第57話:合宿7日目①│序列3位、無慈悲のクラッシャー
───翌日
「シューファさん、お久しぶりです!」
次の日、俺はある人物を呼んでいた。
そう、目の前にいる若い爽やか系イケメンだ。
「あ、サラさんは会ったことあったけど君たちは初めましてだったね。」
その男は卓越したコミュニケーション能力で3人に話しかけていた。
「俺はラルト!聖級魔導師、序列3位だよ。
なぜかここに居るとかすれて見えるけどね………。」
そういうラルトの目には光が宿っていなかった。序列1位の俺と2位のサラがいるから、自分が目立たないのが悲しいのか………?
「聖級魔導師第3位………つまりセシリアさんよりも実力が上なんですね。」
「そうだよ!というか、セシリアは俺とシューファさんで稽古つけてたからね、それはそれは強いよ〜。」
そう3人の自信をなくそうとしているラルトだったが、その目は真面目なことを発している目だ。おそらく、3人を試しているのだろう。
「俺も教えたっていっても、ほとんど俺は師匠というよりも親という感じだろう。」
「それもそうですね!大きくなるまでシューファさんの家に住んでシューファさんは父さんとも呼ばれてますしね。」
「先生はセシリアさんと仲がいいんですね。」
「一応な。仲がいいというのとはまた違った感じなんだけどな。」
そう、実はセシリアはもともと俺と一緒に住んでいて、俺とラルトで稽古をつけていた。そして強くなっていく途中、聖国にスカウトされて俺の元から旅立った。だからミラとも面識があって2人とも姉妹のようだ。
「それはそうと、俺は今日なんで呼ばれたんです?」
「………この3人に、魔術消去を教えてほしい。」
「………シューファさん、それは本気なんですか。」
さっきまでおちゃらけてるようなイメージだったラルトが、真面目なトーンと口調に変わった。
「あぁ、本気だ。おれが見込んだ通りであれば、この3人のうち誰かは必ず習得できる。」
俺もまた、真面目な話し方でラルトに応えた。
その時、ラルトはいつものように顔を緩ませて話し始める。
「シューファさんが言うなら、そうなんでしょうね。それに俺も、さっき見た3人の目でもしかしたら………とも思いましたしね。」
やはりさっきのあれは、そのことをそのことを確認するためだったのか。
「あの、魔術消去って………どういう魔術なんですか?」
「あぁ、魔術消去は文字通り、“発動した魔術、発動する前の魔術に介入し、消去”する魔術だ。」
「そうそう!これは俺が創った魔術だし、色んな人に教えようとしたけど、実際に使えるようになったのは俺とシューファさんだけだから………。」
そこでラルトは1度言葉を区切り、3人に目を合わせてまた口を開く。
「諦めた時、俺はすぐに帰る。正直、俺の稽古は単調で疲れないが、だからこそキツイ。
お前らは俺………聖級魔導師第3位、またの名を『無慈悲のクラッシャー』の稽古に、ついてこられるかな?」
意地悪な顔をしながらそう言うラルトは、どこか期待しているような、何も関心を持っていないような、どちらとも感じ取らせ、感じ取らせない。そんな目を3人に向けてこちらに来いと言わんばかりに手招きをする。
それに応えるように3人はラルトの元へと向かう。
その刹那、3人の目の前からラルトの姿が消える。
次にラルトが現れた時は、目と鼻の先ほどの所にいた………
「っ………!!」
ラルトは拳を差し出す。だがそれよりも早く、3人は守護結界を張った。
「魔術消去。」
───トン
ハルトの右手は、守護結界を割ることなく、リオナの肩へと届く。その事実は3人にとってこれまで起きたことのないことで、起こることとも思っていなかった。
「これが魔術消去だ。もしこれまでに使えるやつで悪い奴がいたら、人殺しは簡単だったろうな………今みたいに自分の力を過信してるやつだと尚更な。」
「……………………。」
別に過信はしていなかっただろう。ただ、ラルトの拳を止められなかったという事実、それだけで3人に沈黙をつくるには充分だった。
「あんまりからかってやるなよ。」
「わかってますって〜!じゃあ3人とも行くぞ。」
本当にわかったのだろうか………?
今度こそラルトについて行く3人は、妙に警戒しながらゆっくりと、ある程度の距離を空けながら付いて行った………信頼がない状態をつくってからスタートするなんて、ラルトらしいっちゃラルトらしいな。
ラルトはこれまで何十人、何百人とこの魔術を教えようとしてきた。だが、誰も使えることはなかった………その度、俺らには想像できないことを言われたらしい。「騙された。」「才能があるのを良いことに。」「どうせ俺は………。」
そんな言葉が生ぬるいほど。
その時はまだ、ラルトは序列5位だった。そして諦めようとした時、セシリアと出会った。セシリアは魔術消去を使えなくても、ラルトから離れることはなかった。それだけで、ラルトは救われた。
そのことからラルトは、信用出来る者以外とは関係を築かなかった。
「だからこそそれを糧に、ラルトは強くなったんだろうな………。」
その男の背中は、俺が初めて出会った時より大きく、頼もしかった。きっとこの3人の背中も、いつかは誰かが追いかける背中となるのだろう───。
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