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第58話:合宿7日目②│1つのピース

「……できない〜……!」


森の木々の合間に、情けない声が響いた。

ラルトに連れられてきた3人………ハル、セイハ、リオナは、それからずっと魔術消去キャンセルの練習を繰り返していた。だが、結果は出ていない。3人とも額に汗を浮かべながら、地面にへたり込んでいる。


「全然感覚が掴めない……! なんなの、この魔術……!」

「やっぱ、普通に火とか風を出す方が楽だよな……」

「うう……私、ちょっと頭が痛くなってきた……」


弱音が次々に漏れる。無理もない。

この魔術は難易度が桁外れだ。


俺は少し眉をひそめ、隣に立つラルトに小声で尋ねる。


「ラルト……やっぱりこの魔術は、あの三人にはまだ早すぎたんじゃないか? 来てもらっておいてなんだが、本当に良かったのか……?」


「シューファさん。」


ラルトはきっぱりと首を振った。その瞳は、俺の目を見据えて、言葉にしなくても3人のことを信用していることを俺に伝えた。


「あの3人は必ず成し遂げますよ。俺が保証します。伊達に何百人も弟子を見てきたわけじゃありませんから。」


これまで見てきた経験………それはどんなことよりも信用ができる自信だ。


「……随分な自信だな。」

「ええ、俺は知ってます。無理だと思える壁を越える瞬間に立ち会うのが、どれほど尊いことか。」


ラルトの言葉に、俺は息を吐いた。

信じる心。それがあるからこそ、彼は師として弟子たちから慕われるのだろう。


「とはいえ……魔術消去はな。俺は“無属性魔導師”だからできたが、三人はそうじゃない。普通なら到底できるはずもないんだ。」


「大丈夫です。4属性魔導師の俺が創り出した魔術なんですから!」


「それで、これまでにできたやつは?」

「……………それは言わない約束です。」


「はは……。」


気まずそうに笑うラルト。俺もつられて苦笑した。


練習内容は単純だ。

ラルトが張った強力な守護結界を、魔術消去だけで打ち破る。力任せの魔力ではどうにもならない。必要なのは“魔力を魔力のまま制御し、流れそのものを相殺する”繊細な技術。


「……まぁ、できればラッキーってところか……」

俺は呟いた。

だが心の奥で思う。あの3人なら、きっと。


そう思った矢先だった。


「……ラルト。リオナの……あれって。」

「ええ。必ず誰かはできると思ってましたが……まさか、こんなに早くに。」


俺らの視線の先で。


リオナの右手が、結界をすり抜けていた。

木に触れている。まるで結界など存在しないかのように。他の2人が感じでいる結界を感じさせないように。


「なっ……」

「嘘……でしょ……?」

リオナ自身がいちばん驚いた顔をして、自分の手を何度も見返していた。


ラルトの目が潤む。ラルトの目尻には、大きな水溜まりができていた。


「はは……なんなんですか、この子たちは……本当に……」


その声は震えていた。

何十人、何百人もの弟子を教えてきて、誰も成功しなかった魔術。

それを、たったひとりの少女が成し遂げた。


「……良かったな、ラルト。」

「ええ。本当に……。これでひとつ、未来に繋がりましたね。」


俺は頷く。

ハルの異常な魔力量と操作能力。

そしてリオナの魔術消去。

ラルトはどう思っているのか分からないが、セシリアを打ち倒すための“ピース”は、確かに埋まりつつある。


あとは……セイハか。

個々の力なら3人の中で最強だろうが、まだ伸び切っていない。おそらく、俺じゃなくサラが導いた方がいい。相性も含めて。


だが今は。


「リオナ。」

「……先生。」


俺は近づき、静かに言った。


「よくやったな。」

「………っ、はい……!」


リオナは震える声で応えた。まだ信じられないのか、何度も結界に手を出し入れしては、その感覚を必死に刻みつけていた。


ただ俺の横では………。


「……うっ……ぐすっ……」

「いつまで泣いてんだよ、ラルト。」

「だ、だって……っ。俺は……っ……!」


ラルトは男らしい顔つきをぐしゃぐしゃにして、地面に涙を落としていた。


俺は小さく笑う。


喜ぶ時は喜べ。

嬉しいなら泣け。

悔しければ考えろ。

怖ければ逃げろ。


そうやって本能に従うことも、人を強くするためには必要なのかもしれない。

横で泣きじゃくるラルトを見ながら、俺はそう思った。


この1日で、また一歩、セシリアを倒す、3人が目指す目標にその歩が近づいた。

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