇の幼女、今日から愛され公爵令嬢はじめます〜  作者: さき
第一章

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番外編03:あの日のことーー兄弟ーー(2)

 


「ライアン兄さん、覗き見してたのか!?」


 とは、今になって当時の兄の行動を知ったグレイヴ。

 信じられないと言いたげな彼の訴えに、ライアンが優雅に紅茶を飲みつつ「覗き見なんて失礼だなぁ」と笑った。


「可愛い弟と妹を見守りたい、そんな兄心だよ。むしろ、騎士なら扉の外に誰かが潜んでいるのに気付かないといけないんじゃない?」

「そりゃ……、まぁ、確かにそうかもしれないけど」


 ぐぬぬ、と悔しそうに唸りつつもグレイヴが認めれば、ライアンがより機嫌良く笑った。

 そんな中、


「シャルロッテ」


 と静かな声で末の妹を呼んだのはジョシュアだ。

 呼ばれてシャルロッテが顔を上げれば、彼がじっと見つめてきた。

 紫色の瞳。初めて会った時は怖い人なのかもとこの視線に怯えてしまったが、今はまっすぐに見つめ返せる。


「あの時、怯えさせてしまってすまなかった。突然部屋に現れて一気に捲し立てて怖かっただろう」

「怖かったのはちょっとだけです。だってジョシュアお兄様はすぐにロッティのこと妹って言ってくれたし、それに、たくさんお菓子をかってきてくれました」

「あれは、今思えば少し買い過ぎだったかもしれないな」


 ジョシュアが照れ臭そうに笑えば、シャルロッテもまた当時を思い出してクスクスと笑った。


 あの日、怯えさせてしまった詫びにとジョシュアはたくさんのお菓子を買ってきてくれた。

 たくさんの……。むしろ大量と言えるほど。

 ジョシュアだけでは持ち切れず、使用人が二人、彼の後について箱やら袋やらを抱えて戻ってきたのだ。

 その量といったら、テーブルの上に山を成すお菓子を見て、シャルロッテは思わず気圧されて「はわわ……」と声を漏らしてしまったほどだ。


 そんな大量のお菓子を、二人で話しながら食べた。

「このお菓子の名前は」「これの食べ方は」と一つ一つ確認して、食べて、感想を言い合った。

 美味しくて楽しい時間だった。結果、シャルロッテは「どのお菓子が一番美味しかった?」と問われ、「ぜんぶ!」と答えたのだ。どれもすべて美味しくて、なにより嬉しくて、どれかなんて選べなかった。


「ロッティ、またジョシュアお兄様とお菓子を食べてお話したいです」

「そう言って貰えると嬉しいな。またたくさん買ってくるからお茶をしよう」

「はい!」


 ジョシュアからの誘いの言葉にシャルロッテが元気よく返す。

 そんなやりとりの最中、静かに話を聞いていたハンクがライアンを呼んだ。


「ライアン兄さん……、さっき、僕が何してるか気になってたって言ってたけど……。そういえば、兄さんは何度か僕の部屋について聞いてきたね……。毎回、はぐらかしちゃってたけど」

「そりゃあ、自分が住んでる屋敷に開かずの扉があるんだから、誰だって気になるよ」

「ひ、ひとの部屋を開かずの扉扱い……。いや、でも確かに開かずの扉か……」


 ハンクは手前の部屋にこそ人を入れるが、そこから奥には誰も立ち寄らせなかった。

 といっても拒絶をしたり追い出しているわけではない。

 誰も入る必要がなくなるようにすべての用事を手前の部屋で済ませ、掃除を始め自室の管理をすべて己で行っていたのだ。

 その徹底ぶりと、ハンク自身が入ってくれるなと無言の訴えを醸し出していたおかげで、周りもそれを察して入ろうとしなかった。


 その結果が開かずの扉だ。


 だけどシャルロッテは違う。


「ハンクお兄様のお部屋はたくさんお人形さんがあって、キラキラしたものがいっぱいで、せいれいさんもいて、ロッティ、ハンクお兄様のお部屋が大好きです」


 あの部屋の素晴らしさを伝えるべく興奮気味にシャルロッテが話せば、ハンクが穏やかに微笑んだ。

「ありがとう」という声は変わらず小さいが、それでも感謝の気持ちと妹への愛が詰まっている。


「いいなぁ、僕もハンクの作業部屋に行ってみたいなぁ」

「興味があるなら……、別に、来ても良いけど。も、もう隠すものもないし」

「えっ、良いの!?」


 今回も有耶無耶にされると思っていたのか、意外な了承にライアンが声をあげた。

 彼の瞳が一気に期待の色を宿す。

 この勢いにハンクが気圧されたのか、相変わらずぼそぼそとした声で「面白いものなんてないけど……」と言い出した。もっとも、そこはシャルロッテがすかさず「ハンクお兄様のお部屋はお人形さんがいっぱいでおもしろいです!」とフォローを入れる。


 そんなやりとりに続いたのは、「私も良いか」と同行を求めるジョシュア。


「え、ジョシュア兄さんも、僕の作業部屋に興味あるの……?」

「弟が普段どんなことをしているのか、兄弟として知っておいた方が良いだろう。それに、開かずの……、自室をどんな風に改装したのか気になっていたんだ」

「それなら俺も見てみたいな。以前から開かずの……、ハンク兄さんの部屋の前はよく通ってたから、どうなってるのか興味はあったんだ」

「ねぇ、もしかして皆して僕の部屋を開かずの扉って呼んでたの……?」


 まさかそんな、と言いたげにハンクが兄弟を見る。

 だが誰も答えず、白々しく顔を背けてしまった。ハンクが見つめて兄弟が顔を逸らす、これでは普段と逆ではないか。

 挙げ句に、ジョシュア達はシャルロッテに話しかけてきた。


「ハンクの部屋に行く時はもちろんシャルロッテも一緒だ」


 とは、微笑みながらのジョシュア。

 最初に会ったとき、彼は真剣な顔付きと口調でフレデリカ達に言及し、厳しい人なのかとシャルロッテは臆してしまった。

 だが実際は優しくて温かなひとだ。あの時の厳しい態度も、長男としての責任感と、ブルーローゼス家を大事に想っているからこそだと今では分かる。


「シャルロッテはもう精霊達と仲良しなんだよね、僕達に紹介してくれると嬉しいな」


 ライアンが笑って告げてくる。

 友好的な彼は、最初に会った時から変わらず、むしろ日に日に優しさを増してシャルロッテに接してくれる。

 明るくて楽しい兄。周りの人達が大好きで、周りの人達も彼が大好きで、そしてシャルロッテも彼が大好きだ。


「最初に会った時、俺がシャルロッテを庭に案内したから、今度はシャルロッテがハンク兄さんの部屋を案内してくれ」


 楽しみだとグレイヴが話す。

 初めて会った時、彼は険しい表情でフレデリカ達を言及していたが、シャルロッテが『お兄様』と呼ぶと一転して受け入れてくれた。

 その後は庭に連れ出して、以降も屋敷の案内をしてくれる。『兄だからな!』と胸を張りながら。

 グレイヴが自分を兄だと告げるたび、シャルロッテは自分が妹なのだと実感して嬉しくなってくる。兄と妹、家族だ。


 そんな兄達からの言葉に、シャルロッテは嬉しさを込めて「はい!」と都度返事をしていた。

 そうして最後にシャルロッテを呼んだのはハンクだ。


「僕の部屋に兄さん達が来るのか……。これもシャルロッテのおかげだね」


 優しくて嬉しそうな表情。相変わらず長い前髪で目元を隠しているが、彼が微笑んでいるのが分かる。

 控えめで消極的な兄。だけど優しくて、そばにいると心が落ち着く。

 彼の部屋は暗いが素敵な場所だ。包み込まれるような穏やかな静けさがあり、まるでハンクそのもののよう。


 シャルロッテが嬉しくなり、これにも元気よく返事をした。

 兄達が自分を見つめている。自分と過ごすことを望んでくれている。なんて嬉しいのだろうか。


 さっそくとライアンが立ち上がれば、他の三人もそれに続く。

 シャルロッテも立ち上がれば、フレデリカが嬉しそうに微笑みながら「いってらっしゃい」と優しく告げてきた。



 ◆◆◆



「……ち、父上と母上も、ぼ、僕の部屋に来たかったんですか」


 ハンクが引き気味に話したのは、夕食も終えて各々が自室に戻り、更に数時間経った頃。

 既にシャルロッテは寝ているだろう。もしかしたらグレイヴも寝ているかもしれない。そんな遅い時間。



 あの後、そのまま作業部屋に兄妹達を案内した。

 面白味の無い部屋。そうハンクは考えていたが、彼等は興味深そうに部屋を眺め、説明をすると真剣に聞いてくれた。

 まさか兄妹達と自分の作業部屋で過ごすなんて、かつての自分が聞いても信じないだろう。


 そうして夕食を終えて自室に戻り、少し作業をして寝ようか……と考えていたところ、扉をノックされたのだ。

 いったい誰だと出てみれば父と母の姿。そして「作業部屋を見たい」と二人が告げてきて今に至る。


「以前から気にはなっていたが、息子の部屋に無理に入るまいと考えていたんだ」

「シャルロッテから聞いたわ。ハンクの部屋には綺麗な布やレースもあるんでしょう、ぜひ見せてちょうだい」


 穏やかに、楽しそうに、嬉しそうに、両親が話す。

 これにはハンクも意外だと長い前髪の下で目を丸くさせ……、だが次の瞬間にはふっと笑みを零し、「どうぞ」と扉を開けた。




 ……番外編 end…






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― 新着の感想 ―
 読んでいて、自然とニコニコになります。ありがとうございます。
本当に・・・優しい物語で、ホッとなります 仕事仕事で荒んだ心に沁みます
ほっこりしました(*^-^*)
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