第三章:真実の扉
カトリンが追放されてから一週間。
王宮は静かになったが、私は落ち着かなかった。
なぜなら──
「毒薬の瓶が、私の部屋の棚にあった?」
侍女が震える声で報告してきた。
「リリエット様、あなたが……?」
「馬鹿な。私がなぜ、自分に罠を張る?」
だが、証拠は揃っている。
私の部屋の鍵は、私が持っていた。
なのに、誰かが侵入した形跡はない。
「……これは、内部の者だ」
私は目を細め、そして、ある人物に気づいた。
侍女のリリィ。
いつも控えめで、カトリンと仲が良かった少女。
だが、彼女の瞳には、憎しみのようなものが宿っていた。
次の日、私は彼女を呼び出す。
「リリィ。あなた、カトリンの親友だったわね?」
「は、はい……」
「カトリンが追放されたとき、悲しそうだったわ。でも、その悲しみ……どこか、演技みたいだったわ」
リリィの手が震えだした。
「……何を言っているんですか?」
「毒薬の調合には、特別な知識が必要。薬学の知識。そして、リリィ、あなたは薬草の専門家の娘だったわね?」
彼女の顔色が変わる。
「……あなたが、カトリンに毒を渡した。そして、私の部屋に証拠を隠した。目的は? 王太子の心を奪うため? それとも──」
私は立ち上がり、彼女の前に立った。
「私を悪役にして、自分たちを正義の味方に見せたい?」
リリィは泣きながら崩れ落ちる。
「カトリンは……本当は、王太子を狙っていたんです。でも、あなたが邪魔だった。だから、あなたを悪者にして、カトリンを救おうとした……」
「……馬鹿ね。運命を変えるのは、罠ではなく、真実よ」
そして、私はリリィを王太子に引き渡し、真実を語らせた。
フェルナンドは、初めて表情を崩す。
「……カトリンも、リリィも、私を利用していた?」
「はい。そして、私も、あなたを利用しようとしていました」
私は正直に話した。
「でも、今、私は違う。私は、真実の側に立つ」
フェルナンドは、長い間、黙っている。
そして、こう言った。
「……リリエット・クラウディエ・ローゼン。君は、本当に変わったな」