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本日も愛され日和〜不遇の幼女、今日から愛され公爵令嬢はじめます〜  作者: さき
第一章

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番外編02:あの日のことーー兄弟ーー(1)

 


「妹が……、居る? 食事をしてる? 妹が?」


 らしくない声色でジョシュアが尋ねたのは、長閑なはずの昼。

 執務をしていたところメイド長が部屋を訪ねてきて、両親から言伝があると告げられた。


『妹が居るから挨拶に来なさい』と。


 それを聞き、疑問だらけで先程の問いである。


 なにせ妹が居るのだ。

 来た、ではなく、居る。


 いかに冷静沈着な公爵家嫡男といえども、さすがにこの言伝には虚を突かれてしまう。目を丸くさせて唖然とし、どういうことかとメイド長に詳細を尋ねる。

 そんな動揺を露わにするジョシュアに対して、既にこの事態を把握しているメイド長は落ち着き払った態度で事の顛末を説明しだした。



「…………という次第でございます」

「なるほど、父上らしいと言えば父上らしい話だ。だが保護ならまだしも娘として……。いったい何をお考えなのか」


 何が起こっているのかは理解した。だが納得はできない。

 そう難しい表情で話し、ジョシュアはさっそくと食事の場へと向かっていった。



 そうしてシャルロッテと出会い、話をし、部屋を出れば、扉の外にメイド長が待ち構えていた。

 きっとどうなるか案じていたのだろう。

 だが言葉にせず控えめに頭を下げるだけだ。家族のことを無暗に探るまいと考えてのことか、もしくは急な話を突き付けられたジョシュアを気遣ってか。


「心配かけてすまない。父上と母上からきちんと説明をしてもらった」

「ようございました」

「ところで……、シャルロッテぐらいの年齢の子供はどのようなお菓子が好きなんだろうか」

「お菓子、ですか?」

「怯えさせてしまったお詫びに買ってくることになったんだ。クッキーにチョコレート、マシュマロ、パイやタルトも良いかもしれないな。アイシングでデコレーションされたものも良さそうだ。パンを食べていたようだから、甘いジャムも売っていたら買ってこよう。そうだ、容器も凝ったものにしたら喜ぶかもしれないな」


 あれこれと考えつつ、ジョシュアがさっそくと玄関口へと向かって通路を歩いていく。

 その口調も足取りもどことなく機嫌の良さが窺える。先程までの驚きと困惑の混ざった様子とは大違いではないか。

 この変わりようにメイド長は安堵と共に苦笑し、アドバイスをしようと彼を追った。



 ◆◆◆



 ジョシュアの次に言伝を聞いたのはライアン。


「……妹? 僕の? 妹が、居るの? 食後の妹が? 妹はすでに食事を終えてるの?」


 どういうこと? と疑問が止まらない。

 目を丸くさせて困惑を露わにしており、その表情は先程のジョシュアに似ている。

 ジョシュアとライアンは兄弟といえども性格は違うし、日頃の言動、表情までも違う。片や真面目で片や緩く、真逆とも言えそうな二人である。

 だがこうやって驚くと兄弟の繋がりを感じさせる。

 そうメイド長が穏やかな気持ちになっていると、ライアンが困惑のままに「説明してもらっていい?」と詳細を求めだした。



「…………という次第でございます」

「なるほどねぇ。保護した女の子をうちの子にするって事か。それで僕の妹なんだ」


 なるほど、とライアンが納得し、次いで「そういう事なら」と考え込んだ。

 真剣な表情だ。

 そうして自分の体を一度じっと見下ろし……、


「着替えてこないと。直ぐに行くから、父上達に伝えておいて」


 と言うや否や、自室に戻ろうとしだした。


「着替えですか?」

「そうだよ。妹にはお洒落で格好良いお兄様って思われたいからね」


 ご機嫌で話し、挙げ句にパチンとウィンクまでして、ライアンが部屋に戻っていく。

 そんな彼に対し、メイド長はこの方ならば問題は無いかと苦笑を漏らして恭しく頭を下げた。



 ◆◆◆



 ライアンの次に話を聞いたのはハンク。

 こちらはメイド長からではなくライアンから。

 楽しそうに「妹が待ってるよ」と話す兄に、扉の隙間から顔を覗かせて聞いていたハンクが「……え?」と怪訝な声を漏らした。長い前髪の下で怪訝に眉根を寄せる。

 自室に兄が訪問することすら滅多に無いのに、来たと思えば上機嫌でこの話だ。わけが分からない。


「……か、確認していいかな。僕達に、い、妹はいなかったよね」

「少なくとも昨日まではいなかったね」

「それが、い、いま……、妹が、待ってる?」

「すっごく可愛い妹だから、早く行ってあげるといいよ」

「た、たぶんだけど、なにか重要な説明を、は、省いてると思うんだ……」


 説明して貰っていい? と扉の隙間から訴えてくるハンクに、ライアンが上機嫌で事の顛末を話し出した。



「…………ということなんだ」

「それで、ライアン兄さんが呼びに来てくれたんだ……。話は分かったけど、で、でも妹か……」


 ハンクの口調にはまだ困惑の色が残っている。

 それでもぬぅと扉の隙間から出てくるあたり、妹に挨拶に行く気はあるのだろう。

 ライアンの隣をスルリと通り抜ける際に「伝えに来てくれてありがとう」と礼を言うのも忘れない。ぼそぼそと口の中で喋っているような小さな声ではあるが。


 そうしてハンクが去り、残されたライアンは彼の背と、そして目の前の扉を交互に見た。

 ハンクの部屋の扉。彼の名前が綴られたプレートが下げられている。

 だが彼の部屋はこの一室だけではない。

 ここから続く三部屋すべてがハンクの部屋だ。手前が荷物やティートロリーを置く部屋、中間が作業部屋、奥が寝室。


 手前に一部屋設けるあたり他者の入室を避けているのが分かる。……のだが、かといって徹底して他者との接触を避けているわけではない。

 今のように話しかければ応えてくれるし、有事の際には部屋を出てくる。頻度は少なめだが外出もしているようだ。


「そもそも、作業部屋って何の作業してるんだろ?」


 弟なのに分からないことばかりだ。

 そう疑問を抱きつつ、それ以上は探るまいとハンクの部屋を後にした。



 ◆◆◆



 最後に伝えられたのはグレイヴ。

 ライアンからの話に目を白黒させ「妹? 俺達の? 妹が?」と繰り返している。

 その表情はどこかあどけなさを感じさせる。大人びたどころか大人に混じって騎士として立派に勤めているが、やはりグレイヴはまだ十三歳。ふとした瞬間の表情はまだ子供らしさがある。

 それを微笑ましく思いつつ、ライアンはいまだ頭上に疑問符を飛ばすグレイヴに事情を説明した。



「…………ということなんだ」

「なるほど、事態は理解した。だが納得できるわけない。ライアン兄さんはそれで良いのか?」

「父上と母上が決めたことだし、それに凄い可愛い女の子だったよ。可愛い妹ができるなんて幸せじゃん」

「幸せって……。駄目だ、ライアン兄さんじゃ話にならない。直接父上達から話を聞いてくる」


 グレイヴが足早に通路を歩いていく。

 この発言にライアンが「酷い弟だなぁ」と不満を訴えるも、グレイヴが足を止めることはない。

 そもそも、ライアンも彼の発言に傷付くどころか気にもしていないのだが。その証拠に「いってらしゃーい」という見送りの声はあまりに軽い。

 そんな軽いライアンに対して、去っていくグレイヴの背中からは困惑と動揺、そしてこの事態を容易には受け入れるまいという強い意志が漂っていた。きっと表情も険しくなっているのだろう。


 グレイヴは末子だが、体躯の良さと合わさって、彼が凄むと迫力は兄弟一だ。

 きっと小さなシャルロッテは怯えてしまうだろう。

 だけど……、


「僕の秘策がうまくいくと良いなぁ」


 本音を言えば、シャルロッテに『お兄様』と呼ばれた時のグレイヴの反応が見たいが、覗いていたら怒られるだろう。

 だからここは弟と妹の仲が上手くいくことを願って、自分は自室で大人しく待とう。

 そう考えて自室へと向かって歩き出し……、


「でも少しぐらい、扉の隙間から覗くだけなら大丈夫だよね!」


 と突然進路を変え、シャルロッテ達のいる食事の場へと歩き出した。



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